承認図とは、機器メーカーが「この仕様・この寸法で製作します」と発注側に確認を求めるために出す図面です。発注側は中身を確かめ、問題がなければ承認印を押して返します。これが承認返却で、メーカーは返却を受けてから製作に入るのが基本の流れです。
プラント業界では当たり前に飛び交う言葉ですが、業界に入ったばかりだと馴染みがない用語です。この記事では、承認図の中身、承認返却の流れ、判定の種類、返却期限の決め方を順に整理し、承認願図との違いや返却管理はよくある質問で答えます。
承認図とは
承認図とは、受注側(メーカー)が「この仕様・寸法で製作します」と発注側に確認を求めるために提出する図面です。「承認願図」「承認用図(承認用図面)」と呼ぶこともあります。
「機器承認図」「設備の承認図」と呼ぶ場合も指しているものは同じで、ポンプやタンク、熱交換器などの機器ごとに、メーカーが描いて提出します。提出したときの図を「承認願図」、承認を受けた図を「承認図」と呼び分ける会社もあり、この違いは後半のよくある質問で詳しく答えます。
承認図には、機器の外形寸法、配管や電線の取合い(接続口の位置・サイズ・規格)、材質、主な仕様などが書かれます。
製作に入る前に、発注側と食い違いがないかを確かめたい項目が並びます。
※例です。何を書くかは機器の種類と、購買仕様書で求めた提出物によって変わります。
発注側はこれを購買仕様書と見比べ、問題がなければ承認印を押して受注側に返します。この「承認して返すこと」が、この記事で解説する承認返却です。受け取った承認図で、発注側が特に確かめたいのは次の点です。
- 購買仕様書・見積仕様書の要求と合っているか
- 見積の段階でデビクラ(デビエーションリスト)に載せて合意した内容が、図面に反映されているか
- 前後の機器や配管との取合い位置・形状が合っているか
- 据付やメンテナンスに必要なスペースがあるか
- 付属品・計器の数と取付位置が、使い方に合っているか
食い違いを見つけたら、承認印だけで済ませず、どこがどう違うかを図面に書いて照会します。仕様そのものが変わるなら、見積仕様書やデビクラなど関係する書類もあわせて改訂します。
寸法や記号の読み方に自信がないうちは、機械図面の読み方でつまずく疑問を先に押さえておくと、承認図を見るときの見落としが減ります。プラントの図面は、承認図だけでなくその前後にも描かれ、一般的な順番は次のとおりです。
承認図は、計画図で決めた内容をメーカーが具体化し、製作の前に確かめる図面です。
※計画図=配置や主要寸法を検討する図面(発注側・設計者)。承認図=製作前に発注側の承認を受ける図面。製作図=承認された内容をもとに加工・組立の詳細を描く図面(メーカー・加工業者)。完成図=据付・試運転後の実際の状態を反映して引き渡す図面。呼び方や作る人は会社・案件で違います。
承認を受ける前に製作を始めると、仕様の食い違いが見つかったときに作り直しになるため、承認図の段階で、取合い寸法や材質、ノズルの向きを確かめておきます。図面の種類(計画図・製作図・承認図)の違いは、製作図とは?計画図・承認図との違いと図面の流れで解説しています。
図面の承認返却とは
図面の承認返却とは、受注側から発行された仕様書や図面に対し、「記載の内容で問題ない」と承認する目的で書類を返却することです。購買仕様書の発行から、発注側と受注側の書類のやり取りを図に表すと次のようになります。

発注側が購買仕様書を発行すると、受注側はその仕様に合った見積仕様書を出し、発注側は価格交渉や仕様の修正事項を書いた書類を返して、お互いが合意するまでこれを繰り返します。
見積段階の書類の役割は、見積仕様書の目的と書き方の記事で整理しています。購買仕様書の書き方は、購買仕様書とは何かを解説した記事にまとめています。
価格の合意が得られると、発注側は注文書を発行し、受注側はさらに詳しい納入品の図面を作り、発注側は細かい仕様の合意が得られるまでやり取りを続けます。
図の「納入品図」が、この記事でいう承認図にあたり、納入品図は、実際に納める機器の仕様をまとめた納入仕様書と一緒に提出されることが多く、呼び方やまとめ方は会社・案件で違います。納入仕様書で何を確かめるかは、納入仕様書の確認ポイントの記事にまとめています。
それらが完了すると、発注側は図面に承認印を押して返却し、受注側は承認返却を受けて、はじめて製品の製作を始められます。つまり、発注側と受注側の仕様に関する書類のやり取りの中で、最後に行うのが図面の承認返却です。

関連記事:デビエーションとは?デビクラ(デビエーションリスト)の書き方と目的・見本
承認返却の注意点
承認返却で発注側・受注側の双方が気をつけたいのは、承認返却をいつまでに済ませるかという期限です。原則として受注側は、承認返却を受けない限り製作を始められず、承認返却が期限どおりに行われないと、最悪の場合は納期遅れが起きます。
納期が遅れると、発注側は組付け工事を工程どおりに進められなくなり、全体工程に影響が出るので、必ず避けたい事態です。一方、承認返却の前に受注側が見切りで製作を始めると、後で食い違いが見つかったときの作り直しは受注側の負担になりがちです。
こうした理由から、実際のやり取りでは完全な合意がなくても「条件付きの承認返却」とすることがあります。特定の条件を付けて妥協点を示し、製作を始めてもらう方法で、このあたりは会社同士の取り決めになるので、そのつど状況に応じて処理されることが多いです。
返却するときの判定の種類
会社によって呼び方は違いますが、承認図を返すときの判定は一般的に次の3つに分かれます。
判定によって、受注側が製作を始めてよいかどうかが決まります。
※判定の名前や記号、欄の書き方は会社や案件で違います。発注側の指定があれば、それに従います。
承認図には、判定・日付・確認した人が分かるように承認印やサインを入れ、直してほしい箇所は赤字で朱記して、コメントの意図が受注側に伝わるように書きます。
条件付き承認では、条件の中身・直す担当・いつまでに直すかを残しておきます。図面の朱記だけで済ませるか、別紙や打合せの記録を使うかは案件ごとに決めます。修正した図面が出てきたら、条件がすべて直っているかを確かめ、解消したことを記録して閉じます。
返却期限の決め方
承認返却の期限に、法律や業界共通の決まりはありません。注文書や購買仕様書の中で、「承認図の提出時期」と「承認返却の期限(例:承認図の受領から○日以内)」をあらかじめ取り決めておくのが一般的です。期限を決めるときは、納期から逆算します。
納入日から、輸送・検査・製作の期間を順に引いていきます。
※ここで求めた日は、発注側が承認図を返す期限です。再提出になったときの修正・再確認の期間も見込んで、承認図の提出時期を決めます。
承認返却が遅れると、その日数だけ製作の開始が遅れ、納期に影響するので、発注側は、社内の確認(設計・電気・計装・運転部門など)にかかる日数も見込んでおきましょう。
再提出になると、受注側の修正と発注側の再確認の分だけ時間が延びるため、1回で承認にならない前提で、提出と確認の往復の時間を残しておくと、期限を守りやすくなります。
③の工場での検査や立会いの進め方は、FAT・SAT(工場立会検査・現地受入検査)の違いの記事で確かめられます。
承認図のよくある質問
承認願図と承認図は何が違いますか?
呼び分けるときは、承認を求めて提出した段階の図が承認願図(承認用図)、承認を受けた図が承認図です。実務では、提出した図も含めてまとめて「承認図」と呼ぶことも多くあります。
公的な例では、防衛装備庁の要領が、承認を受けるために提出した図書を「承認用図書」、承認を受けたものを「承認図書」と定義しており、提出のときには「承認願書」を付けます。
JIS の製図用語(JIS Z 8114)の英語の抜粋でも、2つは別の項目です。承認を求めて提出する図面が drawing for approval、注文者などが承認した図面が approved drawing です。
承認図と納入仕様書は何が違いますか?
納入仕様書は、発注後に受注側が出す、実際に納める機器の仕様や図面をまとめた書類一式です。承認図は、その中の図面(組立図・外形図・付属品の詳細図など)にあたります。
2つは一緒に提出され、まとめて承認返却されることが多く、会社によっては、納入仕様書を含めた提出書類全体を「承認図」と呼ぶこともあります。
承認したら、図面の責任は発注側に移りますか?
承認の効力は、契約や仕様書の取り決めで決まり、一律ではないので、案件ごとに確かめる必要があります。公共の設備工事の例では、四日市市上下水道局の特記仕様書が、承諾図を提出して発注者の承諾を得てから工事に着手すると定めています。
そのうえで、受注者が据え付けた設備に承諾図書では推定が難しい不都合が出たら、受注者の責任で変更・改修する決まりです。
防衛装備庁の要領では、仕様書で確定している事項は、代替品の規定がある場合を除き承認で変えることはできず、誤って変更を承認しても無効とされます。承認は、仕様書の要求を変える手続きとは別と考えておくのが安全です。
一方で、発注側がコメントで指示した変更や、承認した寸法は発注側の判断として残るため、何を確かめて承認したかを、朱記や記録で残しておくことが大切です。
自動車業界でいう「承認図方式」とは何ですか?
承認図方式は、プラントの承認返却とは文脈が違う用語で、自動車メーカーと部品メーカーの間で、部品の設計をどう分担するかという取引の型を指します。
研究では、自動車メーカーが詳細な部品図面まで描く方式を「貸与図方式」と呼びます。自動車メーカーの仕様・基本設計に従って部品メーカーが詳細設計を担うのが「承認図方式」で、部品メーカーが独自に設計する「市販品」もあります。
同じ「承認図」でも、自動車業界の用語は設計分担の型、プラントでは製作前の確認の図面です。
※自動車の取引方式は、藤本隆宏・葛東昇(2000)が紹介する浅沼(1997)などの整理によります。ほかに、分担は承認図方式と同じで最終図面を自動車メーカーが持つ「委託図方式」もあります。
どちらも「受注側が描いた図面を発注側が承認する」点は共通です。ただ、自動車の承認図方式は取引の仕組み、プラントの承認図は1件の注文ごとに出る図面を指す、と分けて読むと混乱しません。
承認図の返却は、どう管理すればよいですか?
機器が多い案件では、図面ごとに提出日と返却期限を一覧にした台帳で管理します。決まった書式はありませんが、次のような列を置くと抜けが減ります。
図番と版(Rev.)ごとに1行。期限と判定、次に誰が何をするかを並べます。
※説明用に作った例です。図番・日付は架空のものです。実際の台帳には、案件名・機器番号・確認した部署・差替えの理由の欄を足すこともあります。
管理で大事なのは、いま有効な最新版がどれかを誰でも分かるようにすることで、差し替えた古い版には旧版と分かる印を付け、版ごとの変更点を残します。
未返却のまま期限が近いもの、期限を過ぎたものは、台帳で毎週洗い出して催促します。返却管理は購買部門と設計部門のどちらが持つかを、最初に決めておきます。発注から納入までの購買の仕事の中での位置づけは、購買・調達の仕事の流れで整理しています。
まとめ
- 承認図は、受注側が仕様・寸法の確認を求めるために出す図面で、発注側が承認して返すことを承認返却という
- 承認図では、購買仕様書・見積仕様書・デビクラとの一致と、取合い・据付スペースを確かめる
- 承認返却の期限は注文時に取り決め、納期から逆算し、再提出の往復の時間も見込む
- 双方の合意ができない場合は条件付き承認などを使い、条件・担当・期限を記録して解消を確かめる
- 承認願図は提出した段階の図。返却は図番と版ごとに台帳で管理し、最新版と未返却を見える化する
プラント業界や製造業では当たり前とされている商習慣ですが、新たにその業界に入ってきた方にとっては独特に感じるかもしれません。ただ、特注品が多い業界では一般的な流れなので、ぜひ理解しておきましょう。
承認図を受け取って返す側の仕事は購買・調達、図面を描いて出す側の仕事は機械設計の職種ページから関連記事を読めます。業界の全体像はプラントエンジニアリングの業種ページにまとめています。
出典
出典・参考資料(4件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 承認用図書・承認図書の定義、承認願書、変更承認、仕様書の確定事項:防衛装備庁「承認用図書及び承認用見本の作成並びに提出要領」
- 承諾図の提出と承諾後の着手、承諾図書で推定困難な不都合の扱い:四日市市上下水道局「日永浄化センター第3系統 汚泥スクリーン設備設置工事 特記仕様書」(令和3年度)
- 承認図方式・貸与図方式・市販品方式の整理:藤本隆宏・葛東昇「自動車部品のアーキテクチャ的特性と取引方式の選択」東京大学 CIRJE ディスカッションペーパー CIRJE-J-34(2000年)
- 製図用語(drawing for approval・approved drawing):三木プーリ「Technical Drawing Terminology (Excerpt from JIS Z 8114:1999)」
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