ニュースで流れる「大企業製造業の業況判断DIはプラス22」という数字は、高いのか、低いのか。日銀短観(日本銀行による企業アンケート)の数字は、仕組みと見る順番を知っていれば、景気の山と谷を読む材料になります。
短観は、約9,000社に事業の状況が「良いか、悪いか」を聞く調査です。「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値が、業況判断DIです。年4回の結果は、景気の転換点や取引先の状況をつかむ手がかりになります。
この記事では、短観の仕組み、業況判断DIの計算方法、企業規模と業種の区分、過去の推移から見る景気の山と谷を整理します。続いて、業況以外に見ておきたい項目、ニュースの読み解き方、現場での使い方を順に見ていきます。
日銀短観とは|約9,000社に四半期ごとに聞く企業アンケート

短観は正式名称を「全国企業短期経済観測調査」といい、統計法に基づいて日本銀行が行う統計調査です。全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の運営に役立てることを目的としています。
対象は、資本金2,000万円以上の民間企業(金融機関などを除く)から統計的に選ばれた企業です。
2026年6月調査では9,141社(製造業3,792社、非製造業5,349社)が対象で、回答率は99.4%でした。回答率がきわめて高く、企業の実感をそのまま集めた統計として信頼されています。
調査は毎年3月、6月、9月、12月の4回です。結果は4月初、7月初、10月初、12月中旬に公表され、公表時刻は午前8時50分に統一されています。株式や為替の市場が開く直前の時刻で、公表直後から相場が反応しやすいのもこの統計の特徴です。
調べている内容は業況だけではありません。売上高や設備投資の計画、事業計画の前提にしている為替レート、物価の見通しなど、企業の「いまの実感」と「これからの計画」の両方が1回の調査に入っています。
業況判断DIは、短観が調べている項目のうちの1つです。
※出典:日本銀行「短観(全国企業短期経済観測調査)解説」(2023年2月)をもとに作成。
業況判断DIの計算方法と数字の意味
業況判断DI(ディフュージョン・インデックス)では、企業に自社の業況を「1.良い」「2.さほど良くない」「3.悪い」の3択で答えてもらいます。
DIは、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値です。単位は%ポイントで表します。
ここでいう業況は、収益を中心とした全般的な状況を指します。売上が増えていても利益が圧迫されていれば「良い」とは答えにくく、利益の実感に近い指標だと考えると分かりやすくなります。
100社のうち25社が「良い」、10社が「悪い」と答えた場合、DIはプラス15になります。
※「さほど良くない」の回答はDIの計算に使われません。各選択肢の構成比を整数に丸めてから差し引きます。出典:日本銀行「短観 解説」の具体例。
プラスとマイナスの境目
DIがプラスなら「良い」と答えた企業のほうが多く、マイナスなら「悪い」のほうが多いことを意味します。ゼロは両者が同じ割合という状態で、景気が良いか悪いかの目安となる境目です。
注意したいのは、DIが企業の数の差であって、利益の大きさを表しているわけではない点です。DIがプラス22でも、多くの企業は「さほど良くない」と答えていることがあり、大多数が好調という意味ではありません。
「最近」と「先行き」
業況判断は、回答した時点の「最近」と、3か月後の「先行き」の2つを聞いています。ニュースの見出しになるのは「最近」の値で、「先行き」は企業が次の四半期をどうみているかを表します。
日本銀行は、前回調査の「先行き」と今回調査の「最近」を比べることで、企業の見通しがどの程度当たったかを確認できると説明しています。前回の先行きより今回の最近が上なら、企業が想定したより景気が良かったと読めます。
水準と変化幅は分けて読む
DIは「水準」と「前回からの変化幅」を分けて読むのが基本です。水準は景気が良い側にあるか悪い側にあるかを、変化幅は改善に向かっているか悪化に向かっているかを示します。
たとえばマイナス30からマイナス20に上がった場合、水準はまだ悪い側でも、方向は改善です。逆にプラス25からプラス20に下がった場合は、水準は高くても勢いは鈍っています。
景気の転換点を探るうえでは、水準より変化の向きが先に動くことを覚えておくと役立ちます。
大企業・中堅・中小、製造業・非製造業の区分

短観の結果は、企業規模と業種の組み合わせごとに公表されます。企業規模は資本金で次のように分けられます。
- 大企業:資本金10億円以上
- 中堅企業:1億円以上10億円未満
- 中小企業:2,000万円以上1億円未満
2004年3月調査からこの資本金基準になり、それ以前は雇用者数で区分していました。
同じ製造業でも、規模によって景況感はかなり違います。2026年6月調査では大企業製造業がプラス22だったのに対し、中小企業製造業はプラス9でした。
価格交渉力や人材確保の条件が違うことを考えると、この差は自然です。規模による働き方や収益構造の違いは、大手メーカーと中小メーカーの違いでも整理しています。
規模が小さいほど水準が低く、先行きの落ち込みも大きく見込まれていました。
資本金10億円以上
先行き +17
先行き +28
1億〜10億円未満
先行き +9
先行き +16
2,000万〜1億円未満
先行き +2
先行き +8
※単位は%ポイント。先行きは2026年9月までの予測。出典:日本銀行「短観(要旨)(2026年6月)」。
素材業種と加工業種
製造業は17業種に分かれ、さらに素材業種と加工業種の2つにまとめて集計されます。素材業種は化学や鉄鋼のように原材料をつくる業種、加工業種は機械や自動車のように部品や製品を組み立てる業種です。
素材業種は原油や資源の価格、中国などの市況の影響を受けやすく、加工業種は設備投資や自動車・電子機器の需要、為替の影響を受けやすい傾向があります。
同じ「製造業DI」でも、どちらが全体を動かしたのかで意味が変わるため、業種別の内訳まで見ることが大切です。
製造業のDIは、この2グループの動きを合わせたものです。
※出典:日本銀行「短観 解説」の業種区分。非製造業は建設、不動産、卸売、小売、運輸・郵便、情報通信、宿泊・飲食サービスなど14業種。
大企業製造業が注目される理由
ニュースで真っ先に報じられるのは「大企業製造業」の業況判断DIです。輸出や設備投資を通じて海外経済や為替の影響を受けやすく、景気の変化が早く、大きく表れる区分だからです。
一方で、雇用の多くを支えているのは中小企業と非製造業です。大企業製造業だけで景気全体を判断せず、規模別と非製造業の数字もあわせて確認すると、実態との食い違いを減らせます。
過去の推移から見る景気の山と谷
大企業製造業の業況判断DIを長い期間で並べると、景気の波がはっきり見えてきます。バブル期の1989年6月にはプラス53まで上がり、リーマン・ショック後の2009年3月にはマイナス58と、データのある1974年以降で最も低い値をつけました。
DIの底は、内閣府が定める景気の谷とほぼ同じ時期に来ています。
※出典:日本銀行 時系列統計データ検索サイト「全国短観・判断項目(業況)」、内閣府経済社会総合研究所「景気基準日付」。調査対象企業の見直し(2004年3月、2026年3月など)の前後で数値に段差があります。
谷はDIの底とほぼ重なる
内閣府の景気基準日付と比べると、景気の谷とDIの底は、ほとんどの局面で同じ時期か1四半期程度の差に収まっています。主な例は次のとおりです。
- 1999年1月の谷に対してDIの底は1998年12月(マイナス51)
- 2009年3月の谷に対してDIの底も2009年3月(マイナス58)
- 2020年5月の谷に対してDIの底は2020年6月(マイナス34)
短観は調査した月の翌月初(12月調査は12月中旬)には結果が公表されます。景気の底入れを企業の実感から早めに確かめられることが、短観が景気判断で重視される理由の1つです。
山ではDIのピークが先に来た局面がある
一方、景気の山では様子が異なります。バブル期のDIのピークは1989年6月でしたが、景気の山は1991年2月でした。
2008年2月の山に対してDIのピークは2006年12月(プラス25)、2018年10月の山に対してDIのピークは2017年12月(プラス25)でした。このように、DIのほうが10か月〜1年8か月ほど早く頭打ちになった局面があります。
ただし、1997年5月の山ではDIのピークは1997年6月(プラス13)、2000年11月の山では2000年9月・12月(プラス10)とほぼ同じ時期でした。いつもDIが先に来るとは限りません。
景気基準日付と見比べた過去の傾向であり、次の山でも同じになるとは言い切れない点に注意が必要です。
それでも、DIが高い水準にあるうちに頭打ちになった例がある以上、前回より下がり始めたら注意しておく価値はあります。「まだプラスだから安心」ではなく、変化幅がマイナスに転じた回数を数えておくと、景気の山を意識した計画が立てやすくなります。
先行きDIは転換点で外れやすい
企業の先行き見通しは、景気が急に変わる局面では実際の結果から大きく外れることがあります。2008年12月調査の先行きはマイナス36でしたが、翌2009年3月調査の実績はマイナス58でした。
2020年3月調査の先行きはマイナス11でしたが、感染症が広がった6月調査の実績はマイナス34でした。
前回調査の先行きと今回の最近を比べると、企業の想定とのずれが分かります。
※▲はマイナス。出典:日本銀行 時系列統計データ検索サイト、「短観(要旨)(2026年6月)」。
平時でも、企業は先行きを慎重に答える傾向があり、先行きが最近より低く出ることがよくあります。先行きが下がっていても、それだけで悪化を決めつけず、前回の先行きとの差で企業の想定を超えたかどうかを見るのが実務的な読み方です。
短観以外の統計もあわせた足元の景気の見方は、製造業の景気動向と今後の見通し【2026年】で業種別に整理しています。
業況判断DI以外に見ておきたい項目
業況判断DIは景気の温度を示す指標ですが、その背景にある理由は、ほかの項目を見ないと分かりません。製造業の実務に近いのは、価格、設備投資、為替、人と設備の過不足に関する項目です。
業況の変化の理由は、価格・投資・人手の項目に表れます。
※出典:日本銀行「短観(要旨)(2026年6月)」。
販売価格・仕入価格判断DI
価格判断DIは、3か月前と比べて価格が「上昇」したと答えた企業の割合から「下落」の割合を引いたものです。業況判断のような水準ではなく、変化の方向を聞いている点が異なります。
見るべきは、仕入価格と販売価格の差です。2026年6月調査では、大企業製造業の仕入価格DIが62、販売価格DIが40で、中小企業製造業では76と40でした。
仕入の上昇に販売価格が追いついていない企業が多く、特に中小企業ほど差が大きいことが読み取れます。取引先との価格交渉を進めるときの考え方は、取適法で価格転嫁はどう進めるかで解説しています。
仕入価格の上昇には、原油や素材の値上がりが大きく影響します。エネルギーや樹脂の価格がどの経路でコストに届くかは、原油高の製造業への影響で数字をもとに整理しています。
設備投資計画は修正パターンを踏まえて読む
設備投資計画は、同じ年度の数字を前年度3月調査から翌年度6月調査まで6回にわたって聞いていきます。日本銀行によると、大企業は初回調査から12月調査まで上方修正される傾向があり、中小企業は実績が出るまで一貫して上方修正される傾向があります。
2026年6月調査でも、中小企業全産業の2026年度計画は前年度比マイナス8.3%でしたが、前回からの修正率はプラス9.1%でした。
こうした修正のくせがあるため、中小企業の年度初めのマイナスは、それだけで投資意欲の弱さを表すとは限りません。前年の同じ時期の計画と比べると、投資意欲の強弱を判断しやすくなります。
想定為替レート
想定為替レートは、企業が事業計画の前提にしている円相場で、回答した企業の値を単純平均したものです。2026年6月調査では、2026年度の想定が1ドル=152.57円(全規模・全産業)でした。
実際の相場が想定より円安なら輸出企業の利益は計画を上回りやすく、円高なら下振れしやすくなります。一方、輸入原材料を多く使う企業にとっては逆の関係です。
自社や取引先が輸出側か輸入側かによって、同じ為替の動きでも意味が逆になる点に注意が必要です。
雇用人員・生産設備判断DI
雇用人員判断DIと生産・営業用設備判断DIは、「過剰」から「不足」を引いた値です。業況判断DIとは符号の向きが逆で、マイナスが大きいほど人や設備が足りない状態を表します。
2026年6月調査の雇用人員判断DIは全規模・全産業でマイナス37と、人手不足の強さを示しています。設備判断DIのマイナスは生産能力の不足感を意味し、設備投資を後押しする要因になります。
ニュースで短観を読み解く5つの手順
短観の公表日には、新聞やテレビがさまざまな数字を一斉に報じます。情報の量に振り回されないよう、次の順番で確認すると要点を押さえやすくなります。
見出しの数字から、理由と先行きへと順に掘り下げます。
※公表初日の午前8時50分に「概要」と「要旨」、2日目に詳細な「調査全容」が公表されます。
1つめの手順で「改善」と報じられても、2つめで民間予想を下回っていれば、市場では弱い結果と受け止められることがあります。
ニュースの「改善」「悪化」は前回比で書かれることが多く、予想との比較とは別の話である点を押さえておくと、報道と相場の反応のずれにも納得がいきます。
4つめの内訳では、どの業種がDIを押し上げたのかを確認します。2026年6月調査では、半導体・AI関連の需要拡大を受けて生産用機械や電気機械、非鉄金属などが改善したと分析されています。
自社の業種と取引先の業種の数字を、毎回同じ順番で追っていくと変化に気づきやすくなります。
また、調査対象企業は定期的に見直され、見直しの前後で数値に段差が出ます。
直近では2026年3月調査から見直し後の企業で集計されており、比較用に2025年12月調査を新しい企業の組み合わせで再集計した参考値も公表されています。
過去の記事の数字と比べるときは、新旧どちらのベースの値かを確認すると誤解を避けられます。
10月1日に公表された2026年9月調査の結果は、大企業製造業の業況判断DIが+24でした。この結果と業種別の動きは、9月日銀短観の製造業DIは+24|6期連続改善の中身で詳しく整理しています。

PMI・工作機械受注との違いと現場での使い方

景気を早く知るための統計は、短観のほかにもあります。製造業PMI(購買担当者景気指数)は毎月公表され、50を境に景気の拡大と縮小を判断します。短観より頻度が高い分、変化を早くとらえやすい統計です。
工作機械受注は、工作機械メーカーが受けた注文の金額を毎月集計した統計で、製造業の設備投資の先行指標として使われます。金額の統計なので、企業の実感を聞く短観とは性質が異なります。
内需と外需の分け方や数字の読み方は、工作機械受注の推移と読み方で解説しています。
このほか、内閣府と財務省の法人企業景気予測調査も、前の期と比べて景況が「上昇」したか「下降」したかを聞く企業アンケートです。
短観は四半期ごとの水準の判断、PMIは月次の変化、工作機械受注は投資の金額と、役割を分けて組み合わせると、1つの統計だけに頼るより判断の精度が上がります。

営業・購買・生産管理での使い方
営業部門では、取引先が属する業種の業況判断DIと設備投資計画を見ておくと、引き合いが増えそうな時期や業種の見当がつきます。設備判断DIが不足側に振れている業種は、設備の更新や増強の需要が出やすい先です。
購買部門では、仕入価格判断DIの先行きが上昇を示していれば、調達先からの値上げ要請が続く前提で予算や在庫を考えられます。販売価格判断DIとの差は、取引先の価格転嫁の余力をはかる手がかりにもなります。
生産管理や経営企画では、DIの変化幅がマイナスに転じたタイミングを、生産計画や人員計画を見直すきっかけにできます。
景気の山より先にDIが頭打ちになった局面もあるため、DIの頭打ちを確認した時点で、在庫を積み増しすぎていないかを点検するのが実務的な使い方です。
まとめ
- 短観は日本銀行が約9,000社に四半期ごとに聞く企業アンケートで、公表は午前8時50分
- 業況判断DIは「良い」の割合から「悪い」の割合を引いた値で、ゼロが景気の良し悪しの境目
- 規模は資本金で3区分、製造業は素材業種と加工業種に分かれ、内訳で意味が変わる
- DIの底は景気の谷とほぼ重なる。DIのピークは景気の山より先に来た局面もあるが、ほぼ同時の局面もある
- 価格判断DI、設備投資計画、想定為替レート、雇用人員判断DIもあわせて読む
短観は、景気の温度を企業の実感から測る統計です。数字を業務に生かしやすい職種としては生産管理や技術営業があり、設備投資の動きは産業機械・工作機械の業種ページの関連記事とあわせて読むと理解が深まります。
出典
出典・参考資料(7件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 短観の仕組み・DIの計算方法・業種区分:日本銀行調査統計局「短観(全国企業短期経済観測調査)解説」(2023年2月)
- 公表時刻・設備投資計画の修正パターン・先行きと最近の比較:日本銀行「短観(全国企業短期経済観測調査)のFAQ」
- 2026年6月調査の結果:日本銀行「短観(要旨)(2026年6月)」
- 業況判断DIの時系列:日本銀行 時系列統計データ検索サイト「主要時系列統計データ表(全国短観・判断項目(業況))」
- 景気の山と谷:内閣府経済社会総合研究所「景気基準日付」
- 調査対象企業の見直し:日本銀行調査統計局「短観調査対象企業の定例見直し」(2026年3月6日)
- 業種別の改善要因:三菱UFJ銀行 経済調査室「日銀短観(2026年6月調査)」
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