「電機・精密機器業界の主要企業」と聞くと、多くの方は日立製作所やパナソニック、ソニーといった名前を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、売上高が10兆円を超える総合電機から、内視鏡や計測器など特定の分野で世界と戦う精密機器メーカーまで、規模も得意分野も異なる企業が並んでいます。ここ10年ほどの間に、事業の売却や再編で顔ぶれも大きく変わりました。
この記事では、電機・精密機器業界の主要企業を、売上高ランキング、分野別の代表企業、各社の特徴と強み、海外企業との比較、再編・M&Aの動き、企業を見るときのポイントという順で整理します。
電機・精密機器業界の売上高ランキング

まず、主要企業の売上高を最新の決算で比べてみます。決算期は多くが2026年3月期で、12月決算のキヤノンは2025年12月期の数値です。
上位4社が5兆円を超え、精密機器の大手は1兆円前後に並びます。
※出典:各社の決算資料、The社史(有価証券報告書ベースの集計)。連結の売上高(売上収益)。ITサービスが中心の企業、半導体製造装置メーカー、非上場の東芝は除いています。
ランキングを見るときに注意したいのは、各社の売上高に含まれる事業の範囲が大きく異なることです。ソニーグループの売上高にはゲームや音楽、映画が含まれ、富士フイルムHDには医療や材料、事務機の事業が含まれます。
反対に、東芝は2023年12月に上場を廃止しており、上場企業の決算と同じ形では比べられません。売上高の大きさは、あくまで企業規模の目安として捉えるのがよいでしょう。
また、ランキングの上位は総合電機や家電の大手が占めますが、売上高の順位と利益の大きさは必ずしも一致しません。同じ2026年3月期でも、ソニーグループの営業利益が1兆4,475億円だったのに対し、パナソニックHDは2,364億円でした。

分野別の主要企業

電機・精密機器業界とはで紹介した6つの分類ごとに、代表的な企業を整理すると次のようになります。
分野ごとに主要企業の顔ぶれは大きく異なります。
※複数の分野にまたがる企業も多く、分類は主な事業に基づく目安です。
総合電機や家電の大手が複数の分野にまたがる一方、精密機器では特定の製品に絞り込んだ企業が世界で存在感を持つのが特徴です。売上高は1兆円前後でも、得意分野では海外の大手と肩を並べる企業が少なくありません。
計測・分析では、2026年3月期の売上高が島津製作所で5,607億円、横河電機で6,048億円、12月決算の堀場製作所は2025年12月期で3,331億円です。光学ではHOYAが9,477億円、ニコンが6,772億円(いずれも2026年3月期)でした。

主要企業の特徴と強み

ここからは、主要企業の事業の中身と強みを、確認できた決算の数字とあわせて見ていきます。
日立製作所
日立製作所の2026年3月期の売上収益は10兆5,867億円で、前期から8%増えました。事業はデジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズの4部門で、エナジーが3兆2,199億円と前期から23%伸びています。
調整後営業利益率(Adj. EBITA率)は12.4%と、大手電機の中でも高い収益力を示しています。家電事業については、ノジマとの新会社に移す方針を2026年4月の決算発表で示しました。
三菱電機
三菱電機の2026年3月期の売上高は5兆8,947億円で、親会社株主に帰属する当期純利益は4,077億円でした。部門別では、空調や家電、ビル設備を含むライフが2兆3,182億円と最も大きくなっています。
インダストリー・モビリティは1兆6,738億円、インフラは1兆4,634億円です。家電から電力・防衛、FA機器まで幅広い事業を持ちながら、各部門で利益を伸ばしているのが特徴です。
パナソニック ホールディングス
パナソニックは2022年4月に持株会社制へ移行し、パナソニック ホールディングスとなりました。2026年3月期の売上高は8兆487億円で、前期から4.8%減っています。
営業利益は2,364億円と前期から44.6%減りました。事業はスマートライフ、HVAC&CC、エレクトリックワークス、コネクト、インダストリー、エナジーなどに分かれ、電池を手がけるエナジーの売上高は前期比113%と伸びています。
複数の事業がそれぞれ1兆円前後の売上高を持ち、特定の事業に偏らない構成が特徴です。一方で、利益率の改善が大きな課題となっています。
ソニーグループ
ソニーグループの2026年3月期の売上高は12兆4,796億円、営業利益は1兆4,475億円と過去最高でした。ゲーム&ネットワークサービスが売上高4兆6,856億円と最大の事業です。
電機・精密機器の視点で見ると、スマートフォンなどに使われるイメージセンサーの半導体事業が業績をけん引している点が特徴です。テレビやカメラなどのエレクトロニクス事業も手がけています。
キヤノン
キヤノンの2025年12月期の売上高は4兆6,247億円で、前期から2.5%増えました。プリンティングを最大の柱に、カメラなどのイメージング、医療機器のメディカル、半導体露光装置などのインダストリアルを展開しています。
メディカルの事業は、2016年に東芝から医療機器の子会社を買収して大きく広がりました。光学技術を軸に、事務機から医療、半導体まで事業を広げてきた企業と言えます。
富士電機
富士電機の2026年3月期の売上高は1兆2,276億円(前期比9.3%増)、営業利益は1,366億円(16.1%増)でした。重電を主力とする企業の中でも、専業に近い大手の一つです。
発電・変電の設備や、モーターを制御するパワーエレクトロニクス機器、パワー半導体などを手がけています。電力インフラや工場の設備投資が続くなかで、2026年3月期は増収増益となりました。
オリンパスとテルモ
医療機器の大手では、オリンパスの2026年3月期の売上収益が1兆107億円、テルモが1兆1,319億円でした。オリンパスは2021年1月にカメラなどの映像事業をOMデジタルソリューションズに移し、その後、顕微鏡などの科学事業も売却しています。
テルモは売上収益が前期比9.2%増、営業利益が11.8%増と伸びました。一方、オリンパスは営業利益が前期比40.2%減の971億円で、同じ医療機器でも業績の動きは企業ごとに異なります。
海外の主要企業との比較

世界に目を向けると、日本の電機大手と同じ領域で競う海外企業があります。主な分野ごとに、海外企業と日本勢の立ち位置を比べてみます。
インフラ・産業の分野では、欧州の大手が大きな存在感を持ちます。
※出典:Wikipedia(英語版)各社の項目。海外企業の売上高は現地通貨のまま記載し、円への換算はしていません。
シーメンスは、医療機器のシーメンスヘルシニアーズや、エネルギーのシーメンス・エナジーを別の上場会社として切り出しながら、産業・インフラに事業を集中させてきました。事業の選択と集中で収益力を高めるという点で、日本の総合電機がたどってきた道と重なります。
家電では、中国や台湾の企業が日本の事業を引き継ぐ例が相次ぎました。一方、医療機器や計測・分析機器では、日本企業が特定の製品で世界の上位に入っている分野もあり、分野によって日本勢の立ち位置は大きく異なります。
日本の大手は、海外企業と正面から規模を競うより、得意な分野を絞り込み、世界で通用する強みを磨く方向に進んでいます。日立製作所が送配電事業を海外企業から引き継いだのは、その代表的な例です。
再編・M&Aの動き

電機・精密機器業界では、2010年代半ば以降、大手による事業の売却と買収が続いてきました。主な動きを時系列で整理します。
2016〜2018年、2020〜2023年、2024年以降の3つの時期に分けて整理します。
※このほか、東芝は2018年に半導体メモリ事業(現キオクシア)を売却し、テレビ事業をハイセンスグループに譲渡しています。
流れをまとめると、消費者向けの事業を手放し、インフラ・産業・医療に経営資源を集める動きが、業界全体で続いてきたと言えます。売却された事業は、海外企業や投資ファンドのもとで新たな形で続いています。
日立は2021年10月に、ABBから引き継いだ送配電事業の会社を日立エナジーに改称しました。東芝の上場廃止は、日本産業パートナーズ(JIP)が主導した株式の公開買い付けによるものです。
最近では、工場の跡地や設備を別の用途に生かす動きも目立ちます。シャープの堺工場の敷地は、ソフトバンクやKDDIへの売却を通じて、AI向けのデータセンターなどに使われる予定です。
再編の動きは、働く人にとっても無関係ではありません。所属する事業が別の会社に移ることもあるため、業界の動きを知っておくことは、自分のキャリアを考えるうえでも役立ちます。
就職・転職で企業を見るときのポイント

売上高のランキングは企業を知る入り口にすぎません。就職や転職で企業を比べるときは、次の3つの視点もあわせて見ておきたいところです。
売上高の大きさに加えて、次の3点を確認しておきたいところです。
売上高だけでなく利益率を見る
売上高が大きくても、利益率が高いとは限りません。2026年3月期の決算から算出すると、パナソニックHDの売上高営業利益率は約2.9%、富士電機は約11.1%と、規模と収益力は必ずしも一致しません。
利益率は、事業の強さや価格決定力を映す指標です。数年分の推移を見ると、一時的な要因か、構造的な強さかを判断しやすくなります。
海外売上の比率を見る
計測・分析の企業は海外売上の比率が高い傾向があります。2026年3月期の地域別売上から算出すると、島津製作所は日本以外が約57%、横河電機は約73%でした。
海外比率が高い企業では、海外の顧客や拠点とのやり取りが日常になります。語学力や海外経験を生かしたい人には、働き方を選ぶ手がかりになる数字です。
一方で、海外比率が高いほど、為替の変動や各国の景気の影響を受けやすくなります。有価証券報告書の地域別売上高を見ると、どの地域に依存しているかも確認できます。
事業の集中度を見る
総合電機のように事業が多い企業は、一つの事業が落ち込んでも全体で支えられる安定感があります。一方で、配属先によって仕事の中身が大きく変わり、事業の売却で所属が変わる可能性もあります。
医療機器に集中するオリンパスのような企業は、特定分野で専門性を深めやすいのが特徴です。自分が深めたい技術や分野と、企業の事業の重心が合っているかを確かめることが大切です。
まとめ
- 売上高では、ソニーグループ、日立製作所、パナソニックHD、三菱電機が上位に並ぶ
- 売上高に含まれる事業の範囲は企業ごとに大きく異なり、単純な比較には注意が必要
- 分野別では、総合電機・重電・家電・光学・計測・医療機器で主要企業の顔ぶれが分かれる
- 業界では消費者向け事業の売却と、インフラ・産業・医療への集中が続いている
- 企業を見るときは、利益率、海外比率、事業の集中度もあわせて確認する
業界の基本は電機・精密機器業界とはで、市場の大きさや伸びている分野は電機・精密機器業界の市場規模と動向で、サプライチェーンや利益の構造は電機・精密機器業界の構造で解説しています。
関連する職種や技術の記事もあわせて、電機・精密機器の業種ページからご覧ください。
出典
- 日立製作所の業績:日立製作所「2026年3月期 連結決算の概要」
- 三菱電機の業績:三菱電機「2026年3月期 決算説明会」
- パナソニックHDの業績:パナソニック ホールディングス「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
- ソニーグループの業績:ビジネス+IT「ソニーグループ、26年3月期営業利益が過去最高」
- 各社の売上高・地域別売上:The社史「ソニーの決算(2026年3月期)」ほか各社ページ(キヤノン、富士フイルムHD、シャープ、富士電機、テルモ、オリンパス、HOYA、ニコン、島津製作所、横河電機、堀場製作所の各ページ)
- 再編の経緯:Wikipedia「東芝」、「オリンパス」、「シャープ」、「日立エナジー」、「Siemens」ほか

コメント