オットーサイクルとは、ガソリンエンジンのような火花点火エンジンの動きを、理想気体の4つの過程で表した理論サイクルです。燃料の熱エネルギーをピストンの運動に変える流れを、式で扱えるようにしたモデルです。
理論熱効率は η=1−(1/ε)κ−1 で表され、圧縮比εと比熱比κだけで決まり、圧縮比が高いエンジンほど燃費がよい理由も、この式から読み取れます。
この記事では、基本サイクル、P-v線図とT-s線図、熱効率の式と導出、平均有効圧力、計算問題、ほかのサイクルとの違いの順に整理します。
- ガソリンエンジンなど火花点火エンジンの理論サイクル。断熱圧縮→等容受熱→断熱膨張→等容放熱の4過程でできている(定容サイクルとも呼ぶ)
- P-v線図・T-s線図とも、4本の線で囲まれた面積が1サイクルの正味の仕事 W=Q1−Q2。T-s線図では断熱の2過程が縦の直線になる
- 理論熱効率は η=1−(1/ε)κ−1。圧縮比εと比熱比κだけで決まり、燃やす燃料の量(圧力上昇比)には左右されない
- 計算例:ε=10、κ=1.4なら約60%、ε=8なら約57%。圧縮比を上げるほど効率は上がるが、実機ではノッキングが上限になる
- ほかのサイクルとの違いは熱の出入りの条件。ディーゼルサイクルは加熱が等圧・放熱が等容、ブレイトンサイクル(ガスタービン)は加熱も放熱も等圧(本文の図5で比較)
オットーサイクルとは?
オットーサイクルは、断熱圧縮・等容受熱・断熱膨張・等容放熱の4過程でできた理論サイクルで、ガソリンエンジンやガスエンジンなど、火花で点火する内燃機関の基本になります。
熱を受け取るときも捨てるときも体積が一定(等容)なので「定容サイクル」とも呼ばれ、これは点火した混合気が一瞬で燃え、その間ピストンがほとんど動かないと考えるためです。名前は、1876年に4ストロークのガス機関を初めて運転し、翌1877年に特許を取ったドイツの技術者ニコラウス・オットーに由来します。
実際のエンジンは、吸気・圧縮・燃焼(爆発)・排気の4つの行程で動き、燃焼で生まれた熱を、一定の圧縮比のもとでピストンの仕事に変える仕組みです。自動車のガソリンエンジンに広く使われ、いまも量産エンジンの多くがこの考え方の延長にあります。
燃料を外で燃やす蒸気機関との違いは、外燃機関と内燃機関の違いで整理しています。
オットーサイクルの基本サイクル
実際のエンジンの4行程と、理論サイクルの4過程は一対一ではなく、理論では吸気と排気を「4→1の等容放熱」にまとめて扱います。
新しい混合気を入れ替える動きを、「熱を捨てて最初の状態に戻る」ことに置き換えており、まず実機の4行程を見て、そのあと線図で理論の4過程を追います。
実機はピストン2往復で1サイクル。理論では状態1〜4を結ぶ4つの過程として扱います。
※理論サイクルでは、作動流体を理想気体(空気)とし、吸気・排気による入れ替えを「体積一定で熱を捨てる過程」に置き換えます。
吸気行程
吸気行程では、ピストンがシリンダー内を下がり、吸気バルブが開いて混合気が吸い込まれ、ここで入った混合気が、圧縮と燃焼でエネルギーを生む元になります。どれだけ混合気を入れられるかは、エンジンの性能や燃費に直接効くため、エアフィルターや吸気経路の設計が重要です。
圧縮行程
圧縮行程は、吸い込んだ混合気をピストンが押し縮める段階で、体積が減るにつれて、圧力と温度が上がります。圧縮比を高くすると熱効率は上がりますが、上げすぎるとノッキング(異常燃焼)が起きやすくなるため、バランスが要ります。
燃焼行程(爆発行程)
燃焼行程は、圧縮された混合気をスパークプラグで点火し、一気に燃やす行程で、燃焼で生まれた高圧ガスがピストンを押し下げ、これがエンジンの回転力になります。点火のタイミングと燃料の質が、この行程でどれだけ仕事を取り出せるかを左右します。
排気行程
排気行程は、燃え終わったガスをシリンダーの外へ出す行程で、ピストンが再び上がり、排気バルブから燃焼ガスが押し出され、次のサイクルで新しい混合気を吸うための準備にあたります。
排気経路や排気バルブのタイミングの設計に加え、出ていくガスの処理も環境面で重要です。一連のサイクルの動きは、アニメーションの動画にまとめています。
ピストンの上下運動は、クランクシャフトで回転運動に変えられ、次の動画は、そのクランクシャフトを加工する様子です。
オットーサイクルの線図
オットーサイクルの状態変化は、P-v線図(圧力と体積)とT-s線図(温度とエントロピー)の2つで見ると理解しやすくなります。
どちらの線図も、同じ状態点1〜4を同じ順番で回ります。1は圧縮を始める点、2は圧縮の終わり、3は燃焼の終わり(最高温度・最高圧力)、4は膨張の終わりです。
P-v線図
P-v線図は、縦軸に圧力P、横軸にシリンダー内の作動気体の体積vをとったグラフで、ピストンが下がるほど右へ、上がるほど左へ進みます。

図の番号に沿った4つの過程は次のとおりです。
- 1→2 断熱圧縮:ピストンが上がって混合気を圧縮する。外との熱のやり取りはなく、体積が減って圧力と温度が上がる(実機の圧縮行程)
- 2→3 等容受熱(等容加熱):上死点付近で点火し、体積がほぼ一定のまま燃焼して熱量Q1を受け取る。圧力と温度が急に上がる(燃焼・爆発)
- 3→4 断熱膨張:高温・高圧のガスがピストンを押し下げて仕事をする。体積が増え、圧力と温度が下がる(膨張行程)
- 4→1 等容放熱:下死点で排気弁が開き、体積一定のまま熱量Q2を捨てて最初の状態に戻る(排気・吸気をまとめて放熱とみなす)
線図で追うと、1で吸気した気体が1→2の圧縮で圧力を上げ、2→3で火花によって燃え、3→4の膨張で圧力が下がり、4→1の排気でさらに圧力が下がります。
このとき、2→3で受け取ったQ1から、排気で捨てたQ2を引いた分が動力に変わったと考えます。線図の4本の線で囲まれた面積が、1サイクルの正味の仕事 W=Q1−Q2です。
熱が出入りするのは等容の2過程だけ。仕事が出入りするのは断熱の2過程だけです。
※仕事は「気体が外(ピストン)にする向き」を正としています。V3=V2、V4=V1です。
T-s線図
T-s線図は、縦軸に温度T、横軸にエントロピーsをとったグラフで、熱の出入りを読むのに向いています。

- 1→2 断熱圧縮:熱の出入りがないため、エントロピー一定のまま温度が上がる(線図上は縦の直線)
- 2→3 等容受熱:熱量Q1を受け取り、温度とエントロピーがともに増える(右上がりの曲線)
- 3→4 断熱膨張:エントロピー一定のまま温度が下がる(縦の直線)
- 4→1 等容放熱:熱量Q2を捨て、温度とエントロピーがともに減って1に戻る
T-s線図のポイントは、断熱圧縮と断熱膨張ではエントロピーが変化しないことで、外との熱のやり取りがないので、線図上はまっすぐ縦の線になります。圧縮で温度が上がるのは、ピストンが加えた仕事がそのまま気体の内部エネルギーになるためです。
圧縮と膨張という2種類の等エントロピー変化がある、と覚えておきましょう。理想サイクルは可逆変化を仮定するので、T-s線図の面積を熱量として読め、2→3の曲線の下の面積がQ1、4→1の曲線の下の面積がQ2です。
その差である4本の線で囲まれた面積が、P-v線図と同じく正味の仕事Wを表します。エントロピーそのものは、エンタルピーと内部エネルギー・エントロピーの違いで詳しく扱っています。
オットーサイクルの熱効率
オットーサイクルの目的は、燃料の熱エネルギーを動力に変えることで、そのため熱効率は、どれだけの熱を取り込み、どれだけの熱を捨てたかで決まります。取り込んだ熱のうち、何%を動力として取り出せたかは次の式で表します。
この式をもとに、効率を高めるにはどうすればよいかを考えていきます。作動流体をm[kg]の理想気体とし、入熱も出熱も体積一定の変化なので、Q1とQ2は次の式で表せます。
定容比熱は、体積一定のときの気体の比熱で、定圧比熱cpとの関係は定圧比熱と定積比熱の違いを参考にしてください。この2式を最初の式に入れると、m と cv が消えて温度だけの式になります。
1→2は断熱変化なので、T2はT1を使って次のように表せ、これは断熱変化の変換公式の一つです。
一方、2→3は等容変化なので、T3は次の式で表せ、こちらは等容変化の変換公式の一つです。
同じように、3→4は断熱変化なので、T4をT3で表します。
これらをすべて代入すると、最終的に次の式になります。
分子と分母の T1(ξ−1) が打ち消し合うので、圧力上昇比ξと吸い込み温度T1は最終式から消えます。燃料を多く燃やしてξが大きくなっても、理論熱効率そのものは変わりません。
熱量を温度に、温度を圧縮比に置き換えていくと、最後に圧縮比と比熱比だけが残ります。
数字を入れると、圧縮比の効き方が分かります。
細かい導出を覚える必要はなく、押さえたいのは、オットーサイクルの理論熱効率は圧縮比と気体の比熱比で決まるという結論です。
κ=1.4のとき。圧縮比を上げるほど効率は上がりますが、伸び方はだんだん小さくなります。
※η=1−(1/ε)0.4 で計算した理論値です。実際のエンジンの熱効率は、損失があるためこれより低くなります。
理論上は、圧縮比も比熱比も高いほど効率がよくなりますが、実機では、圧縮比を上げすぎるとノッキングなどの異常燃焼が起き、ガソリンエンジンの圧縮比には限界があります。
いまはノッキング対策の技術が進み、高圧縮比の量産エンジンも実用化されています。たとえばマツダのSKYACTIV-Gは、日本向けで圧縮比14.0、オクタン価の低い燃料が多い北米向けで13.0です。
マツダは、燃焼を助ける形のピストン(キャビティ付き)や多噴孔のインジェクタなどで、高圧縮比でのノッキングを避けています。ノッキングを抑えて圧縮比を上げるには、一般に次のような工夫をします。
- 燃料のオクタン価を上げる
- 混合気を冷やす
- シリンダの温度を下げる
オクタン価の意味は、オクタン価とセタン価の違いで解説しています。
オットーサイクルの平均有効圧力
レシプロエンジンの能力を表す指標の一つに、平均有効圧力があり、1サイクルの正味の仕事を、ピストンが動く体積(行程体積)で割った値です。1サイクルの間に変わり続けるシリンダー内の圧力を、一定の圧力に置き換えた値ともいえます。
行程体積あたりの仕事なので、排気量の違うエンジンどうしでも比べられます。変化する量を、同じ働きをする一つの代表値に置き換える点は、熱交換器の対数平均温度差(LMTD)と似た考え方です。
この式に、熱効率の計算で出てきた値を入れて変形すると、最終的に次のようになります。
2行目から3行目へは、次の3つの関係を使っています。
この式から、平均有効圧力は吸込圧力P1に比例することが分かり、圧縮比・比熱比・圧力上昇比が大きいほど、仕事も大きくなります。
オットーサイクルの計算問題
実際に数値を当てはめながら、次の問題を解いてみます。
行程体積(排気量)2Lで圧縮比9.0のエンジンを積む自動車が得られる仕事Wと理論熱効率ηを求めよ。
このエンジンの圧縮はじめの圧力は0.1MPa、温度は70℃、最高温度は2000℃で、作動流体は空気とする。ただし、ガス定数を287[J/(kg·K)]、定圧比熱を1.17[kJ/(kg·K)]とする。
まず、仕事Wと理論熱効率を求める式を確認します。
問題文から分かる値を整理します。
これらの値を使って(1)と(2)を解くために、まず、シリンダの体積を求めます。
次は、シリンダ内の空気の質量です。
続いて、比熱比κを求めます。
最後に、各状態の温度を出します。
これらを(1)と(2)に当てはめると、求める答えが出ます。
理論熱効率は約51%で、入熱Q1(約3.17 kJ)のうち、約半分が仕事になる計算です。同じ条件で、前の章の平均有効圧力も求めておきます。行程体積は(3)の Vs=V1−V2=2.0×10−3 m3 です。
吸い込み時の0.1 MPaに対して、1サイクルを平均すると約8倍の圧力でピストンを押している、と読めます。
オットー・ディーゼル・ブレイトンサイクルの違い
エネルギー管理士試験でよく出る3つの熱サイクルを比べると、いずれも圧縮と膨張は断熱変化で、熱を加える・捨てるときの変化の種類が違います。
圧縮と膨張はどれも断熱。違いは、熱を加えるときと捨てるときの条件です。
※いずれも比熱比κも効率に効きます。表は理論サイクルどうしの比較です。
それぞれの導出は、ディーゼルサイクルとブレイトンサイクルの記事で解説しています。
オットーサイクルのよくある質問
オットーサイクルとカルノーサイクルの違いは?
カルノーサイクルは、等温で熱を受け取り、等温で熱を捨てる理論サイクルです。効率は η=1−TL/TH で、同じ温度範囲では最も高い効率になります。
オットーサイクルは、温度を上げながら熱を受け取り、温度を下げながら熱を捨てます。高温で受け取る熱の割合が小さいため、同じ最高・最低温度のカルノーサイクルより効率が低くなります。
計算問題の温度範囲(343 K〜2273 K)なら、カルノーサイクルは 1−343/2273≒85%です。オットーサイクルの51%との差が、熱を受け渡す条件の違いによるものです。
オットーサイクルとアトキンソンサイクルの違いは?
オットーサイクルは、圧縮比と膨張比が同じ(V1/V2=V4/V3)で、アトキンソンサイクルは、膨張比を圧縮比より大きくして熱効率を高めるサイクルです。
膨張を長く取るほど、オットーサイクルでは4→1で捨てていた熱の一部まで仕事に変えられます。量産エンジンでは、吸気バルブを閉じる時期を遅らせて実質の圧縮を短くする方法で実現する例が多くあります。
アトキンソンサイクルは、ハイブリッド車専用のエンジンでよく使われる方式です。トヨタが2014年に発表した1.3Lエンジンは、これを通常のガソリン車向けに応用し、圧縮比13.5で最大熱効率38%です。
実際のガソリンエンジンの熱効率が理論値より低いのはなぜ?
理論サイクルは、実機にはない理想的な仮定を置いているためです。仮定と実機の違いを並べると、損失の出どころが分かります。
- 断熱(熱が逃げない)→ 実機ではシリンダ壁から冷却水へ熱が逃げる(冷却損失)
- 等容で一瞬に燃える → 実機では燃焼に時間がかかり、ピストンが動きながら燃える
- 作動流体は理想気体の空気 → 実機では燃焼ガスで、高温ほど比熱比が小さくなる
- 吸気・排気は等容放熱にまとめる → 実機ではガスを出し入れする仕事(ポンプ損失)や摩擦がある
トヨタの1.3Lエンジンの最大熱効率38%も、圧縮比13.5のオットーサイクルの理論値(κ=1.4で約65%)を大きく下回ります。理論式は「どの方向に改良すれば効率が上がるか」をつかむための道具と考えるとよいでしょう。
まとめ
- オットーサイクルは、ガソリンエンジンの理想的な熱サイクル(定容サイクル)
- 2つの断熱変化と2つの等容変化からできている
- P-v線図・T-s線図で囲まれた面積が、1サイクルの正味の仕事 W=Q1−Q2
- 理論熱効率は η=1−(1/ε)κ−1。圧縮比を上げると理論熱効率が上がる
- 平均有効圧力は吸込圧力に比例する
資格試験では、オットーサイクルはランキンサイクルほど出題されませんが、P-v線図やT-s線図を問う問題はよく出るので、全体をよく理解しておきましょう。試験と仕事の関係は製造業のエネルギー管理士の仕事で紹介しています。熱サイクル全体の位置づけは、熱機関とはで整理しています。
ガソリンエンジンを取り巻く産業の動きは、自動車業界の企業と仕事の流れや、EVシフトで部品メーカーはどう変わるかもあわせてご覧ください。工場で熱を効率よく使う考え方は工場の省エネとエネルギー管理の基本にまとめています。
出典
出典・参考資料(6件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 熱効率の導出:Brigham Young University, Dr. Colton「Otto Cycle Efficiency」(Physics 123)
- 熱効率と平均有効圧力の例題:IIT Bombay(NPTEL)Prof. Bhaskar Roy, Prof. A M Pradeep「Introduction to Propulsion, Lecture 20」
- 定容サイクルと定圧サイクルの比較:伊藤ほか「同一圧縮比の定容/定圧サイクルの理論熱効率に関する考察」東京都立産業技術高等専門学校(2010年3月)
- オットーの4ストローク機関:Technik Museum Speyer「Nicolaus August Otto and the Four-Stroke Engine」
- SKYACTIV-G の圧縮比とノッキング対策:マツダ ニュースリリース(2011年11月16日)、The Auto Channel「Mazda Introduces SKYACTIV Technology」(2011年8月4日、北米13:1・ほかの市場14:1)
- アトキンソンサイクル:トヨタ自動車 ニュースリリース(2014年4月10日)、MONOist「トヨタの新開発アトキンソンサイクルエンジン」(2014年4月11日)
NEWSLETTER
選んだ職種・業種に合わせた記事を、週1回メールで
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
職種・業種を選んで登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›

コメント