「米国の関税」と聞くと、多くの方は自動車メーカーの決算で報じられる巨額の関税負担や、トランプ大統領の発表のたびに揺れる株価を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、米国の関税は2025年以降、根拠となる法律も税率も何度も変わってきました。2026年2月には米連邦最高裁判所が相互関税を違法と判断し、7月には別の法律に基づく新たな関税が発動されています。また、影響は完成車メーカーだけでなく、部品・素材メーカー、さらには調達や生産管理の現場にまで及んでいます。
この記事では、米国関税が日本の製造業に与える影響を、2025年以降の関税措置と日米合意、2026年9月時点の最新状況、影響を受ける業種、サプライチェーン再編と中国リスク、企業の対応と働く人への影響という順で整理します。
2025年以降の米国関税措置と日米合意

まず、2025年からの米国の関税措置を振り返ります。トランプ政権の関税は、大きく2種類に分けて理解すると整理しやすくなります。1つは国ごとに税率を定める「相互関税」、もう1つは特定の品目を対象とする「分野別関税」です。
相互関税と分野別関税(232条関税)
相互関税は、国際緊急経済権限法(IEEPA)という法律を根拠に、2025年に導入されました。貿易赤字などを理由に、国・地域ごとに追加の関税率を定める仕組みです。日本もその対象となり、日本からの輸入品の多くに追加関税が課されました。
分野別関税は、1962年通商拡大法232条を根拠とする関税です。安全保障上の脅威を理由に、特定の品目の輸入に関税を課します。2025年3月に鉄鋼・アルミニウムで始まり、その後、自動車・同部品、銅、トラック、木材などへと対象が広がりました。相互関税とは別の法律に基づくため、後述する最高裁判決の対象にはなっていません。
2025年の日米合意の内容
日本政府は米国と協議を重ね、2025年7月に日米合意に至りました。9月4日には、合意を実施するための米大統領令が署名されています。主な内容は次のとおりです。
相互関税については、既存の関税率と合わせて15%を上限とし、既存の税率が15%以上の品目には追加関税を課さないこととされました。自動車・同部品の232条関税も同じ考え方で、既存の税率を含めて15%に引き下げられ、2025年9月16日から適用されています。民間航空機・同部品などは追加関税の対象外とされました。
その代わりに日本側は、米国への5,500億ドル規模の投資や、米国産のコメの購入拡大、年80億ドル規模の米国産農産品などの購入を約束しました。対米投資は、国際協力銀行(JBIC)などの政府系金融機関による出資・融資・融資保証で支える仕組みで、エネルギーやAIインフラなどの案件が対象とされています。
根拠となる法律が変わるたびに、税率や対象も変化してきました。
※ジェトロの公表資料をもとに作成。税率は日本からの輸入品に関するもの

2026年9月時点の最新状況|最高裁判決と301条関税

最高裁がIEEPAに基づく関税を違法と判断
2026年に入り、米国の関税政策は大きく変わりました。米連邦最高裁判所は2026年2月20日、IEEPAに基づく追加関税を違法とする判決を下しました。これにより、日本を含む各国への相互関税は法的な根拠を失いました。
判決を受けてトランプ大統領は2月20日、IEEPAに基づく関税を停止すると発表しました。すでに納付されたIEEPA関税については還付の手続きが始まっており、米国に輸出している企業や米国の輸入者にとっては、還付申請の対応が新たな実務になっています。
還付を受けるのは、原則として米国で関税を納めた輸入者です。日本企業の米国子会社が輸入者であれば自社で申請できますが、米国の顧客が輸入者の場合は、還付分を価格にどう反映するかを取引先と話し合う必要が生じることもあります。取引条件によって影響が変わる点は、営業や経理の担当者も押さえておきたいポイントです。
122条の一時課徴金から301条関税へ
相互関税の停止と同時に、トランプ政権は1974年通商法122条に基づき、原則としてすべての輸入品に10%の輸入課徴金を課しました。122条は国際収支の問題に対応するための一時的な措置で、期間は最長150日と定められています。そのため、課徴金は2月24日から7月24日までの期限付きでした。
この期限切れにあわせて、米通商代表部(USTR)は2026年7月23日、1974年通商法301条に基づく新たな関税を最終決定しました。強制労働によって生産された産品の輸入禁止措置が不十分だとして、日本を含む60カ国・地域が対象となっています。
日本については、一般の関税率(MFN税率)と301条関税を合計して12.5%とする方式がとられました。既存の関税率が12.5%以上の品目には、追加の関税はかかりません。2025年の日米合意で定めた「合計15%」よりも低い水準です。ただし、301条関税も今後の見直しや司法判断によって変わる可能性があり、不確実性が解消されたわけではありません。
「合計で12.5%」という方式は、実務上の計算に注意が必要です。たとえば、もともとの関税率が2.5%の品目なら追加分は10ポイント、関税率が0%の品目なら追加分は12.5ポイントになります。自社製品の関税分類(HSコード)ごとに、実際の負担がどう変わったかを確認することが大切です。
分野別関税(232条)は継続
一方で、232条に基づく分野別関税は最高裁判決の対象外であり、2026年9月時点でも続いています。301条関税も、232条の対象品目には適用されません。ジェトロの整理(2026年7月27日時点)によると、鉄鋼・アルミニウム製品には原則50%、銅製品には25〜50%の関税が課されています。
自動車・同部品は、日米合意に基づき既存の税率を含めて15%とする扱いです。このほか、中・大型トラック、木材・木製品、特定の半導体、特許医薬品なども232条の対象になっています。「相互関税がなくなったから関税負担も消えた」わけではない点に注意が必要です。
2025年の日米合意時点と2026年9月時点を比べると、根拠法が変わっています。
※ジェトロの公表資料をもとに作成。品目ごとの詳細な税率は最新の公式情報で確認が必要
米国関税の影響を受ける業種

米国は日本にとって重要な輸出先です。財務省の貿易統計によると、2025年の日本の対米輸出額は20兆4,140億円で、前年比4.1%減となりました。日本全体の輸出額は過去最高を更新しましたが、米国向けは関税の影響で減少しています。
2025年の日本の輸出総額は110兆4,480億円で、米国向けはその約2割を占めます。米国向けの輸出が数%減るだけでも、金額にすると数千億円から1兆円規模の変化になります。関税が日本の製造業全体の関心事になるのは、この規模の大きさによるものです。
自動車・自動車部品
最も大きな影響を受けたのが自動車です。2025年の対米輸出は、自動車が前年比11.4%減、自動車部品が10.7%減と、いずれも二桁の減少になりました。
企業業績への影響も大きく、トヨタ自動車の2026年3月期決算では、米国における関税影響が営業利益を1兆3,800億円押し下げました。完成車メーカーは米国での販売価格の引き上げやコスト削減で吸収を図っていますが、その負担の一部は部品メーカーへの値下げ要請という形で広がる可能性があります。完成車メーカーの米国向け生産が減れば、国内の一次・二次・三次の部品サプライヤーの受注にも影響が及びます。直接米国に輸出していない中小企業でも、取引先を通じて関税の影響を受けるのが自動車産業の特徴です。自動車産業の構造は自動車・輸送機器業界の構造でも整理しています。
鉄鋼・アルミ・銅などの素材
鉄鋼・アルミニウムや銅には、232条による高い関税が続いています。直接の輸出への影響に加えて、米国市場に向かっていた各国の鋼材が他の地域に流れることで、アジアなどの市況に間接的な影響が及ぶ可能性もあります。
また、鉄鋼やアルミを使った「派生品」も関税の対象に加えられています。機械部品や金属製品を米国に輸出している企業は、自社の製品が派生品に該当するかどうか、鉄鋼・アルミの含有分をどう申告するかを確認する必要があります。業界の動向は鉄鋼・非鉄金属業界の市場規模と動向で解説しています。
機械・電子部品・その他
工作機械や産業機械、電子部品などは、2026年7月以降は主に301条関税(日本は合計12.5%)の対象です。米国での設備投資需要は強く、日本の工作機械の北米向け受注は航空機産業などを中心に堅調です。関税がかかっても、代替が難しい高性能な製品は需要が続きやすい傾向があります。
一方で、価格競争が激しい汎用品では、関税分のコスト増が競争力の低下に直結します。同じ業種でも、製品の独自性や価格交渉力によって影響の大きさが変わる点が特徴です。
自動車関連の落ち込みが、対米輸出全体の減少を大きく上回りました。
※財務省貿易統計(2025年暦年)をもとにnippon.comが集計した値より作成


サプライチェーン再編と中国リスク・経済安全保障

米国関税の影響は、米国への輸出だけにとどまりません。米中の対立を背景に、世界のサプライチェーンそのものが組み替えられつつあります。日本の製造業にとっては、米国と中国の双方との関係をどう保つかが大きな課題です。
米中対立のはざまに立つ日本企業
ジェトロが2026年2月に公表した「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(有効回答3,369社)では、今後3年程度で最も重視する輸出先として米国を挙げた企業が27.1%と、2018年以降で最も高くなりました。関税がかかっても、米国市場の重要性はむしろ高まっているといえます。
同じ調査では、主要な原材料を海外から調達している企業の約6割が中国から調達していると回答しています。また、サプライチェーンの見直しを実施・検討している企業は全体の4分の1を超え、海外に拠点を持つ企業では約3分の1にのぼりました。リスク要因としては「米中関係・対立」が最も多く挙げられています。
中国の輸出管理の強化
中国リスクとして具体化しているのが、輸出管理の強化です。中国は2023年以降、ガリウム、ゲルマニウム、黒鉛、アンチモンなどを段階的に輸出管理の対象に加え、2025年4月にはサマリウムやジスプロシウムなどのレアアース7種類を新たに対象としました。
ジェトロの分析によると、この措置の影響で中国から日本へのレアアース永久磁石の輸出は2025年5月に大きく落ち込みました。その後、許可の取得が進んで回復したものの、許可の取得に3カ月以上かかることや、該当するかどうかの判断が難しいことが日本企業の課題として挙げられています。
さらに2026年1月6日には、中国商務部が日本向けのデュアルユース(軍民両用)品目の輸出管理を強化すると発表しました。軍事用途などへの輸出を禁じる内容ですが、対象となる用途や需要者の範囲が明確でなく、企業のコンプライアンス対応を難しくしています。
日本政府も、経済安全保障の観点から、半導体や重要鉱物、蓄電池などの供給網を国内外で強化する取り組みを進めています。また、2026年春以降の中東情勢の緊迫は、原油やナフサなどの調達先を見直すきっかけにもなりました。関税、輸出管理、地政学リスクが重なり、企業は「安く調達する」ことに加えて「止まらずに調達できる」ことを重視するようになっています。
関税だけでなく、輸出管理や地政学リスクが同時に再編を後押ししています。
※中国の輸出管理強化や中東情勢なども、同じ方向の見直しを促しています
日本の製造業の対応策

関税や地政学リスクに対して、日本の製造業はいくつかの方法を組み合わせて対応しています。どれか1つで解決するものではなく、製品や取引先ごとに最適な組み合わせを考える必要があります。
現地生産の拡大
最も根本的な対応は、米国での現地生産です。米国内で生産すれば、完成品に対する輸入関税はかかりません。日本の自動車メーカーはもともと米国に多くの工場を持っており、関税を受けて現地での生産や部品調達を強化する動きもみられます。
ただし、現地生産にも課題があります。米国では工場の建設費や人件費が高く、熟練した人材の確保も簡単ではありません。また、部品や素材を日本から輸入すれば、その部分には関税がかかります。現地生産は、部品の現地調達とセットで考える必要があります。
価格転嫁とコスト削減
ジェトロの調査では、米国の関税リスクへの対応として「情報収集の強化」を挙げた企業が約4割と最も多く、「価格の見直し・価格転嫁」がそれに続きました。関税分を販売価格に上乗せできるかどうかは、製品の独自性や競合の状況に左右されます。
価格転嫁が難しい場合は、生産性の向上や原価の見直しで吸収するしかありません。自動化やカイゼンによるコスト削減は、関税への備えとしても重要性を増しています。
販売先の多角化
米国市場への依存度を下げるため、販売先を広げる動きもあります。ジェトロの同じ調査では、米国でのリスクが高まった場合の代替市場としてEUを挙げた企業が約4割にのぼりました。米国市場を重視しつつも、欧州やアジアなど複数の市場に販路を持つことで、特定の国の政策変更による影響を和らげようとする考え方です。
販売先の多角化には、各地域の規格や認証への対応、現地の販売・サービス体制づくりが必要です。短期間で実現できるものではないため、関税の動きに一喜一憂せず、中長期の計画として進める企業が多くなっています。
調達先の分散と規制対応
中国の輸出管理やレアアースのリスクに対しては、調達先の分散が基本になります。同じ部材を複数の国・企業から調達できるようにしておくことで、1つの供給元が止まっても生産を続けられます。在庫を多めに持つ、代替材料を開発するといった対応もあります。
また、関税や輸出管理のルールは頻繁に変わるため、原産地の判定、関税分類(HSコード)、該非判定といった通関・規制の実務を正確に行う体制づくりも欠かせません。最新の関税情報は、ジェトロや経済産業省の相談窓口でも確認できます。
こうした対応は、大企業だけの課題ではありません。取引先から原産地証明や部材の含有情報の提出を求められる機会は、中小の部品・素材メーカーでも増えています。自社の製品がどの国のどの材料からつくられているかを、すぐに説明できる状態にしておくことが、取引を続けるうえでの前提になりつつあります。
複数の対応を組み合わせ、製品や取引先ごとに最適化します。
米国関税とサプライチェーン再編が働く人に与える影響

関税や経済安全保障の問題は、経営層だけのテーマではありません。サプライチェーンの見直しは、設計・調達・生産管理・品質保証など、多くの職種の仕事の中身を変えつつあります。関税の変更が発表されるたびに、見積もりの前提や生産計画、在庫の持ち方を見直す必要が生じるためです。ここでは、とくに影響が大きい3つの観点を整理します。
海外対応力の重要性が高まる
現地生産の拡大や調達先の分散は、海外の拠点や取引先とやり取りする機会を増やします。米国工場の立ち上げ支援、海外サプライヤーの品質監査、海外拠点への技術移転など、海外と関わる仕事は今後も増えていくとみられます。
ジェトロの調査でも、海外ビジネスを担う人材が不足していると回答した企業は約9割にのぼりました。語学力だけでなく、現地の商習慣や規制を理解し、日本の本社と現地をつなげる人材の価値は高まっています。
調達・生産管理の役割が重くなる
調達先の分散や原産地の管理、在庫の最適化を担うのは、購買・調達や生産管理の仕事です。かつてはコスト削減が中心だった調達の役割は、供給途絶のリスクを管理する役割へと広がっています。
設計や開発の担当者にとっても、調達リスクの少ない材料や部品を選ぶ「調達を意識した設計」の重要性が増しています。品質保証の担当者も、新しい調達先の部材を評価・承認する機会が増えています。関税や輸出管理のルールを知っていることは、職種を問わず強みになります。調達職のスキルとキャリアは購買・調達のスキル・キャリアで詳しく解説しています。
学生・転職を考える方へ
これから製造業を目指す方にとっては、グローバルなサプライチェーンに関わる仕事が広がっていることは、活躍の場が増えていることでもあります。文系・理系を問わず、貿易実務や経済安全保障の知識、語学力は評価されやすい分野です。転職市場の動きは製造業の転職・採用市場で整理しています。
すでに製造業で働いている方にとっても、自社のサプライチェーンの中で関税や輸出管理がどこに影響するかを理解しておくことは、日々の判断の質を高めます。調達先の切り替えや海外拠点の立ち上げなど、変化の大きい局面ほど、現場を知る人材が求められます。海外赴任や海外との共同プロジェクトの機会も、キャリアを広げる選択肢として検討する価値があります。
関税・地政学リスクの時代に、現場で評価されやすい力です。
まとめ
- 2025年の日米合意で、相互関税と自動車関税は既存税率を含めて15%が上限とされた
- 2026年2月に最高裁がIEEPA関税を違法と判断し、相互関税は停止、122条の一時課徴金へ
- 7月24日から301条関税が発動し、日本は一般関税と合わせて12.5%の方式となった
- 鉄鋼・アルミ(原則50%)、自動車(15%)など232条の分野別関税は2026年9月時点も継続
- 現地生産・価格転嫁・調達先の分散が進み、海外対応力や調達・生産管理の重要性が高まる
関税や中東情勢を含めた製造業全体の景気の動きは、製造業の景気動向と今後の見通し【2026年】で統計をもとに整理しています。
米国の関税措置は、2026年9月時点でも見直しや新たな調査が続いており、今後も変更される可能性があります。実務で対応する際は、ジェトロや経済産業省などの公式情報で最新の状況を確認してください。
出典
- 最高裁判決の日付と概要:ジェトロ「国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税に関する米連邦最高裁判所の判決について(2026年5月)」
- IEEPA関税の停止と122条課徴金:ジェトロ ビジネス短信「トランプ米大統領、IEEPA関税の停止と122条に基づく10%の課徴金賦課を発表」
- 301条関税の内容と日本への税率:ジェトロ ビジネス短信「米USTR、強制労働産品の輸入禁止措置を巡り、日本含む60カ国・地域に301条関税賦課を最終決定」
- 日米合意を実施する大統領令:ジェトロ ビジネス短信「トランプ米大統領、日米合意を履行する大統領令を発表、相互関税・自動車関税を引き下げ」
- 232条関税の品目別税率:ジェトロ「米国の232条関税の概要(2026年7月27日時点)」
- 2025年の対米輸出・自動車輸出:nippon.com「貿易赤字5割圧縮2.6兆円―財務省統計」
- トヨタの関税影響額:トヨタ自動車「2026年3月期 決算説明資料」
- 日本企業の輸出先・調達・人材に関する調査:ジェトロ「2025年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」記者発表
- 中国のデュアルユース品目の対日輸出管理:ジェトロ ビジネス短信「中国、デュアルユース品目の対日輸出管理を強化」
- 中国のレアアース輸出管理と日本への影響:ジェトロ「中国のレアアース輸出管理(1)日本への磁石輸出に大きな影響」

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