「製造業のダイバーシティ」と聞くと、多くの方は男性が中心の職場に女性を増やす取り組みを思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、女性だけでなく、シニア、外国人、障害のある人、育児や介護をしながら働く人など、さまざまな事情や背景を持つ人が力を発揮できる職場をつくることを指します。人手不足が続く製造業にとっては、働き手の確保に直結するテーマでもあります。
この記事では、製造業のダイバーシティの現状を統計で確かめたうえで、女性活躍の課題と活躍の場が広がる職種、シニア・外国人・障害のある人の活躍、関連する法制度、企業と働く人ができることという順で整理します。
製造業のダイバーシティとは

ダイバーシティとは、性別や年齢、国籍、障害の有無、働き方の事情などが異なる人たちが、ともに力を発揮できる状態を指します。多様な人を受け入れるだけでなく、それぞれが能力を生かせる環境を整えることまで含めて考えるのが一般的です。
製造業では、長く男性の正社員を中心とした働き方が前提になってきました。重量物の扱いや交替勤務、転勤を伴う働き方などが、結果として多様な人の参加を難しくしてきた面があります。
厚生労働省の「令和6年版 働く女性の実情」によると、2024年の女性雇用者数を産業別に見ると、製造業は302万人で、医療・福祉、卸売業・小売業に次いで3番目に多くなっています。女性の働き手にとっても、製造業は大きな職場の一つです。
製造業は、女性雇用者数が3番目に多い産業です。
※厚生労働省「令和6年版 働く女性の実情」より作成(元データは総務省「労働力調査」)。
ただし、製造業の就業者は2025年に1,033万人(2026年版ものづくり白書)で、女性雇用者数と比べると、働き手に占める女性の割合は3割に届かない水準と見られます。『令和6年版 働く女性の実情』では、女性比率が5割を超える産業として医療・福祉(75.7%)や卸売業・小売業(53.1%)などが挙げられており、製造業との差は大きいと言えます。
女性以外に目を向けると、製造業では65歳以上の高齢就業者が2002年と比べて増えており、外国人労働者の産業別の割合でも製造業が最も多くなっています。製造業の職場は、すでに多様な人たちによって支えられているのが実情です。
ダイバーシティが製造業で重視される理由は、人手の確保だけではありません。製品を使う人は多様であり、つくる側にも多様な視点があることで、使いやすさや安全性に気づきやすくなります。働き手が限られるなかで、これまで活躍の場が少なかった人の力を引き出すことは、会社の競争力にも関わるテーマです。
製造業の女性活躍の現状と課題

製造業で女性の活躍を進めるうえでは、職種の偏り、設備や作業環境、キャリアの継続という3つの課題がよく挙げられます。管理職に占める女性の割合を見ると、全産業でもまだ低い水準です。女性の少ない製造業では、管理職の候補となる層そのものが薄いことも課題になっています。
役職が上がるほど、女性の割合は低くなります。
※厚生労働省「令和7年度 雇用均等基本調査」(2025年10月1日現在)より作成。産業別の値ではなく全産業の値です。
職種や職場の偏り
製造業の女性は、事務や検査、組立など一部の職種に集まりやすく、設計や生産技術、設備保全、管理職などでは少数派になりがちです。女性の技術者が職場に一人だけという状況も珍しくありません。
少数派であることは、相談相手がいない、ロールモデルが見つからないといった悩みにつながります。同じ立場の人が複数いる職場をつくることが、定着の第一歩になります。
設備や作業環境
工場の設備や作業は、平均的な男性の体格や筋力を前提に設計されてきたものが少なくありません。重い部品の持ち上げ、高い位置の操作、女性用の更衣室やトイレの不足などが、配属の壁になることがあります。
こうした課題は、補助具やリフトの導入、作業台の高さ調整などで解消できる部分も多くあります。作業の負担を減らす改善は、女性だけでなくシニアやすべての働き手にとって働きやすい職場につながります。
キャリアの継続
出産や育児を機に、交替勤務や残業の多い職場で働き続けることが難しくなり、キャリアが途切れてしまうケースがあります。技術職では、休業のあいだに技術や設備が変わり、復帰後に戸惑うことも少なくありません。
短時間勤務や日勤への一時的な配置換え、復帰前の研修などの仕組みがあると、キャリアを続けやすくなります。上司がキャリアの見通しを本人と話し合うことも大切です。
女性が活躍の場を広げている職種

製造業で働く女性というと、事務や組立の仕事を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際には、技術職や現場のリーダーなど、さまざまな職種で女性の活躍の場が広がっています。
品質保証・検査
品質保証や検査は、比較的早くから女性が多く活躍してきた分野です。細かな違いに気づく観察力や、データを丁寧に記録・分析する力が生かされます。測定機器の自動化やデータ管理のシステム化が進み、検査の仕事にも分析や改善の要素が増えています。
検査の担当から品質管理の技術者、さらに顧客対応や品質保証の責任者へと、経験を積みながら専門性を高めていける職種です。仕事の中身は品質保証・品質管理の仕事内容の記事で紹介しています。
設計・開発・生産技術
機械や電気の設計、研究開発、生産技術といった技術職でも、理工系の学部や高専を出た女性の技術者が働いています。CADやシミュレーションを使う仕事が増え、体力の差が問われにくくなっていることも追い風です。
工程の設計や設備の導入を担う生産技術は、現場とのやり取りが多い職種です。女性が加わることで、多様な作業者にとって使いやすい設備や工程を考える視点が生まれやすくなります。
製造現場のリーダー
組立や加工の現場で経験を積み、班長やリーダーとして職場をまとめる女性も増えています。作業のしやすさや職場の雰囲気に目を配る役割は、定着率の向上にも関わります。
現場の女性リーダーがいることは、後に続く人のロールモデルにもなります。管理職への登用を意識した育成計画を早い段階から立てておくことが、女性管理職を増やす近道です。本人が迷っている場合も、リーダーの役割を少しずつ任せて経験を積んでもらうことで、自信につながることがあります。

シニア・外国人・障害のある人の活躍

製造業のダイバーシティは、女性活躍だけではありません。人手不足が続くなかで、シニア、外国人、障害のある人がそれぞれの強みを生かして働ける職場づくりが進んでいます。
それぞれに強みがあり、必要な配慮も異なります。
シニアの活躍
高年齢者雇用安定法の改正により、2021年4月から70歳までの就業機会を確保する措置が企業の努力義務になりました。定年の引き上げや継続雇用制度の導入などが、その方法として示されています。なお、65歳までの雇用を確保する措置は、すでに企業の義務になっています。
製造業では、ベテランが再雇用後に若手の指導役を担う例が多く見られます。体力への配慮と、経験を生かせる役割の設計が、シニアが長く活躍するためのポイントです。
外国人の活躍
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況によると、2025年10月末時点の外国人労働者は257万1,037人で、過去最多を更新しました。産業別では製造業が全体の24.7%を占め、最も多くなっています。
外国人が安心して働くには、日本語での意思疎通に配慮した作業手順書や安全教育、生活面の支援が欠かせません。図や写真、動画を使った手順書は、日本人の新人にとってもわかりやすいという利点があります。
長く働いてもらうためには、仕事の評価やキャリアの道筋を日本人の社員と同じように示すことも大切です。班長やリーダーとして活躍する外国人社員が出てくると、後に続く人たちの目標にもなります。宗教や食文化への理解など、職場の側が学ぶべきこともあります。
障害のある人の活躍
障害者雇用促進法では、企業に一定の割合で障害のある人を雇用することを義務づけており、厚生労働省によると民間企業の法定雇用率は2.7%です。障害のある人の雇用を支援する助成金や、地域の支援機関による職場定着の支援も用意されています。
製造業では、検査や部品の仕分け、清掃など、工程の中から得意を生かせる作業を切り出して任せる例があります。作業を分解して見直すことは、業務全体の改善にもつながります。
ダイバーシティに関わる法制度

ダイバーシティを進める背景には、法制度の変化もあります。製造業の人事担当者や管理職が押さえておきたい主な制度を整理します。
近年、企業に求められる対応が段階的に広がっています。
※制度の詳細や対象となる企業の規模は、厚生労働省の最新情報をご確認ください。
女性活躍推進法の改正
2026年4月に施行された改正女性活躍推進法では、男女間賃金差異と女性管理職比率の公表が、常時雇用する労働者が101人以上の企業に義務づけられました。これまで男女間賃金差異の公表義務は301人以上の企業が対象でした。
あわせて、女性の活躍の推進は女性の健康上の特性に留意して行われるべきことも法律で明確にされました。数字が公表されることで、取り組みの差が外から見えやすくなります。中堅・中小の製造業にとっても、採用や取引先からの評価に関わるテーマになっています。
育児・介護休業法の改正
育児・介護休業法は2025年4月と10月に段階的に改正が施行されました。子の看護等休暇の見直しや、育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大、子の年齢に応じて柔軟な働き方を選べるようにする措置などが盛り込まれています。
男性の育児休業も広がっており、令和7年度の雇用均等基本調査では、男性の育児休業取得率は50.9%と、前年度の40.5%から大きく上がりました。交替勤務の職場でも、休業する人が出ても回る体制をあらかじめつくっておくことが求められます。
育児だけでなく、介護との両立も製造業にとって身近な課題です。ベテラン層が親の介護を理由に離職すると、人手と技能を同時に失うことになります。介護休業などの制度を周知し、早めに相談できる窓口を設けておくことが大切です。
働きやすい職場づくり:企業と働く人ができること

最後に、多様な人が働きやすい製造業の職場をつくるために、企業と働く人それぞれができることを整理します。
設備、制度、風土の3つがそろうと、多様な人が定着しやすくなります。
設備と作業を見直す
重量物の運搬を補助する機器や、作業台の高さを調整できる設備、産業用ロボットによる自動化などは、体格や体力の差を小さくする手段になります。更衣室やトイレ、休憩室などの設備も、多様な人が働く前提で整えることが大切です。
こうした見直しは、腰痛などの負担を減らし、職場の安全衛生の向上にもつながります。改善の案は、実際にその作業をしている人から聞くのが一番の近道です。女性やシニアの声を取り入れて作業を見直した結果、ベテランの男性作業者の負担も軽くなったという話は珍しくありません。
制度と風土を整える
短時間勤務や日勤への配置換え、キャリア面談、復職支援などの制度を整えたうえで、それが実際に使われているかを確かめることが大切です。管理職向けに、多様な部下との接し方を学ぶ研修を行う会社もあります。
採用の段階で、女性の技術者やシニアの指導役など、多様な社員の働き方を具体的に紹介すると、求職者が自分の姿を重ねやすくなります。人手不足の解消を目指すうえでも、多様な人が働いている事実を伝えることは効果的です。
働く人ができること
働く人の側では、困りごとや働き方の希望を早めに上司や人事に伝えることが、制度を生かす第一歩になります。自分に合う働き方の選択肢を知っておくことも大切です。
また、自分とは違う立場の同僚の事情を知り、手助けし合う姿勢が職場の雰囲気をつくります。育児や介護、体調など、誰もがいつか事情を抱える可能性があると考えれば、お互いさまの職場づくりは自分自身のためでもあります。
まとめ
- ダイバーシティとは、性別や年齢、国籍などが異なる人がともに力を発揮できる状態のこと
- 製造業の女性雇用者は302万人(2024年)で、働き手に占める割合は3割に届かない
- 外国人労働者の24.7%が製造業で働くなど、職場はすでに多様な人に支えられている
- 女性活躍推進法や育児・介護休業法の改正で、企業に求められる対応が広がっている
- 設備・制度・風土の3つを整えることが、多様な人が働きやすい職場につながる
ダイバーシティは、人手不足や働き方の見直しとも深く関わるテーマです。採用難の現状と打ち手は製造業の人手不足と採用難、休日や残業の実態は製造業の働き方改革の記事もあわせて参考にしてください。
キャリアや人材育成など、製造業で働く人に関わるテーマについては、人・キャリアのページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
- 女性雇用者数:厚生労働省「令和6年版 働く女性の実情」
- 管理職の女性割合・男性育休取得率:厚生労働省「令和7年度 雇用均等基本調査」結果
- 外国人労働者数:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」
- 女性活躍推進法の改正:厚生労働省「女性活躍推進法が改正されました」
- 就業者数:厚生労働省「2026年版ものづくり白書 概要」
- 法定雇用率:厚生労働省「障害者雇用対策」

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