フラッシュタンクとは?仕組み・設置目的と蒸気回収量の計算、背圧の注意点

工場の蒸気回収系統に設置された縦型フラッシュタンク

フラッシュタンクは、高温の凝縮水を低い圧力へ落としたときに生じる蒸気と、残った液体を分離するタンクです。上部からフラッシュ蒸気を回収し、低圧の加熱工程などへ送ることで、捨てていた熱を再利用します。

省エネ効果を得るには、高温ドレンが出るだけでなく、その時間帯に低圧蒸気を使う先が必要です。タンクを付けるだけで燃料費が下がるとは限らず、回収量と需要、排水側の背圧を一緒に確認します。

目次

フラッシュタンクとは

蒸気を熱源にした加熱では、蒸気は熱を渡してドレンと呼ばれる凝縮水になります。高い圧力のもとで高温を保っていたドレンを低圧へ放出すると、その低圧での飽和温度まで下がる過程で、一部が再び蒸気になります。

この再蒸発した蒸気がフラッシュ蒸気であり、新たに燃料で加熱して作る蒸気ではありません。ドレンが持っていた熱の一部を、低圧蒸気として取り出すと考えると、回収の役割が分かりやすくなります。

図1:高温ドレンから、蒸気と液体を分けて回収する

上部は低圧蒸気の利用先へ、底部は残ったドレンの回収先へ接続します。

高圧の加熱器トラップ低圧の加熱工程回収蒸気を使う気液を分離残ったドレンフラッシュ蒸気入口は高温ドレン+発生した蒸気の二相流

基本の熱回収経路を示す概念図です。圧力制御・安全装置・底部トラップ等の付帯機器は図3で確認します。

タンクでは流れを緩め、蒸気を上部へ、液体を底部へ分けて取り出します。配管の減圧部分でもフラッシュは始まるため、タンク入口に液体だけが流れ込むと考えず、蒸気を含む流れとして扱います。

本体は比較的単純でも、圧力が一定になる仕組みまでタンク自身が備えているとは限りません。上部の蒸気を使う量と発生する量の釣り合い、必要な制御機器によって、実際の運転圧力が決まります。

ドレンタンク・減圧弁・減温注水との違い

一般的なドレンタンクは、戻ってきた凝縮水を受けて一時的にためることが主な役割です。フラッシュタンクは、その凝縮水から発生する蒸気を利用できる圧力で分離・回収する点に重点があります。

減圧弁は供給蒸気の圧力を下げ、減温注水は過熱蒸気へ水を加えて温度を下げるために使います。フラッシュタンクはドレンの再蒸発を扱うので、減温注水の目的と計算とは入口の流体も熱の収支も異なります。

フラッシュ蒸気量はエンタルピー差で計算する

定常状態で熱損失と運動・位置エネルギーの変化を無視し、入口ドレンのエンタルピーが出口の飽和水と飽和蒸気へ分配されると考えます。入口が過冷却水なら、入口の実温度・圧力に対応した値を使います。

この式は、入口の比エンタルピーが回収圧力の飽和水より高く、再蒸発して気液が共存する条件に適用します。入口の値が飽和水以下なら再蒸発は起こらないため、計算で負になった割合を蒸気量として使いません。

フラッシュする質量割合と蒸気流量

x = hin − hfhfg
Gs = Gdx

x:再蒸発する質量割合[無次元] hin:入口ドレンの比エンタルピー[kJ/kg] hf:回収圧力の飽和水の比エンタルピー[kJ/kg] hfg:同圧力の蒸発潜熱[kJ/kg] Gd:入口ドレン流量[kg/h] Gs:フラッシュ蒸気流量[kg/h]。

例として、0.7MPaGの飽和ドレンを0.1MPaGで回収する条件を考えます。Spirax Sarcoの解説に示された丸め値を用い、入口721kJ/kg、出口飽和水505kJ/kg、蒸発潜熱2,201kJ/kgとします。

ドレン流量を仮に1,000kg/hとすると、計算上のフラッシュ蒸気は約98kg/hになります。残り約902kg/hは液体として底部へ向かうため、蒸気だけでなく残ったドレンを回収する経路も必要です。

数値を入れた計算例

x = 721 − 5052,201 = 0.09814 ≒ 9.81%
Gs = 1,000 × 0.09814 = 約98.1kg/h
Gl = 1,000 − 98.1 = 約901.9kg/h

Gl:残る液体流量[kg/h]。MPaGは大気圧を基準にしたゲージ圧力です。0.7MPaG=7bar g、0.1MPaG=1bar g。蒸気表の絶対圧力欄と混同しないでください。

図2:蒸気になるのは、入口ドレンの一部

計算例の質量収支です。蒸気と水の体積割合を表した図ではありません。

入口:1,000kg/h蒸気:約98.1kg/h(9.81%)液体:約901.9kg/h(90.19%)残る液体も熱を持っている

蒸気は同じ質量の液体より大きな体積を占めるため、配管は質量割合だけで選べません。

フラッシュタンクを設置するメリット

捨てていた熱を低圧の加熱に使える

大気へ放出していたフラッシュ蒸気を加熱に使えれば、その分の蒸気を新たに供給する負担を減らせます。蒸気の圧力は高くなくても、必要な加熱温度を満たす利用先があれば、有効な熱源として使えます。

利用先には、低温側の予熱や温水加熱など、回収蒸気の温度で成立する工程を選びます。主蒸気と加熱用蒸気の役割の違いは、主蒸気とプロセス蒸気の違いも併せて確認してください。

残った高温ドレンも給水側へ戻せるなら、蒸気回収と液体の熱回収を組み合わせられます。ただし、汚染のおそれがあるドレンは水質確認が先であり、熱があるという理由だけでボイラーへ戻してはいけません。

燃料費の削減は「実際に使えた熱」で評価する

先ほどの例で、フラッシュ蒸気が利用先で凝縮する際の潜熱は、計算上60kWに相当します。これは回収可能な熱の大きさであり、燃料の投入量や電力の削減量が、そのまま60kWになるという意味ではありません。

回収蒸気が持つ潜熱の熱出力

Q = Gshfg3,600
Q = 1,000 × (721 − 505)3,600 = 60kW

Q:熱出力[kW]。1kW=1kJ/s、1h=3,600s。質量割合を丸める前の値で計算しています。

年間4,000時間運転しても、需要との重なりや放熱を含めて70%しか有効利用できなければ、有効回収熱は168,000kWhです。運転時間と利用率はいずれも仮定なので、導入時には操業データへ置き換えます。

年間の有効回収熱の仮定例

E = Qtu
E = 60 × 4,000 × 0.70 = 168,000kWh/年

E:年間有効回収熱[kWh/年] t:年間運転時間[h/年] u:需要との重なり・損失等を含む有効利用率[無次元]。発電量・購入電力量ではありません。

費用効果を求めるときは、この熱を従来どの燃料・蒸気で供給していたかを調べます。ボイラー効率と単価から削減可能額を見積もり、増える保全費や駆動用エネルギーを差し引いて、設備費と比較します。

既にドレンの熱を別の熱交換器で回収している場合は、同じ熱を二重に削減効果へ計上しないようにします。比較する範囲を導入前後でそろえ、蒸気側と給水側の変化を同じ熱収支で確認してください。

構造は比較的単純でも計測と保全は必要

タンク本体で気液を分離する構造は比較的単純で、内部の状態や接続口を点検する計画を立てやすい装置です。一方で、周辺のトラップや制御弁、安全装置まで含めると、定期的な保全を省略できる設備ではありません。

導入前のドレン温度・圧力・流量と、導入後の回収蒸気量や圧力を記録すると、効果を比較しやすくなります。二相流のドレン配管を水だけの流量計で安易に測らず、測定対象と計器の適用条件を確認します。

フラッシュタンクを設置するデメリット

設備費・保全費と設置空間が増える

初期費用には、タンク本体だけでなく接続配管、弁、支持架台、保温、計装、工事を含めます。低圧蒸気は体積流量が大きくなりやすいため、遠い利用先へ送ると配管費や放熱の影響が増えます。

設置場所には、本体の外形に加えて点検口へ近づく空間、弁の操作場所、保温を外す余裕が必要です。排液と安全弁の放出先も含めて検討し、高温の流体が作業通路へ噴き出す配置を避けてください。

保全では腐食や漏れ、液の排出、圧力制御、保護機器の機能を確認します。開放作業は所定の隔離・減圧・冷却・排液後に行い、圧力計のゼロ表示だけで残圧がないと判断しないことが重要です。

回収圧力を上げるとドレンが抜けにくくなる

従来は大気開放のタンクへ排出していたドレンを、加圧したフラッシュタンクへ戻すと、トラップ出口の背圧が上がります。入口との圧力差が減るため、同じトラップでも排出能力が不足する場合があります。

特に温度調節弁を持つ熱交換器では、低負荷時に蒸気側圧力が低下する点に注意します。運転開始時や定格負荷だけでなく、最小負荷でドレンを排出できるかを、背圧と揚程を含めて評価します。

図3:回収蒸気を使う設備と、圧力を保つ付帯機器

不足時の補給、余剰時の処理、過圧保護は別の役割です。実際の弁配置は個別設計します。

低圧ヘッダー → 利用先 高圧蒸気から補給補給用減圧弁 気液分離 高温ドレン(二相流) 底部トラップ等を経て回収 余剰処理弁→ 処理先 独立した安全弁タンクに直結→ 安全な放出先

灰色の余剰処理弁は通常の圧力管理、赤色の安全弁は異常時の過圧保護を担います。安全弁を日常の圧力調整に使わず、必要な容量と放出経路を個別に設計します。

圧力差が小さくドレンが排出できなくなるストールが起きると、加熱器内にドレンが滞留します。伝熱の低下やウォーターハンマーの原因になり得るので、トラップの大型化だけで解決すると考えないようにします。

必要に応じて、設置高さによる静水頭やポンプ機能付きトラップなどを検討します。回収熱を増やすために設定圧力を上げた結果、元の加熱工程が不安定にならないことを先に確かめてください。

蒸気を使い切れない時間帯には効果が下がる

発生するフラッシュ蒸気より利用側の需要が少ないと、回収系統の圧力が上がる方向に動きます。余剰分の処理を考えずに密閉すればよいわけではなく、通常時の圧力管理と異常時の過圧保護を分けて設計します。

反対に、需要が多いときは回収蒸気だけでは不足するため、別の蒸気による補給が必要になります。季節や生産品種で需要が変わるなら、年間平均だけでなく時間帯別に、発生量と消費量を重ねて確認します。

図4:回収できる量と、実際に使える量は異なる

模式的な3時間帯の比較です。棒の高さは実測値や推奨比率ではありません。

両方の工程が稼働利用側の負荷低下高圧側の負荷低下フラッシュ発生低圧蒸気の需要余剰の処理が必要不足分を補給

圧力容器の区分は名称や容量だけで決めない

高温の液体を内部に保有するフラッシュタンクは、条件によって第一種圧力容器の判定対象になります。労働安全衛生法施行令第1条第5号ニでは、大気圧での沸点を超える温度の液体を保有する容器も定義に含まれます。

ただし、除外条件や小型圧力容器の区分があるため、「低圧だから対象外」「容量だけで第一種」とは判断できません。最高使用圧力、内容積、寸法、液温、用途、適用される法令を整理し、製作前に区分を確認します。

第1条第6号の小型圧力容器は第一種圧力容器の一部であり、第5号の除外とは別の区分です。第一種から除外されても他の規制がなくなるとは限らず、他法令の適用と、必要な構造・検査の条件を分けて確認します。

法令区分により必要な検査や取扱いの条件が変わるため、メーカーと設備管理部門に確認してください。具体的な区分の見方は、第一種圧力容器と第二種・小型圧力容器の違いで整理しています。

導入を判断するときの確認手順

最初に、高圧側でどれだけのドレンが、どの温度と圧力で、何時間発生するかを調べます。次に、その時間に低圧側で必要な蒸気量と温度を確かめ、両者の運転が重なる範囲を把握してください。

図5:見積もり前にそろえる設計データ

定格値だけではなく、起動・低負荷・停止時の条件も添えます。

調べる対象 そろえる情報 判断すること
高圧ドレン側 圧力、温度、最大最小流量、水質 再蒸発量、汚染・腐食の可能性
低圧利用側 必要圧力、加熱温度、時間別需要 有効利用量、補給・余剰の処理
排出と配管 トラップ前後圧、標高、配管抵抗 排出能力、ストール、二相流管径
容器と設置 設計圧力温度、内容積、材質、点検空間 機種、法令区分、保全・安全対策

発生量の計算ができたら、タンク径と配管をメーカーの選定資料で確認します。容積だけで選ぶと、蒸気と水を十分に分離できず液滴を持ち出すおそれがあるため、気液分離能力も確認してください。

利用側が直接加熱なら、蒸気が製品や水へ混ざることを考慮し、水質と衛生上の適合を確認します。熱収支の扱いは、蒸気を直接投入する加熱の計算方法を参照してください。

圧力を下げる利点と制約を比較したい場合は、蒸気の圧力を下げる省エネ効果とデメリットも参考になります。フラッシュ率の大きさだけを目的にせず、必要温度と排出能力を満たす回収圧力を選びます。

よくある質問

フラッシュタンクは蒸気を冷やすタンクですか?

主な役割は、高温ドレンの減圧で生じた蒸気と液体を分離して回収することです。外部から冷却して蒸気を凝縮させる機器とは役割が異なり、発生する蒸気を低圧の熱源として利用します。

高圧蒸気を入れればフラッシュ蒸気が増えますか?

回収量の計算は、正常に排出された高温ドレンを対象に行います。トラップからの生蒸気漏れを回収効果へ含めると浪費を見落とすため、漏れの修理とドレンからの再蒸発を区別してください。

タンク圧力を下げるほど得になりますか?

同じ入口ドレンなら一般に再蒸発する割合は増えますが、利用できる蒸気温度は低くなります。利用先で加熱が成立するか、配管の圧損や体積流量を含めて確認し、発生量だけで決めないことが大切です。

ドレンが抜けないときはトラップを大きくすれば直りますか?

圧力差が不足している場合、トラップのサイズを大きくするだけでは排出できません。低負荷時の加熱器内圧力と回収背圧、揚程、配管損失を調べ、必要ならポンプ機能を含む排出方式を見直します。

フラッシュタンクは必ず第一種圧力容器ですか?

名称だけでは決まらず、内部の流体・温度・圧力、内容積や寸法などの条件で判定します。小型や除外の条件も含めて適用法令を確認し、必要な検査や管理条件を製作・据付前に明らかにしてください。

出典・参考資料

まとめ

この記事のまとめ
  • フラッシュタンクは、高温ドレンの減圧で発生した蒸気を液体から分離・回収する機器です。
  • 再蒸発量は入口ドレンの熱量と回収圧力で変わり、残るドレンの回収も必要です。
  • 省エネ効果は発生量だけでなく、同時刻の需要と実際に利用できた熱で評価します。
  • 加圧回収では背圧が上がるため、低負荷時のドレン排出とストールに注意します。
  • 設備費・保全空間・過圧保護に加え、圧力容器の法令区分を製作前に確認します。

導入の判断では、回収側のメリットと元の加熱工程への影響を同じ系統図で検討することが大切です。ドレンの条件と利用先の需要を実測し、排出と安全を維持できる熱回収計画へつなげてください。

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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