日本の製造業の強みは、部品・素材・製造装置の世界シェアと、研究開発・特許の厚み、そして機械や自動車のように作り込みが要る製品にあります。弱みは、1人当たりの稼ぐ力、完成品とデジタル、世界の輸出に占める割合の低下です。
この記事では、規模の順位ではなく、生産性・研究開発・特許・輸出・世界シェアといった7つの物差しで日本の製造業を他国と比べます。数字は、ものづくり白書や文部科学省の科学技術指標、世界銀行など公的機関の一次情報を、年を添えて使います。
日本の製造業の強みと弱みを7つの物差しで比べる
国の製造業の力は、1つの数字では測れず、生産額の大きさ、1人当たりの稼ぎ、技術の蓄え、輸出の強さは、それぞれ別のものを映します。下の表は、物差しごとに日本の数字と年、判定、詳しく読む章を並べたものです。
同じ日本でも、物差しによって強みにも弱みにも見えます。
部材・技術・作り込みの製品は強く、生産性・完成品・輸出の割合は弱い、という形が見えます。
※主要7か国は日本・米国・ドイツ・フランス・英国・中国・韓国。研究開発費・特許・貿易の数字は科学技術指標2025、労働生産性は日本生産性本部(OECDデータ)、輸出の割合は世界銀行のデータを編集部で計算。
製造業が生み出す付加価値の大きさで見ると、日本は2024年に中国・米国・ドイツに次ぐ4位です。規模の順位とその移り変わりは、世界の製造業ランキングの記事で詳しく扱っています。
強み1:部品・素材・製造装置で世界シェアを握る

日本の製造業がいちばん分かりやすく強いのは、完成品の手前にある部品・素材と、ものを作るための装置です。消費者が名前を目にする機会は少ないものの、世界の工場が日本製の材料や装置なしでは動かない分野があります。
代表例が半導体で、半導体そのものの売上で見た日本企業のシェアは、1988年の50.3%から2019年の10.0%まで下がりました。一方で、半導体を作る材料と装置では、いまも高いシェアを保っています。
完成品の半導体ではシェアを落としても、作るための材料と装置では高いシェアが残っています。
※経済産業省「半導体戦略(概略)」(2021年3月)。野村證券のデータを基に経済産業省が作成した値。
レジストは、回路の模様をウエハに写すときに使う感光性の材料で、塗布装置は、そのレジストをウエハに薄く均一に塗る装置を指します。半導体以外でも同じ傾向があり、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の資料には、2020年の日系シェアが載っています。
ArF用フォトレジスト86%、自動車用ガラス73%、反射防止フィルム83%などです。同じ資料は、こうした材料が先進的な日本の完成品メーカーに供給しながら競争力を高めてきたと説明しています。
顧客の厳しい要求に合わせて品質を作り込む中で、他社がまねしにくい技術がたまっていったわけです。
装置では産業用ロボットも強い分野で、国際ロボット連盟(IFR)は2025年7月の発表で、日本を世界のロボット生産の38%を占める最大の製造国としています。国内の需要の動きは産業用ロボットの受注統計の記事で読めます。
ただし、NEDOの同じ資料は、世界的な開発競争の中で日本企業の材料のシェアが奪われつつあるとも指摘しています。強みは固定されたものではなく、守り続ける必要がある位置です。

強み2:研究開発と特許の厚み
部材や装置の強さを支えるのが、研究開発への投資と特許の蓄えです。文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の「科学技術指標2025」によると、2023年の日本の研究開発費は20.4兆円で、主要7か国の中で米国・中国に次ぐ3位です。
そのうち企業が使った額は16.1兆円で、こちらも3位です。日本の研究開発は、大学より企業が中心になって担っています。
特許では、2か国以上に出願された発明の数(パテントファミリー)が約6.5万件で世界1位です。海外にも出願する発明は、国外の市場でも使う前提の技術だと読めます。
世界知的所有権機関(WIPO)によると、国際的な特許出願の手続き(PCT出願)の件数は2024年に4万8,397件で、中国、米国に次ぐ3位です。
投入と特許は上位でも、注目される論文や高技術製品の貿易では順位が下がります。
※科学技術指標2025(NISTEP)。論文数は世界の順位、貿易は主要7か国の中の順位。投入から成果までの間には事業化や価格決めなどの段階があり、矢印は直接の因果を示すものではありません。
厚みが稼ぐ力に結びつききっていない
研究開発費や特許の数は、いわば「投入」と「活動」の量です。これが多いことと、世界の市場で稼げていることは同じではありません。
科学技術指標2025は、企業の研究開発費の伸びが他の主要国より小さいと分析しています。売上高に対する研究開発費の比率も、日本は過去15年ほど製造業・非製造業とも横ばいでしたが、米国は両方で上昇しています。
引用の多い上位10%の論文数は13位で、研究の注目度では上位に入っていません。蓄えた技術を新しい事業や高く売れる製品に変える段階に、日本の課題があるといえます。研究開発の仕事の中身は研究開発とは何かをまとめた記事で紹介しています。
強み3:機械・自動車・化学は輸出が輸入の2.5倍
技術の強さが貿易の数字に表れているのが、機械・自動車・化学などの分野で、科学技術指標2025は、研究開発の比重で産業を分け、輸出額を輸入額で割った「貿易収支比」を比べています。
この比が1を上回れば輸出が多く(出超)、下回れば輸入が多い(入超)ことを示します。輸出額が規模を表すのに対し、収支比はその分野で外国から買うより売るほうが多いかを表す物差しです。
同じ「技術の要る産業」でも、日本は中上位技術で出超、高技術で入超です。
※科学技術指標2025(NISTEP)の最新年の値。比較対象は日本・米国・ドイツ・フランス・英国・中国・韓国。
中上位技術の分野で日本の比は2.45で、主要7か国の中で1位です。代表格が自動車で、2024年の輸出額は部品を含めて22兆4,637億円と、日本の輸出総額の21.0%にあたります。
輸出品の幅広さと高度さを測る「経済複雑性指数」でも、日本は2022年のデータで世界1位です。ハーバード大学の研究機関Growth Labが2024年10月に公表した順位で、韓国、スイスが続きます。
すり合わせが効く製品で強さが残る
経営学者の藤本隆宏氏は、製品を「すり合わせ型」と「組み合わせ型」に分けて説明しており、すり合わせ型は、部品どうしの設計を細かく調整しないと全体の性能が出ない製品です。
乗用車やオートバイはすり合わせ型の代表で、藤本氏は日本企業がすり合わせ型の製品で強いと分析しています。部品メーカーと完成品メーカーが長く付き合いながら設計を詰めていく進め方が、日本の得意な形でした。
一方のパソコンのような組み合わせ型は、部品の接続部分が標準化されており、部品を集めれば誰でも組み立てられるため、価格競争になりやすい製品です。この違いが、次の弱みにつながります。
弱み1:1人当たりの稼ぐ力が落ちた
弱みのうち、数字の差がいちばん大きいのが労働生産性です。ここでいう労働生産性は、働く人1人が1年間に生み出す付加価値(売上から原材料などの費用を引いた額)を指します。
日本生産性本部がOECDのデータをもとに計算した2024年の日本の製造業の労働生産性は、8万411ドルでした。OECD加盟の主要35か国中20位で、イタリアやスペインとほぼ同じ水準です。
2000年はOECD加盟の主要国で1位でしたが、2024年は20位まで下がりました。
※就業者1人当たりの付加価値を為替レートでドルに換算した値。2026年版ものづくり白書の資料(日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」)。白書の資料は対象を主要34か国、生産性本部の発表は主要35か国としています。
円安だけでは説明できない
順位が下がった理由の一つは為替です。日本の製造業の労働生産性は円で見ると上がり続けていますが、円安が進んだため、ドルで見ると2018年の9万7,971ドルから18%落ちました。
ただ、為替だけが原因ではありません。2000年に上位3か国に入っていなかった米国は、2024年には23.2万ドルで3位です。日本が足踏みする間に、他国が大きく伸ばしたことが順位の差を広げています。
2024年版ものづくり白書は、日本の製造業が稼ぎの過半を海外で得る構造になった一方で、海外の子会社の管理が追いついていない点が稼ぐ力に響いていると指摘しました。
人手不足が生産性の課題を重くする
1人当たりの稼ぐ力が問われる背景には、人手不足もあります。2026年版ものづくり白書の資料では、生産工程の仕事の有効求人倍率は1.60倍で、全業種の1.13倍を上回り、2025年後半から不足が広がっています。
製造業で働く人に占める外国人の割合は6.1%で、非製造業の2倍程度です。人が増えにくい中で生産を保つには、1人当たりの生産性を上げるほかありません。現状の数字と企業の打ち手は製造業の人手不足と採用難の記事にまとめています。
弱み2:完成品とデジタルで稼げていない

強み3で見た貿易収支比を、高技術の産業で見ると姿が変わります。医薬品、コンピュータ・電子・光学製品、航空宇宙の比は0.76で、日本は輸入のほうが多い入超で、順位は主要7か国中6位でした。
同じ電子の分野でも、部品と完成品で明暗が分かれます。総務省の情報通信白書によると、ICT(情報通信)関連の製品の貿易は2024年に約3.4兆円の赤字でした。
サプライチェーンの上流ほど稼げていて、利用者に近い下流ほど赤字になる構図です。
※総務省「令和7年版情報通信白書」、ジェトロ「世界貿易投資報告 2025年版」。海外の工場で作って日本へ輸入した製品は、日本企業の製品でも輸入に数えられます。
情報通信白書は、黒字が大きいのは部品・部材で、赤字が大きいのは最終製品という傾向を示しています。スマートフォンやパソコンは、部品を組み合わせて作る組み合わせ型の代表です。
ソフトウェアやクラウドといったデジタルの分野でも、日本は買う側に回っています。ジェトロによると、2024年のデジタル関連収支は451億ドルの赤字でした。
工場のデジタル化にも課題が残り、2026年版ものづくり白書の資料では、製造工程のデータを取っている事業者は66.0%でした。そのデータで効果を得たのは43.9%にとどまり、企業間のデータ連携は2年前からほぼ進んでいません。
家電や半導体がなぜ後退したのかは、連載第2章の日本の製造業が伸び悩んだ理由の記事で4つの原因に分けて整理しています。
弱み3:世界の輸出に占める割合が下がった
3つ目の弱みは、世界の貿易の中での存在感です。世界銀行のデータで、日本の財(モノ)の輸出が世界全体に占める割合を計算すると、2000年の7.4%から2024年には2.9%まで下がりました。
輸出額そのものは増えていますが、世界の貿易がそれ以上に伸びたぶん割合が下がりました。
※世界銀行 WDI「Merchandise exports(current US$)」(出所はWTO)をもとに編集部で計算。棒の長さは10%を最大として描いています。
日本の輸出額そのものは、2000年の4,790億ドルから2024年の7,070億ドルへ増えています。割合が下がったのは、中国をはじめ他国の輸出がそれ以上に伸びたためです。
ただし、対象はモノの輸出だけで、日本企業が海外の工場で作って現地で売る分や、サービスの取引は含みません。日本企業の海外での稼ぎまで小さくなったわけではありません。
それでも、国内で作って世界に売る力が相対的に細っていることは確かです。製造業の付加価値で見た世界シェアも、2000年の17.9%から2024年には4.7%へ下がっています。
立場別に見る、企業を調べるときの確認ポイント

ここまでの強みと弱みは国全体の平均の話で、実際の企業は、強みと弱みの両方を1社の中に抱えていることが少なくありません。
国全体の強み・弱みの物差しは、そのまま1社を見る物差しにも使えます。
就職や転職で企業を探すなら、強みが集まる部品・素材・装置のメーカーに目を向けると候補が広がります。一般に名前が知られていなくても、特定の製品で世界の上位に入る会社は日本に数多くあります。
取引先を見る営業・購買の立場では、強みの裏側にあるリスクも見ておきたいところです。2026年版ものづくり白書の資料では、経済安全保障(供給途絶や技術流出への備え)に取り組む製造業者は約6割で、2024年度の約4割から増えました。
現場や技術の仕事では、弱み1・2で見た生産性とデジタルが向き合うテーマになります。必要なスキルの考え方は製造業のリスキリングとDX人材の記事が参考になります。
まとめ
- 強みは部品・素材・製造装置の世界シェア。半導体のレジスト約7割、塗布装置約9割など
- 研究開発費は主要7か国中3位、パテントファミリー数は世界1位と、技術の蓄えは厚い
- 機械・自動車・化学など中上位技術の産業は、輸出が輸入の2.45倍で主要7か国中1位
- 弱みは労働生産性(2024年に35か国中20位)、完成品とデジタルの赤字、輸出の割合の低下(2.9%)
- 強みと弱みは同じ産業・企業の中に同居する。部材の強みと技術の蓄えを、どう稼ぐ力につなげるかが共通の課題
日本の製造業は、強いか弱いかの一言では片づけられません。作る力と技術の蓄えはいまも世界の上位にあり、それを利益や新しい事業に変える力が問われています。いまの姿ができた経緯は日本の製造業の歴史の記事でたどれます。
部品や素材で世界の上位に入る中堅・中小企業は、世界シェアトップを握るニッチトップ企業の記事で紹介しています。連載の全体は連載「製造業を知る」の入口ページから、次の章へ進めます。
出典
出典・参考資料(13件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 製造業の労働生産性(2024年、35か国中20位、ドル換算の推移):公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」プレスリリース(2025年12月22日)
- 労働生産性の順位推移・人手不足・外国人比率・データ活用・経済安全保障:経済産業省「2026年版ものづくり白書について」(RIETI BBLセミナー資料、2026年6月)
- 研究開発費・パテントファミリー・論文・産業別貿易収支比:文部科学省 科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2025」概要、文部科学省 報道発表
- PCT国際特許出願(2024年):WIPO プレスリリース(2025年3月17日)
- 半導体の材料・装置の日系シェア、半導体売上シェア:経済産業省「半導体戦略(概略)」(2021年3月)
- 材料の日系シェア(2020年):NEDO 技術戦略研究センター「デジタル技術の活用によるマテリアル産業競争力強化に向けて」
- ロボット生産の世界シェア:国際ロボット連盟(IFR)プレスリリース(2025年7月)
- 経済複雑性指数:Harvard Growth Lab「Atlas of Economic Complexity 10.0」(2024年10月)
- 財輸出額と世界に占める割合:世界銀行 WDI「Merchandise exports (current US$)」、製造業付加価値の世界シェア:世界銀行 WDI「Manufacturing, value added」
- 自動車の輸出額:日本自動車工業会「日本の自動車工業2025」(財務省「外国貿易概況」)
- ICT財の貿易収支:総務省「令和7年版情報通信白書」
- デジタル関連収支:ジェトロ「世界貿易投資報告 2025年版」
- すり合わせ型・組み合わせ型:藤本隆宏「ものづくりと産業競争力」(原子力委員会 研究開発専門部会 配布資料、2009年4月)、藤本隆宏「日本型サプライヤーシステムとモジュール化」(RIETI、2001年)
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