明電舎が2040年に売上高2倍へ|変圧器増産と電力需要で読む長期構想

屋外の変電所に設置された大型の油入変圧器

2026年9月29日、明電舎は統合報告書「明電舎レポート2026」で、2040年に売上規模を現在の2倍へ広げる長期構想を示しました。明電舎は変圧器や遮断器など、電気を送り届ける設備をつくる重電メーカーで、構想の柱は世界の電力インフラと、AI普及で伸びる半導体関連に置かれています。

目次

明電舎の長期構想「2040年に売上高2倍」の中身

構想は、井上晃夫社長のトップメッセージの中で示され、2040年に向けては、AIの社会実装や電化・自動化が進み、データ処理量と電力需要が大きく増えると見ています。

成長の柱は、電力需要が伸びるインドなどの新興国と、環境対応の要求が厳しい欧州・米国の電力インフラです。次の成長ドライバーには、水インフラと半導体関連を挙げています。

自社の事業を伸ばすだけでなく、必要に応じてM&A(企業の合併・買収)も取り込む方針で、あわせて、機器を納めて終わりにせず、保守・運用まで含めたサービスへ事業を広げるとしています。経営資源は生産能力、研究開発、人材、データ活用に重点配分します。

図1:明電舎の長期構想の要点

会社が示したのは「売上規模を2倍に」という方向と、その柱・手段までです。

目標2040年に売上規模を現在の2倍へ。2025年度の売上高は3,261億円
成長の柱インドなど新興国と、欧州・米国の電力インフラ(変圧器・遮断器など)
次の成長ドライバーAI普及で伸びる半導体関連と、老朽化対応が進む水インフラ
伸ばし方生産能力・研究開発・人材への投資、機器からサービスへの拡大、必要に応じたM&A
約6,500億円は、2025年度売上高3,261億円を単純に2倍にした編集部の参考計算です。会社は金額や年次計画を示していません。

※出典:明電舎「明電舎レポート2026」トップメッセージ

一方で、具体的な数値目標はまだ出ておらず、会社は、長期の定性・定量目標を次期中期経営計画の策定過程で整理して示すとしています。

事業ごとの売上配分や利益率・投資額の目標も現時点では未公表で、いま読めるのは「どこで伸ばすか」の方向までです。

足元の業績|2040年までの距離

2025年度(2026年3月期)の連結売上高は3,261億円で、前期から8.3%増え、営業利益は271億円で、26.1%の増益です。

2026年7月31日には、2026年度の業績予想を引き上げ、売上高は3,550億円から3,650億円へ、営業利益は290億円から330億円への上方修正です。

図2:明電舎の売上高と2040年構想の位置

実績・会社予想・中計目標・参考計算は性質が違うため、色を分けています。

2024年度実績
3,011億円
2025年度実績
3,261億円
2026年度会社予想(7月修正後)
3,650億円
2027年度中期経営計画の目標
3,700億円
2040年編集部の参考計算
約6,500億円25年度×2

※出典:明電舎 2026年3月期決算補足資料、中期経営計画(2025年5月13日)、2026年7月31日の業績予想修正。2040年は会社公表値ではありません。

2026年度の予想は、2027年度の中計目標3,700億円にほぼ届く水準です。2025年度は、営業利益271億円が中計の最終目標250億円をすでに上回りました。

受注高と売上高は別の指標で、受注高は「その年に新しく契約した金額」、売上高は「納品・完成して計上した金額」を指します。

2025年度の受注高は3,582億円で、前期の3,835億円から6.6%減りました。ただし売上高を上回る水準の受注が続いており、変圧器のように受注から納品まで時間がかかる製品では、受注が数年かけて売上に変わります。

明電舎の4つの事業|成長の柱はどこか

工場の作業台に並ぶ真空遮断器のユニット

明電舎は1897年創業の電機メーカーで、事業は4つのセグメントに分かれますが、構想との関係で特に押さえたいのは、電力インフラと産業電子モビリティの2つです。

  • 電力インフラ:変圧器、開閉器、避雷器、真空遮断器、風力・水力発電の保守
  • 社会システム:鉄道向け変電設備、上下水道向け電気設備、無停電電源装置
  • 産業電子モビリティ:半導体製造装置向け部品、EV用モーター、試験装置
  • フィールドエンジニアリング:納入した設備や半導体製造装置の保守サービス

図3:セグメント別の売上高と営業利益(2025年度)

売上はほぼ横並びですが、利益は電力インフラと保守サービスが稼いでいます。

社会システム
1,046億円営業利益41億円
電力インフラ
1,008億円営業利益126億円
産業電子モビリティ
693億円営業利益0.2億円
フィールドエンジニアリング
570億円営業利益127億円

※出典:明電舎 2026年3月期決算補足資料。セグメント間の取引を消去する前の金額。不動産・その他は省略。

電力インフラ:構想の中心

電力インフラの売上高は864億円から1,008億円へ、営業利益は80億円から126億円へ伸びました。期初時点の2026年度の設備投資予想は152億円で、前期の約2.8倍です。

強みは、温暖化ガスのSF6(六フッ化硫黄)を使わない真空遮断器です。遮断器は、事故のときに電流を切って設備を守る装置で、工場の分電盤にあるブレーカーの大型版にあたります。

低圧の遮断器の種類はNFBとELBの違いで整理しています。明電舎はその心臓部となる真空インタラプタ(真空の中で電流を切る部品)から自社で手がけています。

産業電子モビリティ:半導体関連の伸びしろ

このセグメントには、半導体製造装置向けの真空コンデンサやパルス電源が含まれ、AI向け半導体の微細化・積層化に伴い、装置メーカー向けの需要拡大が見込まれる分野です。

一方、2025年度の営業利益は0.2億円にとどまり、中計では、EVシフトが足元で鈍化していると説明されています。半導体関連を伸ばしつつ、EV関連の採算をどう立て直すかが問われます。

海外売上高は908億円で売上全体の27.9%を占め、成長の柱に新興国と欧米を据えた以上、この比率をどこまで高められるかが2倍への道筋を左右します。

図4:明電舎の海外売上高比率(2025年度)

売上の約3割が海外で、残る約7割は国内です。

10のうち3が海外(地球のマーク)。海外売上高908億円、売上比27.9%(アジア18.8%、その他地域9.1%)

※出典:明電舎 2026年3月期決算補足資料。27.9%を10個中3個に四捨五入して表示。

国内外の同業との位置づけは、電機・精密機器業界の主要企業と勢力図もあわせて読むとつかみやすくなります。

成長機会はどこにあるか|電力インフラ・半導体・水

田園地帯を横切る送電鉄塔と送電線の俯瞰

統合報告書は、世界の電力需要が「構造的に高まり続けている」と書いており、理由として挙げるのは、人口増加と都市化、新興国の電化、生成AIによるデータセンター需要です。

こうした需要の変化と、明電舎が持つ製品を対応させると、成長機会は次の4つに整理できます。

図5:明電舎が狙う4つの成長機会と製品

市場の変化ごとに、売り込む製品・サービスが決まっています。

新興国の電化インドなどで送配電網が拡大。変圧器・遮断器を現地生産で供給
欧米の環境規制SF6規制の強化。SF6を使わない真空遮断器・真空インタラプタを拡販
AI・半導体データセンターと半導体工場の電源設備、製造装置向けの真空コンデンサ
国内の設備更新送配電設備や上下水道の老朽化。機器から運転維持管理・保守まで

※出典:明電舎「明電舎レポート2026」トップメッセージ、中期経営計画(2025年5月13日)をもとに編集部作成。

欧州のSF6規制が追い風になる理由

SF6は絶縁性能が高く、遮断器や開閉装置に長く使われてきたガスですが、温室効果が強く、EUは規制を強めています。

EUのFガス規則(2024/573)では、2026年1月から、新設する24kV以下の中電圧開閉装置でSF6などの使用が禁止されました。24kV超52kV以下の機器も2030年から対象になります。

代わりに使われるのが、真空や乾燥空気で電流を切る方式で、真空遮断器を長く手がけてきた明電舎にとって、規制の強化は販路を広げる機会になります。

国内でもデータセンターが需要を押し上げる

国内では、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が、データセンターと半導体工場の新増設による需要を別枠で見込んでいます。2026年1月公表の想定では、2035年度に最大762万kWが上乗せされます。

図6:データセンター・半導体工場による国内の追加需要(最大需要電力)

追加分は2026年度から2035年度にかけて約9倍になる想定で、その大半がデータセンターです。

2026年度
83万kW
2030年度
420万kW
2035年度
762万kWうちDC 661万kW

※出典:電力広域的運営推進機関「全国及び供給区域ごとの需要想定(2026年度)」。国内全体の見通しで、明電舎の受注・売上に直結する数字ではありません。データセンター計画の後ろ倒しで、前回想定より伸びが後年度にずれています。

データセンターは受変電設備や非常用電源を大量に使い、設備の中身はデータセンターの液冷設備の記事でも紹介しています。変圧器が世界的に足りなくなった経緯と納期の実情は、次の記事で数字とともに整理しています。

需要を受注につなげる供給体制|変圧器・遮断器の増産

変圧器工場で巻線コイルを組み立てる作業者

井上社長は2025年の中計発表時、工場・設備・人員が売上高3,000億円超の体制になっていないと説明しており、需要があっても、つくれなければ売上にはなりません。

中計2027では、3年間で700億円の設備投資を計画しており、うち350億円が成長・DX投資です。製品の成長戦略では、生産能力を25%高め、リードタイム(受注から出荷までの期間)を50%縮める目標を掲げています。

沼津事業所の変圧器工場を約1.5倍に

中心となるのが、静岡県の沼津事業所で、2025年10月30日、変圧器工場に新建屋を増築するため160億円を投じると発表しました。

新建屋は外装組立と試験場で、2028年度の稼働を目指し、並行して次の取り組みを進め、生産能力を現状の約1.5倍に高める計画です。

  • 変圧器の仕様を標準化・共通化し、リードタイムを短くする
  • 生産工程のDXを進める
  • 人材を補強する

投資の背景として、会社は3点を挙げています。送配電会社の設備投資を促すレベニューキャップ制度の導入、データセンター建設による電力需要の増加、再エネ導入に伴う送配電網の整備です。

海外は米国・インド・シンガポールで増強

図7:明電グループの送配電設備の増強計画

国内の変圧器だけでなく、海外3拠点でも生産体制を強化しています。

日本・沼津米国インドシンガポール変圧器 約1.5倍真空遮断器 2倍変圧器 1.2倍2工場を統合2028年度2026年3月2027年度2028年度

※出典:明電舎ニュースリリース(2025年10月30日)。時期は発表時点の稼働開始予定。シンガポールは工場移転に伴い変圧器工場とスイッチギヤ工場を統合し、生産効率を高める計画。

米国の真空遮断器は、欧米でのSF6ガスレス製品の拡販と結びつきます。インドは成長の柱とする新興国そのもので、試験場の増設で変圧器の生産能力を1.2倍にします。

沼津では、真空インタラプタの生産能力も2025年10月に増強しており、構想の柱に挙げた製品ごとに、拠点の投資が割り当てられている形です。

2倍への課題|生産能力・採算・人材・需要の時期

需要の追い風があっても、それを受注・生産・利益につなげられるかは別の問題です。会社自身も、生産能力の拡大や新市場の開拓、研究開発は「なお道半ば」と書いています。

図8:売上2倍に向けた課題と、次期中計で確認したい点

公表済みの打ち手と、まだ数字が出ていない点を分けて整理しました。

公表済みの打ち手
次期中計で確認したい点
生産能力
沼津の変圧器を約1.5倍(2028年度)、海外3拠点の増強
2028年度以降の追加投資と、拠点ごとの能力の目標
産業電子の採算
製品の共通化・量産化、海外研究開発拠点の設立
EV関連の位置づけと、半導体関連の売上目標
人材
インドで理系人材を採用し、日本で育成して海外拠点へ
採用・育成の人数目標、技術サービス員の確保策
需要の時期
受注を積み上げ、売上を上回る水準を維持
データセンター計画の遅れが受注に与える影響
売上の内訳
電力インフラを核、半導体・水を次の柱と位置づけ
事業別・地域別の売上配分、M&Aの規模、利益率の目標

※打ち手は中期経営計画(2025年5月13日)、明電舎レポート2026、2025年10月30日のニュースリリースによる。右列は編集部の整理。

産業電子モビリティは、2025年度の営業利益が0.2億円でした。会社は期初(2026年5月)時点で2026年度に31億円を見込んでいますが、半導体関連の伸びとEV関連の回復の両方が前提になります。

需要の時期にも注意が要り、OCCTOの想定では、データセンターの工事延期や設計変更により、需要の伸びが前回想定より後ろにずれました。

人材の面では、保守サービスの現場で技術サービス員の不足を中計自身が課題に挙げています。工場の建屋は数年で建ちますが、変圧器の組立や試験を担える人を育てるには時間がかかります。

取引先・働く人にとっての意味

試験場で完成した変圧器の配線を確認する技術者

購買・設備担当:増産の時期と標準化を確認する

変圧器を調達する側から見ると、沼津の新建屋が動く2028年度までは、生産能力の制約が続く可能性があります。個別製品の納期は、案件ごとにメーカーへの確認が必要です。

明電舎は、仕様の標準化・共通化でリードタイムを縮めようとしています。特注仕様を減らして標準品に寄せられる案件ほど、納期面で有利になる可能性があります。

変圧器や電線は銅を多く使うため、価格は銅相場の影響も受け、見積もりの読み方は銅価格の高騰が電線・伸銅品に与える影響が参考になります。

技術者:設計・試験・保守の仕事が増える

増産とサービス拡大で人手が要るのは、主に次の領域です。

  • 変圧器・遮断器の電気設計と、標準化に向けた設計の見直し
  • 出荷前の試験(新建屋の試験場の運用)
  • 生産工程のDX、データ活用による保守サービス
  • 納入した設備や半導体製造装置の保守

保守を担うフィールドエンジニアリングは、売上570億円で営業利益127億円を稼ぐ高収益の事業です。設備保全の仕事の経験は、こうした保守サービスで生かしやすい分野です。

就職・転職:海外と研究開発の比重が高まる

成長の柱が海外にある以上、インド・米国・欧州の拠点と関わる仕事は増えていくと見られます。会社はインドで理系人材を採用し、日本で育成する取り組みも始めました。

研究開発費は2025年度に135億円で、前期の112億円から増え、2040年を見据えた研究では、直流・高周波の電力変換や、デジタルツインを使った保守を柱に挙げています。

まとめ

この記事のまとめ
  • 明電舎は2026年9月の統合報告書で、2040年に売上規模を現在の2倍にする構想を示した
  • 柱は新興国・欧米の電力インフラで、半導体関連と水インフラが次の成長ドライバー
  • 2025年度は売上高3,261億円・営業利益271億円。2026年度は売上高3,650億円を見込む
  • 沼津の変圧器工場に160億円を投じ、2028年度に生産能力を約1.5倍にする計画
  • 事業別の配分や利益目標は未公表で、次期中期経営計画で示される予定

明電舎の構想は、電力需要の伸びを受け止める「つくる力」をどこまで増やせるかにかかっています。関連する職種は電気・電子設計や技術営業・FAEで、重電メーカーの増産は、両方の職種の需要にもつながります。

電機業界全体の数字の動きは、電機・精密機器業界の市場規模と動向からあわせてご覧ください。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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