「材料技術」と聞くと、多くの方は昔からある地道な基礎分野というイメージを持つのではないでしょうか。
実際には、脱炭素に向けた軽量化、電動化や半導体の高性能化、資源の確保といった課題のなかで、材料は製品の競争力を左右する存在として改めて注目されています。国も材料分野を重点領域の一つに位置づけ、戦略を定めて取り組んでいます。
この記事では、材料技術が注目される背景を整理したうえで、歴史と進化、従来の材料技術との違い、メリット、導入時の課題と注意点という順で解説します。
材料技術が注目される背景

材料技術が改めて注目されている理由は、一つではありません。社会の変化と産業の変化が重なり、次の4つの流れが同時に進んでいます。どれも一時的な流行ではなく、長く続く構造的な変化と言えます。
環境、技術、資源、競争力の4つの面から、材料への期待が高まっています。
脱炭素と軽量化
自動車や航空機は、軽くなるほど走ったり飛んだりするのに必要なエネルギーが減ります。そのため、軽量化はCO2削減に直結するテーマとして、材料の置き換えが進められてきました。
NEDOが2014〜2022年度に実施した「革新的新構造材料等研究開発」は、輸送機器の抜本的な軽量化を目的としたプロジェクトです。自動車の車体では50%の軽量化を目標に掲げ、鋼板、アルミニウム、マグネシウム、チタン、CFRPと、それらをつなぐ接合技術の開発が進められました。
一方で、材料をつくる側のCO2排出も大きな課題です。資源エネルギー庁によると、2020年度の製造業のCO2排出量のうち、鉄鋼業が約35%と大きな割合を占めています。素材の製造方法そのものを変える取り組みも、材料技術の重要なテーマになっています。
鉄鋼では、鉄鉱石を石炭(コークス)で還元する高炉に比べ、鉄スクラップを電気で溶かす電炉のほうが製造時のCO2排出を抑えやすいとされます。日本鉄鋼連盟の発表によると、2025年の粗鋼生産に占める電炉鋼の比率は25.8%でした。
電炉で高品質な鋼をつくるには、スクラップに混じる不純物の影響を抑える技術が欠かせません。リサイクル材を使いこなす技術も、材料技術の新しい役割になっています。
電動化・デジタル化
電気自動車の電池、モーターの磁石、パワー半導体、データセンターを支える半導体など、電動化やデジタル化の中心にある部品の性能は、材料で大きく変わります。
たとえば電池の容量や寿命は電極の材料で、モーターの小型化は磁石の材料で、半導体の性能は基板や薄膜の材料で決まる部分が大きくあります。製品の差が、材料の差として表れやすくなっていると言えます。
半導体製造の分野では、ウエハーやガス、薬液に加え、製造装置の部品にも高純度のセラミックスや特殊な金属が使われています。わずかな不純物が歩留まりに影響するため、材料に求められる品質の水準は年々高くなっています。
資源制約と経済安全保障
材料の中には、レアアースのように産出国が限られる資源に頼るものがあります。特定の国からの供給が止まれば、製品そのものがつくれなくなるおそれがあります。
2025年6月に決定された政府の「マテリアル革新力強化戦略」でも、希少資源の代替やリサイクル技術、サプライチェーンの多角化が柱の一つに挙げられています。「つくれるか」だけでなく「調達し続けられるか」も、材料選びの条件になりつつあります。
日本の競争力の源泉
同じ戦略では、マテリアル産業を製造業GDPの3割以上を占める基幹産業と位置づけています。世界シェア60%を超える材料を多く持つことも、日本の強みとして挙げられています。
製品の組立は海外でもできるようになった一方、高品質な材料をつくる技術は簡単にはまねできません。材料は日本のものづくりが強みを保ちやすい分野であり、その強化が産業全体の課題になっています。
材料技術の歴史と進化

人類の歴史は、材料の歴史と言われるほど、使える材料の広がりとともに進んできました。大きく見ると、次のような段階を経て現在に至っています。
天然素材と金属の時代、合成材料の時代、組み合わせとデータの時代の3つの段階に分かれます。
※時代区分は目安です。実際には各段階の技術が重なり合いながら進化しています。
古代から近代までは、天然の粘土や鉱石を加工する時代でした。なかでも鉄鋼は、大量に安くつくれるようになったことで、機械、鉄道、建物など近代の産業を支える基盤材料になりました。
20世紀に入ると、化学の力で新しい材料を合成する時代に移ります。合成樹脂は日用品から工業部品まで一気に広がり、金属や天然素材の多くを置き換えていきました。
同じ時期には、純度の高い原料を使い、焼き方を精密に管理するファインセラミックスも育ちました。電子部品の基板や絶縁材、切削工具など、エレクトロニクスや機械の進化を支える材料として広がり、日本ファインセラミックス協会によると、2024年度の総生産額は3.8兆円の見込みとされています。
日本が大きく貢献した材料もあります。炭素繊維協会によると、PAN系炭素繊維の基本特許は1959年に大阪工業試験所の研究者が出願し、1971年には国内で商業生産が始まりました。炭素繊維は日本発の技術として世界に広がった代表的な材料です。
そして現在は、一つの材料を極めるだけでなく、複数の材料を組み合わせたり、データや計算を使って新しい材料を効率よく探したりする段階に入っています。


従来の材料技術との違い

これからの材料技術は、従来のやり方と何が違うのでしょうか。大きな違いは、材料の使い方、開発の進め方、評価の軸の3点にあります。
材料そのものの性能に加え、組み合わせ方や環境への影響まで考える時代になっています。
※従来の方法がなくなるわけではなく、新しい考え方が加わっていくイメージです。
単一材料からマルチマテリアルへ
以前は、自動車の車体なら鉄鋼というように、一つの材料で全体をつくるのが基本でした。現在は、強さが必要な部分には高強度の鋼板、軽くしたい部分にはアルミニウムやCFRPというように、部位ごとに最適な材料を使い分けるマルチマテリアル化が進んでいます。
ボーイングによると、787型機の機体は重量の約50%が複合材料で構成されています。その結果、置き換え対象となる従来機と比べて燃料消費を25%減らせるとしています。材料の組み合わせ方が、製品の性能を大きく変えた例と言えます。
試行錯誤からデータ駆動へ
新しい材料の開発は、配合や条件を少しずつ変えて実験を繰り返す、時間のかかる作業でした。一つの材料が実用化されるまでに、長い年月がかかることも珍しくありません。
近年は、過去の実験データやシミュレーションを活用して候補を絞り込むマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が広がっています。実験の回数を減らし、開発期間を短くできる可能性があるとして、企業や研究機関の取り組みが進んでいます。
材料を使う側でも、CAEによる解析で材料の置き換えを事前に検討するのが一般的になりました。ただし、解析の精度は入力する材料データの正しさに左右されるため、信頼できるデータをそろえることが前提になります。
性能とコストに環境を加える
従来は、必要な性能を満たす材料のうち、最も安いものを選ぶのが基本でした。これからは、その材料をつくるときや廃棄するときのCO2排出量、リサイクルのしやすさまで含めて比べる必要があります。
たとえば日本アルミニウム協会によると、スクラップから再生地金をつくるのに必要なエネルギーは、新しい地金をつくる場合のわずか3%です。リサイクルしやすいことが、材料の価値そのものになる時代と言えます。
材料技術のメリット

材料技術に力を入れることで、製品をつくる側には次のようなメリットがあります。いずれも、設計や加工の工夫だけでは届かない領域です。
製品の性能を底上げできる
設計の工夫で性能を高めるには限界がありますが、材料を変えることで、その限界そのものを引き上げられる場合があります。より高温に耐える材料、より摩耗しにくい材料を使えば、製品の寿命や性能の上限が変わります。
他社がまねしにくい材料や処理のノウハウを持つことは、長く続く競争力にもなります。材料や熱処理の条件は製品を分解しても読み取りにくく、設計図面のように簡単には伝わらないためです。
軽量化で省エネとCO2削減につながる
材料の比重は種類によって大きく違います。同じ強さを軽い材料で実現できれば、輸送機器の燃費や電費が良くなり、使用時のCO2排出を減らせます。
アルミニウムは鉄や銅の約3分の1の重さです。
※出典:日本アルミニウム協会「アルミニウムとは」。比重は水を1としたときの重さの比です。
ただし、軽い材料ほど価格が高かったり、剛性が低かったりすることが多くあります。重さだけでなく、必要な強さや剛性とのバランスで判断することが大切です。
コストと品質を安定させられる
材料の性質を正しく理解していれば、必要以上に高価な材料を使う「過剰品質」を避けられます。反対に、材料の選び方の誤りによる不具合も減らせます。
また、材料の性質のばらつきを理解して工程を管理することで、量産時の品質が安定します。材料技術は、新製品の開発だけでなく、日々の生産を支える技術でもあります。
材料の知識は、不具合が起きたときにも力を発揮します。割れた部品の破面や組織を調べれば、原因が材料なのか、加工なのか、使い方なのかを切り分けられます。原因を正しく突き止められれば、的外れな対策に時間とお金を使わずに済みます。

材料技術の課題と導入時の注意点

新しい材料や材料の組み合わせを取り入れるときには、性能の数字だけでは見えない課題があります。特に次の3点は、事前に押さえておきたいところです。
コストと量産性
高機能な材料ほど、材料費が高く、加工にも時間がかかる傾向があります。CFRPは軽くて強い一方、成形に時間がかかり、鉄鋼に比べて量産しにくい点が課題とされてきました。
試作ではうまくいっても、量産の規模とスピードで同じ品質を出せるとは限りません。材料費だけでなく、加工や検査を含めたトータルのコストで比べることが欠かせません。
異なる材料を組み合わせる難しさ
異なる材料どうしは、溶接でうまくつなげないことがあります。また、異なる金属が水分を介して接すると一方が腐食しやすくなったり、熱による伸び縮みの差で接合部に力がかかったりします。
そのため、マルチマテリアル化では接着や機械的な締結など、接合方法の選び方が重要になります。NEDOのプロジェクトでも、材料開発と並んで接合技術の開発が大きなテーマとされました。
評価期間と人材
新しい材料を製品に使うには、強度や耐久性、長期間使ったときの劣化など、多くの評価が必要です。特に疲労や腐食の評価には時間がかかり、開発全体の期間を左右します。
また、データを活用した材料開発には、材料の知識とデータ分析の両方がわかる人材が必要です。前述の戦略でも、こうした人材の不足が課題として挙げられています。社内だけで抱え込まず、材料メーカーや公的研究機関と連携することも有効な方法です。
加えて、新しい材料を採用するときは、供給元が限られていないかも確認しておきたいところです。性能が優れていても、安定して調達できなければ量産には使えません。複数の調達先を確保できるか、代替材料があるかを、設計の段階から購買・調達部門と一緒に検討しておくと安心です。
まとめ
- 材料技術は、脱炭素・電動化・資源制約・競争力の4つの面から注目されている
- 天然素材と金属、合成材料を経て、組み合わせとデータの時代に入っている
- 従来との違いは、マルチマテリアル化、データ駆動の開発、環境を含めた評価
- 性能の底上げ、軽量化による省エネ、コストと品質の安定がメリット
- コストと量産性、異種材料の接合、評価期間と人材が導入時の課題
材料技術の基本的な仕組みは材料技術とは?仕組みと基本原理で、実際の使われ方は材料技術の主な用途と導入事例で詳しく解説しています。軽量化の取り組みが盛んな自動車業界や航空・宇宙・造船業界、関連する脱炭素・カーボンニュートラルの技術ページもあわせて参考になります。
材料技術については、材料技術の技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
- マテリアル産業の位置づけ・戦略の柱:内閣府「マテリアル革新力強化戦略」(2025年6月4日 統合イノベーション戦略推進会議決定)
- 軽量化プロジェクトの目標・期間:NEDO「革新的新構造材料等研究開発」
- 製造業のCO2排出に占める鉄鋼業の割合:資源エネルギー庁「鉄鋼業の脱炭素化に向けた世界の取り組み(前編)」
- 電炉鋼の比率(2025年):IRuniverse「2026年1月鉄鋼生産速報 2025暦年粗鋼生産量は前暦年比4.0 %減の8,067万823トンとなった」(日本鉄鋼連盟の発表による)
- ファインセラミックス総生産額:一般社団法人日本ファインセラミックス協会「2025年頭所感」
- PAN系炭素繊維の開発史:炭素繊維協会「PAN系各社の炭素繊維開発の歴史」
- 787型機の複合材料比率・燃料消費:Boeing「787 Dreamliner by Design」
- アルミニウムの比重・再生エネルギー:一般社団法人日本アルミニウム協会「アルミニウムとは」

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