2026年9月28日、車載や産業機器向けの半導体をつくるVSMCの新工場が、シンガポールで開所しました。VSMCは、台湾のファウンドリ(半導体の受託製造会社)VISと、オランダの半導体メーカーNXPの合弁会社です。
扱うのは130〜40nmの「成熟ノード」(最先端ではない、実績のある製造技術)で、電源ICやアナログ半導体が中心です。量産は2027年第1四半期、フル稼働は2029年の計画です。
フル稼働時の生産能力は、半導体をつくる円盤状の基板(300mmウエハー)に換算して月約4.4万枚です。
この記事では、工場の概要と量産までの見通し、何をつくる工場なのか、調達・品質・設計の現場が確認しておきたいことを見ていきます。
続いて、2024年の発表からの計画の変化、NXPの製造戦略での位置づけ、成熟ノード半導体の供給網にとっての意味を整理します。
VSMCシンガポール工場の概要と量産までの見通し
VSMC(VisionPower Semiconductor Manufacturing Company)は、台湾のファウンドリ(受託製造)であるVISと、オランダに本社を置く半導体メーカーNXPが2024年9月に設立した合弁会社です。
出資比率はVISが60%、NXPが40%で、製造プロセスの技術はTSMCからライセンスを受けています。
工場はシンガポール東部のタンピネスにあり、2024年12月の起工から22か月で開所式を迎えました。
VSMCにとって初めての300mmウエハー工場で、これまで200mm工場を運営してきたVISにとっても初の300mm工場です。
300mmの自社工場を持たないNXPにとっては、出資する300mm工場のうち最初に稼働する拠点になります。
開所は2026年9月ですが、量産とフル稼働はまだ先です。段階を分けて押さえます。
※出典:NXPニュースルーム(2026年9月28日)、Taiwan News(2026年9月29日)。リスク生産は、量産前に限られた数量で顧客向けの製造を始める段階を指します。
最初のサンプルロットで99%を超える歩留まりを達成したと発表されていますが、これは立ち上げ時の試作の結果です。量産で同じ水準が続くかどうかは、2027年以降の稼働で確かめられるものと見ておくのが妥当です。
対象市場として挙げられているのは、高性能コンピューティング(HPC)、モバイル、車載、産業、民生の5つです。
NXPのCEOであるラファエル・ソトマイヨール氏は開所にあたり、VSMCが同社の地理的な強靭性、供給のコントロール、コスト競争力を高めると述べています。
VISとNXPはどんな会社か
VIS(Vanguard International Semiconductor、世界先進積体電路)は、TSMCが出資する台湾のファウンドリです。
これまでは200mm(8インチ)ウエハーの工場を台湾とシンガポールに持ち、成熟ノードの受託製造を専門にしてきました。
シンガポールには2019年にGlobalFoundriesから買収した200mm工場があり、今回のVSMCも同じタンピネス地区にあります。VISにとって300mm工場は初めてで、量産ノウハウはTSMCからの技術移転で補う形です。
一方のNXPは、車載マイコンや車載ネットワーク、セキュリティIC、産業機器向けのプロセッサなどを手がける半導体メーカーです。設計と自社工場を持つIDM(垂直統合型)ですが、生産の一部はTSMCなどのファウンドリにも委託しています。
対象プロセスと製品、300mmを使う理由

VSMCが扱う130〜40nmは、スマートフォンやAI向けの最先端(数nm世代)と比べると、何世代も前のプロセスです。ただし「古いから価値が低い」わけではありません。
電源ICやアナログ回路は、高い電圧や電流に耐えること、ノイズに強いこと、長期間変わらず供給できることが求められます。微細化しても性能やコストのメリットが出にくい製品が多く、成熟ノードで作り続けるのが合理的な分野です。
同じ300mm工場でも、求められる性能の軸が異なります。
※TrendForceは28nm以上を成熟プロセスとして集計しています。製品の寿命は一般的な傾向です。
VSMCの対象に挙がっている製品を、現場の言葉に置き換えると次のようになります。
- パワーマネジメント(電源管理IC):バッテリーや電源から各回路へ、必要な電圧・電流を作って配る
- アナログIC:センサーの微小な信号の増幅や、モーター駆動などを担う
- ミックスドシグナルIC:アナログ信号とデジタル信号の両方を1チップで扱う
- インターポーザー:複数のチップを並べて配線でつなぐ中継用の基板
いずれも1台の自動車や産業機器に多数使われる部品で、どれか1つが欠けても完成品は出荷できません。
2021年前後の半導体不足で自動車の生産が止まったときも、こうした「目立たないが代わりのきかない」半導体の不足が影響したと言われています。
インターポーザーはAI向けの先端パッケージに使われる部材で、工場の用途が車載だけに限られないことを示しています。
回路を作り込む前工程の各ステップ(成膜・露光・エッチングなど)は、成熟ノードでも基本的な流れは同じです。工程ごとの役割は半導体の前工程の流れで詳しく整理しています。
成熟ノードなのに300mmを選ぶ理由
成熟ノードの半導体は、これまで200mmウエハーの工場で作られることが多くありました。200mmの装置は中古市場も含めて調達しやすく、償却の終わった工場で安く作れるためです。
一方で、200mm用の新しい装置は選択肢が限られ、古い工場の維持も年々難しくなっています。そこで新しく建てるなら300mmにして、1枚あたりのチップ数と自動化の効果で原価を下げるという判断が広がっています。
直径が1.5倍になると、面積は2.25倍。1回の処理で作れるチップの数が大きく増えます。
※面積比は(300÷200)²で算出。実際に取れるチップ数はチップの大きさや外周部のロスで変わります。
車載・産業向けの調達と仕事への影響
日本の自動車部品メーカーや産業機器メーカーにとって、NXPは主要な半導体の調達先の1社です。では、VSMCの開所で手元の部品の供給は何か変わるのでしょうか。
現時点で言えるのは、どの製品・品番がVSMCで作られるのかは公開されていない点です。
VSMCは独立したファウンドリとして運営され、出資比率に応じた生産能力が両社に保証される仕組みですが、NXPがどの製品をいつ移すかは明らかにされていません。
いつから供給に効いてくるか
供給への影響は、工場の段階ごとに分けて考えると整理しやすくなります。2026年中はリスク生産の段階で、顧客に届く量は限られます。
量産が始まる2027年第1四半期以降に生産量が増え、2029年のフル稼働に向けて段階的に能力が積み上がっていく計画です。
VSMCの立ち上げに合わせ、NXPは200mmの自社工場を約10年かけて閉じていく方針を示しています(詳しくは後述)。調達側から見ると「供給が増える」以上に「製造拠点が切り替わる」ニュースと捉えるほうが実務に近いでしょう。
自社の部品が対象かを確かめる方法
製造拠点の変更は、一般に半導体メーカーから「PCN(製品変更通知)」として顧客に知らされます。車載向けでは、変更後の部品で改めて評価や認定を行い、顧客の承認を得るのが一般的です。
ただし、どの変更でどんな評価が必要かは、製品の種類や顧客との取り決めによって異なります。自社の要求事項を品質部門と確認し、メーカーや商社に早めに照会しておくことが、慌てないための近道です。
個別品番の扱いは公開されていないため、自社で確かめる段取りを決めておきます。
※PCNの通知時期や必要な評価は、製品の種類と顧客との取り決めで異なります。ここでは一般的な確認の観点を示しています。
新しい設計で部品を選ぶ段階なら、長く供給されるかどうかも判断材料になります。部品メーカー側が設計の初期段階から採用を働きかける流れは、電子部品のデザインインの記事で解説しています。
装置や材料のメーカーにとっては、成熟ノード向けの300mmラインが新たに立ち上がることは商機の1つです。2029年のフル稼働に向けて、装置の追加や消耗材料の需要が段階的に増えていくと考えられます。

2024年の発表から開所まで|計画はどう変わったか
VSMCの計画が最初に発表されたのは2024年6月5日です。その後、合弁会社の設立、起工を経て、ほぼ予定どおりの時期に開所しました。
発表から開所まで約2年3か月。ここから量産、フル稼働へ進みます。
※出典:NXPニュースルーム(2024年6月5日、2026年9月28日)、GlobeNewswire(2024年9月4日)、Taiwan News(2026年9月29日)。
2024年の発表時点と開所時点を比べると、いくつかの数字が変わっています。特に大きいのは、2029年の生産能力が月5.5万枚から月約4.4万枚へ、約2割引き下げられた点です。
能力と投資額は下方修正、雇用は上方修正されています。
※見直し後の投資額は財経新聞(2026年10月1日)の報道値。Taiwan Newsは台湾ドル建てで2,481.3億から2,131.8億への見直しと報じています。
能力引き下げの理由について、会社側の詳しい説明は見当たりません。米調査会社Futurum Groupのアナリストは、NXP向けの計画分は変わらず、削減分はVIS側が吸収したとの見方を示しています。
これは公式発表ではなく分析である点に注意が必要です。
一方で、VISとVSMCの会長を務める方略(Fang Leuh)氏が開所にあわせて発言したと報じられています。顧客からの要望が多く、2つ目の工場を資金・需要・プロセスの面から検討しているという内容です。
2026年9月時点では検討段階の発言で、建設が決まったわけではありません。
NXPの300mm戦略におけるVSMCの位置づけ

NXPが自社単独ではなく、ファウンドリとの合弁で工場を持つのには理由があります。同社は2024年11月の投資家説明会で、200mmの自社工場から約10年かけて完全に撤退し、300mmに集約する方針を示しました。
対象はオランダ・ナイメーヘンの工場と米国の3工場、合わせて4つの200mm工場です。その受け皿となるのが、ドイツ・ドレスデンのESMCとシンガポールのVSMCという2つの300mm合弁工場です。
同じ成熟ノードでも、担当するプロセスの世代と出資の重さが異なります。
※ESMCの数字はTSMCの発表(2023年8月8日)時点の計画です。
マイコンなどのデジタル寄りの製品はESMCの28nm以下、電源やアナログはVSMCの130〜40nmという分担です。製品の性格に合わせて拠点を分けていると読むことができます。
地域も欧州とアジアに分かれ、どちらかに問題が起きても供給を続けやすい配置です。
合弁という形は、自社で工場をすべて抱えるより投資負担を抑えつつ、必要な生産能力を確保できる点が利点です。NXPは2024年の発表時から「競争力のあるコスト、供給のコントロール、地理的な強靭性」を備えた製造基盤を目指すと説明していました。
こうした拠点の分散は、米国の関税措置などで部品の産地が問われる場面が増えたこととも無関係ではありません。日本の製造業への影響は米国関税とサプライチェーン再編の記事で整理しています。
成熟ノード半導体の供給網にとっての意味

VSMCの開所を、もう少し広い視点で見てみます。成熟ノードの半導体は、量で見れば世界の半導体生産の大部分を占めますが、近年は生産能力の地域的な偏りが課題になっています。
台湾の調査会社TrendForceは2023年12月、28nm以上の成熟プロセスで中国の生産能力シェアが2027年に39%に達するとの見通しを示しました。中国では先端装置の輸出規制を受けて、成熟プロセスへの投資が進んでいるためです。
車載や産業機器のメーカーにとっては、特定の地域に供給が偏ること自体がリスクになります。台湾・中国以外の地域で成熟ノードの300mm工場が立ち上がることは、調達先を地域で分散させる選択肢が増えるという意味を持ちます。
2027年前後に、アジアと欧州で相次いで立ち上がります。
※各社の発表時点の計画です。JASMの数字はソニーセミコンダクタソリューションズの発表(2024年2月6日)、その後の計画変更は熊本第2工場の記事を参照してください。
シンガポールが選ばれる理由
シンガポールは、半導体の製造拠点として長い歴史を持つ国です。同国の貿易産業省の国務相は2022年の講演で、シンガポールが世界の半導体市場の11%を占め、世界の半導体製造装置の20%が同国で製造されていると述べています。
VISはすでに同国で200mm工場を運営しており、工場の運営経験や人材、周辺の装置・材料メーカーの集積を生かせます。
開所式には貿易産業大臣や経済開発庁(EDB)の会長も出席し、VSMCは現地の大学と覚書を結んで人材育成に取り組むとしています。
政府の後押しと既存の産業集積がそろっていることが、立地の決め手になったと考えられます。
同じシンガポールでは、2026年9月29日にTOPPANとBroadcomの合弁会社ASTが工場の開所式を開いています。生成AIやネットワーク機器向けのFC-BGA基板工場で、稼働は2026年12月の予定です。
前工程と後工程・基板の両面で、東南アジアの拠点としての存在感が増しているといえます。基板工場の狙いはTOPPANのシンガポールFC-BGA基板工場で解説しています。

まとめ
- VSMCはVIS(60%)とNXP(40%)の合弁で、2026年9月28日にシンガポールで300mm工場を開所した
- 130〜40nmの成熟ノードで、電源・アナログ・ミックスドシグナルICやインターポーザーをつくる
- 量産は2027年第1四半期、2029年に月約4.4万枚の計画。当初の月5.5万枚から引き下げられた
- NXPは200mm工場から約10年かけて撤退し、ESMCとVSMCの300mm工場へ集約する方針
- どの品番がVSMCに移るかは未公表のため、調達・品質・設計はPCNの扱いと照会先を決めておきたい
VSMCの開所は、最先端チップの話題に隠れがちな成熟ノード半導体の供給網が、地域分散に向けて組み替わりつつあることを示すニュースです。電源ICやアナログICは、パワー半導体と並んで車載・産業機器の電動化を支える部品でもあります。
関連する職種は購買・調達や品質保証・品質管理、技術テーマとしては半導体製造がこの話題と深く関わります。業界全体の成り立ちは電子部品・半導体業界の構造や、電子部品・半導体の業種ページからあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(15件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 開所の概要:NXP Semiconductors「VSMC Celebrates the Grand Opening of Its First 300mm Fab in Singapore」(2026年9月28日)
- 合弁計画の発表:NXP Semiconductors「VIS and NXP to Establish a Joint Venture to Build and Operate a 300mm Fab」(2024年6月5日)
- 合弁会社の設立:GlobeNewswire「VIS and NXP Announce Establishment of VSMC Joint Venture」(2024年9月4日)
- 計画の変更点:EE Times Japan「NXPとVISの合弁VSMC、シンガポール300mm新工場を開所」(2026年9月28日)
- 開所式の出席者・人材育成:マイナビニュース TECH+(2026年9月28日)
- 投資額の見直し:財経新聞「VSMCがシンガポールに300mm半導体工場を開所、2027年に量産開始へ」(2026年10月1日)
- 試験生産・第2工場の検討:Taiwan News(2026年9月29日)
- 第2工場の検討(補足):Focus Taiwan「VIS-NXP JV chip fab enters initial production stage」(2026年9月28日)
- アナリストの見方:Futurum Group(2026年9月29日)
- NXPの200mm工場撤退方針:Bits&Chips「Closure of NXP’s Nijmegen fab appears on the horizon」
- ESMCの計画:TSMCニュースリリース(2023年8月8日)
- JASM第2工場の計画:ソニーセミコンダクタソリューションズ「JASM Set to Expand in Kumamoto Japan」(2024年2月6日)
- 成熟プロセスの地域シェア:TrendForce プレスリリース(2023年12月14日)
- TOPPANのシンガポール工場:TOPPANホールディングス ニュースリリース(2026年9月30日)
- シンガポールの半導体産業:シンガポール貿易産業省 Alvin Tan国務相スピーチ(2022年5月)
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