熱交換器の伝熱面積は、冷やしたい流体から取り去る熱と、その熱を壁ごしに渡す能力が等しくなるように計算します。必要な熱負荷、両流体の入口・出口温度、総括伝熱係数がそろえば、見積依頼前に面積の概算を求められます。
この記事では、90℃・1000kg/hの水を、20℃・2000kg/hの水で50℃まで冷やす旧記事の例を使います。仮定した係数と向流条件では必要面積は約0.86m²となり、面積が1.5m²と分かっている場合は出口温度を逆に求めます。
計算の順序は、熱負荷、冷却水の出口温度、対数平均温度差、伝熱面積です。ただし、伝熱面積だけで機器の選定が完了するわけではありません。係数の根拠や圧力損失、汚れの条件まで確認して、メーカーへ渡せる条件に整理します。
熱交換器の伝熱面積計算方法
ここで扱うのは、高温側と低温側の流体を金属壁で隔て、混ぜずに熱を移す間接式の熱交換器です。プレート式や多管式などで形状は違っても、流体の熱収支と、伝熱面を通過する熱の式を組み合わせる考え方は共通しています。
計算例では、水の比熱を4.19kJ/(kg・K)、Uも一定とし、沸騰や凝縮が起こらない定常運転を仮定します。外部への放熱を無視し、両流体が逆向きに流れる純向流として計算するため、高温側が失う熱と低温側が受け取る熱が一致します。
Step.1 冷却に必要な熱量を計算する
まず、高温水1000kg/hを90℃から50℃まで下げるために、1時間当たりどれだけ熱を取り去るかを求めます。質量流量に比熱と温度低下を掛ければよく、温度差の40℃は40Kと同じ大きさとして扱えます。
ここで求めた167600kJ/hは、機器がやり取りする熱の速さであり、単位がkJだけの熱量とは区別します。同じ条件で1時間運転した場合の移動熱量が167600kJとなり、以降の式でもQを熱流量として使って時間の単位をそろえます。
流量計の表示がm³/hの場合は、そのままこの式へ入れず、使用温度での密度からkg/hへ換算します。水以外の液体や温度変化が大きい場合は比熱を一定にできるか確認し、相変化を伴う場合は潜熱を含むエンタルピー差で計算します。
Step.2 冷却側の出口温度を計算する
外部へ逃げる熱を無視すると、高温水が失う167600kJ/hを、低温水2000kg/hが受け取ります。低温側の入口は20℃なので、同じ熱収支式を出口温度について解けば、低温水が何℃まで上がるかを求められます。
高温側は40K冷える一方、低温側は20K温まりますが、同じ比熱なら質量流量が2倍ある低温側の温度変化は半分なので、熱収支は一致します。入口温度だけを見て平均温度差を決めず、両出口温度まで求めてから次へ進みます。
Step.3 熱交換器の伝熱面積を計算する
次に、伝熱面を通過する熱を、総括伝熱係数U、面積A、対数平均温度差の積で表します。Uは旧記事のKと同じ意味の係数です。熱負荷QをUと対数平均温度差の積で割ると、仮定した条件で必要な面積を計算できます。
総括伝熱係数は水という物質だけで決まる定数ではなく、高温側と低温側の熱伝達、管やプレートの熱抵抗、汚れの抵抗などをまとめた値です。流速や粘度、流路形状が変われば、同じ組合せの流体でもUは変わります。
ここでは旧例との比較のため、Uを5000kJ/(m²・h・K)と仮定して計算します。これは約1389W/(m²・K)に相当し、水用熱交換器の保証値や一律の安全側の値ではありません。実機には、対象流体と運転条件に合った係数を使う必要があります。
対数平均温度差は、熱交換器の両端で異なる温度差を、熱の移動に対応する平均値にしたものです。向流では高温入口90℃と低温出口40℃、高温出口50℃と低温入口20℃を組にし、入口同士・出口同士の差ではない点に注意します。
今回の端差の算術平均は40Kですが、対数平均は約39.15Kとなります。詳しい定義や並流との違いは、対数平均温度差の計算方法で確認できます。実機が多パスや直交流の場合は、流路に応じた温度差補正や性能モデルを使います。
求めた熱負荷と温度差を面積の式へ入れると、約0.856m²、丸めて0.86m²となります。旧記事の対数平均温度差39℃を使っても、面積は同じく約0.86m²です。途中の値は桁を保ち、最後に実用上の桁へ丸めると、計算のずれを抑えられます。
計算した面積を選定条件にする前の確認
この0.86m²は、設定したUと純向流の温度条件を満たすモデル上の面積で、外形面積や設置床面積ではなく、熱を渡す有効な面を指します。管の内面積を使うUなのか、外面積を使うUなのかを合わせ、壁の両側を無条件に足して2倍にはしません。
実機では、許容圧力損失を満たす流路を決めると、流速や熱伝達率も変わります。面積を増やすために並列流路を増やした結果、流速が下がり、想定したUを維持できない場合もあります。面積の大小だけで性能を比較せず、流量と圧力損失をセットで確認します。
見積依頼には、両側の流体名・濃度・流量・入口出口温度に加え、運転圧力、許容圧力損失、汚れ、材質と清掃方法を伝えます。通常運転だけでなく最低流量や季節変動も示せば、同じ伝熱面積でも性能が変わる条件をメーカーと確認しやすくなります。
関連する計算は、プレート式熱交換器のU値、面積の表し方は相当放熱面積でも扱っています。電気ヒーターの出力と比べる場合は、ワット数と伝熱能力の関係を参照し、熱負荷の単位をそろえます。
伝熱面積が分かっている場合
既設の熱交換器でどこまで冷やせるかを知る場合は、入口条件を変えず、伝熱面積を1.5m²、Uを5000kJ/(m²・h・K)とします。今度は高温側出口Thと低温側出口Tcが未知数となり、二つの式から求めます。
一つ目は高温側と低温側の熱収支、二つ目は面積と温度差から決まる熱交換式です。面積が増えれば出口温度も変わるので、前の39.15Kを固定せず、各出口温度に対応する対数平均温度差をその都度計算します。
出口温度を一つ仮定して、熱の差をゼロにする
熱収支式①を整理すると低温側出口はTc=20+(90−Th)/2となるため、高温側出口を仮定すれば低温側出口も決まります。この二つの温度から端差と対数平均温度差を計算し、式②の左右が一致する高温側出口温度を求めます。
例えばThを38℃とすると、Tcは46℃で、端差は44Kと18Kになります。対数平均温度差は約29.089Kとなり、面積側の熱流量は約218165kJ/h、流体側は217880kJ/hです。この差をさらに小さくするようにThを調整します。
Excelなら、高温側出口温度を変更セルとし、低温側出口、端差、LMTD、二つの熱流量を式で連動させます。残差Rを「面積側の熱流量−流体側の熱流量」と定義し、ゴールシークでRを0にする設定にすれば、同じ計算を反復できます。
| 高温出口Th[℃] | 低温出口Tc[℃] | LMTD[K] | 残差R[kJ/h] |
|---|---|---|---|
| 35(仮定) | 47.5 | 26.4054 | −32410 |
| 38(仮定) | 46 | 29.0887 | +285 |
| 40(仮定) | 45 | 30.8288 | +21716 |
| 37.9735(収束) | 46.0132 | 29.0654 | 約0 |
この条件の解は、高温側出口約37.97℃、低温側出口約46.01℃です。熱交換量は約217991kJ/h、約60.55kWとなり、旧記事の38℃・46℃という答えと丸めの範囲で一致します。両方の熱収支と面積の式に戻して、同じ熱流量になることを確認します。
最初の面積計算では高温出口を50℃に指定しましたが、面積1.5m²の性能計算では出口温度を自由に求めています。同じ入口条件とUの仮定では、より多くの熱が移るため、高温出口が下がり、低温出口が上がります。制御弁などで熱負荷を制限する場合は、別途その条件を入れます。
低温側の出口が高温側の出口を上回ってもよいのか
向流では、今回のように低温出口46.01℃が高温出口37.97℃を上回る温度配置が可能です。この二つは装置の反対側の端にあり、同じ位置で低温流体の方が高くなっているわけではありません。両端では90−46.01と37.97−20がともに正です。
計算が収束しただけで出口温度が実現可能とは判断せず、端差が正か、熱収支が合うか、Uを一定とする仮定が妥当かを確認します。出口温度と流れ方の関係は、並流・向流のLMTDの解説とも照らし合わせてください。
よくある質問
伝熱面積は熱交換器のどこの面積ですか?
流体間で熱を渡す有効な壁面の面積で、装置の設置面積や外装の表面積ではありません。管の内面・外面など面積の基準とUの基準を一致させます。プレート式でも枚数から自己流で両面を二重計上せず、メーカーが示す有効伝熱面積を確認します。
水の熱交換器ならUは5000でよいですか?
本稿の5000は単位がkJ/(m²・h・K)の計算用の仮定値であり、水用機器の共通値ではありません。同じ水でも流速、流路、汚れで変化します。単位がW/(m²・K)の資料と数値だけを比較せず、想定する条件と係数の根拠をそろえます。
面積を2倍にすれば熱交換量も2倍になりますか?
入口条件が同じでも、熱交換量が増えると出口温度が変わり、温度差が小さくなるため、単純な比例にはなりません。流路数が変わればU自体も変化し得ます。既知面積の例と同様、熱収支と温度差を連動させて性能を計算します。
LMTDの二つの端差が同じなら計算できませんか?
式を直接計算すると0/0になりますが、対数平均温度差はその共通の温度差へ近づきます。同じ端差なら、その値を使います。一方、ゼロや負の端差が出た場合は同じ処理で済ませず、温度の対応、流れ方、設定した出口条件を見直します。
計算した0.86m²以上の機器なら選定できますか?
面積だけでは判断できず、実際のUと流路、圧力損失、材質、汚れなどの条件が必要です。メーカーへ両流体の運転条件を伝え、必要性能を満たす機種を選定します。余裕率も一律に決めず、清浄時と汚れを見込んだ性能を分けて確認します。
まとめ
伝熱面積の計算は、流体側の熱収支と、伝熱面を通る熱の式を一致させることが基本です。出口温度を指定して必要面積を求める場合と、既知面積から出口温度を求める場合で未知数が変わりますが、使う二つの関係は同じです。
- 熱負荷を質量流量・比熱・温度差から求め、QとUの時間単位をそろえる。
- 向流の端差からLMTDを求め、設例の仮定では必要面積は約0.86m²となる。
- 面積1.5m²の例では熱収支とLMTDを連立し、出口は約38℃・46℃となる。
- U、流路、汚れ、圧力損失まで確認して、面積の概算を機器の選定条件へつなげる。
基本式を理解しておくと、メーカーの計算書や見積条件で、何を固定し何を求めているかを確認できます。方式の違いは熱交換器の種類と伝熱能力、関連する解説は熱交換器の記事一覧から確認してください。
出典
- Alfa Laval「Calculation method」:熱負荷、伝熱面積、対数平均温度差、総括伝熱係数の関係。
- Alfa Laval「The theory behind heat transfer」:PDF4・6・7頁の温度差、熱抵抗、汚れと流速・圧力損失の考え方。
- Spirax Sarco「Heat Transfer」:総括伝熱係数、壁を通る伝熱、LMTDと計算条件。各社資料の個別の機種値は本稿の設例へ流用していません。
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