「半導体製造」と聞くと、真っ白な防塵服を着た人がクリーンルームで作業している様子を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
実際には、シリコンの円板に目に見えないほど細かい回路を何層も重ねていく前工程と、それを切り分けて部品の形に仕上げる後工程からなる、数百の工程の積み重ねです。その一つひとつを、専用の装置と高純度の材料が支えています。
この記事では、半導体製造とは何かを、全体の仕組み、回路をつくる基本原理、主な種類・方式、押さえておきたい基本用語という順で整理します。
半導体製造とは

半導体製造とは、シリコンウェーハの上に微細な電子回路をつくり込み、チップとして製品に仕上げるまでの一連の工程のことです。パソコンやスマートフォンのプロセッサー、データを記憶するメモリ、電力を制御するパワー半導体など、あらゆる半導体がこの流れでつくられます。
工程は大きく、ウェーハ上に回路をつくる「前工程」と、ウェーハをチップに切り分けて包む「後工程」に分かれます。前工程は髪の毛の太さの数千分の一というナノメートル単位の世界で、後工程はチップを基板や製品に実装できる形に整える世界です。
日本は半導体そのものより、つくるための道具で存在感があります。経済産業省の資料では、2021年の半導体製造装置の世界シェアは日本が31%、ウェーハやレジストなど主要な部素材では日本が48%を占めるとされています。
市場も拡大しています。日本半導体製造装置協会(SEAJ)によると、日本製半導体製造装置の販売高は2025年度に5兆1,986億円となり、2026年度は6兆5,502億円と前年度比26%増が見込まれています。
半導体製造に関わる企業は、チップをつくるデバイスメーカーだけではありません。製造を請け負うファウンドリ、工程ごとの装置をつくる装置メーカー、ウェーハや薬液、ガスを供給する材料メーカーなど、多くの専門企業の技術の組み合わせで成り立つのが特徴です。
また、1つのチップが完成するまでには長い時間がかかります。前工程だけでも工程数は数百に及ぶため、途中で不良が見つかると、それまでの時間と費用がすべて無駄になるのが半導体製造の厳しさです。
同じ半導体製造でも、扱う対象と求められる技術が異なります。
※先端パッケージでは後工程にも前工程に近い精度が求められ、境界は近づいています。
半導体製造の仕組み

半導体製造は、設計から出荷まで複数の段階がバトンをつなぐように進みます。全体像をつかむと、個々の工程の役割が見えやすくなります。
設計データが、マスク・前工程・後工程を経て製品になります。
※設計・前工程・後工程をそれぞれ別の会社が担う水平分業も一般的です。
最初の設計段階では、小さなチップの中にどんな回路をどう効率よく並べるかを決めます。その設計データをもとに、回路の原版となるフォトマスクがつくられます。
マスクは1つのチップに対して数十枚が1セットになるのが一般的で、層ごとに異なる模様が描かれています。マスクに傷や汚れがあると、そのまま全てのウェーハに不良が写ってしまうため、厳しい検査を経て使われます。
前工程では、まず高純度のシリコン単結晶を薄く切って磨き、ウェーハをつくります。その上に膜をつくり、模様を焼き付け、不要な部分を削るという作業を何十回も繰り返し、トランジスタと配線を立体的に積み上げていきます。
回路ができたウェーハは、チップごとに電気的な検査を受けます。そのあと後工程に送られ、チップの切り分け、基板やリードフレームへの接合、樹脂での封止、最終検査を経て製品になります。
こうした工程を支えるのが、製造装置、材料、そしてクリーンルームです。空気中の微粒子が1つ付くだけで回路が壊れることがあるため、工場全体が「ほこりを持ち込まない」前提で設計されています。
製造装置は、成膜、露光、エッチング、洗浄、検査など工程ごとに専用のものが使われます。いずれも高額で、特に最先端の露光装置は1台で工場の投資計画を左右するほどの価格になります。そのため、工場の投資額の大半を装置が占めるのが一般的です。
材料には、ウェーハのほか、感光材のフォトレジスト、成膜や洗浄に使う高純度のガスや薬液、研磨に使うスラリーなどがあります。不純物がごくわずかでも歩留まりが落ちるため、材料には極めて高い純度と、ロットごとのばらつきの小ささが求められます。
クリーンルームは、空気をフィルターで絶えず循環させ、温度や湿度も一定に保った空間です。人が最大の汚染源になるため、作業者は全身を覆う防塵服を着て、エアシャワーを浴びてから入室します。
半導体製造の基本原理

前工程の基本は、写真の現像と版画を組み合わせたような考え方です。代表的な工程が繰り返される一周を、次の図で見てみます。
膜をつくる、模様を描く、形をつくる、の3つの段階に分かれます。
※順番や組み合わせは層や製品によって変わります。このサイクルを数十回繰り返します。
この繰り返しで回路が一層ずつ積み上がります。ここでは中心となる4つの原理を見ていきます。
光で模様を写す:リソグラフィ
リソグラフィ(露光)は、回路の原版であるマスクに光を当て、ウェーハ上の感光材に模様を縮小して写す工程です。写真のネガを印画紙に焼き付けるのと似た考え方です。
写せる模様の細かさは、使う光の波長で決まります。光の波長が短いほど、細かい回路を描けるため、露光装置は紫外線からさらに波長の短い極端紫外線(EUV)へと進化してきました。
露光装置には、ナノメートル単位で模様を重ね合わせる精度も求められます。前の層でつくった回路と次の層の模様が少しでもずれると、配線がつながらず不良になるためです。
削って形をつくる:エッチング
露光と現像で残った感光材を「型紙」として、その下にある膜を削り取るのがエッチングです。版画で彫刻刀を使い、残したい線だけを残す作業にたとえられます。
現在の主流は、ガスをプラズマにして化学反応と物理的な衝突で削るドライエッチングです。横に広がらず、まっすぐ深く削れるかどうかが、細かい回路をつくれるかを左右します。
削りすぎれば下の層を傷め、削り足りなければ回路がつながりません。そのため、ガスの種類や圧力、プラズマの強さといった条件を細かく調整し、狙った深さと形で止める技術が重要になります。
膜を重ねて平らにする:成膜とCMP
回路の材料となる膜は、ガスを化学反応させて積もらせるCVD、金属を叩き出して付着させるスパッタリング、原子1層ずつ積み上げるALDなどの方法でつくります。数ナノメートルの薄い膜を、ウェーハ全面に均一な厚さで付けることが求められます。
層を重ねると表面に凹凸ができ、次の露光でピントが合わなくなります。そこでCMP(化学機械研磨)で表面を鏡のように平らに削り、次の層をつくる準備を整えます。
性質を変える:イオン注入と熱処理
シリコンはそのままでは電気をあまり通しません。そこへリンやホウ素といった不純物をごく微量加えると、電気の通りやすさを細かく調整できます。
イオン注入は、不純物を電気で加速してウェーハに打ち込む工程です。その後の熱処理で結晶を整え、電流のオン・オフを切り替えるトランジスタとして働く部分をつくります。酸化炉では900〜1,100℃程度の高温が使われます。
こうした原理はどれも単独では完結しません。露光の精度はレジストや膜の平らさに左右され、エッチングの出来は露光の模様に左右されます。前後の工程が互いに影響し合うことが、半導体製造の難しさであり面白さでもあります。

半導体製造の種類・方式

ひとくちに半導体製造といっても、つくる製品や世代によって、使う技術や設備は大きく異なります。ここでは代表的な違いを4つの切り口で整理します。
世代が進むにつれて、各工程の方式が変わってきました。
※用途によっては従来型の方式が今も主力です。先端型が常に優れているわけではありません。
製品による違い
演算を担うロジック、データを記憶するメモリ、電力を制御するパワー半導体、光を電気信号に変えるイメージセンサーなど、製品によって得意とする工場や技術が分かれます。
ロジックは微細化の最先端を競い、メモリは同じ構造を大量に高密度でつくる技術が問われます。パワー半導体では、シリコンに加えてSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった新しい材料の加工技術が重要になっています。
露光方式の違い
露光装置の光源は、世代を追ってKrF(波長248nm)、ArF(193nm)、そしてEUV(13.5nm)と短くなってきました。最先端のロジックやメモリでEUVが使われる一方、多くの製品ではArFなどの装置が今も主力です。
EUVは空気にも吸収されてしまうため、真空中で鏡を使って光を導くという、従来とはまったく異なる仕組みが必要です。一方でArFでも露光を複数回に分けるなどの工夫で細かい回路を描けるため、コストや必要な精度に応じて使い分けられています。
ウェーハサイズの違い
ウェーハは直径200mm(8インチ)と300mm(12インチ)が主流です。大口径ほど1枚から多くのチップが取れるため、先端品の量産工場は300mmが中心です。パワー半導体やアナログ製品では、200mm以下のラインも多く使われています。
ウェーハの大きさが変わると、搬送機構や処理室など装置の多くをつくり直す必要があります。そのため口径の切り替えは業界全体での大きな投資になり、既存の200mmラインを長く使い続ける工場も少なくありません。
後工程の方式の違い
従来のパッケージは、チップと端子を細い金属線でつなぐワイヤボンディングが中心でした。近年は、複数のチップを並べたり縦に積んだりして1つのパッケージで高い性能を出す先端パッケージが広がっています。
後工程の基本は、ダイシング(切断)、ダイボンディング(チップの固定)、ボンディング(電気的な接続)、モールド(樹脂での封止)、最終テストという流れです。先端パッケージでは、チップ同士を微細な電極で直接つなぐ技術や、配線を高密度に引き回す基板の技術が加わります。
半導体製造を理解するための基本用語

現場や記事でよく出てくる用語を整理しておきます。意味を押さえておくと、ニュースや技術資料が格段に読みやすくなります。
工程・品質・拠点に関わる、よく使われる言葉です。
なかでも歩留まり(ぶどまり)は、工場の収益を左右する最重要の指標です。1枚のウェーハから取れる良品チップが少しでも増えれば、同じ設備と材料で得られる売上が大きく変わります。
プロセスノードは、以前はトランジスタの寸法を表していましたが、現在は世代を示す呼び名として使われています。「2nm」だからといって、回路のどこかが2nmというわけではない点に注意が必要です。
歩留まりを高めるために、工場では各工程の条件や装置の状態を記録したデータを分析し、不良の原因を突き止める取り組みが続けられています。
ファウンドリやOSATといった言葉は、設計と製造を別の会社が担う水平分業から生まれました。自社で設計から製造まで手がける企業は、垂直統合型と呼ばれます。
このほか、露光の最小線幅を表す「解像度」、ウェーハ上の微粒子を指す「パーティクル」、ウェーハをまとめて密閉したまま運ぶ容器の「FOUP(フープ)」なども現場でよく使われます。用語の多くは英語の略語なので、はじめは一覧にして覚えていくとよいでしょう。
用語の背景にある工程や原理がわかると、単なる暗記ではなく「なぜそれが重要なのか」まで理解できるようになります。この記事の図と合わせて、少しずつ知識を広げていくのがおすすめです。
まとめ
- 半導体製造は、ウェーハ上に回路をつくる前工程と、チップに仕上げる後工程に分かれる
- 前工程では成膜・露光・エッチングなどのサイクルを数十回繰り返し、回路を積み上げる
- 露光は光の波長が短いほど細かい回路を描け、EUVが最先端で使われている
- 製品や世代によって、露光方式・トランジスタ構造・パッケージ方式が異なる
- 日本は製造装置で約3割、主要部素材で約5割の世界シェアを持つ(2021年)
半導体製造が注目される理由は半導体製造が注目される背景と従来技術との違いで、実際の使われ方は半導体製造の主な用途と導入事例で詳しく紹介しています。業界全体の構造は電子・半導体業界とは、材料の基礎は材料技術のページも参考になります。
半導体製造については、半導体製造の技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
- 製造工程の概要:一般社団法人日本半導体製造装置協会「半導体製造工程とは」、「半導体製造工程 前工程」
- 装置・部素材の世界シェア:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略について」(令和5年7月)
- 日本製半導体製造装置の販売高:一般社団法人日本半導体製造装置協会「半導体・FPD製造装置 需要予測(2026年度〜2028年度)」(2026年7月2日)
- 露光の光源と波長:ASML「Light and lasers」

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