「電機・精密機器業界の市場規模」と聞くと、多くの方は家電やカメラの売れ行きを思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、発電設備や変圧器などの重電、工場で使う制御機器、計測器、医療機器まで、企業向けの製品が市場の大きな部分を占めています。統計も分野ごとに分かれていて、どの数字を見るかで市場の姿は変わります。
この記事では、電機・精密機器業界の市場規模を、統計ごとの数え方、過去の推移、分野別の内訳、海外市場と輸出、市場を動かすトレンド、今後の見通しとキャリアへの影響という順で整理します。
電機・精密機器業界の市場規模

電機・精密機器業界の市場規模は、一つの数字では表しにくいのが実情です。扱う製品の幅が広く、分野ごとに業界団体と統計が分かれているためです。
電子機器と電子部品では、JEITA(電子情報技術産業協会)の統計で、2025年の電子工業の国内生産額が約11兆7,646億円でした。重電機器と白物家電を扱う日本電機工業会(JEMA)は、2025年度の両分野の合計を6兆3,678億円と見込んでいます。
精密機器の代表である医療機器は、厚生労働省の薬事工業生産動態統計で、2024年の国内生産金額が2兆6,642億円です。分野ごとに兆円単位の市場が並び、それぞれ別の統計で数えられているのがこの業界の特徴です。
数字を見るときは、数え方の違いに注意が必要です。生産額は国内の工場でつくった金額、出荷額は市場に出荷した金額です。業界動向サーチの業界規模のような売上高合計は、主要企業の連結売上を足したもので、海外生産分や本業以外の事業も含みます。電気機器業界の業界規模が85.5兆円(2021〜2022年)と国内生産額よりずっと大きいのはこのためです。
どの数字が正しいというより、知りたいことに合わせて統計を使い分けることが大切です。国内の工場の稼働や雇用を見たいなら生産額、企業の稼ぐ力を見たいなら売上高が参考になります。
なお、電子部品や半導体は電機・精密機器の製品に欠かせない一方で、電子・半導体業界として別に扱われることも多い分野です。この記事では、完成品や設備に近い分野を中心に見ていきます。
対象と数え方が異なるため、数字の大きさも大きく変わります。
※統計ごとに対象範囲と数え方が異なるため、単純に足し合わせることはできません。
市場規模の推移

ここでは、年ごとの数字をそろえて追いやすいJEITAの電子工業の国内生産額で、過去の推移を見ていきます。
2020年に10兆円を割り込んだあと、2024年以降は回復が続いています。
※出典:JEITA「電子工業生産実績表」各年12月(1〜12月累計)。2021年は同じ形式の実績表を確認できなかったため省略。各年の公表値のため、集計の見直しにより前年比と一致しない場合があります。
推移を見ると、国内生産は2019〜2020年に大きく落ち込み、2024年からは増加に転じていることがわかります。増減の理由を、時期ごとに見ていきます。
同じ期間でも、分野によって動きは異なります。消費者向けの製品は景気や流行の影響を受けやすく、部品は完成品メーカーの在庫の増減に振り回されやすい、という違いがあります。
2019〜2020年:世界的な需要の減速とコロナ禍
2019年の電子工業の国内生産額は前年比90.4%と、1割近く減りました。民生用電子機器が83.8%、電子部品・デバイスが86.5%と大きく落ち込んでいます。
2020年は新型コロナウイルスの影響も重なり、国内生産額は9兆9,648億円まで減りました。特に民生用電子機器は前年比79.8%と、消費者向けの製品ほど景気の影響を強く受けた時期と言えます。
2023年:部品の在庫調整
2022年に10兆9,772億円まで戻った国内生産額は、2023年に前年比97.6%と再び減りました。電子部品・デバイスが94.0%と落ち込んだことが主な要因です。
電子部品は、完成品メーカーが在庫を積み増したあとに発注を絞ると、需要が一気に減ります。部品の市場は完成品よりも振れ幅が大きいことを示す動きです。
2024〜2025年:データセンターと設備投資で回復
2024年は前年比106.1%、2025年は103.9%と2年続けて増えました。電子部品・デバイスが2024年に108.5%と伸び、2025年も104.9%と全体をけん引しています。
JEITAは、生成AIの普及と世界的なデータセンター需要の拡大を背景に、半導体や電子部品が好調だとしています。重電の分野でも、JEMAは2025年度の重電機器の国内生産を3兆7,344億円と見込んでいます。
2025年の国内生産額11兆7,646億円は、図2の期間では2018年の11兆6,551億円を上回る水準です。数年続いた落ち込みを取り戻し、再び成長局面に入ったと見ることができます。


需要先・製品別の内訳

電機・精密機器業界の中でも、どの分野の市場が大きいのかを、統計ごとの数字で並べてみます。電子部品・デバイスは電子・半導体業界の記事で扱うため、ここでは完成品に近い分野を中心に見ます。
企業向けの重電・産業用機器が、消費者向けの製品を上回っています。
※出典:重電機器・白物家電はJEMA「2026年度 電気機器の見通し」、産業用・民生用電子機器はJEITA「2025年12月電子工業生産実績表」、医療機器は厚生労働省「令和6年薬事工業生産動態統計年報」。統計と年・年度が異なるため、規模感の目安として見てください。
並べてみると、市場の中心は発電・送配電や工場向けの企業向け製品にあることがわかります。テレビなどの民生用電子機器は、2025年の国内生産額が4,150億円と、重電機器の1割強にとどまります。
伸びが大きいのは重電です。JEMAの見通しでは、2026年度は発電用原動機が前年度比114.0%、変圧器などの静止電気機械器具が112.6%と、2桁の伸びが見込まれています。
工場向けでは、プログラマブルコントローラ(PLC)が2026年度に106.1%、インバータが111.1%の見通しです。一方、白物家電はルームエアコンが104.0%と伸びる一方で、冷蔵庫は98.5%、洗濯機は97.1%と減少が見込まれています。
JEITAの産業用電子機器では、2025年に電子計算機・情報端末が105.5%、電気計測器が102.5%と伸びました。医療機器の国内生産は2024年に前年比0.4%減と、ほぼ横ばいです。
分野ごとの動きをまとめると、重電と工場向けの制御機器が伸び、家電と民生用の電子機器は横ばいから減少という構図です。同じ業界の中でも、成長している分野とそうでない分野がはっきり分かれていると言えます。
海外市場と輸出

電機・精密機器は、日本の輸出を支える主要な品目の一つです。ジェトロの集計では、2024年の日本の輸出額7,089億ドルのうち、電気機器が1,010億ドル、精密機器が368億ドルでした。
輸出全体の約2割を、この2つの品目が占めています。
※出典:ジェトロ「2025年版ジェトロ世界貿易投資報告」。輸出全体に占める割合は、同資料の輸出総額7,089億ドルから算出。
電気機器の中では、半導体等電子部品類が401億ドルと約4割を占めます(同資料の数値から算出)。その輸出先は中国と台湾がそれぞれ約2割で、輸出の多くがアジアの工場向けの部品という構図です。
重電では、JEMAが発電用原動機の輸出を好調としています。2026年度のガスタービンの生産は前年度比124.8%と、大きな伸びが見込まれています。
一方で、医療機器は輸入が上回る分野です。2024年の医療機器の輸入金額は3兆4,542億円で、国内生産金額の2兆6,642億円を上回り、輸出金額は1兆1,445億円でした。
世界全体で見ると、JEITAは電子情報産業の世界生産額を2025年に4兆1,184億ドルと見込んでいます。これに対し、海外生産を含む日系企業の世界生産額は41兆8,134億円で、日本企業は国内より海外で多くの製品をつくっているのが実態です。
海外生産の比率が高いことは、国内の工場が研究開発や高付加価値品の生産に役割を移していることも意味します。為替の動きは、輸出の採算だけでなく、海外で稼いだ利益を円に換算した金額にも影響します。
市場を動かす主なトレンド

電機・精密機器の市場は、景気だけでなく、社会や技術の大きな流れに左右されます。いま特に影響が大きいのは、次の4つです。
企業向けの設備投資を押し上げる流れが中心です。
生成AI・データセンター
JEITAは、生成AIの爆発的な普及と世界的なデータセンター需要の拡大が、半導体や電子部品の好調を支えているとしています。データセンターは大量の電力を使うため、サーバーだけでなく電源や空調、受変電設備の需要も生みます。
電子部品から重電まで、一つの投資テーマが業界の幅広い分野に波及するのがこのトレンドの特徴です。
脱炭素と電力インフラ
JEMAの見通しでは、2026年度の重電機器の国内生産は4兆467億円と、1997年度以来29年ぶりに4兆円を超える見込みです。発電用原動機や変圧器など、電力に関わる機器が伸びをけん引しています。
再生可能エネルギーの導入や送配電網の増強は、長い期間をかけて進む投資です。重電の分野では、数年単位で続く需要が見込める状況と言えます。
人手不足と自動化
工場の人手不足を背景に、生産ラインの自動化に使う制御機器の需要も続いています。JEMAは2026年度のPLCの生産を1,040億円、インバータを1,524億円と見込んでいます。
サーボモータも前年度比109.9%の933億円と伸びる見通しです。ただし、自動化関連でも製品ごとに伸び率は異なるため、分野を分けて見ることが大切です。
コスト高と地政学
JEMAは、供給側の課題として原材料コストの高止まりを挙げています。白物家電では、物価高による耐久消費財の買い控えや、人口減少による市場の縮小も課題とされています。
輸出の多くをアジア向けの部品が占める以上、各国の通商政策や供給網の見直しも無視できません。生産地や調達先を分散する動きは、今後も続くと考えられます。
こうした変化は、調達や生産管理の仕事にも影響します。一つの国や取引先に頼らない供給網をつくることが、多くの企業で課題になっています。

今後の見通しとキャリアへの影響

業界団体の見通しは、おおむね増加基調です。JEMAは2026年度の電気機器(重電機器と白物家電)を前年度比105.4%の6兆7,104億円と予想しています。内訳は、重電機器が4兆467億円(108.4%)、白物家電が2兆6,637億円(101.1%)です。
JEITAは、2026年の電子情報産業の国内生産額を前年比3%増の11兆9,116億円、世界生産額を10%増の4兆5,103億ドルと見込んでいます。企業向けの設備やインフラを中心に、市場は緩やかに拡大する見通しと言えます。
伸びる職種
需要が伸びる重電や制御機器、データセンター向けの機器では、電気・電子設計や生産技術の人材が求められます。受注が増えるほど、設計と量産の立ち上げを担う人の不足が目立ちやすくなります。
顧客ごとに仕様を詰める企業向けの製品では、技術営業・FAEの役割も大きくなります。製品の知識と、顧客の設備や業務を理解する力の両方が評価されます。
求められるスキル
電力や制御の基礎に加え、機器をネットワークにつなぎ、データを活用する知識の重要性が増しています。スマートファクトリー・IoTや脱炭素に関わる技術は、分野をまたいで生かせるテーマです。
医療機器や計測器の分野では、薬機法や計量法などの規制に関する知識、品質保証の経験も強みになります。市場が伸びている分野ほど、こうした専門性を持つ人材が不足しやすい傾向があります。
一方で、家電など成熟した分野では、市場が大きく伸びにくい状況も続きます。どの分野の需要が伸びているかを見て、経験を積む場所を選ぶことが、長いキャリアでは大切になります。
まとめ
- 電機・精密機器の市場は分野ごとに統計が分かれ、数え方で規模が大きく変わる
- 電子工業の国内生産額は2025年に11兆7,646億円で、2024年から回復が続いている
- 市場の中心は重電や産業用機器などの企業向け製品で、民生品の比重は小さい
- 生成AI・データセンター、脱炭素、自動化が需要を押し上げている
- 2026年度は重電機器が29年ぶりに4兆円を超える見込みで、企業向け分野が成長をけん引する
業界の基本的な仕組みは電機・精密機器業界とはで、サプライチェーンや利益構造は電機・精密機器業界の構造で、主要企業の顔ぶれは電機・精密機器業界の主要企業と勢力図で解説しています。
関連する職種や技術の記事もあわせて、電機・精密機器の業種ページからご覧ください。
出典
- 電子工業の国内生産額:一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)「2025年12月電子工業生産実績表」(2018〜2024年は各年12月の実績表)
- 世界生産額の見通し:MONOist「GAFAMに対抗する日本の武器は『現場データ』にあり、JEITAが世界生産額見通し発表」
- 重電機器・白物家電の見通し:一般社団法人日本電機工業会(JEMA)「2026年度 電気機器の見通し」
- 医療機器の生産・輸出入:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報の概要」
- 輸出:ジェトロ「2025年版ジェトロ世界貿易投資報告 第2項 日本の財貿易」
- 業界規模:業界動向サーチ「電気機器業界の動向、ランキング、現状など」

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