「航空宇宙・造船業界の市場はどのくらいの大きさなのか」と聞かれて、すぐに数字が浮かぶ方は多くないのではないでしょうか。
実際には、航空機・宇宙・造船はそれぞれ別の統計で数えられており、金額の単位や集計の範囲も異なります。そのため、数字を並べるときには「何を数えた数字か」を押さえておくことが大切です。
この記事では、航空宇宙・造船業界の市場規模を、最新の数字、過去の推移、需要先の内訳、海外市場と輸出、市場を動かすトレンド、今後の見通しとキャリアへの影響という順で整理します。
航空宇宙・造船業界の市場規模

日本航空宇宙工業会のデータ集によると、2025年度の国内の航空機生産額は約2兆4,715億円(速報値)でした。機体・エンジン・機器の製造と修理を合わせた金額で、統計のある年度の中で最も大きな水準です。
宇宙分野では、同会の宇宙機器産業実態調査で、2022年度の宇宙機器産業の売上高が3,980億円とされています。造船分野は、国土交通省の資料で造船業の産業規模が約3.0兆円(2023年度)、舶用工業が約0.9兆円(2021年)と示されています。
ただし、これらは数え方が異なります。航空機は「生産額」、宇宙は企業の「売上高」、造船は「産業規模」として集計されており、造船では金額ではなく建造量(総トン)で比べることも多い点に注意が必要です。単純に足し合わせて業界全体の規模とするのではなく、分野ごとに見るのが基本です。
また、航空機生産額には新しくつくった分だけでなく、修理の金額も含まれる点が特徴です。長く使われる製品のため、整備や修理も業界の売上を支える柱になっています。
2024年度の確定値では、生産額2兆786億円のうち修理が3,246億円で、全体の約16%を占めました(同会「令和6年度 航空機生産実績」から算出)。
分野ごとに、数えているものと単位が異なります。
※出典:日本航空宇宙工業会「日本の航空機工業データ集」(2026年8月版)、同「宇宙機器産業実態調査報告書」概要、国土交通省海事局の資料。
転職や就職で業界の大きさを比べるときは、どの統計の数字なのか、年と年度のどちらで集計しているのかを確かめると、誤解を防ぎやすくなります。
市場規模の推移

航空機生産額の推移を見ると、この10年ほどで大きな落ち込みと回復を経験しています。新型コロナウイルスの流行前は1兆8,000億円台で推移していましたが、2020年度から大きく減少しました。
2021年度を底に回復し、2024年度に初めて2兆円を超えました。
※出典:日本航空宇宙工業会「日本の航空機工業データ集」(2026年8月版)。百万円単位の値を億円に換算(億円未満切り捨て)。
2024年度には2兆786億円と初めて2兆円を超え、2025年度も前年度から約19%増えました(データ集の数値から算出)。コロナ前の水準を大きく上回るところまで回復しています。
コロナ禍で民間向けが大きく落ち込んだ
2019年度の1兆8,689億円から2021年度の1兆1,554億円まで、生産額は約38%減りました(データ集の数値から算出)。旅客需要が急減し、航空会社が新しい機体の受け取りを控えたためです。
減ったのは主に民間向けで、2019年度の1兆3,597億円が2021年度には6,579億円と半分以下になりました。一方で防衛向けは5,000億円前後で推移しており、防衛向けが落ち込みを下支えした形です。
旅客需要の回復と防衛向けの増加
2022年度以降は旅客需要の回復とともに民間向けが持ち直し、2025年度には1兆7,257億円まで増えました。エンジン部品などの生産が伸びています。
防衛向けも、2023年度の4,793億円から2025年度には7,458億円に増えました。民間と防衛の両方が伸びていることが、足元の生産額を押し上げている理由です。
造船は建造量が減少傾向
造船は航空機とは逆の動きです。国土交通省によると、日本の建造量は2019年の1,600万総トンから2024年には900万総トンまで減少しました。
世界的な建造需要が伸び悩んだ時期に、中国が建造量を維持してシェアを広げたことが背景にあります。国内の造船所は、人手不足もあって建造能力そのものが縮小していることが課題とされています。
建造量は金額ではなく船の大きさで数えるため、船価の上昇や為替の動きは反映されません。金額ベースの統計とトン数ベースの統計で、見え方が異なる点も押さえておきたいところです。
需要先・製品別の内訳

航空機生産額を製品別に見ると、2025年度はエンジンが最も大きな割合を占めています。日本企業が海外のエンジン開発に参加し、部品やモジュールを継続的に生産していることが反映されています。
エンジンが全体の5割強、機体が4割強を占めます。
※出典:日本航空宇宙工業会「日本の航空機工業データ集」(2026年8月版)。製造と修理を含む。億円未満切り捨て。
需要先で見ると、2025年度は民間向けが1兆7,257億円で約7割、防衛向けが7,458億円で約3割でした。エンジンはその52%ほど、機体は41%ほどを占めます(いずれもデータ集の数値から算出)。
宇宙分野では、2022年度の売上高3,980億円のうち、人工衛星が1,706億円、ロケットが1,117億円、ソフトウェアが549億円、地上施設が381億円でした。人工衛星が最大の分野で、売上の4割強を占めます。
航空機の機器(装備品)は1,694億円と全体の1割未満です。降着装置や内装品など、日本企業が得意とする分野はありますが、市場の中心はエンジンと機体の分担生産だと言えます。
造船では、国土交通省が示す2035年の建造目標が「日本船主の建造需要」を基準にしているように、国内の船主が重要な需要先です。貨物船の種類や燃料規制への対応によって、どの船種が伸びるかが変わります。
造船業と舶用工業を比べると、国土交通省の資料では造船業が約900事業者・約7.0万人、舶用工業が約1,000事業者・約4.6万人とされています。船の需要は、造船所だけでなくエンジンや機器をつくる舶用メーカーの仕事量にも直結します。
海外市場と輸出

航空宇宙・造船業界は、国内だけで完結する業界ではありません。部品の輸出先も、競争相手も、海外にあるのが一般的です。
航空機関連の輸出は、2025年に9,182億円で前年から13.6%増えました(日本航空宇宙工業会がまとめた財務省貿易統計)。このうち、タービンエンジンの部品が5,432億円と最も大きな品目です。
一方、輸入は2兆4,777億円と輸出を大きく上回ります。完成機は海外から買い、部品を海外に供給するのが、日本の航空機産業の基本的な構図です。
輸出の中心は、海外のエンジンメーカーや完成機メーカーに納める部品です。そのため、日本企業の売上は海外メーカーの生産計画と為替に左右されやすいという特徴があります。
宇宙分野は国内向けが中心で、2022年度の輸出は122億円と売上の3.1%にとどまります。造船は国際的な競争が激しく、2024年には中国が世界の受注の7割超を占め、日本のシェアは8%まで下がりました。
造船では、中国が2024年の世界の建造量の約50%を担っています。日本の造船所は、価格の面で中国との差が課題とされ、設計の共通化や設備の更新で競争力を高めようとしています。
同じ業界でも、海外市場との関わり方は分野によって異なります。
※出典:日本航空宇宙工業会の貿易統計・宇宙機器産業実態調査、国土交通省海事局の資料。
市場を動かす主なトレンド

航空宇宙・造船の市場は、景気だけでなく政策や規制の影響を強く受けます。ここでは、今後の需要を左右する4つの動きを取り上げます。
分野をまたいで、需要と働き方の両方に影響する動きです。
旅客需要の回復と増産
航空機の民間向け生産は、旅客需要の回復を受けて2021年度から4年で2.6倍に増えました(データ集の数値から算出)。完成機メーカーの増産計画に合わせて、部品の供給量を増やすことが求められています。部品を供給する中小企業にも、生産量の拡大と品質の維持を両立することが求められます。
エンジンは販売後の交換部品や整備の需要も続くため、運航する機体が増えるほど息の長い需要につながります。
防衛・宇宙の拡大
防衛向けの航空機生産は、2023年度から2025年度にかけて約1.6倍に増えました(データ集の数値から算出)。艦艇を含め、防衛関連の仕事量が増えている企業が目立ちます。
防衛向けは国の予算に沿って発注されるため、景気の影響を受けにくいのが特徴です。一方で、仕様や品質の要求が厳しく、長い開発期間を前提にした体制が必要になります。
宇宙分野では、小型衛星や衛星データの活用など民間の事業が広がりつつあります。官需が中心だった市場に新しい顧客が加わる段階と言え、ベンチャー企業の採用も増えています。
脱炭素と新燃料船
海運では温室効果ガスの排出規制が強まっており、LNGやアンモニア、水素などを燃料とする船の開発が進んでいます。環境対応が船の買い替え需要を生む面もあります。
航空機でも燃費のよい新型エンジンへの置き換えが進んでいます。脱炭素の考え方は脱炭素・カーボンニュートラルの記事でも整理しています。
新しい燃料に対応するには、エンジンや燃料タンク、配管の設計を見直す必要があります。造船所と舶用機器メーカーが共同で開発を進める場面が増えています。
人手不足と建造能力
国土交通省は、日本人の就労者数が中期的に減少傾向にあることを課題に挙げています。受注があっても、つくる人と設備が足りなければ建造量は増やせません。
そのため、溶接や組立の自動化、設計のデジタル化による省人化が投資の中心テーマになっています。詳しくは人手不足・省人化の記事もご覧ください。



今後の見通しとキャリアへの影響

造船について、国土交通省は2035年に日本船主の建造需要にあたる1,800万総トンを国内で建造することを目標に掲げ、官民で1兆円規模の投資を目指すロードマップを示しています。2024年の約900万総トンから、建造能力をおよそ2倍にする計画です。
航空機は2025年度に過去最高の生産額となり、民間・防衛ともに伸びが続いています。航空・造船ともに「需要はあるが、つくる力が足りない」状態に近づいており、人材と設備への投資が続くと見られます。
一方で、航空機は完成機メーカーの生産トラブルや需要の変化、造船は海運市況や為替の影響を受けます。長期的には成長が見込まれても、年ごとの波はあると考えておくのが現実的です。
どちらも「つくる力」をどう増やすかが共通の課題です。
※出典:日本航空宇宙工業会「日本の航空機工業データ集」、国土交通省海事局「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」。
どちらの分野でも、需要の拡大に対して生産体制の強化が追いついていない点が共通しています。働く人にとっては、経験を積める機会が増えている時期とも言えます。
伸びる職種
増産と建造能力の回復に向けて、生産技術や製造・オペレーションの人材が特に求められています。工程の自動化や設備の立ち上げを担える人は、どの分野でも重宝されます。
新燃料船や防衛・宇宙の開発では、機械設計や電気・電子設計の需要も高まっています。部品の調達先を広げる購買・調達の役割も、増産期には重要になります。
求められるスキル
品質と認証が厳しい業界のため、図面や規格を正確に読み解き、記録を残しながら進める力は変わらず重視されます。そのうえで、CAD・CAEやデータを使って工程を改善できる力の価値が高まっています。
海外メーカーや海外船主との仕事が多いため、英語の資料を読み、やり取りできる力も強みになります。自動車などの量産業界で培った生産管理や品質改善の経験も、増産を進める企業では評価されやすいと言えます。
まとめ
- 航空機生産額は2025年度に約2兆4,715億円(速報)と過去最高の水準
- コロナ禍で民間向けが半減したが、2022年度以降は民間・防衛ともに回復・増加
- 生産額の5割強はエンジンで、輸出の最大品目もエンジン部品
- 造船は建造量が2019年の1,600万総トンから2024年に900万総トンへ減少
- 国は2035年に1,800万総トンの建造を目標とし、人材と設備への投資が続く見通し
業界の基本的な仕組みは航空宇宙・造船業界とは、企業の階層や商流は航空宇宙・造船業界の構造、主要企業の顔ぶれは航空宇宙・造船業界の主要企業と勢力図で解説しています。
関連する記事は、航空宇宙・造船の業種ページからあわせてご覧ください。
出典
- 航空機生産額の推移・内訳:一般社団法人日本航空宇宙工業会「日本の航空機工業データ集」(2026年8月版)
- 修理の金額(2024年度):一般社団法人日本航空宇宙工業会「令和6年度 航空機生産実績」
- 航空機関連の輸出入:一般社団法人日本航空宇宙工業会「航空機関連 貿易統計(2025年1月〜12月)」
- 宇宙機器産業の売上高:一般社団法人日本航空宇宙工業会「令和5年度 宇宙機器産業実態調査報告書」概要
- 造船の建造量・受注シェア・ロードマップ:国土交通省 海事局「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」(2026年1月)
- 造船業・舶用工業の産業規模:国土交通省「船舶産業を取り巻く現状」

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