「予知保全」と聞くと、多くの方はここ数年で急に広まった、新しい流行の技術を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、設備の状態を測って保全の時期を決めるという考え方は以前からありました。それが今あらためて注目されているのは、人手不足や設備の老朽化といった現場の課題と、センサーやAIの進歩が重なったためです。
この記事では、予知保全が注目される背景を、社会や現場の変化、保全の考え方の歴史、従来の保全との違い、メリット、導入時の課題と注意点という順で整理します。
予知保全が注目される背景

予知保全への関心が高まっている理由は、一つではありません。工場を取り巻くいくつかの変化が、同じ方向を指していると言えます。
ひと言でまとめると、「人が足りない」「設備が古い」「道具がそろった」という3つの条件が同時にそろったことが、予知保全を後押ししています。
主な背景は、次の4つに整理できます。
現場の課題と技術の進歩が重なっています。
保全人材の不足と技能の継承
設備保全の現場では、人手不足が深刻です。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、設備の保守・修理にあたる「はん用・生産用・業務用機械器具整備・修理工」の有効求人倍率は5.63倍(2025年度)で、求職者1人に対して5件を超える求人がある状況です。
さらに、音や手ざわりで異常に気づくベテランの技能は、言葉にしにくく、若手へ引き継ぐのに時間がかかります。人の感覚に頼っていた判断をデータに置き換えられる点が、予知保全が期待される大きな理由です。
少ない人数で多くの設備を見なければならない状況では、すべての設備を同じ手間で点検し続けることは難しくなります。予知保全は、手をかけるべき設備を絞り込む道具としても役立ちます。省人化の流れについては人手不足・省人化の技術ページも参考になります。
設備の老朽化と劣化による事故
数十年にわたって使われ続けている設備も多く、老朽化への対応は多くの工場に共通する課題です。長く使った設備ほど、腐食や摩耗が進み、思わぬ故障や事故につながりやすくなります。
消防庁によると、2025年に石油コンビナート等の特定事業所で起きた事故は427件で、前年から16件減りました。一方で一般事故は425件と過去最多を更新し、発生要因では配管などの腐食疲労等劣化が119件(28%)と、物的要因の中で最も多くなっています。
劣化は目に見えないところで少しずつ進むため、定期的な点検だけでは見逃しが生じることがあります。状態を継続して見る予知保全は、こうした劣化への備えとして注目されています。
国も、プラントや電気設備などの保安にIoTやAIを取り入れる「スマート保安」を進めています。法令で定められた点検の方法を、データを使った監視で補う動きも、予知保全への関心を高める要因の一つです。
IoT・AIの普及
かつて、設備の状態を常時監視する仕組みは高価で、発電所や大規模プラントの重要設備に限られていました。現在は、小型の無線センサーやクラウドの分析サービスが普及し、導入のハードルは大きく下がっています。
総務省の通信利用動向調査によると、2024年8月末時点でIoTやAIなどのシステム・サービスを導入している企業は全体の18.4%で、製造業では26.1%でした。製造業は全体より導入が進んでいる業種の一つです。
データを集める仕組みがすでにある工場では、そのデータを保全に生かすことで、追加の投資を抑えて予知保全を始められます。工場のIoT化が進むほど、予知保全に取り組みやすい環境が整っていくと言えます。
製造業は、全体の平均を上回る割合で導入しています。
※総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」より。調査時点は2024年8月末。予知保全以外の用途も含みます。
生産性と脱炭素への要求
設備が突然止まると、生産の遅れだけでなく、仕掛品の廃棄や立ち上げ直しに伴うエネルギーのムダも発生します。止まらない工場をつくることは、生産性と環境の両面で意味を持ちます。
また、まだ使える部品を周期どおりに交換し続けることは、資源のムダにもつながります。状態に応じて交換する予知保全は、脱炭素・カーボンニュートラルの取り組みとも方向性が一致しています。
さらに、軸受の摩耗やベルトのゆるみといった劣化は、設備の消費電力を少しずつ押し上げることがあります。劣化を早めに直すことは、省エネにもつながると考えられます。

予知保全の歴史と進化

予知保全は、保全の考え方が段階的に進化してきた延長線上にあります。大まかな流れは次のとおりです。
事後から予防へ、そして状態を見る保全へと進んできました。
※各段階は置き換わったわけではなく、現在も設備に応じて組み合わせて使われています。
最初は、壊れてから直す事後保全が中心でした。その後、故障を防ぐために周期を決めて整備する予防保全が広がり、さらに設備の一生を通じて生産性を高める生産保全へと発展します。
日本では、日本プラントメンテナンス協会が1971年にTPM(全員参加の生産保全)を提唱しました。運転する人も含めて全員で故障ゼロを目指すこの考え方は、多くの工場に定着し、現在も保全の土台になっています。
やがて、振動計などを使って設備の状態を測る設備診断の技術が発達し、診断結果をもとに保全時期を決める状態基準保全が行われるようになりました。重要な設備には、センサーを付けて連続して監視する仕組みも導入されていきます。
2010年代に入ると、IoTによって多くの設備のデータを安く集められるようになり、AIによる分析と組み合わせた予知保全が広がりました。2010年代後半には、鉄鋼やロボットの大手メーカーが、設備の異常予兆を検知する仕組みを相次いで実用化しています。
こうして見ると、予知保全は新しい技術というより、昔からの考え方がデジタルで実現しやすくなったものと言えます。
そのため、予知保全を始める際も、これまでの保全の蓄積を捨てる必要はありません。点検記録や故障の履歴、ベテランの知見は、データの意味を読み解くための大切な手がかりになります。
具体的な企業の取り組みは、予知保全の主な用途と導入事例で紹介しています。
従来技術との違い

予知保全と比べられることが多いのは、事後保全、時間基準保全、そして人による五感点検です。違いを整理すると次のようになります。
判断の材料と、保全を行うタイミングが大きく異なります。
※従来の保全が不要になるわけではなく、設備に応じて組み合わせるのが基本です。
事後保全との違い
事後保全は、故障してから修理する方法です。準備の手間がかからない一方で、故障のタイミングを選べないため、生産の真っ最中にラインが止まることがあります。
予知保全は、兆候の段階で手を打つため、止める時期を自分たちで選べるのが最大の違いです。部品の手配や人員の確保も、前もって計画できます。
時間基準保全との違い
時間基準保全は、故障する前に周期で整備するという点では予知保全と同じ目的を持っています。ただし、周期は安全側に短めに設定されることが多く、まだ使える部品まで交換してしまうことがあります。
逆に、周期より早く劣化が進んだ場合は、次の整備までに故障するおそれもあります。予知保全は、実際の状態を見て判断するため、交換が早すぎるムダと遅すぎるリスクの両方を減らせます。
ただし、劣化の進み方が一定で、交換の費用が小さい部品であれば、周期で交換したほうが手間がかからないこともあります。すべてを予知保全に切り替えるのではなく、向いている設備を選ぶのが実務的な考え方です。
人による五感点検との違い
ベテランの保全担当者は、音や振動、においの違いから異常に気づきます。こうした五感点検は今も大切ですが、見回りの頻度には限りがあり、判断の基準も人によって異なります。
センサーによる監視は、24時間同じ基準でデータを取り続けられます。人の感覚を置き換えるのではなく、数値で補い、裏付けるものと考えるとよいでしょう。
実際に異常の通知が届いたときも、最終的には現場で音を聞き、触れて確かめることになります。データと五感点検を組み合わせることで、判断の確かさが増していきます。

予知保全のメリット

予知保全を取り入れることで得られる効果は、大きく3つに分けられます。
止まらない、ムダがない、人に頼りすぎない保全を目指せます。
突発停止を減らせる
最も大きなメリットは、予定外の設備停止を減らせることです。連続して運転する工場や、1つの設備が止まるとライン全体が止まる工場では、突発停止による損失は非常に大きくなります。
兆候を早めに捉えられれば、休日や定期停止に合わせて修理できるため、生産への影響を最小限に抑えられます。
修理の内容を前もって把握できるため、作業時間そのものも短くなります。慌てて原因を探すことが減り、部品や工具をそろえた状態で作業に入れるからです。
保全コストを適正化できる
状態を見て交換時期を決めるため、まだ使える部品を早めに交換するムダが減ります。予備品の在庫も、必要な時期に合わせて持てるようになります。
また、データで異常のない設備を確認できれば、点検の回数を見直すこともできます。限られた人手を、本当に手をかけるべき設備に振り向けられるのも利点です。
故障が大きく広がる前に直せることも、費用の面では見逃せません。軸受の傷の段階で交換すれば、軸やハウジングまで傷めずに済み、修理の範囲を小さく抑えられます。
安全の確保と技能の継承
劣化による破損や漏えいを早めに見つけることは、事故の防止に直結します。特に、危険物や高圧ガスを扱うプラントでは、安全面の効果が重視されます。
さらに、異常の判断をデータとして残せるため、ベテランの経験を次の世代に引き継ぎやすくなる点も見逃せません。
予知保全の課題と導入時の注意点

予知保全は効果が期待できる一方で、導入すればすぐに成果が出るものではありません。つまずきやすい点を、3つに整理します。
初期費用と効果の見えにくさ
センサーやネットワーク、分析の仕組みには初期費用がかかります。一方で、効果は「起きなかった故障」として表れるため、金額で示しにくいという難しさがあります。
導入前に、止まったときの損失が大きい設備を選び、過去の故障件数や停止時間を効果の比較対象として記録しておくことが大切です。
データと人材の不足
予知保全には、正常時のデータや、故障に至るまでのデータが必要です。故障がめったに起きない設備では、判断の基準をつくるためのデータが集まりにくいことがあります。
そのため、最初は故障データがなくても使える「正常時からのずれ」を見る方法から始めるのが一般的です。完璧なデータがそろうのを待たずに始めることも、導入を進めるうえでは大切です。
データを読み解き、保全の判断につなげられる人材も欠かせません。富士電機が2021年に食品製造業の従事者253人を対象に行った調査でも、IoT・ITの活用の課題として「IoT/ITと業務を理解する人材不足」を挙げた人が36.4%いました。
誤報と運用の定着
しきい値の設定が合っていないと、異常ではないのに通知が届く誤報が増えます。誤報が続くと、現場が通知を確認しなくなり、仕組みが形だけになってしまいます。
小さく始めて、通知と点検結果を突き合わせながら基準を見直すことが定着のポイントです。保全、製造、情報システムの担当者が役割を決め、通知を受けてから誰が何をするかを最初に決めておくと、運用が回りやすくなります。
ネットワークにつながる機器が増えることで、情報セキュリティへの配慮も必要になります。工場のネットワークを外部とどうつなぐかは、情報システム部門と早めに相談しておきたいところです。
まとめ
- 予知保全は、保全人材の不足、設備の老朽化、IoT・AIの普及、生産性と脱炭素の要求を背景に注目されている
- 事後保全、予防保全、TPMを経て、状態を見る保全がデジタルで実現しやすくなった
- 従来の保全との違いは、データの変化をもとに保全の時期を決める点にある
- メリットは、突発停止の削減、保全コストの適正化、安全の確保と技能の継承
- 初期費用、データと人材の不足、誤報への対応が導入時の注意点になる
予知保全の仕組みや原理は予知保全とは?仕組みと基本原理で、実際の活用例は予知保全の主な用途と導入事例で解説しています。保全の現場の働き方は設備保全の仕事、設備の劣化が安全に直結するプラント業界の記事もあわせて参考にしてください。
予知保全の関連記事については、予知保全の技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
- 保全関連職の有効求人倍率:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「産業用ロボットの保守・メンテナンス」(統計上の分類は「はん用・生産用・業務用機械器具整備・修理工」。有効求人倍率は令和7年度)
- 石油コンビナートの事故件数と発生要因:消防庁「令和7年中の石油コンビナート等特別防災区域の特定事業所における事故概要」(2026年5月29日公表)
- IoT・AIの導入状況:総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(企業編)」
- TPMの提唱:公益社団法人日本プラントメンテナンス協会「TPM」
- IoT・ITの課題:富士電機「食品製造業におけるIoT/ITの利用動向調査」(2021年6月実施、食品製造業従事者253人)

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