台湾の半導体大手TSMCの熊本第2工場は、つくる半導体の世代を、当初の6ナノから3ナノへ切り替えます。それに伴い、稼働の時期も当初の計画より後ろにずれています。
ナノは半導体の微細さを表す世代の呼び名で、数字が小さいほど微細です。2024年の計画では2027年末に動き出す予定でしたが、2026年9月時点でTSMCは、3ナノの量産を2028年に始める方針です。
日本政府が認定した計画は当初の内容のままなので、世代や時期の数字がどちらの計画のものかを分けて読む必要があります。
この記事では、2026年9月28日時点で確認できる一次情報と報道をもとに、第2工場の基本情報、計画変更の経緯、3ナノに変わった理由を整理します。
あわせて、まだ決まっていないことと、九州のサプライヤーにとっての影響と参入の入り口を順に見ていきます。
TSMC熊本第2工場とは
熊本第2工場は、TSMCの日本子会社であるJASMが熊本県菊陽町に建設している半導体工場です。JASMの正式名は、Japan Advanced Semiconductor Manufacturingです。
2024年12月に量産を始めた第1工場に隣接し、第1工場よりも微細なロジック半導体(演算を担う半導体)をつくる計画になっています。
JASMの出資比率は次のとおりです。
- TSMC:約86.5%
- ソニーセミコンダクタソリューションズ:約6.0%
- デンソー:約5.5%
- トヨタ自動車:約2.0%
トヨタは第2工場の計画発表にあわせて新たに出資に加わりました。自動車やイメージセンサーなど、日本の顧客に向けた供給が前提の工場だといえます。
経済産業省は2024年2月24日に第2工場の計画を認定しました。この計画では、主要製品は12ナノと6ナノのロジック半導体(別途40ナノも製造)、生産能力は月4.8万枚(12インチウエハー換算)です。
従業員は約1,700人、設備投資は139億ドル規模とされています。
国の助成は最大7,320億円です。
第2工場は、第1工場より微細なプロセスで計画が組み直されています。
※第2工場の数字のうち、3ナノ関連は台湾当局の承認内容と報道にもとづくもので、経済産業省の認定計画は2026年9月28日時点で変更されていません。
図のとおり、第2工場の数字には「日本政府が認定した当初計画」と「TSMCが2026年に打ち出した3ナノ計画」の2種類が並んでいます。どちらの数字を見ているのかを分けて読むことが、この工場の現状を正しくつかむ第一歩です。
計画はどう変わってきたか
第2工場の計画は、発表からの2年半で何度も修正されてきました。まずは時系列で整理します。
6ナノで2027年末という当初計画から、3ナノで2028年量産へと組み直されました。
※2025年7月の延期報道はTSMCが公式に認めたものではありません。日付は発表・報道ベースです。
当初計画(2024年2月)
TSMCは2024年2月6日、ソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソー、トヨタ自動車とともに、JASMへの追加出資と第2工場の建設を発表しました。
第1工場と合わせた熊本拠点の生産能力は月10万枚超、総投資額は200億ドル超という規模です。
その18日後の2月24日には、経済産業省が第2工場の整備計画を認定しました。事業実施期間は2024年2月から2029年12月までとされ、初回出荷は2027年第4四半期と明記されています。
着工の遅れと工事の一時停止(2025年)
2024年末とされた着工はずれ込みました。2025年7月には、稼働が1年半遅れて2029年上期になるとの報道も出ています。周辺道路の渋滞対策など、地元のインフラ整備が追いついていないことも背景として指摘されました。
2025年10月24日、JASMは菊陽町と立地協定を結び、本格着工に入りました。この時点の説明は「6ナノ、2027年12月稼働」で、フル生産の時期はそれより先になる見通しとされていました。
ところが同年12月には、11月まで稼働していた重機の大半が撤去されたと報じられます。関係者の説明として伝わったのは、資金の問題ではなく設計変更に対応するための措置だという内容でした。
3ナノへの転換(2026年2〜4月)
設計変更の中身が明らかになったのが2026年2月5日です。TSMCの魏哲家会長兼CEOが首相官邸で高市首相と面会し、第2工場の製造プロセスを3ナノに変更する計画を伝えました。実現すれば、国内で初めての3ナノ生産になります。
3月31日には台湾経済部が計画変更を承認し、2028年に装置を搬入して稼働、月1.5万枚(12インチ)という内容が伝えられました。
4月16日の決算説明会でも、TSMCは熊本での3ナノ量産を2028年と説明しています。
TSMCの2025年版アニュアルレポートにも、AIによる強い需要に応えるため第2工場で3ナノを使う計画だと記されています。
なぜ6ナノから3ナノに変わったのか
TSMC自身が挙げている理由は「AIによる強い需要」です。ただ、それだけでは日本の工場を格上げする理由の半分しか説明できません。需要側と供給側、そして日台の政策という複数の要因を分けて見ると、判断の筋道が見えてきます。
AI需要の伸びと、当初想定した用途の需要停滞が重なりました。
※EV向けなどの需要停滞は報道・民間シンクタンクの分析によるもので、TSMCの公式説明ではありません。
4月の決算説明会で、TSMCは3ナノの量産計画を拠点ごとに示しました。台湾南部の新ラインが2027年上期、アリゾナの第2工場が2027年下期、そして熊本第2工場が2028年です。
熊本の格上げは単独の判断ではなく、世界的に不足する3ナノの能力を3地域で同時に積み増す計画の一部と見るのが自然です。
一方、台湾ではすでに2ナノの量産が始まり、2028年には1.4ナノ(A14)の量産開始も計画されています。
2028年時点の3ナノはもはや最先端ではない、という点も台湾側の承認の背景として報じられています。つまり熊本の3ナノは、「最先端から一歩後ろの主力プロセス」として位置づけられる見込みです。
3ナノは6ナノより微細な加工が必要になり、トランジスタをつくり込む半導体製造の前工程の装置構成も変わります。着工直後に工事がいったん止まったのは、クリーンルームや設備の設計を3ナノ向けに組み直す必要があったためとみられます。
なお、国内で先端ロジックを目指す動きとしては、北海道でラピダスが2ナノの量産準備を進めています。政府は両者を「異なる市場に向けたもの」と位置づけています。
TSMCの3ナノは量産実績のあるプロセスを持ち込む計画、ラピダスは2ナノで新たに量産に挑む計画という違いがあります。

まだ決まっていないこと
3ナノへの転換は既定路線になりつつありますが、2026年9月28日時点で公式に確定していない点も少なくありません。サプライヤーとして計画を立てるなら、公式に確認できる情報と、報道や見込みの段階にある情報を分けておく必要があります。
3ナノ化の方針は公式ですが、日本側の手続きと細部はこれからです。
※2026年9月28日時点で、TSMC・JASM・経済産業省の公表資料と報道を確認した内容です。
特に注目したいのが日本側の認定です。国の助成は認定計画にもとづいて支払われるため、製造プロセスや生産能力が変われば、計画の変更認定と助成額の扱いを決め直す手続きが必要になります。
政府が追加支援を検討しているとの報道はありますが、金額や時期は示されていません。
月産の数字も大きく変わります。当初計画の月4.8万枚に対し、3ナノ計画は月1.5万枚です。
1枚あたりの付加価値は3ナノのほうがはるかに高い一方で、ウエハーの投入枚数に連動する消耗品や薬液、搬送などの物量は、当初の想定より小さくなる可能性があります。
また、先端のAI半導体は、前工程でつくったチップを複数組み合わせる先端パッケージとセットで使われるのが一般的です。
熊本で3ナノのウエハーをつくっても、半導体の後工程と先端パッケージが当面は台湾に残るとの見方も出ています。
国内で3ナノを持つことと、供給網が国内で完結することは別の話だという点は押さえておきたいところです。
九州のサプライヤーへの影響

第2工場の計画変更は、九州の企業にとってどんな意味を持つのでしょうか。まずは、半導体工場の建設から運用までに、どんな仕事が発生するのかを層に分けて整理します。
建設から装置、材料、保守まで、時期によって仕事の中身が移っていきます。
※経産省の認定計画では、間接材料はローカル・サプライチェーンから50%以上を購入することを追求し、飲食・警備・清掃などのサービスも地元企業を最大限利用するとしています。
建設・設備工事
いま動いているのは建設の層です。本格着工から2年半ほどは、建屋とクリーンルーム、ユーティリティ設備の工事が中心になります。
設計が3ナノ向けに組み直されたことで、工事の中身や工程が当初の6ナノ計画から変わる可能性があり、協力会社には変更への柔軟な対応が求められます。
一方で、大型の工場建設は大手ゼネコンや台湾系の設備工事会社が元請けになり、地元企業は二次・三次の協力会社として入るのが一般的です。着工や工程が動けば、協力会社の人員配置や受注計画にもそのまま影響します。
装置・部材
3ナノでは装置の台数や種類が6ナノとは変わるため、装置メーカーや部材メーカーにとっては商機の中身が入れ替わります。
ただし、主要な前工程装置はASML、アプライドマテリアルズ、東京エレクトロンといった大手が供給し、九州の地場企業が直接納める余地は大きくありません。
地場企業が関わりやすいのは、次の3つです。
- 装置メーカーの協力会社としての部品加工
- 装置周りの配管やフレームの製作
- フィルターや治具などの消耗品
半導体のサプライチェーンの構造で見ると、装置メーカーの下請けとして入る道が現実的な入り口になります。
保守・周辺サービス
量産が始まると、次のような仕事が継続的に発生します。
- 装置部品の洗浄や再生
- 設備保全
- 物流
- 警備
- 清掃
一度取引が始まれば10年以上続く可能性がある領域で、地元企業にとって最も安定した取引になりやすい層です。
ただし、先ほど触れたとおり3ナノ計画の月産は1.5万枚と、当初の4.8万枚より小さくなります。ウエハーの枚数に比例する消耗品や搬送、洗浄などの物量は、当初の想定より小さく見積もり直しておくのが安全です。
日系の顧客企業
第2工場の出資者であるソニー、デンソー、トヨタ自動車は、完成した半導体の買い手でもあります。
認定計画では納入先を「日本の顧客が中心」としていますが、AI需要を理由に3ナノへ切り替えた以上、海外のAI関連顧客の比重が高まる可能性もあります。
3ナノをどの日本企業がどれだけ使うのかは、まだ見えていない論点の一つです。
地元企業が参入しにくい理由と入り口

TSMCの進出で、九州の半導体関連の投資は大きく伸びました。日本政策投資銀行の2026年1月のレポートによると、九州の半導体生産額は2024年に1.3兆円を超えました。TSMC以外も含めて、約5兆円の設備投資が行われたとされています。
投資は大きく伸びた一方、調達の多くはまだ域外に流れています。
※出典:日本政策投資銀行 九州支店「九州半導体産業の経済波及効果の最大化に向けて」(2026年1月)、九州フィナンシャルグループの試算(日本経済新聞、2024年9月)。
一方で、同じレポートでは地域の企業や金融機関へのヒアリングから、「想定していたほど地域企業の仕事が増えていない」という課題が挙がりました。
熊本工場の国内調達率は現状45%程度で、九州の半導体製造装置の輸入額は2022〜2024年の3年間で約1,900億円上振れしたと試算されています。
壁になるのはコピーイグザクトリー
地元企業が入りにくい最大の理由は、コピーイグザクトリーと呼ばれる工場づくりの考え方です。先行する工場と同じ装置、同じ部材、同じ手順を、世界のどの拠点でもそのまま再現することで、立ち上げを速め、品質をそろえます。
仕様が固定されているぶん、入れるタイミングと条件は限られます。
※日本政策投資銀行 九州支店のレポート(2026年1月)のヒアリング内容をもとに整理。
同レポートによると、TSMCは新しいサプライヤー候補に2年間の試用期間を設け、技術と安定供給の力を見極めます。試用期間中の投資負担は重いものの、一度採用されれば参入障壁に守られ、安定した取引になりやすいという面もあります。
参入の入り口は3つ
現実的な入り口の1つ目は、台湾系サプライヤーとの連携です。
TSMCの熊本進出後、台湾企業が相次いで九州に拠点を設けています。フォトマスクの収納容器を手がける家登精密、製造設備の設計・施工を担う帆宣系統科技、工場向けガス設備の和淞科技などです。
こうした企業の現地調達先や協力工場になる道があります。
2つ目は、装置メーカーや大手部材メーカーの協力会社として、部品加工や洗浄・再生を担う道です。
3つ目は、地元の金融機関や支援機関のマッチングを使う方法です。九州フィナンシャルグループは、2026年1月時点で24社のTSMC供給網への参入を支援したと報じられています。
米中対立や関税を背景に、半導体の供給網は国・地域単位で組み直されている最中です。米国関税とサプライチェーン再編の流れのなかで、「日本国内で調達できる」こと自体が評価される場面は今後も増えるとみられます。

これから注目すべきポイント

第2工場は、2028年の量産に向けてこれから装置搬入の準備に入ります。魏哲家CEOは4月の決算説明会で、工場の建設に2〜3年、量産開始までにさらに1〜2年かかると述べています。
2025年10月の本格着工から逆算すると、今後2年ほどの動きが九州の企業にとっての準備期間になります。
工程に関わるリスクとして、2026年7月28日の「令和8年熊本地震」(マグニチュード7.1、最大震度7)も押さえておきたい出来事です。工場のある菊陽町は震度5強を観測しました。
報道によると、第2工場の建設工事は翌29日に再開し、第1工場も製造装置の検査と調整を終えて8月3日までに通常生産に戻っています。
2028年量産という計画に対し、余震や地域の復旧工事が工程にどう影響するかは、今後の発表で確認していく必要があります。
日本側の手続き、工事の進み方、需要の3つを追っておくと変化に気づけます。
※2026年9月28日時点の情報にもとづく整理です。計画は今後も変わる可能性があります。
過去2年半の経緯が示すとおり、この工場の計画は需要や地政学の変化に応じて何度も書き換わってきました。3ナノ・2028年という現在の計画も、AI需要の変動次第で時期や規模が再び動く可能性があります。
報道だけで判断せず、TSMC・JASM・経済産業省の発表で裏付けを取る習慣が大切です。
人材の面でも影響は続きます。認定計画では地域から約1,200人を採用するとしており、3ナノ化で求められるスキルの水準はさらに上がるとみられます。九州の製造業では、半導体工場との人材の取り合いが今後も経営課題として残りそうです。
まとめ
- 熊本第2工場は当初「6ナノ中心・2027年末稼働」の計画だった
- 2026年2月にTSMCが3ナノへの転換を表明し、量産は2028年と説明している
- 経産省の認定計画は2026年9月28日時点で変更前のままで、助成額などは未確定
- 3ナノ計画の月産は1.5万枚と当初の4.8万枚より小さく、物量の見積もりには注意が要る
- 地元企業の参入はコピーイグザクトリーが壁。更新時期、台湾系企業との連携、協力会社の道が入り口になる
第2工場の動きは、九州の部品メーカーや工事会社だけでなく、半導体工場と取引する全国の企業に関わるテーマです。取引の窓口になる職種としては購買・調達や技術営業・FAE、量産後に仕事が続く領域としては設備保全が深く関わります。
半導体業界の企業の種類や仕事の流れについては、電子部品・半導体業界の全体像もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(25件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 第2工場の発表・出資比率:TSMC「JASM Set to Expand in Kumamoto Japan」(2024年2月6日)
- 認定計画の内容:経済産業省「特定半導体生産施設整備等計画の概要」(令和6年2月24日認定)
- 認定計画の一覧(最終更新2025年9月16日):経済産業省「認定特定半導体生産施設整備等計画」
- 最大助成額:経済産業省「半導体に関する最近の政策動向について」(令和6年2月)
- 3ナノの採用方針:TSMC 2025 Annual Report「Letter to Shareholders」
- 首相との面会:EE Times Japan「TSMCが熊本第2工場で3nm導入へ CEOが表明」(2026年2月)
- 首相の発言:Car Watch「トヨタも出資するJASM熊本第2工場が3ナノ半導体製造へ」(2026年2月5日)
- 投資額の報道:Bits&Chips「TSMC confirms 3nm fab in Japan」
- 台湾当局の承認:Taipei Times「Taiwan government approves TSMC’s 3nm upgrade for second Japan fab」(2026年4月1日)
- 3ナノ量産の拠点別計画:Focus Taiwan「TSMC expanding 3nm capacity in Taiwan, U.S., Japan」(2026年4月16日)
- 立地協定と着工:日本経済新聞「TSMC、熊本で6ナノ半導体製造へ 第2工場27年12月稼働」(2025年10月24日)
- 稼働延期の報道:日刊工業新聞「TSMC、熊本第2工場稼働1年半延期 29年上期に」
- 工事の一時停止:風傳媒日本語版「TSMC熊本第2工場で『工事停止』」(2025年12月12日)
- 着工時期と渋滞問題:日本経済新聞「TSMCが熊本の渋滞に苦言 第2工場着工時期巡り地元で波紋」(2025年6月)
- 台湾当局の承認と背景:マイナビニュース「TSMCの熊本第2工場での3nmプロセス製造を台湾当局が承認、2028年からの量産を計画」(2026年4月1日)
- 3ナノ化の背景と供給網:アジア経済研究所「TSMCはなぜ熊本で3ナノ生産をめざすのか」
- 九州への波及と調達の課題:日本政策投資銀行 九州支店「九州半導体産業の経済波及効果の最大化に向けて」(2026年1月)
- 熊本県内の経済波及効果:日本経済新聞「半導体集積効果、熊本に11.2兆円 TSMC第2工場で拡大」(2024年9月)
- 供給網への参入支援:日本経済新聞「TSMC供給網、九州FGが24社の参入支援」(2026年1月)
- 3ナノ化の背景(需要の停滞と工事中断の報道):地方経済総合研究所「TSMC熊本第2工場、3ナノ半導体生産の背景」(2026年6月)
- 2ナノ以降の量産計画:マイナビニュース(2026年4月1日)
- 令和8年熊本地震:気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」
- 地震後の生産・工事再開:共同通信「TSMC熊本、通常生産に戻る 地震影響の検査終了」(2026年8月3日)
- 第1工場の助成額:地方経済総合研究所「TSMCの熊本第2工場計画の現状と影響」(2025年10月20日)
- 認定計画・取水見通しの状況:Postation「TSMC熊本が3ナノ量産へ、国の認定計画と取水の見通しは切り替え前のまま」
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