食品業界の設備投資(工場や設備にかけるお金)が、2025年度に大きく伸びました。日本政策投資銀行(DBJ)の調査では、大企業の食品業種で前年度比42.7%増と、製造業平均の11.5%増を大きく上回っています。
北海道では乳業大手の大型工場の建設が重なり、静岡や米国でも新工場の稼働が続いています。2026年度の計画も3.5%増で、大きく積み上がった水準をもう一段上積みする見通しです。
この記事では、食品業界の設備投資を公的な調査の数字で確かめたうえで、主要な新工場の中身、各社が工場を建てる理由、現場の仕事への影響、今後の注意点という順で整理します。
この記事の内容は、動画でも解説しています。
食品業界の設備投資はいまどの水準か
大企業の設備投資の動きを業種別に追える代表的な統計が、DBJの「全国設備投資計画調査」です。資本金10億円以上の企業を対象に毎年6月に実施され、2026年度版は2026年8月4日に公表されました。
この調査で食品業種の数字を見ると、2025年度実績は前年度比42.7%増、2026年度計画は3.5%増です。25年度の伸びは、製造業平均の11.5%増を大きく上回りました。
DBJは25年度の増加要因を「海外需要や健康志向に応える能力増強投資、生産効率化に向けたDX投資」と説明しています。
食品は2025年度に大きく伸び、2026年度はその高い水準をほぼ維持する計画です。
※大企業(資本金10億円以上)が対象。出典:日本政策投資銀行「2026年度設備投資計画調査」(2026年8月4日公表)
2026年度の3.5%増だけを見ると、勢いが止まったように感じるかもしれません。しかしDBJの資料では、2019年度を100とした食品の投資水準は25年度が170、26年度計画が176です。
一気に積み上がった水準を、もう一段上積みする計画と読むのが実態に近いでしょう。
DBJ自身も26年度について「大規模投資が一服するものの、能力増強投資が継続し増加」とコメントしています。
大企業の設備投資全体に占める食品の割合も、2024年度の1.0%から2025年度は1.4%へ上がりました。
食品業界全体の売上や出荷額の推移は、食品・医薬・日用品業界の市場規模と動向で詳しく整理しています。
他業種と比べると|2026年度計画の業種別の伸び
2026年度は、製造業全体で13.2%増という二桁の伸びが計画されています。けん引役は、AI・データセンター向けの半導体や電子部品、素材業種の脱炭素対応です。
AI・データセンターや脱炭素に関わる業種が二桁増。食品は小幅な伸びにとどまります。
※大企業の前年度比。主な業種を抜粋。出典:日本政策投資銀行「2026年度設備投資計画調査」
順位だけを見ると食品は下位ですが、前年の伸びまで含めると見え方が変わります。2025年度の伸び率は、主な製造業の中で食品が最も高い水準でした。電気機械が25年度に7.2%減、精密機械が16.9%減だったのとは対照的です。
投資の中身も異なります。電機や非鉄が先端半導体や部材の能力増強に向かうのに対し、食品は次の3つが中心です。
- 海外需要や健康志向の商品に向けた増産
- 老朽工場の建て替え
- 生産効率化のためのDX
景気の波や技術の世代交代に振られにくく、数年がかりの工場建設が続くのが食品の投資の特徴といえます。
中堅・中小を含めた投資意欲|日本公庫の設備投資DI
DBJの調査は大企業が対象です。国産の農林水産物を扱う中堅・中小の食品企業まで含めた動きは、日本政策金融公庫(日本公庫)の「食品産業動向調査」で確認できます。2026年7月調査は全国6,931社を対象に行われ、2,232社が回答しました。
設備投資DI(投資を「増やす」と答えた割合から「減らす」の割合を引いた値)は、2026年の通年見通しで10.3と、前年の10.1からほぼ横ばいでした。食品製造業に限ると11.6で、前年の10.3から上昇しています。
コロナ禍で大きく落ち込んだあと、2023年をピークに2ケタのプラスが続いています。
※各年7月調査の通年見通し。食品製造業・卸売業・小売業・飲食業の回答先全体。2026年の食品製造業のみの値は11.6。出典:日本政策金融公庫「食品産業動向調査(令和8年7月調査)」
注目したいのは、同じ調査で景況DIがマイナスだという点です。食品製造業の景況DIは2026年上半期で▲6.2、下半期の見通しは▲10.2でした。
仕入価格DIも食品製造業で87.2(回答先全体では82.8)と高止まりしており、業況が厳しいなかでも投資を止めていないことが分かります。
では、何に投資しているのでしょうか。食品製造業の投資計画の内容を見ると、答えははっきりしています。
半数近くが「更新」。新規の増産より、既存設備の入れ替えが投資の主役です。
※複数回答、食品製造業の回答1,401社。出典:日本政策金融公庫「食品産業動向調査(令和8年7月調査)」
投資の半数近くは設備の「更新」で、次いで「合理化」です。大手が海外需要を見据えた増産に踏み込む一方で、中堅・中小の多くは老朽設備の入れ替えと効率化で足元を固めている構図が読み取れます。
同じ調査で、食品製造業が今後取り組みたい課題の1位は「価格転嫁」(37.7%)、2位は「人材確保」(35.3%)でした。「省力化・省人化」も25.9%にのぼります。
原材料高を価格に反映しきれず、人も集まりにくい。その状況が、人手に頼らない設備への更新を後押ししています。
価格交渉の進め方は取適法のもとでの価格転嫁の進め方が参考になります。

新工場ラッシュの中身|主要5プロジェクト

統計の数字の裏には、個別の大型プロジェクトがあります。2026年から2028年にかけて稼働する主な新工場・増設を、各社の発表をもとに一覧にしました。
乳業の北海道集約と、加工食品・調味料の能力増強が並行しています。
- 場所
- 北海道中標津町
- 投資額
- 約480億円
- 稼働
- 2027年3月
- 製品
- 脱脂粉乳・バター・クリーム・乳たんぱく質など
- 場所
- 北海道恵庭市
- 投資額
- 約147億円
- 稼働
- 2027年4月予定
- 製品
- 常温保存できるLL牛乳を中心とした牛乳類
- 場所
- 北海道中標津町
- 投資額
- 約460億円
- 稼働
- 2028年度上期から順次
- 製品
- チーズ・粉乳
- 場所
- 静岡県三島市
- 投資額
- 約300億円
- 稼働
- 2026年10月
- 製品
- ハム・ソーセージ・ベーコン(年約2万トン)
- 場所
- 米国ウィスコンシン州
- 投資額
- 10年間で約800億円
- 稼働
- 2026年10月出荷予定
- 製品
- しょうゆ
※各社のニュースリリース・報道(2026年9月時点)をもとに作成。キッコーマンの投資額は約5億6000万ドルの円換算。
明治 北海道根釧工場
明治は北海道中標津町に約480億円を投じ、乳製品の新工場を建設しています。2024年4月に着工し、2027年3月に生産を始める計画です。生産能力は生乳換算で年43万トンで、将来は50万トンへの増強も想定しています。
この工場は単純な増設ではありません。操業から50年以上たった西春別工場と本別工場の生産を、新工場へ引き継ぐ再編です。明治は新工場で、次のような目標を掲げています。
- IoTや自動化設備による省人化
- CO2排出量と地下水の揚水量の既存工場比半減
- 海外輸出を想定したハラル認証の取得
森永乳業 北海道えにわ工場
森永乳業は北海道恵庭市に約147億円で新工場を建設中で、2027年4月の稼働を予定しています。常温で保存できるロングライフ(LL)牛乳を中心に、年約5万キロリットルを生産する計画です。
狙いは、国内最大の生乳産地で原料を安定して確保しながら、EC(ネット通販)や海外輸出といった新しい需要を取り込むことです。
常温で長く保存できる商品は、冷蔵輸送が前提の牛乳より遠くへ運びやすく、産地に近い工場でつくって広域に届ける形と相性が良いといえます。
雪印メグミルク なかしべつ工場
雪印メグミルクは2026年7月、中標津町のなかしべつ工場の増築に約460億円を投じると発表しました。チーズ製造設備、粉乳設備、排水処理設備などを整備し、最大生乳処理能力は年約30万トンとなります。2028年度上期から順次稼働する予定です。
明治の新工場と同じ町で投資が重なったことで、道東(北海道東部)が乳業の一大生産拠点になりつつあります。日本経済新聞は2026年8月、乳業大手の工場増設・集約で道東が国内生産の6割を占める拠点になると報じています。
伊藤ハム米久HD 三島工場
伊藤ハム米久ホールディングスは2026年9月、静岡県三島市で約300億円を投じた三島工場を竣工しました。延床面積は約1万9,700平方メートル、年間約2万トンのハム・ソーセージ類を生産し、10月から稼働します。
同社はこの工場を加工食品事業の次世代モデル工場と位置づけています。段ボールの自動開梱機や自動ラック倉庫を入れ、原料の搬送から包装、物流まで幅広い工程を自動化しました。AIやデータを使った生産管理・設備管理の高度化も打ち出しています。
キッコーマン 米国第3工場
キッコーマンは米国ウィスコンシン州ジェファーソンに、しょうゆの第3工場を開設しました。2026年5月に仕込みを始め、10月に出荷を始める予定です。投資額は10年間で約5億6000万ドル(約800億円)を見込んでいます。
北米のしょうゆ事業は成長が続いており、同社はウィスコンシン州ウォルワースの本社工場で出荷量を伸ばしてきました。
新工場は、拡大する需要に対応し、顧客のニーズに合わせた多品種の商品を生産する拠点と位置づけられています。
DBJが25年度の増加要因に挙げた「海外需要」は、こうした海外の現地で需要に合わせてつくる投資も含めた動きです。
各社が新工場を建てる4つの理由
5つのプロジェクトを並べると、共通する理由が見えてきます。1社が複数の理由を同時に抱えているのが、今回の投資の特徴です。
「古くなった」「足りない」「人がいない」「環境に配慮したい」が重なっています。
※明治・森永乳業・雪印メグミルク・伊藤ハム米久HD・キッコーマンの発表内容から整理。
老朽化と拠点の集約
明治の新工場が引き継ぐ西春別工場は1968年、本別工場は1972年の操業開始です。両工場とも操業から50年以上がたち、明治は建屋と生産設備の老朽化への対応を新工場建設の目的に挙げています。
日本公庫の調査で投資内容の1位が「更新」だったことも、この流れと重なります。
海外需要と新しい商品
キッコーマンの米国工場や、明治のハラル認証の取得計画は、海外市場を前提にした投資です。国内は人口減少で量の拡大が見込みにくい一方、海外では日本の食品への需要が伸びています。
常温保存の牛乳や高付加価値のチーズなど、商品の中身を変えるための設備も新工場に組み込まれています。
人手不足と省人化
食品工場は、原料の受け入れや箱詰め、ピッキングなど人手に頼る工程が多い業種です。新工場では最初から自動化を前提にレイアウトを組むため、既存工場を改修するより省人化の効果を出しやすくなります。
仕組みの基本は省人化の仕組みと基本原理で解説しています。
環境負荷と資源
食品工場は、殺菌や洗浄で大量の蒸気や水を使い、排水や食品残渣も出ます。
新工場では、明治のCO2と地下水の半減目標、伊藤ハム米久の水使用量の削減や残渣・汚泥の有効活用のように、環境対策が設計の段階から盛り込まれています。
蒸気やコンプレッサーの省エネの考え方は工場の省エネとエネルギー管理の基本が参考になります。
設備投資の中身と現場への影響

新工場の建設は、建物を建てて機械を並べれば終わりではありません。工場の中で働く人の役割も、設備の入れ替えとともに変わっていきます。
たとえば伊藤ハム米久の三島工場のように自動倉庫や自動搬送を入れると、箱を運ぶ作業は減る一方、設備が止まらないように保全する仕事や、データを見て生産条件を調整する仕事が増えます。
人の仕事が「作業」から「設備を動かし続けること」へ移っていくのが、今回の投資で起きている変化です。
自動化・衛生・環境の設備が増えるほど、それを立ち上げて守る技術者の役割が大きくなります。
※工場の規模や組織によって、役割の分担は異なります。
衛生面では、新工場ほど原料・加工・包装のエリアを明確に分け、人と物の動線が交わらないよう設計されます。
日本公庫の調査で「衛生管理」を投資の主な内容に挙げた食品製造業は2.1%と少数ですが、新設や更新の中に衛生の設計が組み込まれているためと考えられます。
衛生管理の運用面は食品工場のHACCP運用の進め方で詳しく扱っています。
中堅・中小の食品メーカーにとっては、国の補助金も設備更新の選択肢になります。包装機や搬送装置など、カタログから選ぶ形の省力化設備を対象にした制度もあります。対象設備と申請の流れは省力化投資補助金を製造業で使う手順にまとめています。

今後の見通しと注意点

大手の工場建設は2027〜2028年にかけて稼働の山を迎えます。ただし、投資を後押しする材料と、ブレーキになり得る材料の両方がそろっている点には注意が必要です。
需要と人手不足は投資を促し、コストと業況は投資を慎重にさせます。
※販売数量DI・景況DIは日本政策金融公庫「食品産業動向調査(令和8年7月調査)」の値。
建設費と工期の上昇
日本食糧新聞は2026年の新春特集で、工場建設のコスト増と納期の遅れが2025年に深刻になったと指摘しています。
資材費や人件費の上昇で、計画時の予算で工場が建たない、稼働が後ろにずれるといったリスクは今後も残ります。設備や建設を売る側から見ると、商談から納入までの期間が長くなる点も押さえておきたいところです。
業況の悪化と投資のメリハリ
日本公庫の調査では、2026年下半期の食品産業の景況DIは▲11.0と、マイナス幅が広がる見通しです。大手が計画どおりに大型投資を進める一方で、中堅・中小は更新や合理化に絞るなど、企業規模による投資の二極化が進む可能性があります。
数字を追うときに見る統計
食品業界の設備投資の動きは、大企業ならDBJの設備投資計画調査(毎年8月ごろ公表)、中堅・中小を含む全体なら日本公庫の食品産業動向調査(年2回)で追えます。
四半期ごとの変化は日銀短観の設備投資計画が早く、業種別の見方は9月日銀短観の製造業DIの読み方で整理しています。
まとめ
- DBJの調査で、大企業の食品業種の設備投資は2025年度に42.7%増、2026年度計画は3.5%増
- 26年度の伸びは小さいが、2019年度比で1.7倍前後の高い水準をさらに上積みする計画
- 中堅・中小を含む食品製造業の設備投資DIは11.6。投資の中身は「更新」が半数近くを占める
- 明治・雪印メグミルクの中標津、森永乳業の恵庭など、乳業の北海道集約が大型投資の中心
- 理由は老朽化と集約、海外需要、省人化、環境対応。建設費の上昇と業況の悪化には注意が必要
食品業界の設備投資は、工場を建てる大手と、更新で足元を固める中堅・中小で中身が分かれつつあります。新工場の立ち上げで役割が大きくなる職種は生産技術や設備保全、技術テーマとしては省人化がこの動きと深く関わります。
食品業界の構造や主要企業については、食品・医薬・日用品の業種ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(9件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 大企業の設備投資計画:日本政策投資銀行「全国設備投資計画調査(2026年6月)」(2026年8月4日公表、調査結果PDF)
- 設備投資DI・景況DI・投資内容:日本政策金融公庫「食品産業動向調査(令和8年7月調査)」(2026年9月24日)
- 明治の新工場:明治ホールディングス「北海道根釧地区新工場建設並びに生産体制再編に関するお知らせ」(2023年12月6日)、工場名称:北海道新聞「明治の中標津新工場は『北海道根釧工場』」
- 森永乳業の新工場:森永乳業「北海道における新工場の建設に関するお知らせ」(2025年5月13日)
- 雪印メグミルクの増築:雪印メグミルク「なかしべつ工場増築工事」ニュースリリース(2026年7月6日)
- 伊藤ハム米久HDの三島工場:伊藤ハム米久ホールディングス「三島工場 竣工のお知らせ」(2026年9月10日)
- キッコーマンの米国第3工場:キッコーマン「米国第3工場グランドオープニングセレモニーを実施」(2026年9月18日)
- 道東の乳業拠点:日本経済新聞「乳業大手、北海道東部で工場増設・集約 国内生産6割占める拠点に」(2026年8月25日)
- 工場建設のコストと納期:日本食糧新聞「新春特集第1部:重大トレンド解説2026=工場・設備投資 高水準も先行き不透明」
NEWSLETTER
選んだ職種・業種に合わせた記事を、週1回メールで
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
職種・業種を選んで登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›

コメント