空気の温度を上げるのに必要な熱量は、空気の質量、比熱、温度差から求められます。設備でよく使う風量は体積の流量なので、入口の温度と圧力に合った密度を使って、まず質量流量へ換算することが計算の出発点です。
たとえば20℃の空気を毎分100m³取り込み、80℃まで加熱する場合、標準大気圧での理想的な顕熱負荷は約121kWです。同じ100m³/minでも空気の状態が違えば質量が変わるため、風量の数字だけを比べてヒーターの容量を決めることはできません。
空気の比熱とは?
比熱とは、物質1kgの温度を1K上げるために必要な熱量を表す物性値です。空気を室温付近で加熱する概算では、定圧比熱を約1.006kJ/(kg・K)と置くと、空気1kgを1℃上げるのに約1.006kJの熱が必要だと読み取れます。
温度差の1Kと1℃は同じ大きさなので、熱量計算の温度差にはどちらを使っても数値が一致します。ただし、後で説明する密度の計算では絶対温度が必要になり、20℃をそのまま20として式に入れることはできません。
定圧比熱と定容比熱の使い分け
気体の比熱には、圧力を一定にして加熱する定圧比熱と、体積を一定にして加熱する定容比熱があります。同じ温度上昇でも、定圧の加熱では気体の膨張に伴う仕事があるため、理想気体の定圧比熱は定容比熱より大きくなります。
ダクトを通り抜ける空気の加熱は、空気が持ち出すエンタルピーの増加として扱い、通常は定圧比熱を使います。密閉容器内の空気を固定した体積で加熱する問題とは条件が異なるので、単に「空気の比熱」と書かれた値を見つけたら、どちらの比熱なのかも確認します。
図1:同じ温度上昇でも、境界の動きによって必要な熱が変わる
断面の模式図。定圧ではおもりを持ち上げ、定容では丈夫なふたで体積を固定します。
← 図は横にスクロールできます →
※比熱の条件を理解するための図です。流れのあるヒーターの熱負荷には定圧比熱を使い、実際のダクト圧力損失とは分けて考えます。
比熱と似た言葉の熱容量は、対象物全体を1K上げるための熱量を表します。同じ空気でも1kgと100kgでは熱容量が100倍違う一方、同じ温度・組成での質量当たりの比熱は変わらないため、比熱の表を読むときには単位のkgを見落とさないことが大切です。
定圧比熱と定容比熱の関係は、比熱の種類と比熱比の解説で詳しく整理しています。ヒーターの計算では、まず対象が密閉された空気なのか、入口から出口へ流れる空気なのかを決めてから式を選びます。
比熱は温度で変わり、密度は基準圧力にも左右される
空気の定圧比熱は温度によって少しずつ変わるため、室温付近の値を高温までそのまま使うと誤差が増えます。八光電機の技術資料では、0℃で1.005、100℃で1.012、300℃で1.047、600℃で1.118kJ/(kg・K)という値が示されています。
20℃から80℃程度の予備検討であれば、代表比熱を一定とする近似から始められます。温度域が広い装置や保証性能を決める計算では、その温度域の平均比熱、または入口と出口の比エンタルピー差を使い、採用した物性値の出典と条件を記録します。
空気の密度は加熱すると小さくなり、同じ温度でも圧力が高ければ大きくなります。大気開放に近い設備の概算では、乾き空気を理想気体として次の式で求めると、密度表の基準圧力を取り違えるミスを防げます。
標準大気圧101.325kPaでの密度は、0℃で約1.293、20℃で約1.204、40℃で約1.127、60℃で約1.060、80℃で約1.000kg/m³です。旧記事の20℃・1.166kg/m³は98.07kPa基準のため、標準大気圧の値と区別します。
同じ質量の空気を同じ圧力で20℃から80℃へ上げると、体積は絶対温度の比で約1.205倍になります。入口100m³/minに対し出口は約120.5m³/minとなるため、入口風量と出口温度の密度を組み合わせて質量流量を計算すると、実際より小さな熱負荷を求めてしまいます。
図2:加熱で体積が増えても、通り抜ける空気の質量は同じ
同じ数の空気分子を青い点で表した概念図。乾き空気、同じ圧力、漏れなしの条件です。
← 図は横にスクロールできます →
※質量流量を求める風量と密度は同じ測定位置の条件でそろえます。標準状態へ換算済みの風量は、対応する標準密度で換算します。
空気の温度を上げるのに必要な熱量は?
流れる空気に必要な加熱能力は、1秒当たりの質量に比熱と温度差を掛けて求めます。ここで求めるのは空気が受け取る顕熱の熱量率であり、ヒーターの銘板電力や燃料消費量そのものではありません。
風量がm³/minで与えられるときは、60で割って秒当たりへ直すことで、答えがkJ/s、すなわちkWになります。質量流量をkg/hで計算しても構いませんが、その場合の熱量率はkJ/hとなるため、kWにするには最後に3600で割る必要があります。
実際の計算では、風量計の表示が実際の温度・圧力での体積なのか、標準状態へ換算した体積なのかを先に確かめます。標準体積の扱いはNm³とm³の違いでも解説していますが、単位の表記だけで基準温度まで決め付けず、計器の設定値を確認してください。
図3:ブロワから加熱器までの熱収支を切り取る
入口と出口で風量・温度の対応をそろえ、空気に渡る熱と外へ逃げる熱を分けます。
← 図は横にスクロールできます →
※標準大気圧・代表比熱1.006kJ/(kg・K)での概算です。ブロワによる温度上昇を含めるかは、入口温度の測定位置に合わせます。
例題:100m³/minの空気を20℃から80℃にする
旧記事の例題と同じく、ブロワで送る空気を20℃から80℃へ加熱する場合を考えます。最初は旧記事の密度1.166kg/m³を採用し、圧力98.07kPaでの条件として、質量流量と熱負荷を順番に求めます。

同じ入口風量と温度でも、圧力を標準大気圧101.325kPaにそろえると、密度は約1.2043kg/m³へ増えます。この場合の質量流量は約7226kg/hとなり、同じ比熱を使った加熱能力は約121.2kWになるので、密度の基準の違いだけで約3%の差が出ます。
図4:例題を解く順番は「状態→質量→熱量」
風量に先に比熱を掛けず、質量へ直す段階で密度の条件を確定します。
実風量100m³/minρ ≒ 1.2043kg/m³
kg/sへ直すṁ ≒ 2.0072kg/s
kJ/sがkWになるQ̇ ≒ 121.2kW
※運転1時間の積算熱量を求めるときは、この加熱能力に1時間を掛けます。約121.2kWhと約436,159kJは同じ熱量です。
比熱が変わるときは、比熱と温度を別々に掛けて引かない
温度による比熱の変化を考慮する場合、出口温度での比熱と温度の積から、入口温度での積を引く方法は使えません。比熱は温度上昇に対するエンタルピーの変化率なので、その温度範囲で積分するか、積分と同じ熱量になる平均比熱を使います。
旧記事の式では、6996×1.01×80−6996×1.006×20から424517.28という数値を求めていました。これは比熱の積分には相当せず、流量をkg/hで入れた答えの単位もkJ/hです。比熱を一定とする概算なら、上の例題のように質量流量×比熱×温度差で計算します。
今回の117.3kWと121.2kWは、代表比熱を1.006で一定とした概算値です。精密な平均比熱による補正値とは区別し、メーカーへ仕様を提示するときは温度・圧力・湿度・風量の基準と、必要な計算精度を合わせて伝えます。
熱量から電力・蒸気量・燃料量へ換算する
空気が受け取る熱が約121.2kWと分かっても、それだけで購入する電力や燃料の量が確定するわけではありません。電気抵抗加熱、蒸気コイル、燃焼加熱では、入力エネルギーが空気へ届くまでの経路と損失が異なるため、それぞれの有効なエネルギーで割り戻します。
蒸気がコイルで凝縮し、1kg当たり2100kJを有効に渡せると仮定すると、必要蒸気量は約208kg/hです。有効なエンタルピー差は供給圧力、凝縮水の出口状態、蒸気の乾き度や放熱で変わるため、実機の条件を確認して換算します。
図5:同じ空気の熱負荷を、使うユーティリティへ換算する
空気への熱量約436,159kJ/hを共通の出発点とした仮定の比較です。
← 表は横にスクロールできます →
| 熱源 | 換算に必要な条件 | この例の結果 |
|---|---|---|
| 電気抵抗ヒーター | 空気への有効熱/消費電力の比を仮に1とする | 約121.2kW |
| 蒸気コイル | 有効な比エンタルピー差2100kJ/kgと仮定 | 約208kg/h |
| 燃焼ヒーター | 低位発熱量40000kJ/m³N、熱効率90%と仮定 | 約12.1m³N/h |
※熱源の実測性能ではありません。電気の例は外部損失を無視し、蒸気と燃料の例は表の仮定条件だけで換算しています。送風機など補機の電力は別途必要です。
電気抵抗ヒーターでは、定常状態で外へ逃げる熱を無視できれば、空気への熱と電気入力を近い値として扱えます。一方、ヒートポンプは周囲などからくみ上げた熱も供給するため、消費電力の計算には加熱能力とCOPの関係が必要で、抵抗加熱と同じ換算にはなりません。
現場の見積もりで確認する順番
最初に最大風量と最も低い入口温度を確認し、必要な出口温度との差を求めます。通常運転の平均温度だけで容量を決めると、冬の外気導入時に昇温が追い付かないことがあるため、設計する運転条件と、実際によく使う運転条件を分けて残します。
次に、ヒーターを通る風量がそのまま外気量なのか、循環空気を含むのかを確認します。循環系ではヒーター入口の混合後温度を用い、既に温まった還気まで外気温度から加熱する計算にすると、同じ熱負荷を重ねて見積もる原因になります。
温度を上げるだけで水分の出入りがなければ、空気の絶対湿度は変わらず、相対湿度が下がります。加湿、乾燥対象からの蒸発、除湿や凝縮がある設備では、今回の乾き空気の顕熱計算に加えて水分の移動を含めた熱収支が必要で、湿度の基礎と湿り空気の扱いも確認します。
最後に、ダクトや外壁からの放熱、立ち上がり時に装置本体を温める熱、温度制御で確保したい応答性を見積もります。根拠なく一律に大きな余裕率を足すのではなく、定常負荷と起動負荷のどちらが容量を決めるのかを、メーカーの選定条件と照らし合わせて判断してください。
よくある質問
空気1m³を1℃上げる熱量は一定ですか?
温度と圧力で空気1m³の質量が変わるため、一定ではありません。20℃・101.325kPaで密度約1.204kg/m³、比熱1.006kJ/(kg・K)とすれば約1.21kJですが、標準状態や高温の実体積には、その条件に合う密度を使います。
温度差を計算するときも273.15を足しますか?
温度差では、両方の温度に同じ273.15を足しても差が変わらないため、80−20=60として計算できます。密度や体積比の計算に使う絶対温度と区別し、式が温度そのものを使うのか、温度差を使うのかを読み分けます。
約121.2kWで1時間運転すると何kJですか?
丸め前の加熱能力を使えば、1時間の熱量は約436,159kJ、電力量の単位では約121.2kWhです。kWは単位時間当たりの能力、kWhやkJは時間を掛けた積算量なので、設備容量と年間エネルギーの集計を混同しないようにします。
出口風量で計算してはいけませんか?
出口風量と出口密度を同じ条件でそろえれば、漏れや水分の増減がない定常流では同じ質量流量が得られます。入口と出口の風量が違うこと自体は異常ではなく、温度上昇で密度が下がった結果として体積流量が増える点を確認してください。
風量を半分にすれば熱負荷も半分ですか?
密度、比熱、温度差が同じなら、空気の顕熱負荷は風量に比例するので半分になります。ただし、実際の温度制御や最低通風量の制約、装置からの放熱まで半分になるとは限らないため、ヒーターの運転範囲と併せて確認します。
まとめ
空気の加熱計算は、入口の状態に合った密度で風量を質量へ直し、定圧比熱と温度差を掛けるのが基本です。100m³/minの空気を20℃から80℃にする例では、旧密度条件で約117.3kW、標準大気圧では約121.2kWとなり、同じ風量表示でも基準条件によって結果が変わります。
比熱の温度変化を厳密に扱う場合は平均比熱やエンタルピー差を使い、湿度や蒸発を含む設備では水分も含めた熱収支を取ります。空気以外の気体も、その気体の密度と比熱を使って同様に計算でき、損失や熱源の性能を加味して電力・蒸気・燃料の必要量へ換算します。
関連する空気設備の解説は空気の記事一覧にもまとめています。計算書には風量の基準、温度・圧力、採用した比熱、単位換算を残しておくと、運転条件を変更したときにも同じ手順で見直せます。
出典・参考資料
- 三菱重工冷熱「熱Pu-ton技術資料」:冊子17頁(PDF19頁)、風量・密度・比熱・温度差による加熱能力と乾き空気密度の算出式。
- 三菱重工「水素発電ハンドブック」:便覧49頁(PDF26頁)、空気の気体定数および定圧比熱の物性値。
- 八光電機「2026-27総合カタログ 技術資料」:19-5頁、各温度での空気の比熱。本文の密度はこの表を転載せず、明示した圧力条件で計算。
- NASA Glenn Research Center「Entropy of a Gas」:エンタルピーと定圧比熱の微分関係。比熱が温度で変化する場合は、この関係を温度で積分します。
NEWSLETTER
選んだ職種・業種に合わせた記事を、週1回メールで
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
職種・業種を選んで登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›

コメント