「電機・精密機器業界の構造」と聞くと、多くの方は大手メーカーを頂点に、部品会社が連なるピラミッドを思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、家電、重電、医療機器といった分野ごとに、製品の売り方や取引先、お金の流れが大きく異なります。完成品メーカーが部品をつくり、部品メーカーが完成品を手がけることもあり、関係は一方向ではありません。
この記事では、電機・精密機器業界の構造を、サプライチェーンの全体像、階層ごとの企業の特徴、お金とモノの流れ、利益構造、業界構造の変化、キャリアの選び方という順で整理します。
電機・精密機器業界の全体像

電機・精密機器の製品は、素材から部品、完成品、販売、保守へと、多くの企業の手を経て顧客に届きます。電機・精密機器業界とはで紹介した企業の関係を、川上から川下まで一段広げると次のようになります。
素材から保守まで、役割の異なる企業が川上から川下へと連なります。
※総合電機メーカーが部品や販売会社を持つなど、一つの企業グループが複数の階層にまたがることも多くあります。
この図のうち、どの階層に何社がひしめき、どこで利益が生まれるかは分野ごとに大きく違います。家電のように量販店が大きな力を持つ分野もあれば、重電のようにメーカーが据付から保守まで担う分野もあります。
また、同じ完成品メーカーでも、家電と重電では部品の調達先も販売先も異なります。一つの企業の中に、性格の異なるサプライチェーンがいくつも並んでいると考えると、業界の全体像をつかみやすくなります。
なお、電子部品や半導体は、電子・半導体業界として別に扱われることも多い分野です。この記事では、完成品メーカーを中心に、その前後の企業との関係を見ていきます。


階層ごとの企業の特徴

サプライチェーンの階層ごとに、企業の規模や稼ぎ方、働き方には違いがあります。主な階層ごとに特徴を見ていきます。
素材・部品メーカー
素材・部品メーカーは、完成品メーカーに材料や部品を納める企業です。特定の部品に特化し、世界で高いシェアを持つ企業も少なくありません。
顧客は国内外の完成品メーカーで、一つの部品を多くの顧客に売ることで量を稼ぐのが基本的な形です。顧客の開発段階から参加し、仕様を一緒に決めていくことも多くあります。
加工・受託製造の企業
板金やプレス、切削、めっき、基板実装、組立などを請け負う企業です。地域の中小企業が多く、完成品メーカーや部品メーカーの工場の近くに集まっていることも珍しくありません。
仕事量は発注元の生産計画に左右されやすく、価格の交渉力も発注元が強いのが一般的です。その一方で、特定の加工技術で指名を受ける企業は、取引先を広げて安定した経営を続けています。
完成品メーカー
製品の企画・設計・組立を担い、自社のブランドで販売する企業です。大手の総合電機メーカーから、特定の製品に特化した中堅メーカーまで、規模はさまざまです。
大手ほど事業の数が多く、海外にも多くの工場や販売拠点を持っています。社内に性格の異なる事業が並び、部署によって仕事の中身がまったく違うのが特徴です。
同じ製品に関わっていても、仕事の範囲や働き方は大きく異なります。
※中小企業の中にも、独自製品を持ち、自社で価格を決められる企業は多くあります。目安として捉えてください。
販売会社・商社・代理店
家電ではメーカーの販売会社や家電量販店、企業向けの製品では商社や代理店が、メーカーと顧客の間に入ります。在庫を持ち、細かな注文をまとめ、代金の回収を引き受けるのが主な役割です。
企業向けの製品を扱う商社や代理店では、製品の選定や使い方を顧客に提案する技術的な役割も大きくなります。メーカーにとっては、自社だけでは届かない顧客に製品を届ける大切な窓口です。
工事・保守サービスの企業
重電設備や大型の医療機器、計測器は、据付や調整、定期点検、修理がなければ使い続けられません。メーカーのグループ会社や専門の工事会社が、こうした仕事を担います。
製品が数十年使われる分野では、販売後の保守が長く続く安定した仕事になります。全国の顧客のもとに出向くため、現場での対応力が求められる働き方です。
お金とモノの流れ(商流)

電機・精密機器のお金とモノの流れは、量産品か受注生産品かで大きく変わります。受注生産が中心の重電やインフラ設備では、次のような流れで取引が進みます。
受注前、受注後、納入後の3つの段階に分かれます。
※案件の規模によっては、エンジニアリング会社や工事会社を通じて受注する場合もあります。
家電のような量産品では、流れはまったく異なります。分野ごとの特徴と、価格の決まり方を見ていきます。
家電:量販店が大きな力を持つ
家電は、メーカーから販売会社を経て、家電量販店や地域の販売店で消費者に売られるのが一般的です。売り場を持つ量販店の発言力は大きく、店頭価格の多くは販売店の判断で決まります。
メーカーにとっては、売り場での見え方と価格競争が売れ行きを左右する分野です。新製品を出すタイミングや、販売店への支援策も重要な仕事になります。
重電・インフラ:案件ごとに価格が決まる
電力会社や鉄道会社、官公庁向けの設備は、案件ごとに仕様と価格が決まります。官公庁や公共性の高い案件では、競争入札で受注先が決まることも少なくありません。
一度納入した設備は数十年使われるため、保守や更新の仕事が同じメーカーに続きやすい構造です。長い付き合いの中で信頼を積み重ねることが、次の受注につながります。
医療機器・計測器:販売店と技術サービスが支える
医療機器は、医療機器の販売店を通じて病院に納入されることが多く、販売や貸与には薬機法に基づく許可や届出が必要です。計測器も、代理店や商社を通じて工場や研究所に届けられます。
どちらも、使い方の説明や校正、修理といった技術サービスが欠かせません。製品の性能だけでなく、販売後の支援の質が顧客に選ばれる理由になります。
こうして見ると、価格の決まり方は分野ごとに異なります。量産品は市場での競争、受注生産品は案件ごとの交渉や入札で決まり、販売後のサービスまで含めた総額で採算を考える分野ほど、メーカーの価格決定力は強くなりやすいと言えます。
利益構造:どこが儲かるのか

財務省の法人企業統計で業種別の売上高営業利益率を見ると、電機・精密機器に関わる業種は、製造業全体をやや上回る水準にあります。
精密機器を含む業務用機械の利益率が高くなっています。
※出典:財務省「年次別法人企業統計調査(令和6年度)」第4表。業務用機械には、医療用機械、光学機械、計測器などが含まれます。
2024年度は、医療用機械や光学機械を含む業務用機械が9.1%、電気機械が7.1%でした。同じ統計の2023年度は電気機械が4.1%で、年によって利益率が大きく動く点には注意が必要です。
電機・精密機器では、いわゆるスマイルカーブの考え方がよく当てはまります。組立そのものより、その前後にある開発・基幹部品と、販売後のサービスで利益が生まれやすいという見方です。
組立の前後に、利益を生みやすい領域があります。
企業の決算にも、この違いが表れています。三菱電機の2026年3月期のセグメント別営業利益率は、セミコンダクター・デバイスが16.6%、インフラが10.6%、家電などのライフが7.4%でした。
日立製作所は2026年3月期の調整後営業利益率(Adj. EBITA率)が12.4%でした。一方、パナソニックホールディングスは売上高8兆487億円に対して営業利益2,364億円(利益率は約2.9%、決算短信の数値から算出)と、同じ大手でも事業の組み合わせで収益力に差が出ます。
上場企業の集計でも、分野による差が見られます。業界動向サーチの集計では、電気機器業界の利益率が4.8%(2021〜2022年)、精密機器業界が7.4%(2022〜2023年)とされています。
精密機器の利益率が高いのは、医療機器や計測器のように、一台あたりの価格が高く、販売後の保守や消耗品で継続的に稼げる製品が多いためと考えられます。反対に、家電のように価格競争が激しい量産品は、利益率が低くなりやすい傾向があります。

業界構造の変化

電機・精密機器業界の構造は、この10年ほどで大きく変わりました。特に影響が大きい3つの変化を見ていきます。
消費者向け事業の売却と再編
東芝は2016年に白物家電事業を中国の美的集団に、医療機器の子会社をキヤノンに売却しました。同じ2016年には、シャープが台湾の鴻海精密工業の子会社になっています。
日立製作所も2026年4月の決算発表で、家電事業をノジマとの新会社に移す方針を示しました。消費者向けの事業が大手の手を離れ、担い手が入れ替わる流れは今も続いています。
インフラ・産業向けへの集中
大手は、手放した消費者向け事業の代わりに、エネルギーや産業向けの事業を強化してきました。日立製作所は2020年にスイスのABBの送配電事業を引き継ぐ形で日立ABBパワーグリッドを発足させ、2021年に日立エナジーへ社名を変えています。
日立製作所のエナジー部門の売上収益は2026年3月期に3兆2,199億円と、前期から23%増えました。成長の中心は企業向けのインフラ事業に移っていると言えます。
海外生産と国内拠点の役割の変化
量産品の多くは海外で生産されるようになり、国内の工場は高付加価値品や開発の拠点としての役割を強めています。シャープは2024年8月に堺の工場でテレビ向け液晶パネルの生産を終え、敷地はデータセンターなどに転用される予定です。
工場の閉鎖や転用は、そこで働く人や地域の取引先にも影響します。一方で、データセンターや電力設備のような新しい需要が、国内に新たな仕事を生んでいる面もあります。
業界構造から考えるキャリアの選び方

業界の構造を知っておくと、同じ電機・精密機器業界でも、どの立ち位置でどんな経験が積めるかを比べやすくなります。
どの階層で働くかによって、身につくスキルが変わります。
※同じ企業の中でも、事業部や職種によって経験できることは変わります。
完成品メーカーでは、製品全体を見渡す力が身につく一方で、担当する工程が細かく分かれがちです。部品メーカーや中堅企業では、一人が担う範囲が広く、早くから幅広い経験を積みやすいという良さがあります。
利益構造の視点では、保守・サービスや基幹部品のように、安定して利益を生む領域で経験を積むことも一つの考え方です。設備の据付や保守の経験は、設備保全や技術営業・FAEの仕事にも生かせます。
事業の売却や再編が多い業界だからこそ、会社の名前より、どんな技術や経験が身につくかを基準に考えることが大切です。ほかの会社や分野でも通用する経験を意識して選ぶと、キャリアの選択肢が広がります。
まとめ
- 電機・精密機器業界は、素材・部品から完成品、販売、保守までの多くの企業で成り立っている
- 家電は量販店、重電は案件ごとの受注、医療機器や計測器は販売店と技術サービスが商流の中心
- 法人企業統計では、業務用機械・電気機械の利益率が製造業全体を上回る
- 消費者向け事業の売却と、インフラ・産業向けへの集中で業界構造が変わった
- どの階層で働くかで積める経験が異なり、他社でも通用する経験を意識した選択が大切
業界の基本は電機・精密機器業界とはで、市場の大きさや伸びている分野は電機・精密機器業界の市場規模と動向で、主要企業の顔ぶれは電機・精密機器業界の主要企業と勢力図で解説しています。
関連する職種や技術の記事もあわせて、電機・精密機器の業種ページからご覧ください。
出典
- 業種別の営業利益率:財務省「年次別法人企業統計調査(令和6年度)」
- 業界別の利益率:業界動向サーチ「電気機器業界の動向、ランキング、現状など」、同「精密機器業界の動向や現状、ランキングなどを研究」
- 三菱電機のセグメント別業績:三菱電機「2026年3月期 決算説明会」
- 日立製作所の業績・家電事業の再編:日立製作所「2026年3月期 連結決算の概要」
- パナソニックHDの業績:パナソニック ホールディングス「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
- 事業売却・再編の経緯:Wikipedia「東芝」「シャープ」「日立エナジー」

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