「食品・医薬・日用品業界の市場規模」と聞くと、景気に左右されにくい、安定した市場を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
実際には、統計の取り方によって規模の見え方が大きく変わり、原材料高による値上げや輸出の拡大、医薬品の輸入増加など、ここ数年で市場の中身も動いています。
この記事では、食品・医薬・日用品業界の市場規模を、最新の統計、過去の推移、製品別の内訳、海外市場と輸出、主なトレンド、今後の見通しという順で整理します。
食品・医薬・日用品業界の市場規模

食品・医薬・日用品業界の市場規模は、1つの数字では表せません。食品、医薬品、化粧品・日用品で、それぞれ別の統計が使われているためです。
経済産業省の2024年経済構造実態調査によると、2023年の食料品製造業の製造品出荷額等は33兆39億円、飲料・たばこ・飼料製造業は10兆9,306億円です。食品関連だけで40兆円を超える規模になります。
同じ調査で、2023年の食料品製造業の付加価値額は10兆5,699億円、前年比3.3%増でした。出荷額に比べて付加価値額の伸びがやや小さいのは、原材料費の上昇分が大きかったためと考えられます。
医薬品は、厚生労働省の薬事工業生産動態統計で2024年の生産金額が10兆2,485億円でした。化粧品は、日本化粧品工業会がまとめた経済産業省生産動態統計ベースで、2025年の出荷金額が1兆3,907億円となっています。
洗剤やシャンプー、紙おむつといった日用品は、化学工業や紙製品など複数の統計に分かれて集計されます。そのため、日用品だけを切り出した公的な市場規模は把握しにくいのが実情です。
注意したいのは、統計ごとに数え方が違う点です。工場からの出荷額か、生産額か、企業の売上高合計かによって、同じ分野でも金額は変わります。数字を比べるときは、どの統計かを必ず確認しましょう。
分野ごとに、使われる統計と数え方が異なります。
※出典:経済産業省、農林水産省、厚生労働省、日本化粧品工業会。対象範囲が異なるため、単純に合計はできません。
この記事では、食品は経済産業省と農林水産省、医薬品は厚生労働省、化粧品は業界団体の数字を使い分けて説明します。いずれも国内でつくられた製品の金額で、輸入品は含まない点を前提として読み進めてください。
市場規模の推移

次に、過去数年の推移を見ていきます。食品は農林水産省の経済計算、医薬品は厚生労働省の統計で、どちらも長期の推移を確認できます。
コロナ禍で一度落ち込んだあと、2021年以降は増加が続いています。
※出典:農林水産省「食品産業をめぐる現状と情勢の変化」(2025年8月、農業・食料関連産業の経済計算より)。飲料を含む食品製造業の国内生産額。
食品はコロナ禍の落ち込みから値上げで拡大
食品製造業の国内生産額は、2020年に36.3兆円まで減ったあと、2023年には40.3兆円まで増えました。2020年は外食や観光の需要が落ち込み、業務用の食品が大きく影響を受けた年です。
2022年以降の増加は、原材料やエネルギーの高騰を受けた値上げによる部分が大きいと言えます。金額は伸びていても、つくる量が同じように増えているとは限らない点に注意が必要です。
医薬品は2021年を底に回復
2022年に大きく伸び、2023年には10兆円を超えました。
※出典:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報の概要」。2019年1月分から調査の対象範囲が変わったため、2018年以前とは比較できません。
医薬品の生産金額は2020年、2021年と2年続けて減り、2022年に前年比10.0%増と大きく回復しました。2024年は10兆2,485億円で、3年続けて前年を上回っています。
この統計は国内の工場でつくられた医薬品の金額です。海外で製造して輸入する薬は含まれないため、日本の医薬品市場全体の大きさとは一致しません。
医薬品の価格は国が定める薬価で決まり、定期的に引き下げられます。そのため、生産金額の伸びは新しい薬がどれだけ生まれるかに左右されやすいのが特徴です。
化粧品は3年連続のプラス
日本化粧品工業会によると、化粧品の出荷金額は2025年に前年比1.2%増の1兆3,907億円となり、2023年以降3年連続でプラス成長を続けています。
2025年の伸び率は1.2%と緩やかですが、増加が続いている点は押さえておきたいところです。化粧品は食品や医薬品に比べて規模は小さいものの、ブランドの力で付加価値を生みやすい分野と言えます。
需要先・製品別の内訳

市場の中身を見るには、誰が買っているか、どの製品が大きいかを確認するのが近道です。ここでは、統計で内訳を確認できる医薬品を中心に整理します。
医薬品の生産金額を種類別に見ると、2024年は医療用医薬品が9兆3,154億円で全体の90.9%を占めました。ドラッグストアで買える要指導医薬品・一般用医薬品は9,331億円、9.1%です。
つまり、医薬品の需要先の中心は病院や薬局であり、医療制度や薬価の動きが市場を大きく左右します。薬の効き目ごとの分類で見ると、次のような構成です。
糖尿病薬などを含む代謝性医薬品と、がんの治療に使う腫瘍用薬が上位です。
※出典:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報の概要」(2024年)。
上位の分類は、生活習慣病やがん、精神・神経の病気など、長く治療が続く分野の薬です。一方、ドラッグストアで買える一般用医薬品は、風邪薬や胃腸薬、湿布薬など身近な製品が中心で、医療用とは売り方も開発の進め方も異なります。
食品は、スーパーやコンビニで売られる家庭向けの商品と、外食や給食に使われる業務用の商品に大きく分かれます。化粧品や日用品は、ドラッグストアや通信販売など、売り場の広がりとともに需要先が多様になっています。
農林水産政策研究所の推計でも、生鮮食品より加工食品への支出が増える傾向が示されています。共働き世帯や単身世帯が増え、調理の手間を減らす冷凍食品や総菜の需要が伸びていることが背景にあります。
需要先によって、工場に求められることも変わります。家庭向けは多品種の包装とブランドの管理、業務用は大容量での安定供給と、取引先ごとの細かな仕様への対応が中心です。
海外市場と輸出

食品の輸出は、ここ数年で大きく伸びている分野です。農林水産省によると、2025年の農林水産物・食品の輸出額は1兆7,005億円で、13年連続で過去最高を更新しました。
輸出額はコロナ禍の2020年も前年を上回り、2021年には1兆円を超えました。国内の需要が伸びにくいなかで、輸出は数少ない量の成長余地となっています。
2019年からの6年間で、輸出額はおよそ2倍になりました。
※出典:農林水産省「2025年の農林水産物・食品の輸出実績」(財務省「貿易統計」をもとに作成)。水産物・林産物なども含みます。
このうち加工食品は2025年に5,725億円で、前年比7.2%増でした。農林水産物・食品全体の輸出先は米国が2,762億円で最も多く、香港、台湾、中国が続きます。ソース混合調味料やウイスキー、日本酒なども海外で売れる加工食品として存在感を増しています。
品目別では、ホタテ貝が906億円、牛肉が731億円、緑茶が721億円と大きく、緑茶は前年から98.2%増えました。海外での日本食の広がりが、輸出の追い風になっています。
一方、医薬品は輸入が輸出を大きく上回ります。2024年の医薬品の輸出金額は8,234億円だったのに対し、輸入金額は4兆2,567億円でした。海外で開発・製造された薬への依存が大きいのが、医薬品市場の特徴です。
ただし、大手製薬会社は海外で稼ぐ力を持っています。国内の工場から輸出するよりも、海外の子会社や提携先を通じて販売する形が中心です。
AnswersNewsの集計では、2026年3月期の売上収益に占める海外の比率は、武田薬品工業が90.4%、アステラス製薬が86.5%でした。国内の工場の生産金額だけでは、日本企業の実力は測れないという点も覚えておきたいところです。
市場を動かす主なトレンド

食品・医薬・日用品の市場は、需要そのものは安定していますが、コストや技術の面で大きな変化が起きています。特に影響が大きいのは次の4つです。
金額の伸びと、現場の働き方の両方に影響しています。
原材料高と値上げ
帝国データバンクの調査では、食品主要195社の値上げは2025年に2万609品目となり、2024年の1万2,520品目から64.6%増えました。値上げの理由は、原材料高が9割を超え、物流費や人件費も多く挙がっています。
同じ調査では、値上げ品目数は2023年に3万2,396品目と特に多く、2024年にいったん落ち着いたあと、2025年に再び増えています。値上げが一時的なものではなく、毎年のように続く状況になっていると言えます。
メーカーにとっては、値上げだけでなく、原価を下げる生産性の改善が同時に求められる状況です。
人手不足と自動化
食料品製造業の従業者数は2023年で約112万人と、製造業の中で最も多い業種です。盛り付けや箱詰めなど人手に頼る工程が多く、人手不足・省人化への対応が大きな課題になっています。
ロボットやAI・画像検査を使った自動化は、今後の設備投資の中心になると考えられます。
自動化は人の置き換えだけが目的ではありません。異物の見逃しや表示ミスを減らし、品質を安定させる効果も期待されています。
バイオ医薬品の拡大
医薬品では、抗体医薬などのバイオ医薬品の比重が高まっています。2024年の生産金額でも、生物学的製剤は7,139億円と上位に入りました。
バイオ医薬品は培養などの専用設備が必要なため、製造を専門の受託企業に任せる動きも広がっています。
人口減少と輸出
国内の人口が減るなかで、食品の消費量が長期的に減ることは避けられません。そのため各社は、健康や簡便さといった付加価値の高い商品と、海外市場の開拓に力を入れています。
輸出を伸ばすには、相手国の規制や表示ルールに合わせた生産体制が必要です。海外向けの認証を取得する工場も増えており、品質保証の仕事の幅が海外にも広がりつつあります。

今後の見通しとキャリアへの影響

農林水産政策研究所の推計(2019年版)では、2040年の食料支出総額は2015年を100として98とほぼ横ばいです。内訳を見ると、生鮮食品は75に減る一方、加工食品は111に増えると見込まれています。
政府は「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」で、2030年に輸出額5兆円という目標を掲げています。国内は加工度の高い商品へ、海外は輸出と現地展開へという流れは、今後も続くと考えられます。
医薬品は、薬価の引き下げが続くなかで、新薬とバイオ医薬品が成長を支える構図が続くと考えられます。国内で製造する力をどう高めるかは、業界全体の課題です。
伸びる職種
自動化の設備を計画・導入する生産技術や、止まらない工場を支える設備保全の需要は高まると考えられます。
医薬品では、バイオ医薬品の製法開発や技術移管、品質保証の経験者が求められやすくなっています。規制に沿って新しい工程を立ち上げられる人材は、どの会社でも不足しがちです。
加工食品や健康志向の商品が伸びるなかで、新しい処方や製法を生み出す研究開発の役割も大きくなります。開発と量産の両方がわかる人は、特に評価されやすいと言えます。
求められるスキル
共通して評価されやすいのは、衛生や品質の規制を理解したうえで、データを使って工程を改善できる力です。値上げが続くなかで、原価と品質の両方を数字で説明できることが強みになります。
輸出や海外拠点が増えれば、海外の規制や取引先とやり取りする機会も広がります。語学力は、技術職でも武器になると言えます。
化粧品や日用品のメーカーでは、処方開発と容器・充填の技術をあわせて持つ人材が重宝されます。分野を問わず、品質保証・品質管理の経験は、業界内で転職するときにも生かしやすい経験です。
まとめ
- 食品の出荷額は33兆円、医薬品の生産金額は10兆円を超える規模がある
- 統計によって出荷額・生産額など数え方が違い、規模の見え方が変わる
- 食品は値上げで金額が伸び、医薬品は2022年以降に回復している
- 食品の輸出は過去最高を更新する一方、医薬品は輸入が大きく上回る
- 自動化とバイオ医薬品への対応で、生産技術や品質保証の需要が高まる
業界の基本は食品・医薬・日用品業界とはで解説しています。あわせて、企業の階層や商流は食品・医薬・日用品業界の構造、大手企業の顔ぶれは主要企業と勢力図の記事で整理しています。
関連する記事は、食品・医薬・日用品の業種ページからもあわせてご覧ください。
出典
- 製造品出荷額等・従業者数:経済産業省「2024年経済構造実態調査 製造業事業所調査 結果の概要」
- 食品製造業の国内生産額・食料消費の将来推計:農林水産省「食品産業をめぐる現状と情勢の変化」(2025年8月)
- 医薬品生産金額・輸出入:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報の概要」、AnswersNews「【2026年版】国内製薬会社ランキング」(海外売上比率)
- 化粧品出荷金額:日本化粧品工業会「化粧品出荷」
- 食品の輸出額:農林水産省「2025年の農林水産物・食品の輸出実績」
- 食品の値上げ:帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査 ― 2025年通年/2026年見通し」

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