脱気器(デアレーター)とは、ボイラーに送る水(給水)に溶けている酸素や二酸化炭素を取り除く装置です。水を蒸気で飽和温度まで温め、溶けていられなくなった気体を外へ追い出します。
高圧の蒸気をつくるボイラーには必ずと言っていいほど脱気器が付いており、給水の流れの中では、ボイラー給水ポンプとエコノマイザの手前に置かれます。
この記事では、脱気器の役割、加熱脱気の原理とスプレートレー式の構造、設定圧力・設置位置・容量・選定条件の注意点を順に整理します。
脱気器とは
脱気器はデアレーター(Deaerator)とも呼ばれ、給水中に存在する酸素や二酸化炭素などの気体を除去するための装置です。
薬品を添加して脱気する機器も脱気器と呼びますが、大型の設備では、蒸気で加熱して脱気する方式が多く使われます。
脱気をせずにボイラーへ給水すると、水中の溶存酸素によってボイラー本体や配管の腐食が進み、その結果、機器の寿命を著しく縮めてしまいます。
二酸化炭素も、水に溶けると炭酸になって配管を傷めます。水処理会社の Solenis は、水温を約77℃より上げると遊離の二酸化炭素はほぼ取り除けると説明しています。同社の資料では、加熱脱気の脱気器は溶存酸素を0.007mg/L(7ppb)以下まで下げる性能が目安です。
加熱用の蒸気には、発電所では蒸気タービンの抽気(タービンの途中から取り出した蒸気)が使われ、一般の工場では、プロセス用の低圧蒸気が使われることが多いです。抽気の考え方は、抽気タービンの出力計算方法で解説しています。
低温の給水が多いと、それを温めるために多量の蒸気を使うため、いかに高温の状態で補給水を送るかが、プラントの省エネを考えるうえで重要なテーマです。
- 給水中の溶存酸素の除去
- 水の貯留によるポンプの保護
補給水と復水は脱気器で気体を抜かれ、給水ポンプで昇圧されてからボイラーへ入ります。
※発電所では、復水器から戻った水が低圧の給水加熱器を通ってから脱気器に入るなど、系統はさらに複雑です。
脱気器の下部にある貯水タンクは、ボイラー給水ポンプにとっての水だめも兼ねています。目的の2点目「ポンプの保護」は、この役割を指しています。
脱気器の原理
脱気器は、次のような原理で脱気します。
- 脱気器に給水する
- 加熱用蒸気で設定圧力まで加圧する
- 沸点まで加熱することで飽和水になり、気体の溶解度が0になる
加熱して飽和水にすることで、溶けている気体を追い出すのがポイントです。水に溶ける気体の量は、水面に接する気体の分圧に比例します(ヘンリーの法則)。沸騰している水の上は水蒸気でほぼ満たされるので、酸素の分圧がゼロに近づき、溶けていられなくなります。
蒸気機器メーカーの Spirax Sarco も、液体が飽和温度にあるとき、そこに溶ける気体の溶解度はゼロになると説明しています。
水を細かく散らし、飽和温度まで温め、抜けた気体を外へ出します。
脱気器の構造(スプレートレー式)
脱気器の方式はいくつかあり、代表例がスプレートレー式で、発生した気体と一緒に出ていく水蒸気を少しでも減らすため、脱気器の上部から給水をスプレーする構造になっています。
スプレーで散った水は、下の段のトレー(棚板)を伝って流れ落ち、その間に下から上がってくる蒸気と触れ合い、残りの気体が抜けていきます。
上の脱気ヘッドで気体を抜き、下の貯水タンクに脱気済みの水をためます。
※模式図です。脱気ヘッドの形や、加熱用の蒸気を入れる位置(ヘッド下部・タンク内など)は機種によって異なります。
大型の脱気器では、湯気として出ていくエネルギーが多くなるため、ベントコンデンサという湯気を消すためのシェル&チューブ型の熱交換器が、上部に設置されている場合もあります。
Spirax Sarco の資料では、メーカーが勧めるベント量は、脱気器の容量1,000kg/hあたり蒸気・空気の混合物0.5〜2kgです。このベント蒸気を冷やして水に戻し、熱を取り戻すのがベントコンデンサの役目です。
運転では、補給水によって水位を一定にするレベル制御と、蒸気によって内部の圧力を一定にする圧力制御を組み合わせるのが一般的です。脱気された処理水は、ボイラー給水ポンプによってボイラーに供給されます。
水位は補給水で、圧力は加熱用の蒸気で、それぞれ一定に保ちます。
※Spirax Sarco の例では、水位を静電容量式のレベルプローブと調節弁、圧力を圧力調節計と空気式の調節弁で制御しています。
制御の考え方は、レベル制御とはと圧力制御とはで詳しく解説しています。図面上の表し方はP&ID(配管計装図)の読み方、調節計の動き方はPID制御の基本が参考になります。
脱気器のポイント
脱気器を設置するうえで、注意する項目があり、すでに設置されている場合は、現状の運転条件がなぜそうなっているのか考えてみましょう。
- 設定圧力
- 設置位置
- 容量
- 選定条件
設定圧力
脱気器の設定圧力を決めるときは、脱気器の二次側に設置するボイラーのエコノマイザ(節炭器)での酸露点に注意が必要です。補給水の温度が設定圧力の飽和温度よりも高い場合は、加熱用の蒸気が供給されません。
加熱用の蒸気には、飽和温度まで温めるほかに、バブリングで攪拌を起こす目的もあります。そのため、補給水温度と脱気器内の温度に、ある程度の差(10〜20℃程度)を設けないとうまく脱気できません。
Spirax Sarco の例でも、85℃で入ってきた水を約105℃まで上げており、脱気器での温度上昇は約20℃です。どの程度の温度差なら脱気に問題がないかは、計画の段階で脱気器メーカーと相談しておきます。
脱気器内の圧力は、設備によって幅があります。Spirax Sarco の例は0.02MPaG(0.2bar g)・約105℃です。米国の空調・設備誌 HPAC の解説では、通常0.034MPaG(5psig)・約107℃以上としています。
これより高い圧力で運転する設備もあり、たとえば0.1〜0.3MPaGなら、飽和蒸気表で見た飽和温度は約120〜144℃です。どの場合も、脱気器に供給する蒸気の圧力は、設定圧力より高くしなければなりません。
脱気器に供給する蒸気は、工場内の低圧蒸気やタービンからの抽気蒸気が一般的です。発電所の熱サイクルでの位置づけは、ランキンサイクルとはで解説しています。
圧力を下げると効率とポンプには得ですが、エコノマイザの低温腐食に近づきます。
脱気器の圧力が低いほど、エコノマイザでの交換熱量が増えるので、ボイラー効率は上がります。ただし、エコノマイザの管の表面が酸露点を下回ると、低温腐食のリスクも上がります。
そのため、燃料の組成によって、下げられる圧力が決まります。環境省の資料でも、蒸気での脱気によって給水が96℃程度まで上がっていると、エコノマイザの熱回収効果が限られるとしています。
脱気器の圧力を低くすると、脱気器に給水するためのポンプの必要揚程を下げられ、その分、ポンプの動力が減り、省エネにもつながります。
設置位置
ここで問題になるのは、脱気器から水を吸い込んでボイラーへ送るボイラー給水ポンプです。脱気器の中は常に飽和水で満たされているため、このポンプでのキャビテーションに注意が必要です。ボイラー給水ポンプは揚程も大きく、高価です。
そこでNPSH(有効吸込みヘッド)に十分な余裕を見て、脱気器はポンプより高い場所に据え付け、高低差(静水頭)で押込み圧力を稼ぐのが普通です。必要な高さはポンプの必要NPSHと配管の損失から決まり、設備ごとに違います。
日立評論の論文が例に挙げた75MWの火力発電所では、脱気器の据付高さは27mです。脱気器の中は、少しでも圧力が下がれば気化してしまう飽和水で、この点を常に意識しておきましょう。
タービンの抽気で脱気器を温めている設備では、トリップや負荷の急減で抽気が止まり、脱気器の圧力が急に下がる場面に注意します。吸込み管の中の水は高温のまま、ポンプ入口の圧力だけが下がるので、NPSH が足りなくなることがあります。
運転条件によって脱気器の水位が変動すると、キャビテーションの発生につながるため、センサーなどで水位を常に、厳重に監視することが必要です。
キャビテーションと混同されやすい現象は、サージングとキャビテーションの違いで整理しています。吸込み側の計算は、ポンプの流入水頭の計算方法が参考になります。
容量
脱気器の容量は、ボイラーの蒸発量との兼ね合いを見て、どの程度のバッファーを持たせるかという観点で決めます。一定負荷のボイラーであれば、そこまで問題になりません。負荷変動の大きい設備が多い場合は、余裕をどれだけ見るかが重要なポイントになります。
万が一、脱気器の中が空になると、給水ポンプの NPSH が足りなくなってキャビテーションが起きます。水位が大きく変動すれば、制御が暴れる原因にもなります。コスト面も考えて、大きすぎず小さすぎない適切な容量にすることが大切です。
選定条件
脱気器の負荷は、ボイラーの蒸発量によって決まります。ボイラー側の負荷変動が大きい場合は、複数パターンの条件をすべて満たす脱気器を選ぶことが求められます。
補給水の温度や量に変動がある場合は、加熱用蒸気量の最大と最小を考え、複数パターンで条件を提示します。メーカーに伝える条件の例は、次のとおりです。
- ボイラー蒸発量の最大・最小(給水量の範囲)
- 補給水と復水の温度・量と、それぞれの変動幅
- 加熱用蒸気の圧力と、使える量
- 設定圧力と、出口の溶存酸素の目標値
- 据え付ける高さと、ボイラー給水ポンプの必要NPSH
ワンポイント(1つの運転条件だけ)で設計して、負荷変動があったときに対応できない事態にならないよう注意しましょう。
脱気器のよくある質問
脱気器まわりの給水ポンプは何がある?
脱気器のまわりには、役割の違う2種類のポンプがあります。脱気器の水をボイラーへ送るボイラー給水ポンプと、脱気器へ補給水や復水を送り込むポンプです。
ボイラー給水ポンプは飽和水を吸い込むので、脱気器の設置高さとNPSHが設計の要になります(「設置位置」の章)。脱気器へ送るポンプには、脱気器の設定圧力に打ち勝つ揚程が要ります。
加熱以外の脱気装置の仕組みは?
加熱のほかに、膜・真空・薬品を使う方法があります。膜式は、気体だけを通す中空糸膜の片側に水を流し、反対側を真空にしたり窒素を流したりして、溶けた酸素を膜越しに抜きます。
真空式は、水の上の圧力を下げて気体を出します。薬品式は脱酸素剤を加え、残った酸素と反応させて取り除きます。
大気開放の給水タンクとの違いは?
大気に開いた給水タンクでも、水を温めれば酸素はある程度抜けますが、100℃より高くはできません。Spirax Sarco は、大気圧で85〜90℃より高くすると飽和温度に近く、給水ポンプでキャビテーションが起きやすいとしています。
同社の資料では、加圧式の脱気器は薬品を使わずに酸素を20ppb未満まで下げられるとしています。酸素をここまで下げたいときに選ぶのが加圧式です。
まとめ
- 脱気器(デアレーター)は、給水中の酸素や二酸化炭素などの気体を除去する装置
- 蒸気で設定圧力の飽和温度まで加熱し、気体の溶解度をゼロにして追い出す
- 代表的なスプレートレー式は、上部の脱気ヘッドで気体を抜き、下部の貯水タンクから給水ポンプへ送る
- 設定圧力は、エコノマイザの酸露点・ボイラー効率・ポンプの揚程の兼ね合いで決める
- 飽和水を扱うので、設置位置(NPSH)・容量・負荷変動を考えた選定が要る
脱気器は大規模な工場や発電所でよく見る機器で、エネルギー消費が多く、周囲の機器も高価な場合が多いので、設置の際には気を使わなければいけない機器の一つです。
現状の運転条件がなぜそうなっているのかを見直すと、省エネや設備トラブルを防ぐ手がかりが見つかります。工場全体の考え方は工場の省エネとエネルギー管理で整理しました。
こうした設備を見る担い手の仕事は、製造業のエネルギー管理士の仕事で紹介しています。その他のボイラーに関する記事は、ボイラーとは何かにまとめました。
出典
出典・参考資料(9件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 飽和温度と気体の溶解度・運転圧力の例・ベント量・制御・給水タンクの温度:Spirax Sarco「Pressurised Deaerators」
- 脱気器の方式・溶存酸素 7ppb・二酸化炭素の除去:Solenis「Deaerator Design and Operation」
- 脱気器の圧力低下と給水ポンプの NPSH:Power Engineering「Deaerator Pressure Transient – Can Your Boiler Feed Pump Handle It?」
- 飽和蒸気表(絶対圧と飽和温度):環境省「ボイラーの運転圧力の適正化」(省エネルギーセンター「省エネルギー手帳」の表を掲載)
- 脱気による給水温度とエコノマイザの熱回収:環境省 SHIFT事業「対策メニュー 121222 ボイラー排ガスによる燃焼空気予熱」
- 硫酸露点腐食:JFEテクノリサーチ「ボイラー、熱交換器、燃焼系、排気系の硫酸露点腐食」
- 脱気器の運転圧力の例(5psig):HPAC Engineering「Evaluating Deaerator Operation」
- 脱気器の据付高さと負荷急減時の NPSH:日立評論「負荷急減時の脱気器器内圧力と汽罐給水ポンプのNPSHについて」(1959年)
- 膜式の脱気:3M(Solventum)「Liqui-Cel Membrane Contactors によるボイラー給水の酸素・二酸化炭素除去」
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