機械設計は、製品に求められる性能や条件を確かめ、どんな仕組みと形にするかを考えるところから始まります。そこから部品一つひとつの形と材料を決め、試作品で確かめ、量産に引き継いで、量産後のフォローまで続きます。
図面はCAD(コンピューターで図面を描くソフト)で描きますが、その前後にも多くの工程があります。試作品の評価で問題が見つかれば、細部の設計や最初の構想に戻ることもあり、この「戻り」をいかに少なくするかが腕の見せどころです。
この記事では、機械設計の仕事の流れを、構想段階、詳細設計の段階、試作から量産までの段階に分け、各工程で使う道具や関わる人、つまずきやすい点という順で整理します。
機械設計の仕事の全体像
機械設計の仕事は、製品や装置の種類が違っても、大まかには次のような流れで進みます。
要求仕様の確認 → 構想設計 → デザインレビュー → 詳細設計 → 計算・解析 → 図面作成・出図 → 試作・評価 → 量産移行 → 量産後のフォロー
構想、詳細設計、試作・量産の3つの段階に分かれます。
※工程の呼び方や区切り方は、会社や製品によって異なります。
実際には一方通行ではなく、評価で問題が見つかれば詳細設計や構想に戻ることもあります。「戻り」をいかに少なくするかが、設計の進め方の腕の見せどころです。
どの工程にどれだけ関わるかは、会社や立場によって変わります。若手のうちは詳細設計と図面作成を中心に担当し、経験を積むにつれて構想段階や全体のとりまとめを任されるようになるのが一般的な流れです。
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)でも、機械設計技術者の仕事は、顧客の要望の確認から基本仕様の策定、試作による検証を経て、量産用の図面を作成するまでとして紹介されています。順に見ていきます。
構想段階
構想段階は、何をつくるのかを決める段階です。図面の枚数はまだ少ないものの、ここでの判断が製品の性能やコストの大部分を左右します。
関わる人は、設計部門の上司や先輩に加え、商品企画、営業、生産技術、品質保証などです。構想段階から関係部署を巻き込んでおくほど、後の工程はスムーズに進みます。
要求仕様の確認
最初の仕事は、顧客や商品企画、営業から届いた要望を読み解き、設計の前提となる要求仕様にまとめることです。確認する主な項目は次のとおりで、できるだけ数値で確認していきます。
- 大きさ
- 重さ
- 処理能力
- 使用環境
- 目標コスト
- 納期など
使うのは、顧客からの仕様書や企画書、過去の類似製品の資料です。受注生産の装置メーカーでは、営業と一緒に顧客を訪ね、実際の設置場所や作業の様子を確認することもあります。
確認した内容は仕様書として文書にまとめ、顧客や企画部門の承認を得ておきます。口頭のやり取りだけで進めると、後から「言った・言わない」の食い違いが起きやすくなるためです。
よくある失敗は、あいまいな要望をそのまま受け取ってしまうことです。「なるべく速く」「コンパクトに」といった言葉を、数値に置き換えて合意しておくことが、後の手戻りを防ぎます。
構想設計
要求仕様が固まったら、どんな方式で機能を実現するかを考え、全体の構造や主要な部品の配置を決めます。スケッチや簡単な3Dモデル、概算の計算書を使って複数の案を出し、性能やコスト、つくりやすさを比べます。
モーターや軸受、減速機などの購入品を何にするかも、この段階でおおむね決めます。部品メーカーのカタログや選定ツールを使い、必要な能力と価格、手に入りやすさを確かめます。
新しい方式に挑戦するほど、見えないリスクも増えます。過去の不具合事例を調べ、懸念のある部分は早めに簡単な試作や実験で確かめておくのが確実です。
構想の結果は、構想図や仕様書、概算のコスト表としてまとめます。この段階で目標値を部品やユニットごとに割り振っておくと、詳細設計に入ってから各担当者が判断に迷わずに済みます。
詳細設計に入る前に、少なくともこの3点を固めておきます。
デザインレビュー
構想がまとまったら、デザインレビュー(DR)と呼ばれる審査を行います。設計部門の上司やベテランに加え、生産技術、品質保証、購買、営業など関係部署が集まり、構想に問題がないかを確認します。
指摘された事項は一覧にまとめ、誰がいつまでに対応するかを決めて管理します。DRは構想段階だけでなく、詳細設計の完了時や試作評価の後など、節目ごとに行うのが一般的です。
若手のうちは指摘を受けると身構えてしまいがちですが、DRは自分では気づけない問題を、安いうちに見つけてもらう場です。指摘が多いほど、後工程でのトラブルは減ると考えるのがよいでしょう。
詳細設計の段階
構想が承認されたら、部品一つひとつを具体的な形に落とし込む詳細設計に入ります。設計者が最も長い時間をかけるのが、この段階です。
規模の大きな製品では、ユニットごとに担当者を分けて並行して設計を進めます。担当同士の取合い部分の寸法や位置は、あらかじめ決めておいたルールに沿って調整していきます。
詳細設計
3D CADを使って部品の形状をつくり、組み合わせて全体のモデルを完成させます。部品同士がぶつからないか、工具が入って組み立てられるか、メンテナンスで部品を外せるかも、モデル上で確認していきます。
材料の選定もこの工程の重要な仕事です。強度や重さ、錆びにくさ、加工のしやすさ、価格を比べ、鉄やステンレス、アルミ、樹脂などから選びます。ねじやベアリングなどの標準部品は、JIS規格品や社内の標準品を優先して使うのが基本です。
設計データは、社内のデータ管理システム(PDM)に登録して管理するのが一般的です。最新版のデータがどれかを常に明確にしておくことが、チームで設計を進める際の前提になります。
よくある失敗は、形だけを追いかけて加工方法を考えずに設計してしまうことです。どの機械で、どう削るか・曲げるかまで想像しながら形を決めることで、コストも品質も安定します。
計算・解析
形状が決まってきたら、部品が壊れないか、たわみすぎないかを計算で確かめます。軸の強度やボルトの締結力、ばねの特性、モーターの必要トルクなどは、材料力学や機械力学の知識を使った手計算が基本です。
形状が複雑な部品や、熱・振動が問題になる部分は、CAEで解析します。解析結果は条件の置き方で大きく変わるため、先輩や解析の専門部署に確認してもらいながら進めるのが安全です。
計算書は、なぜその寸法・材料にしたのかを示す根拠になります。後から誰が見てもわかる形で計算の過程を残しておくことが、設計変更やトラブル対応の場面で自分を助けてくれます。
図面作成・出図
設計が固まったら、部品図と組立図を作成します。寸法に加えて、公差、幾何公差、表面粗さ、熱処理や表面処理、材料などを、JISの製図規則に沿って書き込みます。
図面は上司や検図担当者のチェック(検図)を経て承認され、正式に関係部署へ渡されます。これを出図と呼びます。部品表(BOM)もあわせて作成し、購買部門や製造部門が部品を手配できるようにします。
製図のルールは、日本産業規格(JIS)で定められています。国家検定である技能検定にも「機械・プラント製図」の職種があり、機械製図CAD作業と手書き作業の区分で製図の技能を確かめることができます。
形だけでなく、つくり方や品質の条件も図面で伝えます。
出図の遅れは、そのまま部品の調達や試作の遅れにつながります。検図で差し戻されることも見込んで、余裕をもった日程で図面を仕上げることが大切です。
よくある失敗は、寸法の記入漏れや、公差の指定が厳しすぎることです。必要以上に厳しい公差は、加工費を大きく押し上げる原因になるため、機能に必要な精度を見極めて指定します。
試作・評価から量産まで
出図した図面をもとに実物をつくり、狙いどおりの製品になっているかを確かめる段階です。問題を一つずつつぶし、工場で安定してつくれる状態に仕上げていきます。
試作・評価
図面は社内の試作部門や外部の加工会社に渡され、試作品がつくられます。設計者は部品が届いたら寸法を確認し、組み立てに立ち会って、組み付けにくい箇所や部品同士の干渉がないかを見ていきます。
組み上がった試作品では、性能試験や耐久試験、振動・温度などの環境試験を行います。評価の計画書をつくり、どの条件で何を測り、どうなれば合格かをあらかじめ決めておくのが基本です。
評価の結果は報告書にまとめ、次のDRで関係部署と共有します。試験の条件や測定データを残しておくと、量産後に不具合が起きたときにも原因を調べる手がかりになります。
評価で問題が出るのは失敗ではなく、試作の本来の目的です。原因を突き止めて設計を直し、再評価で効果を確かめるという流れを、目標を満たすまで繰り返します。
量産移行
試作で目標を満たしたら、量産に向けた準備に入ります。生産技術部門が工程や設備、治具を整え、品質保証部門が検査の方法と基準を決めていきます。
設計者は、図面の意図を生産技術や品質保証に説明し、質問に答えながら準備を支えます。検査で重点的に見るべき寸法を伝えておくことも、量産の品質を守るうえで大切です。
一枚の図面が、多くの部署や取引先で使われていきます。
※量産中に見つかった問題は、設計変更として設計に戻ってきます。
この段階では、量産試作で工場のラインを実際に動かし、図面どおりの品質で、狙ったペースでつくれるかを確かめます。つくりにくい箇所が見つかれば、生産技術と相談して図面を修正することもあります。
量産移行で見つかる問題の多くは、つくりやすさへの配慮不足から生まれます。設計の早い段階から生産技術の意見を取り入れておくと、この段階の修正は少なくて済みます。
量産後のフォロー
量産が始まっても、設計者の仕事は続きます。主に次のような対応です。
- 市場や工場で見つかった不具合の原因調査と対策
- コストダウンの提案
- 部品の生産終了に伴う代替品への切り替え
不具合の調査では、現物を工場や顧客先で確認し、図面・計算書・評価の記録を見直して原因を探ります。設計段階の記録がしっかり残っているほど、原因の特定は早くなります。
図面を変えるときは、設計変更の手続きに沿って、変更の理由と影響範囲を関係部署に知らせます。変更の履歴を正しく管理しないと、古い図面で部品がつくられるといった事故につながります。
量産後に集まった不具合や要望の情報は、次の製品の要求仕様に生かされます。こうして一つの製品の流れが、次の開発の出発点になっていきます。
業界・会社による違い
ここまでの流れは多くの会社で共通していますが、何をつくるか、会社の規模がどれくらいかによって、それぞれの工程の重さや進め方は変わります。
つくる台数と顧客の違いが、仕事の流れを大きく変えます。
※同じ会社の中でも、製品によって両方の進め方が混在することがあります。
量産品と受注生産の違い
自動車や家電、機械要素・部品のような量産品では、同じ製品を大量につくるため、試作と評価を何度も繰り返して完成度を高めます。わずかなコスト差が生産台数分だけ積み上がるので、部品1点ごとの原価にも厳しい目が向けられます。
一方、産業機械やFAの専用機・生産設備のような受注生産では、一台ごとに仕様が異なり、実機がそのまま納入品になることも少なくありません。構想段階で顧客の要望を正確につかめるかどうかが、案件の成否を大きく左右します。
受注生産では、納入先の工場で装置を据え付けて動かす立ち上げまで、設計者が立ち会うこともよくあります。現地で見つかった問題をその場で判断し、改造の指示を出すのも設計者の役割です。
大手と中小の違い
大手メーカーでは、構想、詳細設計、解析、評価などの工程ごとに担当者や専門部署が分かれていることが多く、一人の設計者が担当するのは流れの一部になります。その分、一つの工程について深い専門性を身につけやすい環境です。
中小企業では、一人の設計者が要求仕様の確認から出図、試作の立ち会いまで一通り担当することもよくあります。早くから流れ全体を経験できる反面、確認や調整を自分で抱える場面が多くなります。
設計会社・技術派遣の場合
設計業務を請け負う設計会社や、技術者を派遣する会社で働く場合は、顧客企業の流れの一部を担当することになります。詳細設計と図面作成を任される案件が多い一方、構想段階から参加する案件もあります。
顧客によって使うCADや図面のルールが異なるため、それぞれの社内ルールに素早く合わせる力が求められます。さまざまな製品や会社の進め方を経験できるのは、この働き方ならではの利点です。
どの環境で働く場合でも、流れ全体を意識して自分の担当工程を進めることが大切です。前後の工程で何が起きるかを知っているほど、手戻りの少ない設計ができるようになります。
まとめ
- 機械設計の仕事は、構想段階・詳細設計・試作から量産の3段階で進む
- 構想段階では要求仕様を数値で固め、DRで関係部署の目を入れる
- 詳細設計では加工方法を意識して形を決め、計算の根拠と図面を残す
- 試作・評価で問題をつぶし、量産移行後も設計変更で製品を支える
- 量産品か受注生産か、大手か中小かで各工程の比重は大きく変わる
機械設計という職種の全体像は機械設計とは?仕事内容・役割・他職種との違いで、身につけたいスキルや資格、キャリアの描き方は機械設計に必要なスキル・資格とキャリアパスで詳しく解説しています。
機械設計の働き方や求人動向については、機械設計の職種ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(2件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 機械設計技術者の仕事内容:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「機械設計技術者」
- 機械製図の技能検定:中央職業能力開発協会「機械・プラント製図技能検定(機械製図CAD作業)」
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