熱落差とは、タービンの入口と出口の蒸気のエンタルピー(熱量)の差で、タービンが回転の仕事に変えられる熱の大きさを表します。
タービン効率は、出力を熱落差で割って求め(どちらも kJ/h などの同じ単位にそろえる)、基準にするのは、損失がまったくない場合の熱落差「断熱熱落差」です。
この記事では、タービンの基本、熱落差と断熱熱落差の意味、内部損失と外部損失、蒸気表を使った効率の計算、熱消費率の順に整理します。内容は動画でも解説しています。
タービンとは?
タービンは、水や蒸気、ガスなどの流れの力で回転の動力を取り出す回転機の総称です。
回す流体によって名前が変わり、蒸気で回すものが蒸気タービン、燃焼ガスで回すものがガスタービン、水で回すものが水車(水力タービン)です。
タービンの目的は、流体のもつエネルギーを回転のエネルギーとして取り出すことで、取り出した回転で発電機を回したり、ポンプや送風機を動かしたりします。
蒸気タービンの中では、静止した翼(静翼)で蒸気を加速し、軸についた翼(動翼)に当てて回し、翼の役割は動翼と静翼の違いで詳しく解説しています。
工場や発電所の蒸気タービンには、いくつかの種類があります。排気を復水器で水に戻す復水タービン、排気を工場の蒸気として使う背圧タービン、途中から蒸気を抜き出す抽気タービンなどです。違いは復水タービンと抽気タービンの違いで整理しています。
タービンの熱落差とは?
タービンの熱落差は、タービンを回す流体の入口エンタルピーと出口エンタルピーの差です。式に表すと次のようになります。
蒸気タービンなら、入口の蒸気の比エンタルピー[kJ/kg]に蒸気流量[kg/h]を掛けたものが入口エンタルピーHinです。出口の蒸気の比エンタルピーに流量を掛けたものが、出口エンタルピーHoutになります。
それぞれの比エンタルピーをhin、hout、流量をmとすると、次のように表せます。
タービンは熱エネルギーを回転のエネルギーに変える機器なので、この熱落差が回転の仕事の元になります。エンタルピーそのものの意味はエンタルピーとはで解説しています。
入口と出口のエンタルピーの差が、タービンで仕事に変えられる熱の大きさです。
出口は、あくまでタービンを出たところの蒸気です。入口の蒸気と復水(水に戻った後)の差をとると、復水器で捨てる凝縮の熱まで含んでしまい、タービンの熱落差より大きな値になります。
断熱熱落差と実際の熱落差
熱落差には2種類あり、損失のない理想の膨張で求める断熱熱落差と、実際の出口の状態で求める実際の熱落差(有効熱落差)です。
理想のタービンでは、蒸気は熱の出入りがなく摩擦もない「断熱膨張」をします。このときエントロピーは変わらない(等エントロピー変化)ので、入口と同じエントロピーのまま出口の圧力まで下がった状態が、理想の出口になります。
実際のタービンでは摩擦などでエントロピーが増え、出口のエンタルピーは理想より高いところで止まり、実際の熱落差は、断熱熱落差より必ず小さくなります。
断熱膨張なら真下(2s)へ、実際は右下(2)へ進みます。縦の長さの差が損失です。
※後で使う計算例(入口3.0 MPa・400℃、排気0.3 MPa、排気温度190℃)の値で描いた模式図です。灰色の実線は等圧線、点線は飽和蒸気線です。
h-s線図(モリエ線図)では、縦軸がエンタルピーなので、熱落差は縦の長さとして読めます。断熱膨張は横に動かない真下への線、実際の膨張はエントロピーが増えて右にずれる線です。
断熱熱落差を大きくする条件、つまり入口の温度・圧力と出口の圧力の決め方は、ランキンサイクルの効率の話とそのままつながります。
タービン効率の考え方
熱落差は、すべてが回転の仕事に変わるわけではありません。途中で2種類の損失が生じるためです。
この章で使う効率の公式は次の3つで、分子・分母の範囲がそれぞれ違います。
蒸気の通り道で起きるのが内部損失、軸まわりで起きるのが外部損失です。
※損失の分け方は資料によって細部が異なります。ここではメーカーの技術資料(日立評論)にならい、排気損失を内部損失に含めています。
内部損失
ノズルや翼と蒸気の間で摩擦が起きたり、シール部分から蒸気が漏れたりして失われるエネルギーを、内部損失といいます。理想の断熱膨張は摩擦のない等エントロピー変化ですが、実際にはこうした摩擦でエントロピーが増えます。
漏れは、動翼の先端や軸まわりのすき間を、蒸気が仕事をしないまま通り抜けることで起きます。メーカーは翼先端のフィンや高性能シールで漏れを減らし、効率を上げます。軸から外へ漏れる蒸気を回収する設備はグランドコンデンサで紹介しています。
最終段の翼から出ていく蒸気の速度のエネルギーも、回転には使われず、これを排気損失といい、メーカーの技術資料では内部損失の一つに数えられます。
復水タービンの低圧側では蒸気に水滴が混じり、水滴が翼に当たることも損失になり、翼の浸食の原因にもなる現象です。
内部損失は、出口のエンタルピーを押し上げる形で表れます。断熱熱落差のうち、実際の熱落差として残った割合が内部効率です。
外部損失
タービンの軸と、発電機やポンプをつなぐ軸まわりでも、軸受の摩擦などでエネルギーが失われ、このような蒸気の通路の外で起きる損失を、外部損失といいます。
排気がもつ運動のエネルギーを外部損失に入れる説明もありますが、この記事では前の項のとおり、排気損失として内部損失に数えます。
実際の熱落差のうち、軸から出力として取り出せた割合が機械効率です。
この2つの損失があるため、出力として取り出せるのは熱落差の何割かです。断熱熱落差に対する出力の割合をタービン効率といいます。
実際に計算してみよう
次の条件で、タービン効率が何%になるか計算してみますが、エンタルピーの値は、蒸気表(水と蒸気の性質の表)から読み取ります。
入口の蒸気が3.0 MPa・400℃、排気圧力が0.3 MPa(どちらも絶対圧)の背圧タービンがある。蒸気流量は4,800 kg/h、タービン出力(軸出力)は500 kW、排気の温度を測ると190℃だった。タービン効率と内部効率を求めよ。

まず、蒸気表から3つの比エンタルピーを読み取ります。
次に、入口と断熱膨張の出口のエンタルピーを求めます。
次に、実際の出口の値を使って内部効率と機械効率を求めます。
蒸気表で3つの比エンタルピーを読めば、あとは掛け算と割り算です。
断熱熱落差を100としたときの行き先を並べると、次のようになります。
いちばん大きく減るのは、蒸気の通り道で起きる内部損失です。
※100−72.3=27.7が内部損失、72.3−70.2=2.1が外部損失です。値は計算例の条件によるもので、タービンの大きさや運転状態で変わります。
この例では、断熱熱落差の約3割が内部損失、約2%が外部損失でした。効率を上げる工夫の多くが、翼の形やシールなど蒸気の通り道に向けられるのはこのためです。
なお背圧タービンでは、排気をそのまま工場の蒸気として使い、排気圧力は蒸気を使う設備の条件で決まるので、熱落差を大きくするために排気圧力だけを下げることはできません。
翼やシールの状態は、定期修理でタービンを開けて点検します。プラントの定期修理の流れは定修(定期修理)とはで紹介しています。
タービン効率と熱落差のよくある質問
タービン効率の公式は?
タービン効率は、断熱熱落差に対する出力の割合で、η=P/ΔHad=ηi×ηmです。計算で取り違えやすいのは、次の3点です。
- 分母が断熱熱落差か、実際の熱落差か(内部効率のことを「タービン効率」と呼ぶ資料もある)
- 出力が軸出力か、発電機の出力か(発電機の出力なら発電機効率も含む)
- 出力[kW]と熱落差[kJ/h]の単位がそろっているか(kW×3,600=kJ/h)
問題文や仕様書では、どこからどこまでの効率かを先に確かめると間違えにくくなります。
タービン熱消費率とは?
熱消費率は、1 kWhの電気をつくるのに使った熱量[kJ/kWh]です。小さいほど効率がよいことを表し、英語では heat rate といいます。
1 kWhは3,600 kJなので、同じ範囲で測った効率と熱消費率は「効率=3,600÷熱消費率」の関係です。たとえば熱消費率が9,000 kJ/kWhなら、3,600÷9,000=0.40で効率40%にあたります。
タービンの熱消費率は、一般にタービン設備に入る蒸気の熱量(入口の蒸気と戻る給水のエンタルピー差×流量)を出力で割って求めます。燃料の熱量をもとにする発電所全体の熱消費率とは範囲が違うので、比べるときは範囲をそろえます。
最終段の翼を長くして排気損失を減らし、タービンの熱消費率を0.5〜1%ほど改善した例もあります(日立評論、1978年)。省エネの指標としての使い方は工場の省エネとエネルギー管理の基本もあわせてどうぞ。
蒸気タービンの効率はどのくらい?
「効率」が何を指すかで数字が大きく変わります。計算例の約70%は断熱熱落差に対するタービン単体の効率で、燃料の熱から見た効率は、それよりずっと低くなります。
原子力百科事典ATOMICAでは、超臨界圧・主蒸気566℃の大容量の汽力発電所でタービン熱効率46%、プラント熱効率約40%と紹介されており、1998年に登録された記述です。
より新しいNEDOの資料(2016年)では、700℃級の先進超々臨界圧(A-USC)で送電端熱効率46%(高位発熱量基準)をめざしています。当時の最新の超々臨界圧(USC)より約1割高い値です。
こちらの46%は発電所全体の効率で、ATOMICAの「タービン熱効率」とは範囲が違います。
タービン熱効率が50%を下回るのは、復水器で捨てる凝縮の熱が大きいためです。この熱はタービンの損失ではなく、蒸気のサイクルそのものの制約で、カルノーサイクルの上限とも関係します。
熱落差を大きくするには?
断熱熱落差は、入口と出口の状態で決まり、入口の蒸気の温度・圧力を上げる、出口の圧力を下げると大きくなります。
復水タービンで復水器の真空を保つのは、出口の圧力を下げて熱落差を大きくするためです。条件を変えたときの効率の変化は、ランキンサイクルの記事に計算例でまとめています。
まとめ
- タービンの熱落差は、入口と出口の蒸気のエンタルピー差のこと
- 損失のない断熱膨張で求めたものが断熱熱落差、実際の出口で求めたものが実際の熱落差
- 内部損失と外部損失により、100%のエネルギーは取り出せない
- タービン効率=出力/断熱熱落差=内部効率×機械効率
- 熱消費率は1 kWhあたりの熱量で、効率=3,600÷熱消費率
熱落差は、タービンが流体の熱エネルギーを回転のエネルギーに変える量だと考えると、つかみやすくなります。出力の求め方はタービンの仕事の求め方、抽気がある場合は抽気タービンの出力計算方法で解説しています。
熱落差や効率の計算は、エネルギー管理士の試験でもよく問われ、試験と実務の関係は製造業のエネルギー管理士の仕事で紹介しています。
出典
出典・参考資料(9件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 内部効率(等エントロピー効率)の定義:Workforce LibreTexts「1.2: Turbine Efficiency」
- 内部損失(漏れ損失・排気損失)、断熱熱落差・有効熱落差:日立評論「高効率蒸気タービンの開発」(1980年6月)
- 長翼による排気損失の低減と熱消費率の改善:日立評論「高効率・高信頼性蒸気タービン」(1978年11月)
- シールによる漏れの低減:三菱重工技報 Vol.62 No.1「蒸気タービン向け高性能シールの開発」(2025年)
- 蒸気表の値:NIST Chemistry WebBook「Thermophysical Properties of Fluid Systems」(IAPWS-IF97 による計算値と照合)
- 熱効率と860 kcal/kWh、発電端・送電端:原子力百科事典 ATOMICA「熱効率」
- 汽力発電所のタービン熱効率・プラント熱効率:原子力百科事典 ATOMICA「汽力発電所」(1998年2月登録)
- A-USC の送電端熱効率の目標:NEDO「先進超々臨界圧火力発電実用化要素技術開発プロジェクト」事業原簿(2016年)
- 熱消費率(heat rate)と効率の換算:U.S. Energy Information Administration「What is the efficiency of different types of power plants?」
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