絞り膨張とは?なぜ絞りだけで膨張するのか|等エンタルピー変化と計算例

冷凍機の温度式膨張弁と、吸入管に取り付けた感温筒

絞り膨張とは、気体や蒸気がバルブやオリフィスの狭い流路を通り、外へ仕事をしないまま圧力だけが下がる変化です。減圧弁で蒸気の圧力を落とすときや、冷凍機の膨張弁で冷媒の圧力を落とすときに起きています。

熱や仕事の出入りがなく、入口と出口の流速の差が小さければ、絞りの前後でエンタルピーは変わりません(等エンタルピー変化)。それでも圧力は下がるので、その分だけ気体の比体積が増え、これが「絞りだけで膨張する」理由です。

この記事では、絞り膨張の式と「なぜ膨張するのか」、実際の絞りで起きる損失と温度の変化を順に整理します。最後に、蒸気表と冷媒の p-h 線図を使った計算例と、よくある質問をまとめます。内容は動画でも解説しています。

目次

絞り膨張とは?

絞り膨張とは、気体が断面積の小さい流路を通るときに、圧力が下がり、下流でも元の圧力まで戻らない現象です。流路の例は、オリフィス(穴の開いた金属板や筒)や開度を絞ったバルブです。

配管の上流を位置1、いちばん狭い部分を位置2、流れが落ち着いた下流を位置3として、圧力の変化を図にすると次のようになります。

図1:絞り膨張の位置1・2・3と圧力の変化

狭い部分(位置2)で圧力がいちばん下がり、下流(位置3)では入口(位置1)の圧力まで戻りません。

位置1(入口)位置2(狭い部分)位置3(下流)P1・v1・h1P2・v2・h2P3・v3・h3圧力P1P2(最も低い)P3点線:損失のない縮流(戻る)実線:絞り膨張(戻らない)

※P:圧力、v:流速、h:エンタルピー。入口の P1 と下流の P3 の差が、絞りで失われた圧力(圧力損失)です。

絞り膨張は次のような流れで発生します。

  • 絞りを通過する際に流速が増す。
  • 流速が増すことで、ベルヌーイの定理のとおり圧力が下がる。
  • 元の管径に戻ると流速は戻るが、圧力は元まで戻らない。

3つ目が絞り膨張の要点で、狭い部分の出口で流れがはがれ、渦になって勢いが失われるため、下がった圧力の一部しか取り戻せません。

配管の太さが同じなら、一次側(位置1)と二次側(位置3)の流速はほぼ同じですが、気体は二次側で膨張する分、わずかに速く流れます。このときの関係式は次のとおりです。

P1 > P3 > P2
v2 > v1 ≒ v3
熱と仕事の出入りがない定常な流れでは、エンタルピーと運動エネルギーの和が一定
h1 + v122 = h2 + v222 = h3 + v322
入口と下流の流速がほぼ同じ(v1≒v3)なので
h1 = h3(等エンタルピー変化)
P:圧力 v:流速 h:比エンタルピー(1kgあたりのエンタルピー)。h の単位を J/kg にそろえて計算します。位置の高さの差は無視しています。

外部と熱のやり取りがない断熱変化で、一次側と二次側のエンタルピーが変わらない等エンタルピー変化になります。等エンタルピー変化の意味は、エンタルピーとはの記事でも、等エントロピー変化と比べて整理しています。

いちばん狭い位置2では流速が大きい分、エンタルピーは少し下がっており(h2<h1)、流速が20m/sから100m/sに上がると、その差は4.8kJ/kgです。

蒸気の比エンタルピー(約2,700kJ/kg)に比べれば小さな差ですが、「等しい」と言えるのは流れが落ち着いた入口と出口の間だけ、と覚えておくと式を取り違えません。

なぜ絞りだけで膨張するのか

絞りを通ると圧力が下がるのに、エンタルピーは変わらず、理想気体ならエンタルピーは温度だけで決まるので、絞りの前後で温度も変わりません。理想気体の内部エネルギーが温度だけで決まることは、定圧比熱と定容比熱の違いで、Cp−Cv=R を導くときにも使っています。

温度が同じで圧力だけが下がれば、状態方程式から比体積(1kgあたりの体積)は圧力に反比例して大きくなります。外から熱を加えなくても、圧力が下がるだけで体積が増えるわけです。

理想気体の状態方程式(温度 T が一定なら、比体積は圧力に反比例)
P × 比体積 = RT
例:空気(R=0.287kJ/(kg·K))、20℃、0.6MPa → 0.3MPa(絶対圧)
入口の比体積 = 0.287 × 293.15600 ≒ 0.140[m3/kg]
出口の比体積 = 0.287 × 293.15300 ≒ 0.280[m3/kg]
圧力が半分になると、比体積は2倍になります。R の単位が kJ なので、圧力は kPa(600kPa・300kPa)で入れています。

「温度一定で比体積が2倍」になるのは理想気体の場合で、実在の気体、蒸気、冷媒では、等エンタルピーでも温度が変わり、その点は次の章と計算例で扱います。絞りで流速が上がり、圧力が下がる現象は、身近な機器でも使われています。

図2:絞り膨張が起きる・使われる主な場所

どれも「狭い流路で圧力を下げる」点は同じで、目的が違います。

減圧弁ボイラーの蒸気を使う側の圧力まで下げる
膨張弁冷媒の圧力を下げ、低い温度で蒸発させる
オリフィス流量計前後の圧力差から流量を求める
キャピラリーチューブ家庭用冷蔵庫などで、細い管を膨張弁の代わりに使う

蒸気を減圧弁で減圧したときの乾き度や過熱の変化は、関連記事:【蒸気】減圧すると乾き度が上がる?過熱になる?で詳しく扱っています。

実際の絞り膨張

実際の流体での絞り膨張では、次のような変化が発生します。

  • 絞りにより、通過する際の流速が増す。
  • 弁体やオリフィスまわりの摩擦や渦で、圧力のエネルギーが失われる。
  • 失われた分だけ、二次側の圧力が低下する。
  • 二次側の気体の比体積が膨張する。

流速が増すと、オリフィスや弁体のまわりで摩擦と渦が生まれます。この損失で失われた分が、戻らない圧力の低下(圧力損失)です。空気を入れたピストンを押すと縮むように、気体は圧力が上がると比体積が小さくなり、逆に圧力が下がれば比体積は大きくなって、二次側で気体が膨張します。

ここで注意したいのは、摩擦の損失があっても等エンタルピーは崩れないことです。摩擦で失われた勢いは熱になって流体に戻り、エンタルピーは同じまま、エントロピーだけが増えます。

損失がまったくない理想的な縮流(ベンチュリ管の理想)なら、圧力は下流で元に戻り、その場合は圧力が下がらないので、膨張も起きません。絞り膨張は、この損失があるからこそ起きる不可逆な変化です。

図3:損失のない縮流と絞り膨張の違い

入口(位置1)と下流(位置3)を比べると、違いは圧力とエントロピーに出ます。

入口→下流
損失のない縮流(理想)
絞り膨張(実際の弁・オリフィス)
圧力
元に戻る(P3=P1)
戻りきらない(P3<P1)
比体積
変わらない
圧力が下がった分だけ増える(膨張)
エンタルピー
変わらない
変わらない(h1=h3)
エントロピー
変わらない(可逆)
増える(不可逆)
温度
変わらない
理想気体は変わらない。実在の気体・蒸気・冷媒は変わる

※どちらも途中の狭い部分(位置2)では流速が上がり、圧力とエンタルピーが下がります。違いは下流で圧力が戻るかどうかです。

実在の気体では、等エンタルピーでも温度が少し変わります。これをジュール・トムソン効果といい、常温付近では多くの気体が絞ると冷えます。

たとえば窒素を20℃・0.6MPaから0.3MPaに絞ると、NIST の物性値では約19.3℃になり、0.7℃ほど下がります。比体積はおよそ2.0倍で、理想気体の計算とほぼ同じです。

一方、水素やヘリウムは常温で絞ると逆に温まるのは、冷えるか温まるかが入れ替わる温度(逆転温度)が、室温よりずっと低いためです。

絞りを設けた流量計などを使う際には、圧力損失をどの程度見込むかの検討が必要です。オリフィス板は構造が簡単な分、下流で戻らない圧力が、なだらかに広がるベンチュリ管より大きくなります。

摩擦損失については、タービンの効率を考える際にも同様のことが言え、損失がある膨張では、取り出せる仕事が理想より小さくなります。関連記事:熱落差とは?断熱熱落差とタービン効率の公式・内部効率の計算

絞り膨張の計算例(減圧弁と膨張弁)

絞り膨張の計算は、どの流体でも同じ3つの手順で進めます。

  • 入口の圧力・温度(または乾き度)から、入口の比エンタルピー h1 を求める
  • 絞りの前後でエンタルピーは変わらないとして、出口も h2=h1 と置く
  • 出口の圧力と h2 から、蒸気表や p-h 線図で出口の温度・乾き度を読む

ここからは入口を添字1、出口を添字2で表し、図1の位置3(下流)が、ここでの出口2にあたります。

蒸気の減圧弁(蒸気表を使う)

ボイラーで作った0.7MPaGの湿り蒸気(乾き度0.95)を、減圧弁で0.2MPaGに下げる場合を考えます。蒸気表は絶対圧で引くので、ゲージ圧に大気圧0.101MPaを足します。

① 一次側:0.7MPaG(約0.801MPa)の飽和水・飽和蒸気(蒸気表より)
h′ = 721.2[kJ/kg] h″ = 2768.4[kJ/kg] 飽和温度 170.5℃
h1 = h′ + x1(h″ − h′) = 721.2 + 0.95 × 2047.2 = 2666.0[kJ/kg]
② 減圧弁の前後でエンタルピーは変わらない
h2 = h1 = 2666.0[kJ/kg]
③ 二次側:0.2MPaG(約0.301MPa)の飽和水・飽和蒸気(蒸気表より)
h′ = 562.1[kJ/kg] h″ = 2725.1[kJ/kg] 飽和温度 133.7℃
x2 = h2 − h′h″ − h′ = 2666.0 − 562.12725.1 − 562.1 = 2103.92163.0 ≒ 0.973
h′:飽和水の比エンタルピー h″:飽和蒸気の比エンタルピー x:乾き度。物性値は NIST Chemistry WebBook(水)。

減圧で温度は170.5℃から133.7℃に下がり、乾き度は0.95から約0.97に上がります。乾き度が上がるのは、低い圧力では飽和水の比エンタルピー h′ が小さくなる(721.2→562.1kJ/kg)ためで、液のままでは持ちきれない熱で、一部の水が蒸気に変わります。

乾き度0.95ではなく飽和蒸気(乾き度1)から同じ減圧をすると、二次側は約153℃の過熱蒸気になります。飽和温度133.7℃に対して、約20℃の過熱度がつく計算です。

乾き度と比エンタルピーの関係 h=h′+x(h″−h′) は、タービン出口の計算でも使います。タービン(等エントロピー膨張)では乾き度を比エントロピーから求めてこの式に入れます。その手順は、タービンの仕事の求め方で蒸気表から順に計算しています。

発電所では、タービンを通さずに蒸気を逃がすときにも、弁で減圧したうえで水を噴いて温度を下げます。その仕組みはタービンバイパス弁の記事で紹介しています。

冷凍サイクルの膨張弁(p-h 線図を使う)

冷凍機やエアコンの冷凍サイクルは、圧縮機・凝縮器・膨張弁・蒸発器の4つでできています。膨張弁は、高圧の液冷媒を絞って低圧にし、低い温度で蒸発できるようにする部品です。

冷凍サイクルは、縦軸に圧力、横軸に比エンタルピーをとった p-h 線図(モリエ線図)で表します。絞り膨張はエンタルピーが変わらないので、線図の上では真下に下りる縦の線になります。

図4:冷凍サイクルの p-h 線図と膨張弁

膨張弁(3→4)はエンタルピー一定なので縦の線。圧力が下がり、液の一部がガスになります。

圧力 p比エンタルピー h飽和液線飽和蒸気線3412凝縮器(放熱)蒸発器(吸熱)圧縮機膨張弁

※点線の山の内側は、液とガスが混ざった湿りの領域。4は山の内側に入るので、液とガスの混合になります。

冷媒 R134a で、凝縮温度40℃の飽和液を、蒸発温度0℃まで膨張弁で絞る場合を計算します。高圧受液器(レシーバー)を持つ冷凍機では、凝縮器を出た液冷媒はいったんここにたまり、膨張弁へ送られます。

① 膨張弁入口(状態3):40℃の飽和液(圧力 約1.02MPa)
h3 = 256.4[kJ/kg]
② 膨張弁の前後でエンタルピーは変わらない
h4 = h3 = 256.4[kJ/kg]
③ 膨張弁出口(状態4):0℃の飽和圧力(約0.293MPa)。0℃の飽和液 h′=200.0、飽和蒸気 h″=398.6[kJ/kg]
x4 = h4 − h′h″ − h′ = 256.4 − 200.0398.6 − 200.0 = 56.4198.6 ≒ 0.28
④ 蒸発器出口(状態1)を0℃の飽和蒸気とすると、冷凍効果は
h1 − h4 = 398.6 − 256.4 = 142.2[kJ/kg]
物性値は NIST Chemistry WebBook(R134a、基準状態 IIR:0℃の飽和液で h=200kJ/kg)。p-h 線図で読むときも同じ値を目盛りで読みます。

乾き度0.28は、膨張弁を出た冷媒の質量で約28%が、もうガスになっているという意味です。このガスをフラッシュガスと呼び、40℃の液を0℃まで冷やすために自分の一部を蒸発させた分にあたります。

残りの約72%の液が蒸発器で蒸発して周りから熱を奪い、冷媒1kgあたりの冷凍効果は約142kJです。凝縮器の出口で液をさらに冷やしておく(過冷却をつける)と、h3 が小さくなり、縦の線は左へ移ります。フラッシュガスが減り、同じ冷媒量で取れる冷凍効果が大きくなります。

絞り膨張のよくある質問

等エンタルピー変化(等エンタルピー膨張)とは?

変化の前後で、流体のエンタルピーが変わらない変化で、絞り膨張がその代表であり、「等エンタルピー膨張」とも呼ばれます。

成り立つ条件は、断熱で、外へ仕事をせず、入口と出口の流速の差が小さいことです。弁やオリフィスのように、流体がただ通り抜けるだけの機器があてはまります。

断熱膨張(等エントロピー膨張)との違いは?

どちらも熱の出入りがない膨張ですが、仕事を取り出すかどうかが違い、弁は仕事を取り出さず、タービンや膨張機は羽根やピストンを動かして仕事を取り出します。

図5:等エンタルピー膨張と等エントロピー膨張

減圧弁は「仕事を取り出さない膨張」、タービンは「仕事を取り出す膨張」です。

項目
等エンタルピー膨張(絞り)
等エントロピー膨張(理想の断熱膨張)
代表例
減圧弁・膨張弁・オリフィス
理想的なタービン・膨張機
仕事
取り出さない
取り出す
エンタルピー
前後で変わらない
取り出した仕事の分だけ下がる
エントロピー
増える(不可逆)
前後で変わらない(可逆)
温度
理想気体は変わらない。湿り蒸気・冷媒(液とガスの混合)は出口圧力の飽和温度まで下がる
大きく下がる

※実際のタービンは損失があるので、エントロピーが少し増えます。同じ圧力まで下げるなら、仕事を取り出す分だけ等エントロピー膨張のほうが出口の温度は低くなります。

膨張弁で「絞る」と何が起きる?

膨張弁の開度を小さくする(絞る)と流路が狭くなり、流れる冷媒の量が減り、圧力差をつけて低圧側へ送る役目と、流量を調整する役目を同時に担っています。

温度式膨張弁では、蒸発器出口の吸入管に取り付けた感温筒で冷媒ガスの温度を感じ取ります。出口ガスの過熱度が設定より大きければ開き、小さければ閉じて、蒸発器の出口で液が残らない程度の冷媒量に保ちます。

弁の開度と流量の関係は、プラントの制御弁と同じ考え方です。開度に対する流量の変わり方は、イコールパーセント特性とリニア特性の違いで解説しています。

絞り膨張で温度は下がらない?

理想気体なら下がらないのは、エンタルピーが温度だけで決まるので、エンタルピーが同じなら温度も同じだからです。

実在の気体は、ジュール・トムソン効果で少し温度が変わります。湿り蒸気や冷媒のように液と気体が混ざった状態で、出口でも液が残る場合は、出口の圧力の飽和温度まで温度が下がります。冷凍機が冷えるのはこの性質を使っているためです。

まとめ

この記事のまとめ
  • 「絞り膨張」は、弁やオリフィスで流速が上がって圧力が下がり、下流でも元の圧力に戻らない現象
  • 熱と仕事の出入りがなく、前後の流速差が小さければ等エンタルピー変化(h1=h3)になる
  • 摩擦や渦の損失で圧力が戻らず、圧力が下がった分だけ比体積が増える。エントロピーは増える
  • 理想気体は温度が変わらず、実在の気体はジュール・トムソン効果で少し変わる。湿り蒸気・冷媒(液とガスの混合)は出口圧力の飽和温度まで下がる
  • 計算は「入口の h を求め、出口も同じ h と置き、出口圧力で状態を読む」。減圧弁は乾き度、膨張弁はフラッシュガスの割合がわかる

絞りの前後で圧力差が生まれる現象は、流量の測定にも使われており、オリフィスの前後の圧力差を測れば、流量を求められます。

差圧の測り方に興味のある方は、マノメーターの記事も合わせてご覧ください。冷凍機が大きな役割を持つ現場の例としては、データセンターの液冷の記事で冷却設備の構成を紹介しています。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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