「航空宇宙・造船業界の大手」と聞くと、多くの方は三菱重工業や川崎重工業、IHIといった重工メーカーを思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、重工メーカーの中で航空宇宙が占める比重は会社ごとに異なり、造船では非上場の今治造船が国内最大手です。売上高の数字だけを並べても、業界の勢力図は正しく読み取れません。
この記事では、航空宇宙・造船業界の主要企業を、売上高ランキング、分野別の主要企業、各社の特徴と強み、海外企業との比較、再編・M&Aの動き、企業を見るときのポイントという順で整理します。
航空宇宙・造船業界の売上高ランキング

航空宇宙・造船を手がける主な企業について、2026年3月期の売上高を比べると次のようになります。重工メーカーは他の事業も持つため、航空宇宙のセグメント売上で比較しています。
重工メーカーはセグメント売上、造船会社は会社全体の売上高です。
※出典:各社の決算短信・決算資料。今治造船とJMUは海事プレスの報道(今治造船は単体の売上高)。億円未満切り捨て。
首位の三菱重工業の航空・防衛・宇宙セグメントは1兆3,929億円で、2位以下を大きく引き離しています。IHIと川崎重工業はそれぞれ6,000億円台で並び、造船最大手の今治造船も6,000億円を超えました。
造船会社では、JMUが約3,980億円、名村造船所が1,590億円で続きます。上場している造船会社は限られるため、非上場企業は報道や会社の公表資料で規模を確認することになります。
ただし、この比較には注意が必要です。重工メーカーのセグメントには防衛向けの機体や艦艇、宇宙が含まれることがあり、事業の範囲は会社ごとに異なります。たとえば三菱重工業の船舶事業は、航空・防衛・宇宙ではなく別のセグメントに含まれます。
また、今治造船は2026年1月にJMUを子会社化しており、JMUと合わせたグループの売上規模は約1兆円とされています。ランキングは、企業グループの単位で見るか、会社単体で見るかによっても変わります。
造船会社は決算期の売上高に船の引渡しの時期が大きく影響します。1年分の売上だけで企業の規模を判断しないことも大切です。
分野別の主要企業

航空宇宙・造船業界の企業は、機体、エンジン、装備品、宇宙機器、造船所、舶用機器といった分野に分けられます。分野ごとの代表的な企業は次のとおりです。
複数の分野にまたがる企業も多いのが特徴です。
※代表例であり、各分野の企業はこれに限りません。
航空機の分野では、三菱重工業、川崎重工業、IHI、SUBARUの4社が中心です。ボーイングによると、787では主翼をはじめとする機体の35%を日本企業が分担し、三菱重工業、川崎重工業、SUBARUの3社が主要な部位を開発・製造しています。
造船の分野では、今治造船とJMUのグループが国内建造量の過半を占める規模となり、名村造船所や大島造船所、常石造船などが続きます。航空機は重工メーカー、造船は専業の造船会社が中心という違いがあります。
宇宙の分野では、大型ロケットを三菱重工業、人工衛星を三菱電機やNECが担う構図が続いています。舶用機器は、エンジンや航海計器などの製品ごとに専門のメーカーが強みを持っています。
主要企業の特徴と強み

ここからは、主要企業それぞれの事業の中身と強みを、確認できた決算の数字とあわせて見ていきます。
取り上げるのは、航空宇宙の重工4社と、造船の3社です。いずれも2026年3月期の数字で比べています。
三菱重工業
航空・防衛・宇宙セグメントの2026年3月期の売上収益は1兆3,929億円、事業利益は1,515億円でした。事業利益は前期から5割以上増え、防衛と宇宙が伸びを牽引しています。
防衛向けの航空機や艦艇、大型ロケットの製造・打上げまでを手がけ、防衛・宇宙で国内最大級の事業規模を持つのが強みです。会社全体の売上収益4兆9,742億円のうち、このセグメントは約3割を占めます(決算短信から算出)。
川崎重工業
航空宇宙システムセグメントの2026年3月期の売上収益は6,136億円、事業利益は624億円、受注高は8,109億円でした。機体の分担生産と航空機エンジンの部位の両方を手がけています。
エネルギーソリューション&マリンセグメントでは船舶も手がけ、2025年度にはLPG運搬船の完工と受注が続きました。航空・船舶・エネルギーを一社で持つ事業の幅広さが特徴です。
IHI
航空・宇宙・防衛セグメントの2026年3月期の売上収益は6,517億円で、前期から17.3%増えました。営業利益は1,124億円で、会社全体の営業利益1,655億円の7割近くを占めます(決算資料から算出)。
民間航空機エンジンの国際共同開発に参加しており、エンジン部品と整備が収益の柱です。一方で、参画するPW1100G-JMエンジンの追加検査プログラムの影響を受けるなど、海外エンジンの動向が業績に直結します。
SUBARU
自動車が主力の会社ですが、航空宇宙セグメントを持ち、2026年3月期の売上収益は1,417億円でした。前期の196億円の赤字から、35億円の黒字に転じています。
民間機の中央翼の納入が増えたことが改善の理由です。防衛向けのヘリコプターなども手がけ、機体の構造部位に強みを持っています。
航空宇宙の売上規模は重工3社より小さいものの、自動車メーカーの中で航空機事業を持つ珍しい存在です。量産の生産管理のノウハウを持つ点も特徴と言えます。
今治造船
愛媛県今治市に本社を置く国内最大手の造船会社で、非上場企業です。2026年3月期の売上高は約6,005億円と、初めて6,000億円を超えました。
2026年1月にはJMUへの出資比率を60%に引き上げて子会社化し、10年で1,000億円を超える設備投資も計画しています。国内造船の再編の中心となっている企業です。
ジャパン マリンユナイテッド(JMU)
2013年1月にユニバーサル造船とアイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドが合併して誕生した造船会社です。2026年3月期の売上高は約3,980億円で前期から22%増え、純利益は321億円と2年連続で過去最高となりました。
有明、津、呉、横浜、舞鶴、因島に事業所を持ち、コンテナ船やタンカーなどの商船に加え、艦艇も建造できるのが特徴です。
今治造船の子会社となったことで、商船の設計や営業の連携がさらに深まると見られます。艦艇の建造を担う造船所としての役割も、防衛需要の拡大とともに重みを増しています。
名村造船所
上場の造船会社で、2026年3月期の連結売上高は1,590億円、営業利益は280億円でした。売上の約8割を新造船事業が占めます(決算短信から算出)。
佐世保重工業や函館どつくを子会社に持ち、修繕船事業も手がけています。上場企業のため、造船会社の業績を数字で確認しやすい一社です。
2026年3月期の新造船事業の利益率は約22.8%で、修繕船事業の約7.6%を大きく上回りました(決算短信から算出)。利益の大部分を新造船が生み出していることがわかります。
海外の主要企業との比較

航空機と造船では、日本企業の世界での立ち位置が大きく異なります。
航空機では欧米の完成機・エンジンメーカーとの協力関係、造船では中国・韓国との競争関係が、日本企業の戦略を左右しています。
航空機は分担生産、造船は中国・韓国との受注競争が軸になります。
※出典:ボーイングジャパン「ボーイングと日本」、国土交通省海事局「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」。
航空機では、日本企業は完成機メーカーではなく、海外の完成機・エンジンメーカーを支える重要なパートナーという立ち位置です。分担する部位で高い品質と生産能力を示すことが、次の機種への参加につながります。
造船では、国土交通省によると2024年に中国が世界の受注の7割超を占め、日本のシェアは8%まで下がりました。国内の集約や設備投資は、こうした中国・韓国との差を縮めるための動きでもあります。
中国は2024年の世界の建造量の約50%を担っており、日本とは建造コストの面でも差があるとされています。日本の造船所は、燃費のよい船の設計力や品質、国内の舶用機器メーカーとの連携を強みとして競争しています。
再編・M&Aの動き

航空宇宙・造船業界では、特に造船で再編が続いてきました。近年の主な動きを年表で整理します。
造船の集約を中心に、3つの時期に分けて整理できます。
※出典:各社の発表、日本海事新聞・海事プレスなどの報道。
造船の再編は、今治造船とJMUの連携が段階的に深まってきたのが特徴です。2021年の共同会社設立から、2026年の子会社化まで約5年をかけて国内最大の造船グループが形づくられました。
JMUの子会社化では、それまで35%ずつを持っていたJFEホールディングスとIHIの出資比率がそれぞれ20%に下がりました。重工・鉄鋼グループから、造船専業の今治造船へと主導権が移った形です。
この再編により、JMUは今治造船グループの一員として、商船と艦艇の両方を担う立場になりました。
航空機では、三菱重工業がスペースジェットの開発を中止して以降、海外メーカーとの分担生産と防衛・宇宙に経営資源を振り向ける流れが続いています。
今後も、造船では建造能力の回復に向けた設備投資や協業、航空宇宙では防衛・宇宙の拡大に合わせた体制づくりが続くと見られます。企業の組み合わせが変わる可能性もあるため、最新の発表を確認しておきたいところです。
就職・転職で企業を見るときのポイント

航空宇宙・造船業界の企業を比べるときは、売上高の大きさだけでなく、次のような視点をあわせて見るのがおすすめです。
売上高の大きさに加えて、確認しておきたい点です。
セグメントの利益率を見る
同じ航空宇宙でも、2026年3月期の利益率はIHIの航空・宇宙・防衛が約17%、SUBARUの航空宇宙が約2.5%と大きな差がありました(各社の決算資料から算出)。
利益率には、手がける製品や生産の立ち上げ時期、一時的な費用が表れます。数年分の推移を見て、事業が安定しているかを確かめるとよいでしょう。
事業の集中度を見る
重工メーカーは航空宇宙以外の事業も持つため、一つの市場の不振を他の事業で補えます。一方、造船専業の会社は、海運市況の影響を直接受けやすい面があります。
志望する部門が会社全体でどのくらいの比重を占めるかによって、投資の優先度や異動の範囲も変わります。会社全体の中での部門の位置づけを確認しておきたいところです。
受注残と中長期の計画を見る
航空宇宙・造船は受注から売上になるまで数年かかるため、受注高や手持ちの工事量が数年先の仕事量を示します。川崎重工業の航空宇宙システムのように、受注高が売上を上回っている事業は仕事量が増える見込みです。
あわせて、設備投資計画や人員計画も確認すると、入社後にどんな仕事に関われるかがイメージしやすくなります。関連する職種は機械設計や生産技術、購買・調達の記事でも紹介しています。
なお、民間向けと防衛向けの比率や、海外の顧客の比重によっても、景気や為替、国の予算から受ける影響が変わります。統合報告書などで事業の内訳を確認しておくと安心です。
まとめ
- 航空宇宙セグメントの売上は三菱重工業が1兆3,929億円(2026年3月期)で首位
- IHIと川崎重工業が6,000億円台で続き、造船は今治造船が6,000億円を超えた
- 航空機は重工メーカー、造船は専業の造船会社が中心という違いがある
- 造船は今治造船が2026年1月にJMUを子会社化し、国内建造量の過半を占める規模に
- 企業選びでは売上だけでなく、利益率・事業の集中度・受注残をあわせて見る
業界の基本は航空宇宙・造船業界とは、市場の大きさと推移は航空宇宙・造船業界の市場規模と動向、企業の階層や商流は航空宇宙・造船業界の構造で解説しています。
関連する記事は、航空宇宙・造船の業種ページからあわせてご覧ください。
出典
- 三菱重工業の業績:三菱重工業「2026年3月期 決算短信」
- 川崎重工業の業績:川崎重工業「2025年度決算説明資料」
- IHI・SUBARUの業績:IHI「2025年度 決算資料」、SUBARU「事業別セグメント情報」
- 名村造船所の業績:名村造船所「2026年3月期 決算短信」
- 今治造船・JMUの業績:海事プレス「売上6000億円突破、JMUと合わせ1兆円 今治造船、設備投資は10年で1000億円超計画」、海事プレス「25年度は売上・利益とも過去最高 JMU、純利益61%増の321億円」
- JMUの子会社化:日本M&Aセンター「今治造船、ジャパン マリンユナイテッドを子会社化へ」、ボーイングジャパン「ボーイングと日本」、国土交通省「造船業の現況と造船業再生ロードマップについて」

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