「材料技術」と聞くと、多くの方は素材メーカーの研究所だけで使われる専門的な技術を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、自動車の車体から半導体の製造装置、食品の容器まで、あらゆる製品で材料の選び方と使い方が性能を左右しています。材料をつくる会社だけでなく、材料を使って製品をつくる会社にとっても欠かせない技術です。
この記事では、材料技術の主な用途を整理したうえで、業界別の活用方法、実際に公開されている導入事例、材料選定の進め方、材料技術に関わる仕事という順で解説します。
材料技術の主な用途

材料技術が使われる場面は幅広いですが、材料に求められる役割で分けると、大きく次の4つに整理できます。
材料に何を求めるかによって、使われる材料と技術が変わります。
構造部品・車体
構造部品は、製品の骨格として力を支える部品です。自動車の車体、機械のフレーム、橋や建物の部材などが当てはまります。
ここで求められるのは、壊れない強さと、たわみにくい剛性、そして軽さです。高強度の鋼板、アルミニウム合金、CFRPなどを部位ごとの要求に合わせて使い分けるのが、現在の主流になっています。
構造部品では、一度の大きな力だけでなく、振動などの繰り返しの力による疲労も考える必要があります。材料の強さに余裕を持たせつつ、重くなりすぎないようにバランスを取るのが設計者の腕の見せどころです。
電子部品・半導体
電子部品では、電気をよく通す銅、電気を通さず熱に強いセラミックス、絶縁と成形性を兼ね備えた樹脂など、電気的な性質で材料を選びます。
部品の小型化と高性能化が進むほど、発熱をどう逃がすかが課題になります。熱を伝えやすい材料や、熱による伸び縮みの小さい材料の重要性が高まっています。
耐熱・耐摩耗部品
エンジンやタービン、切削工具、金型、ポンプの軸受などは、高温や摩耗、腐食にさらされます。こうした部品には、耐熱合金やセラミックス、表面を硬くする処理を施した鋼などが使われます。部品の寿命が、そのまま設備の止まりにくさや保守の手間につながる分野です。
この分野では、材料そのものに加えて、表面だけに別の性質を持たせる表面処理の技術も組み合わせて使われます。
容器・包装・医療
食品や医薬品の容器・包装では、中身を酸素や水分から守るバリア性や、衛生面での安全性が重視されます。樹脂フィルムを何層にも重ねて、それぞれの長所を組み合わせることも一般的です。
医療機器では、人体に触れても害のない材料であることが大前提です。チタンやセラミックス、医療用の樹脂など、性能に加えて安全性の裏付けが必要になる点が特徴です。

業界別の活用方法

同じ材料技術でも、業界によって重視されるポイントは異なります。代表的な業界での使われ方を比べると、次のようになります。
業界ごとに、材料に求められる条件の優先順位が違います。
※代表的な例です。同じ業界でも、製品や部位によって使われる材料は異なります。
自動車業界
自動車業界では、衝突安全と燃費・電費の向上を両立させるため、高強度鋼板やアルミニウム、樹脂部品の採用が広がってきました。年間に何十万台も生産するため、材料の性能と同じくらい、量産できるかどうかとコストが重視されます。
電動化によって、電池やモーター、パワー半導体といった新しい部品の材料も重要になっています。エンジン中心の時代とは、求められる材料の顔ぶれが変わりつつあると言えます。
航空・宇宙業界
航空・宇宙業界では、軽さが燃費や積める重量に直結するため、CFRPやチタン合金が多く使われます。数十年にわたって使われる機体では、疲労や腐食に対する長期の信頼性が特に厳しく問われます。
新しい材料を使うには、長い時間をかけた認証の手続きが必要です。一度採用されると長く使われるのも、この業界の特徴です。
電子部品・半導体業界
電子部品・半導体業界では、電気的な性質や純度が重視されます。半導体の製造装置では、プラズマや薬品に耐えるセラミックス部品や高純度の材料が欠かせません。
ごくわずかな不純物が不良につながるため、材料の純度とばらつきの管理が特に厳しい分野です。材料メーカーと装置メーカー、半導体メーカーが一体となって品質をつくり込んでいます。
食品・医薬業界
食品・医薬品業界では、製品に直接触れる容器や製造設備の材料に、衛生と安全性が求められます。製造設備には錆びにくく洗浄しやすいステンレス鋼が、包装には多層の樹脂フィルムが広く使われています。
近年は、包装材のリサイクルのしやすさや、使う樹脂の量を減らす工夫も重要なテーマになっています。
機械・機械要素業界
機械要素業界がつくる軸受や歯車、ばねなどは、繰り返しの力や摩耗に長い期間耐えることが求められます。そのため、軸受鋼やばね鋼など用途に特化した鋼材と、焼入れなどの熱処理の組み合わせが性能を決めます。
同じ鋼材でも、熱処理の条件がわずかに違うだけで寿命が大きく変わることがあります。材料と熱処理をセットで管理することが、品質を安定させるポイントです。


導入事例

ここでは、企業や公的機関が公開している情報をもとに、材料技術が製品の性能を大きく変えた事例を紹介します。
航空機の機体に複合材料を大量に採用
ボーイングの787型機は、機体の重量の約50%が複合材料で構成されています。従来の金属中心の機体に比べて軽くつくれることが特徴です。
同社は、787型機は置き換え対象となる従来機と比べて燃料消費を25%減らせるとしています。材料の置き換えが、燃費という製品の価値そのものを変えた代表的な事例と言えます。
燃料電池車の高圧水素タンクに3層構造を採用
トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」は、高圧の水素タンクを搭載しています。豊田合成によると、タンクは水素を700気圧まで圧縮して貯める構造で、水素を通しにくい樹脂のライナー、強度を受け持つCFRP、表面を守るGFRPの3層でできています。
UBEの発表によると、2代目MIRAIのタンクのライナーにはナイロン6樹脂が採用されています。水素が漏れにくい性質に加え、充填時の急な温度変化や低温での衝撃に耐えられることが評価されました。3つの材料にそれぞれの役割を持たせた、複合化の好例です。
豊田合成は、2代目MIRAIに搭載される3本のタンクのうち1本の生産を担っており、初代に比べて水素の貯蔵効率を約1割高めたとしています。
排ガス浄化にセラミックスのハニカムを活用
NGK(旧日本ガイシ)の「ハニセラム」は、自動車の排ガスを浄化する触媒を支えるセラミックス製の部品です。蜂の巣のような構造で、排ガスと触媒が触れる面積を大きくしています。
材料には、熱による伸び縮みが小さいコージェライトというセラミックスが使われています。同社は、結晶の向きを制御して急な温度変化に耐えられるようにし、壁の厚さを0.05mmまで薄くしました。材料の性質と製法の工夫が、製品の性能を支えている事例です。
異なる材料をつなぐ構造用接着剤を開発
NEDOの「革新的新構造材料等研究開発」では、鋼板、アルミニウム、CFRPなど異なる材料をつなぐための構造用接着剤の開発も行われました。セメダインなどが連携し、マルチマテリアル向けと鋼板向けの2種類の接着剤を開発しています。
NEDOによると、鋼板向けの接着剤は2024年から自動車メーカーへの出荷が始まり、車体の部位に採用されています。マルチマテリアル向けの接着剤は、自動車メーカーへのサンプル提供が進められている段階です。
どの事例も、材料を単独で選ぶのではなく、使い方まで含めて工夫しています。
これらの事例は大企業の大規模な取り組みですが、考え方は中小規模のものづくりにも当てはまります。たとえば、金属部品の一部を樹脂に置き換えて軽くする、熱処理の条件を見直して寿命を延ばすといった改善も、材料技術を生かした立派な取り組みです。
まずは自社の製品で不具合が多い部品や、重さやコストが課題になっている部品を洗い出し、材料の面から見直せる余地がないかを検討してみるとよいでしょう。
材料選定の進め方

製品に使う材料を選び、量産で使えるようにするまでの流れは、一般に次のように進みます。
要求の整理、候補の評価、量産と改善の3つの段階に分かれます。
※新しい材料を開発する場合は、候補の評価の前に材料メーカーとの共同開発の段階が加わります。
要求の整理
最初に、部品がどのような条件で使われるかを整理します。温度や力のかかり方、水や薬品に触れるか、何年使うかといった条件を洗い出し、必要な特性をできるだけ数値で決めます。
この段階があいまいだと、後の評価の基準が定まりません。コストや重さ、使える加工方法、法規制などの制約も、あわせて確認しておきます。
候補の評価
条件に合いそうな材料を、材料データベースや材料メーカーの資料から洗い出し、試験片で強度や耐久性を確かめます。そのうえで試作品をつくり、実際の形と使い方で評価します。
試験片では問題がなくても、実際の形状や加工の影響で結果が変わることがあります。カタログの値だけで決めず、実物で確かめることが大切です。
評価の段階では、材料メーカーの技術者に相談するのも有効です。材料の得意・不得意や、ほかの顧客で起きた不具合の傾向など、カタログには載っていない情報を得られることがあります。
量産と改善
採用が決まったら、調達先や加工条件、受入検査の方法を決めて量産に入ります。量産が始まってからも、材料のロットによるばらつきや市場での不具合を監視し、必要に応じて見直します。
材料の変更は、思わぬところに影響が出やすい変更です。一度決めた材料を変えるときは、小さな変更でも評価をやり直すことが品質を守る基本になります。
材料技術に関わる仕事と求められるスキル

材料技術に関わる仕事は、材料をつくる側と、材料を使う側の両方にあります。代表的な関わり方は次のとおりです。
材料の開発から製品の品質まで、さまざまな職種が材料と関わります。
※会社の規模によっては、材料の評価を専門に行う部署を置いている場合もあります。
材料メーカーでは、研究開発の技術者が新しい材料や製法の開発を担います。化学、金属、物理などの基礎知識に加え、実験を計画して結果を読み解く力が求められます。
材料を使う側では、機械設計が材料を選んで図面に指定し、生産技術が加工や熱処理の条件を決めます。品質保証・品質管理は、受入検査や不具合の原因調査で材料の知識を使います。購買・調達も、材料の価格や供給の安定を見極めるうえで、材料の基礎知識が役立つ職種です。
どの職種でも共通して求められるのは、材料の基本的な性質を理解し、材料メーカーや社内の他部署と同じ言葉で話せる力です。強度や靱性、疲労といった用語を正しく使えるだけでも、仕事の進みやすさは大きく変わります。
加えて、試験データを読み解く力や、不具合の現象から原因を推測する力も重要です。最近は、材料データを整理・分析する力や、CAEと組み合わせて材料を検討する力も求められるようになっています。
材料の知識は、一度に身につくものではありません。日々の不具合対応や試作の評価を通じて、実物と数値を結びつけながら経験を積んでいくことが、材料に強い技術者への近道です。
まとめ
- 材料技術は、構造部品、電子部品、耐熱・耐摩耗部品、容器・医療などで使われる
- 業界ごとに、軽さ・純度・衛生・寿命など重視される条件が異なる
- 航空機の複合材料や水素タンク、排ガス浄化部品などが代表的な事例
- 材料選定は、要求の整理、候補の評価、量産と改善の順に進める
- 研究開発から設計、生産技術、品質保証まで多くの職種が材料と関わる
材料技術の仕組みと基本原理は材料技術とは?仕組みと基本原理で、注目される背景や従来技術との違いは材料技術が注目される背景と従来技術との違いで詳しく解説しています。
材料技術については、材料技術の技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
- 787型機の複合材料比率・燃料消費:Boeing「787 Dreamliner by Design」
- 高圧水素タンクの構造・貯蔵効率:豊田合成株式会社「FCEVの普及を支える技術。高圧水素タンクで脱炭素に挑む。」
- タンクライナーへのナイロン6採用:UBE株式会社「トヨタの新型FCV『MIRAI』の高圧水素タンクにナイロン6樹脂が採用」(2021年3月)
- ハニセラムの材料・薄壁化:NGK株式会社「触媒用セラミック担体『ハニセラム』」
- コージェライトの低熱膨張の仕組み:NGK株式会社「NGKセラミックアカデミー セラミックスは急な温度変化に強い?」
- 構造用接着剤の開発・実用化:NEDO Web Magazine「自動車の軽量化のカギを握る 構造用接着剤」

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