「スマートファクトリーの活用」と聞くと、多くの方は巨大な自動車工場や半導体工場で、AIが生産ライン全体を動かす姿を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、設備の稼働状況を見える化する、紙の日報をアプリに置き換えるといった身近で小さな使い方から効果を出している工場も数多くあります。使い道は業界や規模によってさまざまです。
この記事では、スマートファクトリーの主な用途、業界別の活用方法、実際の導入事例、導入の進め方、関わる仕事と求められるスキルという順で整理します。
スマートファクトリーの主な用途

スマートファクトリーの技術は、工場のさまざまな場面で使われています。代表的な用途は次の4つで、多くの工場はこのいずれかから取り組みを始めます。
どの用途も、現場のデータを集めて見える化するところが出発点です。
稼働監視・見える化
もっとも広く使われているのが、設備の稼働状況を集めて画面に表示する用途です。いつ、どの設備が、どれだけ止まったかがわかれば、改善すべき場所がはっきりします。
停止の理由を「段取り替え」「材料待ち」「故障」などに分けて記録すると、対策を打つべき原因の順番が見えてきます。効果を数字で示しやすく、最初の用途として選ばれやすいのが特徴です。
品質管理・トレーサビリティ
加工温度や圧力、締め付けトルクといった製造条件を、製品やロットの番号とひもづけて記録する用途です。不良が見つかったとき、同じ条件で作られた製品の範囲をすぐに特定できます。
画像検査の結果と組み合わせれば、不良の傾向と条件の関係を分析することもできます。「不良を見つける」から「不良を作らない」へと、品質管理の重心を移すための用途と言えます。
予知保全
モーターの振動や軸受の温度、電流の変化を常に測り、いつもと違う兆しをとらえて整備につなげる用途です。突発的な故障による長時間の停止を防ぐことができます。
部品を交換する時期を、決まった期間ではなく状態に合わせて決められるため、交換しすぎや交換の遅れを減らせます。保全の担当者が限られる工場ほど、効果を実感しやすい用途です。
エネルギー管理
設備や建屋ごとに電力やガス、圧縮空気の使用量を測り、無駄な使い方を見つける用途です。生産していない時間帯の待機電力や、エア漏れによる損失が見えることもあります。
使用量を製品の生産量と比べれば、1個あたりのエネルギーを管理できます。省エネによるコスト削減と、CO2排出量の把握を同時に進められるのが強みです。


業界別の活用方法

同じスマートファクトリーでも、業界によって重視するポイントは異なります。生産の形や製品の特徴に合わせて、使い方が変わってくるためです。主な業界の特徴を整理すると次のようになります。
生産の形や製品の性質によって、重視する用途が変わります。
※一般的な傾向を整理したもので、個々の工場の取り組みは企業ごとに異なります。
自動車・自動車部品
大量の部品を決められた時間で作り続ける自動車業界では、ラインが止まることの影響が大きくなります。そのため、設備の停止を減らす稼働監視や、ボルトの締め付けなど重要工程のデータ記録が重視されます。
完成車メーカーから部品メーカーまで、サプライチェーン全体で品質の記録を求められるのも特徴です。業界の構造は自動車業界の記事で解説しています。
電子部品・半導体
製造装置の数が多く、わずかな条件のずれが歩留まり(良品の割合)に響くのが電子部品・半導体の工場です。装置から出る大量のデータを分析し、異常の兆しを早くとらえる取り組みが進んでいます。
クリーンルームの温度や湿度、微粒子の管理にもセンサーが欠かせません。業界の全体像は電子部品・半導体業界の記事が参考になります。
食品・医薬品
食品や医薬品では、温度管理や衛生管理の記録を確実に残すことが何より重要です。冷蔵・加熱の温度を自動で記録すれば、記入漏れや転記ミスを防げます。
製造記録を紙から電子データに移すことで、監査や問い合わせへの対応も速くなります。詳しくは食品・医薬・日用品業界の記事で紹介しています。
化学・素材
化学や素材の工場は、原料を連続して処理するプロセス型の生産が中心です。温度や圧力、流量などのデータは以前から制御システムで集められており、そのデータをさらに分析に生かす取り組みが進んでいます。
大型の設備が一度止まると、再び動かすまでに時間とコストがかかります。運転を安定させ、止めないことに重きが置かれるのが特徴です。
金型・機械加工
多品種を少量ずつ作る金型や機械加工の工場では、段取り替えが多く、仕事の進み具合が見えにくいのが悩みです。工作機械の稼働状況や作業実績をデータで集め、納期や負荷の管理に生かす使い方が広がっています。
大がかりなシステムよりも、スマートフォンやタブレットで入力できる手軽な仕組みが選ばれやすいのも特徴です。受注ごとに仕様が変わるため、見積もりや納期回答の精度を上げる目的で使われることもあります。
導入事例

ここでは、公的機関や企業が公開している情報から、スマートファクトリーの考え方を取り入れた事例を3つ紹介します。規模も手法も異なりますが、いずれも現場の課題から出発している点が共通しています。
規模や手法は違っても、データで現場の事実をつかむ点は共通です。
事例1:旭鉄工(自動車部品)
トヨタ自動車の一次サプライヤーである自動車部品メーカーの旭鉄工は、IoTで製造ラインの稼働データを自動で集め、止まった理由を毎日話し合う改善活動を続けてきました。中小機構の記事によると、秋葉原で購入したセンサーを既存設備の表示灯に取り付け、ラインの動きを0.1秒刻みで把握できるようにしたといいます。
IPAの事例記事(2022年)では、100の製造ラインで生産性が平均43%、最も効果の高かったラインで280%向上し、年間4億円以上の労務費削減(年間31億円から27億円へ)につながったと紹介されています。高価なシステムを入れる前に、今ある設備のデータから始めた点が特徴です。
事例2:日立製作所 大みか事業所(制御システム)
社会インフラ向けの制御システムを手がける日立製作所の大みか事業所は、2020年1月に世界経済フォーラムの先進工場「Lighthouse」に、日本企業として初めて選ばれました。
同社の技術誌(2021年)では、現場の4M(人・設備・材料・方法)のデータを活用した高効率生産モデルにより、代表製品で生産リードタイムを50%削減したと紹介されています。人・設備・材料・方法のデータを工程ごとではなく工場全体で結びつけ、生産の流れを良くしていく取り組みです。
事例3:サンコー技研(金属加工)
従業員30名ほどの金属加工会社であるサンコー技研は、生産実績やトラブルを書き込んでいた手書きの作業日報を、QRコードを読み取るだけで入力できるスマートフォンアプリに置き換えました。特別なIoT機器は使っていません。
IPAの事例記事(2022年)によると、記録の手間やミスが減り、工程ごとの正確な時間管理とトレーサビリティの確保につながったとされます。自社で作ったこのアプリは外部への販売も始めており、小さな町工場でもデータ化の第一歩は踏み出せることを示す事例です。
3つの事例に共通するのは、最初から工場全体を作り替えたのではなく、身近な課題に絞ってデータを集め、効果を確かめながら広げている点です。高価な設備やシステムの有無より、データを見て話し合い、改善に結びつける習慣が成果を分けていると言えます。
導入の進め方

スマートファクトリーの導入は、機器を買って終わりではありません。経済産業省とNEDOがまとめた「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」も、経営や業務の課題を特定するところから始める考え方を示しています。一般的には、次のような流れで進めます。
「企画」「試行」「展開」の3つの段階に分かれます。
※実際には、試行と検証を何度か繰り返しながら範囲を広げていくのが一般的です。
企画:困りごとと目標の数字を決める
最初の段階で大切なのは、技術から考えるのではなく、困りごとから考えることです。「稼働率を何%上げたい」「不良を半分にしたい」のように、改善したい数字を決めてから必要なデータを選ぶと、無駄な投資を避けられます。
あわせて、設備に通信の口があるか、今は何を紙で記録しているかといった現状を調べておきます。古い設備が多い場合は、表示灯や電流からデータを取る方法も候補になります。
試行:一つのラインで小さく試す
試行の段階では、効果の出やすい一つのラインや設備に絞って始めます。小さな成功を数字で示せれば、現場の協力や次の投資の判断も得やすくなります。
このとき、導入前の数字を必ず記録しておくことが大切です。比べる基準がなければ、効果があったのかどうかを説明できません。
展開:使い続ける仕組みをつくる
展開の段階では、データを見て話し合う場を毎日や毎週の決まった時間に設けるなど、使い続ける仕組みを整えます。仕組みが定着して初めて、効果が続くようになります。
効果が確認できたら、同じ方法をほかのラインや工場へ広げます。見える化で足場ができた後に、分析による予測や設備の自動制御といった、より高度な使い方へ進むのが一般的な順序です。
スマートファクトリーに関わる仕事と求められるスキル

スマートファクトリーは、一つの部署だけで進められるものではありません。設備、制御、情報システム、現場の運用にかかわる多くの職種が関わります。求められるスキルは、大きく次の4つに整理できます。
すべてを一人で持つ必要はなく、チームで補い合うのが一般的です。
生産技術・設備保全
生産ラインの設計や改善を担う生産技術は、導入の中心になることが多い職種です。どの設備から何のデータを取り、どう改善に使うかを決める役割を担います。
新しいラインを立ち上げる際に、最初からデータを取れる設備や配線を計画に組み込むのも生産技術の仕事です。後から付け足すより費用や手間を抑えられるため、設計段階での判断が重要になります。
設備を日々見守る設備保全も、センサーの取り付けや予知保全の運用で活躍します。設備の仕組みを理解したうえでデータを読める力が、ますます求められています。
電気設計・組込みソフトウェア
センサーやPLC、ネットワークをつなぐ部分では、電気・電子設計やソフトウェア・組込みの知識が欠かせません。制御の信号をどのように取り出し、上位のシステムへ渡すかを設計します。
通信規格やセキュリティの知識に加え、データを扱うプログラミングの素養があると、担当できる範囲が大きく広がります。設備メーカーの側でも、データを出せる機器やソフトウェアの開発を担う技術者の需要が高まっています。
生産管理・品質保証
集まったデータを日々の判断に使うのが、生産管理や品質保証・品質管理の担当者です。生産計画の調整や不良の原因分析に、データを生かします。
どの職種でも共通して求められるのは、現場の課題とデジタル技術の両方を理解し、橋渡しする力です。表計算での集計やグラフ化といった基本的なデータの扱いから身につけていくとよいでしょう。

まとめ
- 主な用途は、稼働監視・見える化、品質管理・トレーサビリティ、予知保全、エネルギー管理
- 業界によって重視する用途が異なり、生産の形や製品の性質に合わせて使い分ける
- 旭鉄工、日立製作所 大みか事業所、サンコー技研など、規模を問わず公開事例がある
- 導入は「企画→試行→展開」の順に、困りごとと目標の数字から小さく始める
- 生産技術、設備保全、電気・組込み、生産管理・品質保証など多くの職種が関わる
スマートファクトリーの基本的な仕組みはスマートファクトリーとは?仕組みと基本原理で、注目される理由や従来技術との違いはスマートファクトリーが注目される背景と従来技術との違いで解説しています。データを集める入り口となるセンサーや、品質管理と組み合わせる画像検査についても、関連する技術ページで扱っています。
スマートファクトリーの最新動向や関連技術については、スマートファクトリー・IoTの技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
- 旭鉄工の成果:IPA DX SQUARE「まずは『デジタルで楽をする』旭鉄工の事例から見る製造業のDX」(2022年8月)
- 旭鉄工のセンサー後付け:中小機構 J-GoodTech「旭鉄工株式会社(前)」
- 大みか事業所のLighthouse選出:日立製作所 ニュースリリース(2020年1月10日)
- 大みか事業所の生産リードタイム削減:日立製作所「はいたっく」2021年9月号
- サンコー技研の取り組み:IPA DX SQUARE「これが町工場のDX『町工場がつくった町工場の日報見える化アプリ』に大手企業からも引き合い!」(2022年11月)
- 導入の考え方:NEDO「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン(第2版)」

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