試作品をつくって試し、問題が見つかれば設計を直して、また試作する。この進め方では時間も費用もかかるため、コンピューター上で形や性能を確かめるCAD・CAEの役割が大きくなっています。
CADは図面や立体モデルをつくるソフト、CAEはその形で必要な性能を満たせるかを計算で確かめるソフトです。
開発期間の短縮や製品の複雑化、人手不足、DX(デジタル技術による仕事の見直し)の流れを受けて、試作や実験の一部を置き換える役割まで担うようになりました。
この記事では、CAD・CAEが注目される背景を、歴史と進化、従来の設計手法との違い、導入のメリット、課題と注意点という順で整理します。
CAD・CAEが注目される背景

CAD・CAEへの関心が高まっている背景には、製造業を取り巻く環境の変化があります。ここでは主な4つの要因を見ていきます。
いずれも、試作や経験に頼った開発を見直すきっかけになっています。
開発期間の短縮
市場の変化が速くなり、製品の開発にかけられる期間は短くなる傾向にあります。従来のように試作品をつくって試験し、不具合が見つかれば設計を直して再び試作する、という進め方では時間もコストもかかります。
特に金型を使う製品では、金型をつくってから形状の問題が見つかると、金型の修正に多くの時間と費用がかかります。量産の立ち上げを遅らせないためにも、形状を早い段階で固めることが求められています。
CAEを使えば、試作の前にコンピューター上で問題点を洗い出せます。試作と試験の回数を減らし、開発期間を短くできることが、CAD・CAEが重視される最大の理由と言えます。
製品の複雑化と品質要求
自動車の電動化に代表されるように、製品には機械・電気・ソフトウェアの要素が複雑に組み合わさるようになりました。強度だけでなく、熱や振動、電磁的な影響まで、確かめるべき項目は増える一方です。
こうした項目をすべて実物の試験で確かめるのは現実的ではありません。起こりうる条件を網羅的に計算で確かめられるCAEは、品質を確保するための手段としても欠かせなくなっています。
特に自動車業界では、衝突安全や電池の熱管理など、人命や安全に関わる評価項目が多く、解析の活用が早くから進んできた分野です。
人手不足と技術伝承
製造業では、設計や解析の経験を持つベテランの退職が進み、人材の確保が課題になっています。「この形状なら割れない」といった判断が、個人の勘や経験に頼っている職場も少なくありません。
3Dモデルや解析結果として設計の根拠を残しておけば、経験の浅い技術者でも判断の理由をたどれるようになります。人手不足への対応については人手不足・省人化のページでも取り上げています。
DXとデータ連携
製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)では、設計データを起点に、製造・検査・保守までを一貫したデータでつなぐことが目指されています。現実の設備や製品をデジタル上に再現する「デジタルツイン」も、その延長にある考え方です。
矢野経済研究所の調査によると、国内のCAD/EDA市場は2024年度に2,308億3,900万円(前年度比105.4%)でした。2025年度には2,435億9,000万円への拡大が予測されています。
同調査は、DXの広がりにより部分最適から全体最適へのシフトが進んでいると指摘しています。
一方で、2020年版ものづくり白書で紹介された調査(2019年実施)では、3D CADを活用した設計を行う企業は全体の2割弱にとどまっていました。3D化とデータ連携には、まだ伸びしろが大きいことも、注目が集まる理由の一つです。
CAD・CAEの歴史と進化

CAD・CAEは、1960年代に大型コンピューターの上で生まれ、コンピューターの進化とともに設計の現場に広がってきました。大きく3つの時代に分けて見てみましょう。
誕生期、普及期、統合期の3つの段階に分かれます。
※年は代表的な出来事の目安です。国や業界によって普及の時期は異なります。
誕生期:大型コンピューターの時代
CADの起点とされるのが、1963年にI.E.サザランドが発表した「Sketchpad」です。画面上にペンで図形を描き、コンピューターで扱えることを示しました。
同じ1963年には米国の自動車メーカーが設計用システム「DAC-1」を開発しています。
CAEの分野では、1960年代後半にNASAの資金で航空宇宙産業向けの有限要素解析プログラム「NASTRAN」が開発されました。当時の利用は、高価な大型コンピューターを持つ航空機や自動車の大手企業に限られていました。
普及期:製図の電子化
1967年には航空機メーカーのロッキード社が2D CAD「CADAM」を開発し、製図作業の電子化が進みます。1981年には、異なるCAD同士でデータを受け渡すための規格IGESが米国で制定されました。
その後、コンピューターの性能向上と低価格化によって、CADは大手企業だけでなく中小の設計現場にも広がっていきます。手描きの製図板が2D CADに置き換わったのがこの時期の大きな変化です。
統合期:3D化とデータの一貫活用
やがて3D CADが設計の中心になり、同じモデルをCAEやCAMにそのまま渡せるようになりました。解析ソフトも設計者が扱いやすいものが増え、専任者だけでなく設計者自身が解析する場面も広がっています。
現在は、モデルを使って開発を進めるMBDや、デジタルツインのように、設計データを製品のライフサイクル全体で生かす段階です。近年は生成AIを設計の支援に使う試みも始まっています。
こうして振り返ると、CAD・CAEは「図面を描く道具」から「開発の進め方そのものを支える仕組み」へと役割を広げてきたことがわかります。
国内でも、自動車や電機、航空機などの大手メーカーが先行し、部品メーカーや中小企業へと裾野が広がってきました。
従来技術との違い

CAD・CAEは、手描きの図面と実物の試作・実験を中心とした従来の設計手法を置き換え、補ってきました。主な違いを整理すると次のようになります。
形の表し方と、性能の確かめ方が大きく変わりました。
※CAEは実験を完全になくすものではなく、実験の回数と手戻りを減らすためのものです。
手描き・2D図面との違い
手描きや2D CADの図面は、立体を正面・上面・側面などの平面に分けて表します。形を正しく読み取るには図面を読む訓練が必要で、図面同士の食い違いも起こりやすいものでした。
3D CADでは立体そのものをデータとして持つため、どの方向からでも形を確認できます。部品同士の干渉や組み立てられない形状を、画面上で見つけられる点が大きな違いです。
試作・実験中心の開発との違い
従来は、試作品をつくって壊れるまで荷重をかける、実際に温度を測るといった実験で性能を確かめていました。確実な方法ですが、試作品の製作に時間と費用がかかり、不具合が見つかるたびに手戻りが発生します。
CAEでは、形状や材料を変えた複数の案を短時間で比べられます。実験は最終確認に絞り、検討の多くを計算で行うのが、CAEを取り入れた開発の姿です。
経験と勘に頼った判断との違い
「このくらいの肉厚なら大丈夫」という判断は、ベテランの経験に支えられてきました。ただ、その根拠は本人の頭の中にあり、他の人が検証したり引き継いだりするのは簡単ではありません。
CAEでは、応力や温度の分布という形で判断の根拠が数値と図で残ります。設計の理由を説明できることは、社内の審査や顧客への説明でも強みになります。
なお、CAD・CAEは従来の手法を否定するものではありません。図面を読む力や実験で確かめる姿勢、ベテランの経験は、解析の条件を決めたり結果を評価したりするうえで、今も欠かせない土台になっています。
CAD・CAEのメリット

CAD・CAEを取り入れて得られる効果はさまざまです。経済産業省中国経済産業局が令和4年度に実施した調査をまとめた事例集では、MBDやCAEなどを導入した効果として次の項目が挙げられています。
不具合の減少や開発期間の短縮を挙げる声が多くなっています。
※出典:経済産業省中国経済産業局「MBD/CAE等の導入・活用の手引き・事例集」。複数回答。
数字からも、品質と開発スピードの両面で効果を実感している企業が多いことがうかがえます。実務の面では、次の3つのメリットが特に大きいと言えます。
試作回数と開発期間を減らせる
CAEで設計の問題点を事前につぶしておけば、試作の回数そのものを減らせます。試作に必要な材料費や加工費、試験にかかる時間が減り、開発期間の短縮につながります。
上の調査でも、開発期間の短期化を効果に挙げた割合は64.0%でした。試作1回あたりの費用が大きい製品ほど、効果は大きくなりやすいと言えます。
不具合を早い段階で見つけられる
不具合は、見つかる段階が後になるほど手直しの費用が大きくなります。金型をつくったあとや量産が始まってからの設計変更は、大きな損失になりかねません。
3D CADによる干渉チェックやCAEによる強度・熱の確認で、問題を設計段階のうちに見つけられることは大きなメリットです。調査で不具合の減少を挙げた割合が80.0%と最も高いのも、この効果によるものと考えられます。
情報を共有しやすくなる
3Dモデルは、図面を読み慣れていない人にも形が伝わります。営業や製造現場、取引先との打ち合わせでも、同じモデルを見ながら話を進められます。
生産技術部門が組立手順や治具を検討したり、購買部門が見積もりを依頼したりと、設計データを社内外で使い回せるのも3D化の利点です。
これら3つのメリットは互いにつながっています。情報が共有されることで不具合が早く見つかり、その結果として試作や手戻りが減るという流れです。効果を最大にするには、設計部門だけでなく関係部署を巻き込んで使うことが大切です。
CAD・CAEの課題と導入時の注意点

メリットの大きいCAD・CAEですが、導入すればすぐに成果が出るわけではありません。導入前に知っておきたい課題を3つ挙げます。
導入・維持のコスト
3D CADやCAEのソフトはライセンス費用が高額になりやすく、高性能なコンピューターも必要です。多くの場合、年ごとの保守費用やサブスクリプション費用もかかります。
特に中小企業では、費用に見合う効果が出るかの判断が難しいのが実情です。まずは効果の出やすい製品や工程に絞って導入するなど、段階的に進める方法が現実的です。
使いこなせる人材の育成
CAD・CAEは、ソフトの操作を覚えるだけでは十分に使いこなせません。特にCAEでは、材料力学や熱力学などの知識がないと、条件を正しく設定したり結果の妥当性を判断したりできません。
解析結果を鵜呑みにせず、実験や経験と照らして評価できる人材をどう育てるかが、導入の成否を分けます。社内での教育に加え、ソフトの販売会社や公設試験研究機関の講習を活用する企業もあります。
また、設計者が簡易的な解析を行い、複雑な解析は専任者に任せるといった役割分担を決めておくことも大切です。すべてを1人で抱え込まず、解析の難しさに応じて担当を分けることで、人材が限られていても活用を続けやすくなります。
データ連携と運用ルール
2020年版ものづくり白書で紹介された調査(2019年実施)では、協力企業への設計指示の半数以上がまだ図面で行われていました。社内で3D化しても、取引先とのやり取りが図面のままでは、データ連携の効果は限られます。
ソフトの違いによるデータ変換の不具合や、版の管理の混乱も起こりがちです。データの形式や管理のルールを、導入と同時に決めておくことが大切です。
まとめ
- 開発期間の短縮、製品の複雑化、人手不足、DXがCAD・CAEが注目される背景
- 1960年代に生まれ、2D CADの普及を経て、3D化とデータ連携の段階に入っている
- 従来の図面と試作中心の開発に比べ、設計の早い段階で問題を見つけられる
- 試作回数の削減、不具合の早期発見、情報共有のしやすさが主なメリット
- 導入コスト、人材育成、データ連携の運用ルールが導入時の課題になる
CAD・CAEの仕組みや原理についてはCAD・CAEとは?仕組みと基本原理で、業界ごとの使われ方はCAD・CAEの主な用途と導入事例で解説しています。
設計データを製造現場につなぐ取り組みはスマートファクトリー・IoTとも関係が深いテーマです。
CAD・CAEに関する最新の動向や関連記事については、CAD・CAEの技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
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