電気・電子設計の仕事の流れは、つくるものによって変わります。量産される電子機器では量産への移行に、工場の生産設備では現地での据付・試運転(設置して動かしてみる作業)に、多くの時間を使います。
どちらも、求められる機能や条件の確認から始まり、回路図や、制御盤(装置を動かす電気機器をまとめた箱)の図面を描き、試作と評価を重ねます。設計者は複数の案件を、異なる工程で並行して抱えるのが一般的です。
この記事では、電気・電子設計の仕事の流れを、構想・設計、試作・評価、量産・立ち上げの3つの段階に分け、各工程で使う道具や関わる人、よくある失敗まで順に整理します。
電気・電子設計の仕事の全体像
電気・電子設計の仕事は、電子機器の回路設計でも設備の制御盤設計でも、おおむね次のような流れで進みます。
仕様確認 → 構想設計 → 詳細設計 → 部品手配・試作 → 評価・デバッグ → 設計審査・出図 → 量産移行 → 据付・試運転 → 保守・改良
構想・設計、試作・評価、量産・立ち上げの3つの段階に分かれます。
※量産品では「据付・試運転」がなく、受注生産の設備では「量産移行」が簡略化されるなど、製品によって比重が変わります。
量産される電子機器では「量産移行」の比重が、1台ごとにつくる生産設備では「据付・試運転」の比重が大きくなります。どの工程に時間を使うかは、扱う製品によって大きく変わる点を押さえておくと、仕事のイメージがつかみやすくなります。
期間も製品によってさまざまです。小さな改良であれば数週間で終わることもあれば、新しい製品の開発では構想から量産まで1年以上かかることもあります。設計者は複数の案件を、異なる工程で並行して抱えるのが一般的です。
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)でも、電子機器技術者の仕事は、開発・設計だけでなく製造工程の技術開発や管理まで含むものとして紹介されています。設計者の仕事の範囲が、図面の外まで広がっていることがわかります。
また、流れは一方通行ではありません。評価で問題が見つかれば詳細設計に戻り、場合によっては構想から見直すこともあります。順に見ていきます。
構想・設計
最初の段階では、何をつくるのかを電気の言葉に置き換え、図面に落とし込みます。後工程の手戻りを防ぐうえで、最も重要な段階です。
一般に、設計の後半になるほど変更にかかる手間と費用は大きくなります。そのため、設計の初期にどれだけ多くの問題に気づけるかが、経験を積んだ設計者とそうでない設計者の差になりやすいところです。
見落とすと、試作や量産の段階で大きな手戻りになりやすい点です。
仕様確認
仕事の出発点は、企画部門や技術営業、顧客から受け取る要求仕様書です。確認する主な項目は次のとおりです。
- 電源電圧
- 使用する環境の温度
- 必要な入出力の数
- 対応すべき規格
これらを過去の類似案件の図面も参照しながら確認し、電気側で満たすべき条件を整理します。
受注生産の設備では、顧客の仕様書に機器のメーカー指定や色、配線の方式まで細かく書かれていることがあります。曖昧な点をこの時点で質問しておくかどうかで、後の手戻りの量が大きく変わります。
よくある失敗は、「言われていないこと」を確認しないまま進めてしまうことです。たとえば停電時の動作や、将来の増設の予定などは、仕様書に書かれていないことが少なくありません。
確認した内容は議事録や仕様確認書として残し、後で「言った・言わない」にならないようにしておくことが大切です。
確認した内容を議事録や仕様確認書にまとめる際の補助として、録音・文字起こしの道具「PLAUD」を紹介しています。
※リンク先の商品紹介には、アフィリエイト広告を含みます。
構想設計
条件がそろったら、全体の構成を決めます。電子機器であれば、どのマイコンやICを使い、電源をどう分けるかといったブロック図を、制御盤であれば、PLCや入出力機器の構成と盤の大きさを検討します。
この段階では、機械設計やソフトウェア担当とのすり合わせが欠かせません。センサーの数や取付位置、ソフトウェアでどこまで処理するかなど、部門をまたぐ取り決めの多くはここで決まるためです。
部品代と組立の工数を見込んだコストの見積もりもこの段階で行います。よくある失敗は、構想を担当者1人で抱え込んでしまうことです。早い段階で先輩や他部署に構想を見てもらうほうが、結果的に手戻りは少なくなります。
詳細設計
構想が固まったら、回路図CADや基板CAD、電気CADを使って、回路図や基板レイアウト、制御盤の盤図・配線図を作成します。あわせて部品メーカーのデータシートを確認しながら型番や定格を決め、部品表(BOM)にまとめます。
回路設計では、回路シミュレーターで動作を確かめたり、部品の配置や配線の引き回しでノイズを抑えたりする工夫が求められます。制御設計では、ケーブルの太さやブレーカーの容量を計算し、配線のしやすさや点検のしやすさまで考えて盤内の配置を決めます。
よくある失敗は、部品の供給状況を確認せずに選んでしまうことです。設計を終えた後で「入手まで半年」とわかり、設計をやり直すことになるケースは珍しくありません。
試作・評価
図面ができたら、実際にものをつくって確かめる段階に入ります。設計の良し悪しがはっきり表れるため、設計者にとって最も緊張する段階でもあります。関わる相手も、購買・調達や組立の担当者、評価の担当者へと広がります。
「動くこと」だけでなく、使われる環境で動き続けるかを確かめます。
部品手配・試作
部品表をもとに購買・調達部門が部品を手配し、基板は実装メーカーへ、制御盤は社内の組立部門や盤メーカーへ製作を依頼します。設計者は、組立の担当者からの問い合わせに答えたり、図面の不備を修正したりします。
部品の納期が遅れると、試作全体の日程がずれ込みます。長納期品を早めに洗い出して先行手配しておくことも、設計者の大切な仕事です。
基板の試作では、部品の向きや足の配置の間違いといった単純なミスが、そのまま作り直しにつながります。出図前のチェックリストや、ほかの設計者によるダブルチェックが効果を発揮する場面です。
評価・デバッグ
試作品ができたら、まず電源を入れて、煙や異常な発熱がないかを確かめるところから始めます。そのうえで、オシロスコープやテスター、電源装置などを使い、各部の電圧や信号の波形が設計どおりかを測定していきます。
問題が見つかれば、原因を切り分けて回路や部品を修正します。ノイズによる誤動作のように再現しにくい不具合は、測定と仮説の繰り返しになり、時間がかかることもあります。
測定結果と対策の経緯を記録に残しておくと、同じ問題が再発したときにすぐ手を打てます。
制御設計では、組み上がった制御盤の配線チェックを行い、I/Oの一つひとつが正しく入出力されるかを確認します。ここで見落とした誤配線は、現地の試運転で見つかることになり、対応の手間が大きく増えます。
設計審査・出図
評価が終わったら、品質保証や製造、機械設計などの関係部署が参加する設計審査(デザインレビュー)で、設計内容を確認します。安全面の配慮や量産での作りやすさ、コストなどを、第三者の目でチェックする場です。
審査では、評価の結果や規格試験の報告書、部品表などを資料として提出します。指摘を受けることは失敗ではなく、量産前に問題をつぶす機会と捉えることが大切です。
審査を通過すると、図面や部品表を正式な資料として発行します。これを出図と呼びます。出図後の変更は、関係部署への影響が大きいため、変更の手続きと履歴の管理が厳格に求められます。
量産・立ち上げ
最後の段階では、設計した製品や設備を、実際に使われる状態へと送り出します。図面を出して終わりではなく、ここからが本番という設計者も少なくありません。
この段階では、製造部門や品質保証、顧客の現場担当者など、設計室の外にいる人と過ごす時間が長くなります。図面を描く力に加えて、状況を説明し、相手に動いてもらう力も求められます。
量産移行
量産品の場合、製造部門や基板の実装メーカーに向けて、検査の方法や組立の注意点を伝えます。量産の初期には、試作では出なかった不良が出ることがあり、その原因調査と対策に設計者も加わります。
検査工程で使う治具や検査プログラムの仕様を決めるのも、設計者の役割になることがあります。「つくりやすく、検査しやすい設計か」が量産で試される段階といえます。
量産が軌道に乗った後も、コストダウンのための部品変更や、生産終了品の置き換えが定期的に発生します。そのたびに評価をやり直し、品質に影響がないことを確かめてから切り替えます。
据付・試運転
生産設備の場合は、完成した装置を顧客の工場に運び込み、据付と配線、試運転を行います。電気設計者は現地に出向き、センサーの調整や動作の確認、ソフトウェア担当と連携した不具合の対応にあたります。
顧客の生産開始日が決まっていることが多く、限られた日程のなかで問題を一つずつ解決していく必要があります。数日から数週間、現地に滞在することもあります。
現地では、図面どおりにならない場面にもよく出会います。その場で安全を確保しながら判断を下す力は、試運転の経験を重ねるなかで身についていきます。変更した内容は、帰社後に必ず図面へ反映します。
保守・改良
製品や設備が使われ始めた後も、設計者の仕事は続きます。たとえば次のような対応です。
- 電子部品の生産終了に伴う代替品への切り替え
- 市場で起きた不具合の調査
- 顧客からの改良要望への対応
こうした経験は、次の製品を設計するときの貴重な判断材料になります。不具合の原因や顧客の声を、設計の標準やチェックリストに反映していくことも大切です。
設備の場合は、10年、20年と使われ続けることも珍しくありません。古い設備の改造や更新の相談が、元の設計者のもとに持ち込まれることもあります。わかりやすい図面を残すことが、将来の自分や後輩を助けることにつながります。
業界・会社による違い
ここまでの流れは共通ですが、どの工程に重心があるかは、量産品か受注生産か、また会社の規模によって大きく変わります。就職や転職の際に、自分がどの工程を中心に担当することになるのかを知っておくと、入社後のギャップを減らせます。
同じ電気・電子設計でも、仕事の重心がかなり異なります。
※同じ会社の中でも、製品によって両方の進め方が混在することがあります。
量産品と受注生産
家電や車載機器などの量産品では、1つの設計が何万台、何十万台と生産されます。部品1点あたりのわずかなコスト差が大きな金額になるため、部品の選定や基板の面積に細かくこだわるのが特徴です。関係する業界は電子部品・半導体業界や自動車業界などです。
一方、産業機械・工作機械業界やFA業界に多い受注生産の設備では、顧客ごとに仕様が変わり、限られた納期で設計から立ち上げまでを進めます。過去の図面を流用しながら、変更点を確実に反映していく力が求められます。
受注生産では、設計した設備を顧客が実際に使う姿を間近で見られる一方、立ち上げ時期に出張が集中しやすい傾向があります。量産品では、長い開発期間を経て大量に世に出るぶん、市場での不具合を出さないための評価に多くの時間を使います。
大手と中小
大手メーカーでは工程ごとに担当が分かれ、電源回路だけ、評価だけといった形で専門性を深めていく働き方が一般的です。規格対応や評価の設備が社内に整っていることも多く、体系的に学べる環境があります。
その反面、製品全体や顧客の顔が見えにくいと感じる人もいます。
中小企業や装置メーカーでは、1人の設計者が仕様確認から現地での立ち上げまで通して担当することも珍しくありません。担当範囲が広い分、仕事の流れ全体を早く経験できるのが魅力です。
自分の判断で進められる場面が多い一方、相談できる相手が限られることもあります。
どちらが良いかではなく、身につく経験の種類が異なります。
※会社や部署によって実態は異なります。求人票や面接で具体的に確認しましょう。
設計に使うCAD・CAEの環境や、図面の管理の仕組みも会社によってさまざまです。転職の際は、どの工程を担当するのかを具体的に確認しておくとよいでしょう。
まとめ
- 電気・電子設計の仕事は、構想・設計、試作・評価、量産・立ち上げの3段階で進む
- 仕様確認と構想設計での取り決めが、後工程の手戻りを大きく左右する
- 試作・評価では、機能・環境・規格の3つの観点で動作を確かめる
- 量産品は量産移行、受注生産の設備は据付・試運転に重心がある
- 大手は工程ごとの分業、中小は全工程を1人で担うことが多い
電気・電子設計がどんな職種かは電気・電子設計とはで、必要なスキルや資格、キャリアの描き方は電気・電子設計に必要なスキル・資格とキャリアパスで解説しています。
あわせて、流れの中で関わりの深い機械設計や生産技術の仕事も知っておくと、全体像がつかみやすくなります。
電気・電子設計については、電気・電子設計の職種ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(2件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 仕事内容・労働条件(電子機器技術者):厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「電子機器技術者」
- 仕事内容・労働条件(電気技術者):厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「電気技術者」
NEWSLETTER
選んだ職種・業種に合わせた記事を、週1回メールで
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
職種・業種を選んで登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›

コメント