放熱量は、熱の伝わりやすさを表す熱貫流率Uに、伝熱面積と高温側・低温側の温度差を掛けると概算できます。保温材を加えた場合も同じ考え方で比較できますが、実際の配管では円筒形状や表面からの放射の影響の確認が必要です。
ここでは、温水90℃・外気20℃という条件で、保温なしと厚さ100mmの保温ありを計算します。計算を追いやすくするため、まず面積が一定の平面モデルを使い、配管の保温設計へ使うときの注意点も整理します。
放熱とは?
放熱とは、高温の物体から周囲へ熱が移ることで、配管や機器では内部の流体と周囲の空気の温度差が熱の移動を生みます。加熱源を止めても温度差があれば熱は逃げるため、温度を維持する設備では、その分の熱の補給が必要です。
図1:加熱していない場所でも、温度差があれば熱は逃げる
工場で使いたい場所へ届く前に失われる熱が、配管や機器の放熱ロスです。
こうした損失を減らせば、温度維持に使う燃料や電気の削減につながる一方、保温の施工には材料費や工事費がかかります。改善の優先順位を決めるには、放熱量の大きさに加えて、運転時間と施工費を合わせて比較することが大切です。
放熱という言葉は周囲へ熱が逃げる現象全体を指し、熱が電磁波で移る放射だけを意味するものではありません。ここで扱う簡略計算では、壁の中の熱伝導と流体側の対流熱伝達を考え、放射の影響は別に確認します。
保温は熱の移動を完全に止めるものではなく、同じ温度差で流れる熱を小さくするものです。高温側を一定温度に保つ設備では補う熱が減り、加熱を止めた容器では冷める速さが変わるため、どちらを評価するかで計算の使い方が異なります。
今回の式は、内部温度や周囲温度が一定で、熱の流れが時間とともに変わらない定常状態を想定します。加熱の開始直後や停止後の冷却時間を求める場合には、流体や容器に蓄えられた熱も関係するため、この放熱量だけでは決まりません。
夏と冬、屋内と屋外では周囲の温度や風の条件が変わります。ある日の測定値で求めた放熱量を年間ずっと同じとみなす前に、運転期間と周囲条件を確認し、必要に応じて季節や運転状態を分けて集計します。
放熱量の計算
計算では、熱を受け渡す流体側と、その間にある壁の抵抗を順に足し合わせて、全体の熱の通りやすさを求めます。まずは次の七つをそろえ、温度や厚みだけでなく、どの面積を計算の基準にするかも明らかにします。
- 高温側の熱伝達率 h1[W/(m²·K)]
- 高温側の温度 t1[℃]
- 壁の熱伝導率 λ[W/(m·K)]
- 壁の厚み L[m]
- 低温側の熱伝達率 h2[W/(m²·K)]
- 低温側の温度 t2[℃]
- 伝熱面積 A[m²]
図2:温水から壁を通り、外気へ熱が移る
熱伝達率hは流体と表面の間、熱伝導率λは壁の内部に対応します。
温度分布は概念図。平面壁で各層の面積を同じとするモデルです。厚い保温を巻いた円管は、半径により面積が変わります。
熱伝導率は材質や温度で変わる材料の性質で、熱伝達率は流速や流れ方などの条件にも左右される係数です。両者を混同すると入力値の選び方を誤るため、違いは熱伝導率と熱伝達率、U値の関係も参考にしてください。
計算例では、高温側h1を5000、低温側h2を20W/(m²·K)、壁のλを84W/(m·K)、厚みを5mmと仮定します。これらは計算を追うための値であり、風速や水の流速だけから一意に決まる推奨値ではありません。
特に熱伝導率84W/(m·K)を一般の鋼管にそのまま使わず、実機では材料と温度に合う物性値をメーカー資料などで選びます。この例の外気側熱伝達率20W/(m²·K)は対流だけの仮定値で、表面からの放射は含めていません。
温度の入力では、流体の温度と壁の表面温度を区別します。今回の式は流体と表面の間の抵抗を含めているため、高温側の入力に表面温度を使うと、どこからどこまでの温度差を計算しているのかが変わってしまいます。
保温前後を比較するときは、高温側の温度が同じかも確認します。保温後に設備の温度や運転方法まで変更した場合、放熱の変化にはそれらの影響も含まれるため、保温材だけによる削減効果と分けて整理します。
伝熱面積1m²は計算を比べやすくするための設定です。同じ構造と温度条件なら面積が2倍になると放熱量も2倍ですが、配管長を面積としてそのまま代入せず、直径や外周から対象の伝熱面積へ換算します。
U値を求める
熱貫流率は、両側の流体と壁を含めた全体の熱の伝わりやすさで、記号U、単位W/(m²·K)で表します。面積一定の平面壁で、熱が一方向へ定常的に流れると考えれば、次のように抵抗の和の逆数として求められます。
図3:U値は、三つの熱抵抗を足した値の逆数
この仮定値では外気側の抵抗が大きく、全体のU値をほぼ決めています。
棒は外気側の抵抗を100として比較。小さい抵抗は表示上の最小幅があるため、正確な比率は数値で確認してください。
流体から表面へ熱が伝わりやすいほど、また壁の熱伝導率が高く厚みが小さいほど、U値は大きくなります。放熱を抑える目的では反対に抵抗を増やしたいので、熱を通しにくい保温材を追加する効果が期待できます。
熱抵抗が大きい部分は、同じ熱が通るときに温度差を多く受け持つ部分でもあります。今回の無保温の例では外気側の抵抗が大きいので、金属壁の材質だけを変えても、全体の放熱量が同じ割合で変わるわけではありません。
保温材を追加すると、抵抗の中心は外気側から保温材へ移ります。どの部分の抵抗が支配的かを確認すれば、壁の物性値を細かく調べるべきか、保温の厚みや状態を先に確認すべきか、計算を改善する順番を考えられます。
Uの単位はW/(m²·K)で、面積と温度差を掛けて初めてWになります。Uの値だけを放熱量と呼んだり、別の面積を基準としたU同士をそのまま比較したりせず、単位と面積の定義をセットで記録します。
面積と温度を掛ける
求めたU値に面積と温度差を掛けると、単位時間あたりに逃げる熱の大きさをWで計算できます。伝熱面積を1m²、高温側を90℃、外気を20℃とすると温度差は70Kで、U値を19.9に丸めた計算は次のとおりです。
この結果は、1m²の面から毎秒1393Jの熱が逃げることを表し、1時間続けば約5015kJの熱エネルギーに相当します。WとJの換算はワットとジュールの違いで確認でき、年間損失へ換算するときは運転時間を掛けます。
ここで計算したのは設備から失われる熱であり、そのまま電気代や燃料代を表す金額ではありません。蒸気を使う場合はボイラーの効率なども関係するので、熱源までさかのぼる計算にはボイラー効率の考え方も必要です。
温度差70Kは、90℃と20℃の差で求められます。温度差の数値は℃でもKでも同じですが、放射の式などで使う絶対温度は別であり、90℃という温度そのものを90Kと置き換えることはできません。
一定の1393Wが8時間続く説明例なら、失われる熱エネルギーは次のようになります。kWはその時点の熱の移動速度、kWhは時間を積み上げた熱エネルギーであり、両者を混ぜると年間削減量の単位が合わなくなります。
熱損失の削減量から燃料の削減量へ進む場合には、どの熱源がその損失を補っているかを決めます。機器から逃げた熱を全て購入電力の損失とみなすのではなく、蒸気、燃料、電熱などの供給経路と効率を対応させます。
放熱を防ぐための保温
保温には、周囲へ逃げる熱を減らしてエネルギーを節約する目的と、高温部への接触によるやけどを防ぐ目的があります。省エネ量が十分でも、表面温度や人が触れる可能性の確認が済んだことにはならないため、二つの目的を分けて評価します。
ASTM C1055の公式概要では、保温された機器の表面でも条件によって接触やけどが生じるとしています。安全性は外装の表面温度だけでなく、表面の構成や想定する接触時間も含めて評価し、この放熱計算だけで判定しません。
図4:保温の効果は、熱損失と接触する表面で見る
保温後に露出するのは保温材や外装の表面で、内部の高温壁とは温度が異なります。
省エネルギー
同じ内部温度を維持するために補う熱を減らす。運転時間を掛けて年間削減量を比較する。
接触する表面の温度
高温の金属壁を覆う。保温しただけで触れて安全とは判断せず、外装表面の状態も確認する。
施工後に保温材が濡れたり欠けたりすると、設計時の性能を維持できないおそれがあるため、漏れなどの原因も含めて点検します。米国エネルギー省の蒸気配管向け資料も、濡れや損傷のある保温の補修と、その原因の除去を勧めています。
保温を計画する際には、直管部だけでなく弁やフランジなどの露出部も確認します。直管を十分に保温していても、取り外しが必要な箇所が無保温のまま残れば、その部分の熱損失は別に残るためです。
弁や点検箇所では、保温性能に加えて操作や保守のしやすさも必要です。施工後に弁の操作や漏れの確認が難しくならないよう、取り外せる保温などを含め、対象設備の点検方法と整合する構成を選びます。
乾いた材料の熱伝導率を使った計算は、濡れた現物の状態を表しているとは限りません。点検で把握した濡れや欠損を記録し、補修後の仕様と状態を確認してから、計算に使う材料の物性値を選びます。
保温をした場合の放熱量の計算
保温材を加えると壁の外側に新たな抵抗が加わり、同じ温度差でも熱が流れにくくなるため、全体のU値が小さくなります。元の壁をL1・λ1、保温材をL2・λ2と区別すると、平面モデルの式は次の形になります。
保温材の熱伝導率を0.05W/(m·K)、厚みを100mm、m単位では0.1mと仮定し、それ以外は先ほどの条件のままで比べます。実際の熱伝導率は製品や使用温度で変わるため、計算例の値をそのまま保温材選定の仕様にしないでください。
図5:保温の層を追加すると、抵抗の和が大きくなる
この平面モデルではU値が約19.9から約0.488へ低下し、放熱量は約1393Wから約34Wになります。
丸め前の値から比較。100mmは例示条件であり、最適厚みではありません。断面は層の構成を示す模式図で縮尺不同です。
この計算では放熱を大きく減らせますが、保温すれば必ず97.5%削減できるわけではなく、材料・厚み・形状・施工状態によって結果は変わります。米国エネルギー省は蒸気配管等で典型的に約90%の損失削減を示していますが、本例の値とは条件が異なります。
円筒配管では内側と外側の面積が異なり、保温を厚くするほど外側面積も増えるため、同じ面積を使う今回の式とは扱いが変わります。平面近似は各層の厚みが半径に対して十分小さい場合に限り、厚い保温では円筒の計算が必要です。
円筒の定常一次元モデルでは、管内半径r1、管外半径r2、保温後の外半径r3、管長ℓをすべてmで表し、次式を使います。λとhを一定とし、端部・支持部の熱損失、接触熱抵抗、放射を除いた式です。
このRは面積を含む抵抗で、平面式で使ったUの逆数[m²·K/W]とは単位が異なります。円筒でもU値と面積と温度差の積で放熱量を表せますが、内面積か外面積かを定め、その面積と対応するU値を組み合わせます。
円筒式を使う場合には、管の外径を半径と間違えたり、保温後の外半径へ保温厚みを二重に加えたりしないようにします。r3は管外半径r2に保温厚みを加えた値であり、単位は全てmへそろえます。
管長1mあたりの放熱量を知りたい場合は、円筒式の管長を1mとしてWを求めるか、計算したQを管長で割ってW/mとして整理します。面積あたりの熱流束W/m²と混同せず、長い配管へ展開するときも同じ基準を使います。
保温後の約34.1Wは、流体から外気へ逃げる熱の合計であり、外装表面の温度そのものではありません。表面温度を求めるには外側表面と周囲の間の熱収支が必要なので、削減率の大きさから接触安全性を判断しないようにします。
年間効果は、保温前と保温後の放熱量の差に運転時間を掛けて評価します。仮に同じ条件が年4000時間続くなら、丸めた1393Wと34.1Wの差は1.3589kWで、削減する熱は年5435.6kWhという説明例になります。
この年間例も、温度や風、運転時間を固定した計算上の値です。施工費との比較では、設備の実運転時間、保温が使える期間、維持管理にかかる費用をそろえ、計算例の削減率だけで投資を決めないことが大切です。
費用との比較には保温厚みと放熱量の関係、弁まわりの改善にはバルブ保温の投資採算性も参考になります。厚くすることだけを目標にせず、施工費と年間削減量が釣り合う仕様を選びます。
現場で条件をそろえてから仕様を比較する
現場調査では、設備全体を一つの条件で代表させず、温度と構造が同じ区間に分けて記録します。屋内の直管と屋外の直管、弁などの露出部を区別しておけば、計算値を足し合わせるときに対象範囲の抜けや重複を防げます。
- 対象範囲:管径・管長・壁厚と、弁やフランジを含む範囲
- 運転条件:内部流体の温度、外気温度、風の有無、運転時間
- 保温仕様:材質、厚み、熱伝導率の温度条件、外装と施工状態
- 比較条件:同じ面積基準、放射の扱い、含めていない熱損失
熱伝達率に確かな値がない場合は、選んだ値を唯一の正解とせず、条件を振った場合の結果も確認します。特に無保温では外気側の影響が大きいため、風の条件が違っても改善の優先順位が変わらないかを見ると判断に役立ちます。
厚みの候補を比べる際は、無保温からの削減量に加えて、一段厚くしたときに増える削減量を確認します。材料費だけでなく施工や外装の費用も見積もり、追加費用に対して年間の削減効果がどれだけ増えるかを比較します。
省エネ改修の後は、施工した厚みと範囲が計画と合っているかを記録し、外装の損傷や保温の欠けを点検します。次回の計算に使えるよう、運転条件と補修履歴も残しておけば、性能の変化を入力条件の違いと区別しやすくなります。
よくある質問
計算と実測が違うときは何を確認しますか?
まず温度・面積・厚み・単位が一致しているかを確認し、次に物性値と熱伝達率の条件を見直します。端部や支持部、露出した弁などを計算から外していないかも確認し、差を全て保温材の性能低下と決めつけないようにします。
実測が加熱中なのか、温度が落ち着いた後なのかという時間条件も重要です。定常計算と立ち上げ途中の値を直接比べず、測定の範囲と計算の範囲を一致させてから、放射や形状による差を検討します。
放熱量の計算で外気側の熱伝達率が重要なのはなぜ?
裸の金属壁を使った今回の例では、外気側熱伝達率の逆数で表す抵抗がほかの抵抗より大きく、全体のU値をほぼ決めているからです。風や自然対流の条件が変われば結果も変わるため、固定値を使う場合は、その値を選んだ前提を残しておきます。
放射率を使わずに正確な放熱量が分かりますか?
今回の式は表面からの放射を除いています。放射は表面と周囲の放射率・温度・配置に応じて別途評価し、対流と合わせて表面の熱収支を解きます。放射込みの表面熱伝達率を採用する場合は、放射を重ねて加算しないよう定義を確認します。
配管の長さだけで放熱量を計算できますか?
管長だけでは伝熱面積や円筒の熱抵抗は定まりません。管径と保温厚み、材料の熱伝導率、内外の温度と熱伝達率をそろえ、面積基準の式を使うか、管長を含む円筒式を使うかを先に決めます。
保温材の厚みを2倍にすれば放熱量は半分になりますか?
平面モデルでも、厚みに比例して増えるのは保温材の熱抵抗だけであり、両側の熱伝達や金属壁の抵抗は残ります。保温材の抵抗が全体の大半を占める場合には半分に近づきますが、常に半分になると決めて計算はできません。
円筒配管では、保温を厚くすると熱が通る面積も変わるため、厚みだけの比例計算から外れます。製品の熱伝導率と使用温度をそろえたうえで、候補ごとの外半径を使って比較し、最終的な仕様を選びます。
まとめ
- 放熱は温度差によって周囲へ熱が移る現象
- 概算はU値×面積×温度差で求める
- 保温は熱抵抗を増やし、省エネと接触時の高温対策に役立つ
- 計算例では約1393Wから約34Wへ低下するが、効果は条件に依存
- 実配管は円筒形状・放射・物性・施工状態を確認して設計する
建材トップランナー制度は、建築物の外壁等からの熱損失を防ぐ建築材料を対象とし、断熱材にも材質や密度などによる対象範囲があります。工業配管の保温材すべてに一律に適用される制度と捉えず、工場の省エネでは設備の条件に合う保温を選びます。
伝熱面の評価を広げる場合は相当放熱面積の考え方、配管の関連テーマは配管の記事一覧も参照できます。最終的な施工判断には、今回の概算と対象設備の設計条件との差を確認してください。
出典
出典・参考資料(7件)を開く出典・参考資料を閉じる
- Spirax Sarco「Heat Transfer」:平面壁の熱貫流率、熱伝導・対流・放射
- MIT「Quasi-One-Dimensional Heat Flow」:円筒壁と平面近似の関係
- 米国エネルギー省「Insulate Steam Distribution and Condensate Return Lines」:保温の効果と濡れ・破損の管理
- e-Gov「省エネ法」第153・154条:熱損失防止建築材料と製造事業者等の判断基準
- e-Gov「省エネ法施行令」第21条:対象断熱材の材質と除外
- e-Gov「省エネ法施行規則」第94条:断熱材の適用除外
- ASTM C1055-20 公式概要:保温表面の接触やけどと評価条件
NEWSLETTER
選んだ職種・業種に合わせた記事を、週1回メールで
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
職種・業種を選んで登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›

コメント