蒸気を減圧すると乾き度が上がる?等エンタルピーの絞りと過熱蒸気を計算で解説

工場配管の蒸気減圧弁と前後の圧力計を描いたイメージ

蒸気を減圧弁で絞ると、条件によって湿り蒸気の乾き度が上がったり、乾き飽和蒸気が過熱蒸気になったりします。断熱で外部へ仕事をしない絞りを考えると、入口と出口の比エンタルピーがほぼ等しくなるためです。

ただし、減圧すれば必ず完全に乾くわけではなく、過熱蒸気になっても入口より温度が高くなるとは限りません。出口圧力の飽和温度と、入口から持ち込まれる比エンタルピーを比べて、減圧後の状態を判定します。

この記事では絶対圧力0.6MPaから0.2MPaへの減圧を例に、乾き度と過熱度を計算します。圧力の基準、蒸気表の読み方、温度測定だけでは湿り蒸気の乾き度を決められない理由も確認します。

目次

蒸気を減圧するとどうなる?

減圧弁は、狭い流路を通すことで圧力を下げ、用途に必要な二次側圧力を保つ機器です。蒸気が流れる系の入口・出口を考えるため、閉じた容器の気体がピストンを押す膨張とは、エネルギー収支の立て方が異なります。

定常流で、周囲への熱移動と外部への軸仕事がなく、入口と出口の流速・高さの差を無視できるなら、比エンタルピーは等しくなります。この条件での絞りを等エンタルピー変化といい、温度一定やエントロピー一定を意味しません。

断熱・軸仕事なし、運動/位置エネルギー差を無視した絞り
h1 ≒ h2
h1:入口の比エンタルピー[kJ/kg] h2:出口の比エンタルピー[kJ/kg]。実機で放熱や流速差が大きい場合は、その影響をエネルギー収支へ加えます。

図1:絞りは圧力を下げるが、外部へ軸仕事を取り出さない

配管の十分落ち着いた入口・出口状態を比べる概念図。弁内の局所流速とは区別します。

入口P₁=0.6MPa abs出口P₂=0.2MPa abs断熱・軸仕事なし比エンタルピーh₁比エンタルピーh₂h₁ ≒ h₂(仮定のもとで)

比エンタルピーは、物質1kgあたりの状態量であり、単位はkJ/kgです。「通過する熱量が一定」とだけ覚えると、蒸気流量が変わっても熱の供給能力が同じだと誤解しやすいため、質量あたりの量として扱います。

蒸気表を読む際は、絶対圧力とゲージ圧力を先に区別します。この記事の0.6MPa、0.2MPaは両方とも絶対圧力であり、現場の圧力計で0.6MPaG、0.2MPaGを示す条件とは、飽和温度も物性値も異なります。

絶対圧力はゲージ圧力にその場所の大気圧を加えて求めます。大気圧を約0.1013MPaとする場合、0.2MPaGは約0.3013MPa absなので、0.2MPa absの行を選んではいけません。

図2:計算に使う飽和水・飽和蒸気の物性値

IAPWS-IF97に基づく計算値を表示用に丸めています。計算自体は丸め前の値で行います。

絶対圧力飽和温度飽和水hf乾き飽和蒸気hg蒸発潜熱hfg
0.6MPa abs158.83℃670.50kJ/kg2,756.14kJ/kg2,085.64kJ/kg
0.2MPa abs120.21℃504.68kJ/kg2,706.24kJ/kg2,201.56kJ/kg

hfg=hg−hf。異なる圧力の値を同じ式の入口物性として混ぜないようにします。

減圧する蒸気が湿り蒸気の場合

湿り蒸気は、水蒸気と液体の水が共存する状態です。乾き度xは混合物全体の質量に占める水蒸気の質量割合であり、体積割合や、温度が飽和温度にどれだけ近いかを表す指標ではありません。

乾き度80%とは、混合物1kgのうち水蒸気が0.8kg、液体の水が0.2kgである状態を指します。両者が同じ圧力で平衡にあるとき、混合物の比エンタルピーは、それぞれの質量割合で加重平均して求められます。

入口の湿り蒸気の比エンタルピー
h1 = x1hg1 + (1−x1)hf1
= hf1 + x1hfg1
x1:入口乾き度[0〜1] hf1、hg1:入口圧力の飽和水・乾き飽和蒸気の比エンタルピー[kJ/kg] hfg1=hg1−hf1[kJ/kg]。

入口を0.6MPa abs、乾き度0.80として、図2の入口側物性を使います。湿り蒸気の質量には液体分も含め、蒸気分のエンタルピーだけを0.8倍して終えないことが、計算上の要点です。

入口:x1=0.80の計算例
h1 ≒ 670.50 + 0.80 × 2,085.64
h1 ≒ 2,339.01kJ/kg
図の丸め値による表示。以下では丸め前の物性値を用い、等エンタルピーの仮定からh2=h1とします。

次に、出口0.2MPa absの飽和水と飽和蒸気の値へ切り替えます。出口の比エンタルピー2,339.01kJ/kgは504.68と2,706.24kJ/kgの間にあるため、出口も湿り蒸気として乾き度を計算できます。

出口の混合式を乾き度について解く
h2 = x2hg2 + (1−x2)hf2
x2 = h2−hf2hg2−hf2
x2 ≒ 2,339.01−504.682,706.24−504.68 ≒ 0.8332(約83.3%)
添字2は出口圧力の物性値。乾き度の上昇は約3.3パーセントポイントであり、液体水分がなくなったという意味ではありません。

図3:液滴の一部が蒸発しても、出口には水分が残る

混合物1kgあたりの質量収支。粒の個数や面積は実際の体積比を表しません。

入口x₁=80.0%出口x₂≒83.3%水蒸気0.8000kg液体水0.2000kg水蒸気0.8332kg液体水0.1668kg絞り

この例では、混合物1kgあたり約0.0332kgの液体が追加で蒸発します。蒸発に必要なエネルギーは外から加えた熱ではなく、圧力低下に伴う液体側の状態変化を含む、混合物のエネルギー収支の中で賄われます。

一方、温度は入口の飽和温度158.83℃から、出口の飽和温度120.21℃へ下がります。乾き度が上がることと温度が上がることは別であり、「乾いたので高温になった」と説明すると、状態変化を取り違えてしまいます。

減圧する蒸気が乾き蒸気の場合

次は入口が同じ0.6MPa absで、乾き度1の乾き飽和蒸気だった場合です。入口比エンタルピーは2,756.14kJ/kgで、等エンタルピーなら出口でもこの値を保ちますが、出口圧力の飽和蒸気値は2,706.24kJ/kgです。

出口では乾き飽和蒸気より約49.90kJ/kg高い状態になるため、過熱蒸気として温度を求めます。乾き度の式へ代入して1より大きい値が出たとき、それを「乾き度102%」などと呼ばず、二相域の式の適用外と判断してください。

出口の過熱部分に相当するエンタルピー差
Δhsh = h1−hg2
≒ 2,756.14−2,706.24 = 49.90kJ/kg
Δhshは出口圧力の乾き飽和蒸気との差。弁が新たに49.90kJ/kgの熱を供給したわけではありません。

出口温度は、過熱蒸気表で圧力0.2MPa abs、比エンタルピー2,756.14kJ/kgに対応する状態を探します。IAPWS-IF97による計算では約143.75℃であり、出口圧力の飽和温度との差は約23.54℃です。

過熱度は「同じ圧力の飽和温度」との差
ΔTsh = T2−Tsat(P2)
≒ 143.75−120.21 = 23.54℃
T2:出口温度[℃] Tsat(P2):出口圧力での飽和温度[℃]。温度差はKで表しても数値は同じです。

旧記事のようにエンタルピー差を49kJ/kg、平均比熱を2.1kJ/(kg・K)と仮定すると、過熱度は約23.3Kです。旧記事の出口飽和温度120.2℃を足せば、出口温度は約143.5℃と概算できます。

旧記事の一定比熱による概算(上の精密計算とは別)
ΔTsh ≒ Δhshcp ≒ 492.1 ≒ 23.3K
T2 ≒ 120.2+23.3 = 143.5℃
cp:仮定した平均定圧比熱[kJ/(kg・K)]。旧物性による概算値を使った比較であり、図2のIF97物性とは混用しません。

旧記事が挙げた0.2MPa abs・200℃の比エンタルピーは、IF97では約2,870.78kJ/kgです。ただし一つの温度の値だけでは平均比熱は決まらず、比熱は温度・圧力で変わるため、設計値は過熱蒸気表で確認します。

出口は過熱蒸気になっても、温度143.75℃は入口158.83℃より低くなっています。「過熱」はその圧力における飽和温度を超えるという意味であり、減圧弁の前後で蒸気が加熱されたという意味ではありません。

旧記事で紹介していたシャープ公式の過熱水蒸気の動画も、用語を知る補助として掲載します。調理機器の紹介であり、工場の減圧弁の性能や、この記事の圧力条件・出口温度を示す資料としては扱いません。

出口の状態を先に判定してから式を選ぶ

出口圧力が分かったら、その圧力の飽和水・乾き飽和蒸気の比エンタルピーと、入口から受け継ぐ比エンタルピーを比較します。二相域にあれば乾き度を求め、乾き飽和蒸気の値を超えれば過熱蒸気表を使う、という順番です。

図4:同じ出口圧力でも、入口のエンタルピーで状態が変わる

出口圧力は0.2MPa abs。横軸は比エンタルピーで、距離は数値に比例しない模式図です。

湿り例:2,339.01乾き飽和入口例:2,756.14湿り蒸気域過熱域h f=504.68h g=2,706.24出口比エンタルピー[kJ/kg]

本例の圧力条件では、入口乾き度がおよそ97.6%を超えると、絞り後は過熱域へ入る計算になります。したがって入口が湿り蒸気でも、減圧後が必ず湿り蒸気とは限らず、入口の水分量まで指定します。

高い圧力域を含む別条件へ、この例の結果をそのまま広げてはいけません。乾き飽和蒸気の比エンタルピーは圧力に対して単純に増減する値ではないため、乾き飽和蒸気を絞る場合も、出口圧力の物性との比較で判定します。

現場での計測と減圧設備の注意点

圧力と温度が分かればすべての蒸気状態が一意に決まる、というわけではありません。純水の湿り蒸気が平衡にあるときは、その圧力の飽和温度になり、乾き度80%でも95%でも温度だけでは違いを区別できません。

一方、測定圧力に対して温度が飽和温度を明確に上回るなら、過熱状態を判断する手掛かりになります。ただし配管外面の温度、放熱の影響を受けた箇所、応答が遅いセンサーの値を、そのまま蒸気本体の温度として使わないでください。

乾き度は適切な専用計測や熱収支から評価します。絞り熱量計では試料を減圧して過熱域にし、定常・断熱・軸仕事なし・速度と高さの影響が無視できる条件で、出口圧力・温度から得た比エンタルピーを入口へ戻します。

出口が湿り域のままなら、この方法だけでは乾き度を決められません。放熱や計測誤差が無視できない場合は、補正や測定方法の見直しも必要です。

図5:温度で乾き度を逆算するには、試料出口が過熱域であることが必要

絞り熱量計の原理図。試料が本流の水分割合を代表する採取が必要です。採取・隔離・排出設備の施工図ではありません。

主配管:入口P₁、未知の乾き度試料採取断熱絞り出口P₂出口T₂過熱状態を確認

実際の蒸気配管では、液滴が配管底部へ偏るため、採取した試料が本流の水分割合を代表しない問題もあります。専用流量計にも適用範囲と設置条件があるため、温度センサーを追加するだけで乾き度測定が完成するとは考えないことが必要です。

減圧弁の前後にセパレーターやトラップがある場合は、液体が系外へ排出されます。排出のない単純な絞りと、液体を分離する設備全体とでは質量収支が異なるため、入口と出口の蒸気だけを同じ流量として計算しないでください。

高温ドレンを減圧して蒸気を回収する設備は、フラッシュタンクの考え方にもつながります。蒸気・凝縮水の両出口があるときは、それぞれの質量と比エンタルピーを用いて収支を取ります。

加熱用途では、過熱度が大きい蒸気が常に有利とは限らず、必要に応じて蒸気の減温を検討します。注水式の減温では水の蒸発時間や混合、低負荷時の水滴残留にも配慮が必要です。

減圧による省エネ効果は蒸気の状態変化だけでは決められません。蒸気圧力を下げる効果と注意点を確認し、加熱能力、配管の流速、圧力損失、ドレン排出能力を併せて評価します。

系統内で求められる役割は主蒸気とプロセス蒸気で異なり、蒸気を製品へ直接入れる場合は直接加熱の質量・熱収支も必要です。絞りのエンタルピー保存だけで設備全体の性能を決めないようにします。

設定圧力の変更は、弁の使用範囲や下流設備の設計圧力・温度、過圧保護を確認して計画します。蒸気や凝縮水へ触れて乾き具合を確かめたり、運転中に接続部を緩めたりせず、点検は隔離・減圧・冷却の手順に従ってください。

よくある質問

減圧すれば湿り蒸気は必ず乾き蒸気になりますか?

なりません。本例の乾き度80%では出口も約83.3%の湿り蒸気です。入口比エンタルピーと出口圧力の飽和物性を比べ、液体がどれだけ残るかを計算します。

過熱蒸気になったのに、温度が下がるのはなぜですか?

過熱とは、出口圧力での飽和温度を超えている状態を指すためです。本例では入口158.83℃から出口143.75℃へ下がりますが、出口の飽和温度120.21℃より高いので過熱蒸気に分類されます。

圧力と温度だけで湿り蒸気の乾き度を求められますか?

平衡状態の湿り蒸気では求められません。同じ圧力なら異なる乾き度でも飽和温度になるため、適用条件を満たす専用計測、代表性のある試料採取や熱収支による別の情報が必要です。

絞りは断熱膨張だからエントロピーも一定ですか?

一定とは限りません。断熱であることと可逆であることは異なり、絞りは不可逆な圧力損失を伴います。軸仕事を取り出すタービンの理想的な等エントロピー膨張と、絞りの等エンタルピー変化を区別します。

古い蒸気表と計算結果が少し違う場合はどうしますか?

圧力基準、物性の定式化、表示の丸めと単位をそろえて再計算します。旧記事の概算値を精密値と混ぜず、一つの物性体系で入口から出口まで計算し、概算と設計用の値を区別してください。

出典・参考資料

まとめ

この記事のポイント
  • 断熱・軸仕事なし等の仮定では、絞り前後の比エンタルピーがほぼ等しい
  • 0.6→0.2MPa abs、乾き度80%の例では出口乾き度が約83.3%になる
  • 同じ圧力条件の乾き飽和蒸気は、出口で約143.75℃の過熱蒸気になる
  • 過熱は出口飽和温度との比較であり、入口より高温という意味ではない
  • 湿り蒸気の乾き度は温度だけで決めず、測定条件と熱収支を確認する

減圧後の状態は、圧力だけでなく入口の比エンタルピーによって決まります。物性表の圧力基準をそろえ、まず湿り域か過熱域かを判定してから、乾き度または出口温度を求めてください。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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