マイクロン広島の新工場は、経済産業省が認定した計画では、2028年6〜8月に初回出荷を迎える予定です。2026年7月4日に起工式が行われ、約1兆5,000億円を投じる建設が始まりました。
新工場は、東広島市で長年DRAM(パソコンやサーバーの主記憶に使うメモリ)をつくってきた既存工場の敷地内に増設されます。
新たに建てるのは、クリーンルーム棟(ちりやほこりを極限まで減らした製造用の建物)です。
マイクロンの広島工場は生産に必要な費用の約8割を国内で調達しており、投資の多くが日本の装置・部品・材料・工事会社へ流れる構造になっています。
この記事では、2026年9月時点で公表されている経済産業省とマイクロンの一次情報をもとに整理します。投資の中身、着工から出荷までのスケジュール、国の助成の内訳、そして国内サプライヤーと地域への波及を順に見ていきます。
- 場所は東広島市の既存の広島工場の敷地内。更地の新工場ではなく、新しいクリーンルーム棟の増設
- 必要資金は約1兆5,000億円。経済産業省が2025年9月に計画を認定し、最大5,360億円(設備5,000億円+研究開発360億円)を助成する
- 2026年7月4日に起工式。第一期工事は約2万8,000平方メートルで、総合建設パートナー(ゼネコン)はフジタ
- 製造装置の搬入開始は2028年後半の予定。2027年は建屋・クリーンルームの工事が中心の時期にあたる。初回出荷は認定計画上は2028年6〜8月だが、起工式発表の予定と前後関係が合わず、ずれ込む可能性がある
- つくるのは1γ世代より微細な次世代DRAM(HBMの材料にもなる)。生産能力は12インチウェーハ換算で月4万枚
この記事の内容は、動画でも解説しています。
マイクロン広島の新工場とは
マイクロン広島の新工場とは、広島工場(東広島市吉川工業団地)に建設する新しいクリーンルーム棟のことです。建設するのは、米メモリー大手Micron Technologyの日本法人であるマイクロンメモリジャパンです。
2026年7月4日に起工式が行われ、段階的に建設される第一期工事の面積は約2万8,000平方メートルとされています。
経済産業省が2025年9月12日に認定した計画では、この増強に必要な資金は約1兆5,000億円です。
つくるのは現在の最先端である1γ(ワンガンマ)世代よりさらに微細化した次世代DRAMで、生産能力は12インチウェーハ換算で月4万枚と記載されています。
既存のDRAM工場の敷地内に、新しいクリーンルーム棟を段階的に建てる計画です。
※2026年9月時点。経済産業省の認定計画概要(2025年9月12日認定)とマイクロンの起工式発表(2026年7月4日)をもとに作成。
広島工場の成り立ち
広島工場は、かつて国内のDRAMメーカーだったエルピーダメモリの主力工場でした。マイクロンが2013年にエルピーダを買収して以降はマイクロンの拠点となり、現在は国内で唯一のDRAM量産拠点です。
マイクロンの発表によると、今回の増設は買収以来、広島拠点で最大規模のクリーンルーム増設です。広島では1β(ワンベータ)世代DRAMの生産や、1γ世代でのEUV(極端紫外線)露光技術の導入など、世代交代の節目を担ってきました。
つくるのは次世代DRAM、HBMとの関係
報道では「AI向けメモリーの工場」と紹介されることが多い計画ですが、経済産業省の認定計画に書かれている主要製品は「次世代DRAM」です。
AI向けの広帯域メモリであるHBMは、このDRAMのチップを何枚も積み重ねてつくる製品です。そのため、広島の新棟はHBMの材料となる先端DRAMを供給する役割と捉えると実態に近くなります。
マイクロン自身も、広島のチームが米国などの研究開発拠点と連携し、次世代AI向けの先進的なDRAMやHBMの開発の一翼を担っていると説明しています。
DRAMを積層してHBMに仕上げる工程の詳細は、半導体の後工程と先端パッケージの記事で整理しています。

着工から出荷までのスケジュール
この計画は「2026年5月着工、2028年ごろ出荷」と報じられてきましたが、公式の情報とは時点がずれている部分があります。事前の報道は予定ベースで、実際に起工式が行われたのは2026年7月4日です。
経済産業省の認定計画では、投資着手が2025年4月、設備設置が2026年4月から2029年度中まで、初回出荷は2028年第4四半期とされています。この「第4四半期」はマイクロンの会計年度で、暦に直すと2028年6〜8月にあたります。
計画認定から量産の本格化まで、5年がかりのプロジェクトです。
※2025年9月認定時の計画と2026年7月の発表では、装置搬入と初回出荷の時期の前後関係が一致しません。どちらも「予定」であり、今後変わる可能性があります。
注意したいのは、2025年9月の認定計画と2026年7月の起工式発表で、装置搬入と初回出荷の時期の書き方が合っていない点です。
建屋が完成する前に初回出荷を迎えるとは考えにくいため、出荷の本格化は2028年後半以降にずれ込む可能性も見ておくのが現実的です。
サプライヤーの立場では、時期ごとに需要が生まれる分野が次のように移っていきます。
- 建屋の工事
- クリーンルーム設備
- 製造装置の搬入・立ち上げ
- 量産後の消耗品・保守
自社がどの段階に関われるかを、このスケジュールに当てはめて考えると商機の時期が見えてきます。
経産省の助成は最大5,360億円

今回の計画に対する国の支援は、設備投資への助成が最大5,000億円、研究開発への支援が最大360億円で、合計最大5,360億円です。設備の助成だけで見ても、投資額約1兆5,000億円のおよそ3分の1にあたります。
設備投資への助成は、先端半導体の国内生産を支えるための5G促進法(特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律)に基づく制度です。
経済産業省が事業者の計画を認定し、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が助成金を交付します。マイクロン広島がこの制度で認定を受けるのは3回目です。
世代が進むごとに、投資額・助成額・人員の規模が大きくなっています。
※経済産業省「認定特定半導体生産施設整備等計画」の各計画概要より。研究開発への支援360億円は別枠で、この表の最大助成額には含みません。従業員数は各計画に記載された工場全体の総数です。
3回の設備助成を合計すると、上限ベースで7,000億円を超えます。数字を並べると、投資額が世代ごとに3〜4倍に膨らんでいることが分かり、先端DRAMの工場ほど装置と建屋にかかる費用が大きいことがうかがえます。
助成の見返りとして求められること
この助成は、受け取って終わりではありません。認定計画には、主に次のような条件が書き込まれています。
- 10年以上の継続生産
- 需給がひっ迫したときに日本政府の要請に応じて増産すること
- 技術情報の管理体制
つまり国は、有事にも国内でメモリを確保できる体制に対して費用を負担している形です。中小企業が使える補助金とは規模も仕組みも異なりますが、設備投資の補助制度全般については製造業で使える補助金のまとめで整理しています。
広島に大型投資が集まる理由
マイクロンは米国や台湾、シンガポールなどにも拠点を持っています。その中で広島に1兆5,000億円規模の投資が向かう背景には、需要側の事情と、広島の工場が積み上げてきた条件の両方があります。
需要の拡大と、広島の工場が持つ実績・支援・人材がかみ合っています。
※経済産業省の認定計画概要、マイクロンの発表、広島県の公表資料をもとに作成。
需要面では、生成AIの普及でGPUの横に置くHBMの需要が伸び、そのもとになる先端DRAMの生産能力が世界的に不足しがちです。国内工場の誘致が進む流れや、微細化にかかる費用が増える事情は、半導体製造が注目される背景でも解説しています。
供給面で大きいのは、すでにEUV露光装置を量産で動かしている工場であることです。最先端の露光装置は立ち上げに時間がかかり、運用ノウハウを持つ技術者も限られます。
更地から始めるより、実績のある工場の隣に建て増すほうが、立ち上げの期間とリスクを抑えやすくなります。
国内サプライヤーに広がる商機

1兆5,000億円の投資は、マイクロン1社の中で完結するものではありません。建屋を建てる工事会社から、製造装置、その部品、材料、量産後の保守まで、投資の大部分は取引先への発注という形で外に流れていきます。
認定計画によると、広島工場は2023年実績で、用力費・材料費・保守費などの生産関連費用の約80%を国内で調達しています。
さらに新棟の稼働後は、生産に必要な資金が年間約1,660億円にのぼる見込みで、建設時の一時的な需要だけでなく、量産後も毎年続く取引が生まれる計算になります。
建設期の一時的な需要と、量産後に毎年続く需要の2つに分かれます。
※分類は一般的な半導体工場の取引構造による整理で、個別企業の取引実績を示すものではありません。建設パートナーとして公表されているのは株式会社フジタです。
建屋・クリーンルームの工事
最初に動くのが建設です。マイクロンは総合建設のパートナーとしてフジタを公表しています。
半導体工場の建屋は、微細な塵を抑える空調、超純水の製造設備、薬液やガスの配管、排気処理など設備工事の比重が一般の工場より大きいのが特徴です。そのため、空調・配管・電気などの専門工事会社にも仕事が広がります。
製造装置と装置部品
投資額の中で最も大きいのは、露光・成膜・エッチング・洗浄・検査などの製造装置です。日本は装置メーカーの層が厚く、その下には真空部品、精密加工品、配管・継手、ファインセラミックスなどをつくる部品メーカーが数多く連なっています。
部品メーカーの多くは工場へ直接納めるのではなく、装置メーカーを通じて間接的に需要を受け取る立場です。装置メーカーと部品・材料メーカーの関係や、どの階層で利益が出やすいかは電子部品・半導体業界の構造の記事で詳しく整理しています。
材料・ガス・消耗品
量産が始まると、シリコンウェーハやフォトレジスト、特殊ガス、洗浄用の薬液などが毎日消費されます。これらは建設期の需要と違い、工場が動く限り続く需要です。
特定の素材で世界シェアの上位を握る日本企業も多く、そうしたニッチトップ企業にとっては、国内に先端工場がある意味は小さくありません。
保守・物流・人材サービス
見落とされがちなのが、次のようなサービスです。
- 装置のメンテナンス
- 交換部品の洗浄・再生
- 構内物流
- 清掃
- 人材派遣
地元の中小企業が最も参入しやすいのはこの領域で、工場の近くにいること自体が強みになります。
東広島と中国地方への波及
マイクロンは起工式の発表で、国内調達と地域購買を促し、地域のサプライヤーの商機を広げると説明しています。あわせて、将来的に1,000名以上の雇用を含む労働力の拡大に貢献する見込みも示しました。
受け皿づくりも進んでいます。
中国経済産業局が事務局を務める中国地域半導体関連産業振興協議会は、2022年10月に発足しました。会員は2025年6月時点の282機関から、2026年7月時点の名簿では347機関に増えています。会員の中心は、製造装置の部品をつくる企業です。
347機関のうち、最も多いのは製造装置の部品メーカーです。
※中国経済産業局が公表する協議会会員名簿(2026年7月14日時点)の事業区分を筆者が集計。ファシリティ9、金融機関6を合算。本社所在地では広島県が92機関で最多です。
協議会には「サプライチェーン強靱化分科会」や「装置部品サプライヤー部会」が設けられています。技術流出対策やシリコンサイクル(半導体の好不況の波)への備え、BCPといった共通課題を話し合う場です。
異業種から半導体に参入した地元企業の講演など、新規参入を後押しする取り組みもあります。
県と市の受け入れ体制
広島県は2025年4月に半導体産業課を新設し、設備投資に最大35億円、研究開発を伴う投資に最大50億円を助成する制度や、経営者・従業員の移住支援を設けました。
東広島市も工場近くで市営の産業団地の整備に着手しており、2カ所で計約10.4ヘクタールを2032年度までに完成させる計画と報じられています。
一方で、工場の拡張と従業員の増加に合わせて、道路や住宅、用水といったインフラの整備も必要になります。
マイクロンも県・市と協力して地域のインフラや住みやすさの向上を支援するとしており、人の受け入れ環境を整えられるかが波及効果の大きさを左右します。
採用面では地元の他の製造業と人材を取り合う面もあり、製造業の人手不足と採用難の状況とあわせて見ておく必要があります。
サプライヤーが取引を広げるためのポイント

大型投資のニュースが出ると「地元に仕事が回ってくる」と期待されがちです。しかし先端半導体の工場は品質や清浄度への要求が厳しく、声がかかるのを待つだけでは取引は生まれにくい世界です。参入を考える企業が押さえておきたい流れを整理します。
いきなり工場と取引するより、装置メーカーや一次サプライヤー経由で実績を積むのが一般的です。
※一般的な半導体関連取引の進め方を整理したもので、特定企業の調達基準を示すものではありません。
取引の入り口では、見積の早さや価格だけでなく、品質保証の体制や納期遵守の実績が見られます。購買側がどのような観点でサプライヤーを選び、評価しているかは購買・調達の仕事とサプライヤー管理の記事が参考になります。
需要の波と計画変更のリスク
メモリは半導体の中でも特に価格と需要の変動が大きい分野です。マイクロン自身も起工式の発表で、建設の時期や雇用、地域への影響は将来予想であり、実際の結果が大きく異なる可能性があると明記しています。
過去には、市況の悪化で2023年にマイクロングループ全体で約10%の人員削減が行われたことも認定計画に記載されています。
サプライヤー側は、1社・1工場への依存度を上げすぎないことや、需要が落ちた時期にも耐えられる設備投資の規模にとどめることが重要です。
まとめ
- マイクロン広島の新工場は、既存DRAM工場の敷地内に建てる新クリーンルーム棟で、必要資金は約1兆5,000億円
- 起工式は2026年7月4日。装置搬入は2028年後半、初回出荷は計画上2028年6〜8月とされ、時期は今後変わりうる
- 国の支援は設備5,000億円と研究開発360億円の最大5,360億円。広島への認定は3回目
- 工場は生産関連費用の約80%を国内で調達しており、建設期と量産期の両方で国内サプライヤーに需要が生まれる
- 参入には協議会や装置メーカー経由での実績づくりが近道。需要の波への備えも欠かせない
大型の半導体投資は、装置や材料のメーカーだけでなく、工事、保守、物流、人材サービスまで裾野の広い産業に影響します。
取引先として関わる立場なら技術営業・FAEの仕事、技術テーマとしては半導体製造の用途と国内の導入事例が、この投資を理解する手がかりになります。
業界全体の企業の種類や仕事の流れは、電子部品・半導体業界とはの記事からあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(9件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 投資額・生産品目・スケジュール・国内調達比率・従業員数:経済産業省「特定半導体生産施設整備等計画の概要」(2025年9月12日認定、マイクロンメモリジャパン)
- 過去の認定計画と最大助成額:経済産業省「認定特定半導体生産施設整備等計画」、2022年9月認定計画の概要、2023年10月認定計画の概要
- 起工式・第一期面積・装置搬入時期・雇用・建設パートナー:マイクロン「マイクロン、AI向け先進メモリの支援に向けて、広島工場のクリーンルームに着工」(2026年7月4日)
- 国内唯一のDRAM拠点:PC Watch「日本唯一のDRAM拠点。総額1兆5,000億円でMicron広島工場が新建屋を着工」(2026年7月6日)
- 支援総額(最大5,360億円):上記マイクロン起工式発表。内訳(設備5,000億円・研究開発360億円):semicon-tech「経産省、米マイクロンに最大5,360億円支援」
- 助成制度の交付業務:NEDO「特定半導体生産施設整備等助成業務」
- 協議会の取り組みと会員数:中国経済産業局「中国地域半導体関連産業振興協議会のこれまでの取組」(2025年7月8日)、同「半導体関連産業支援」(会員名簿 2026年7月14日時点)
- 広島県の支援策:広島県「半導体産業は、広島県がアツい。注目を浴びる理由に迫る」(2025年12月12日)
- 東広島市の産業団地:中国新聞デジタル「マイクロン工場近くに産業団地整備、東広島市 2032年度までの完成目指す」
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