シリコンドロッパとは、直流電源装置の蓄電池と負荷の間に入れ、シリコンダイオードの電圧降下で直流電圧を下げる装置です。メーカーの資料では「負荷電圧補償装置」、回路図では「SID」とも書かれます。
受変電設備の操作用や制御用に非常用の蓄電池を置く盤には、このシリコンドロッパがよく付いています。
この記事では、直流電源装置の中での位置、設置する目的と電圧の数字、段を切り替える仕組みを順に整理し、「ドロッパ」の別の意味は、最後のよくある質問で答えます。
シリコンドロッパとは
シリコンドロッパは直流電圧を降下させる機器で、蓄電池を設置する直流電源の盤などで使われます。シリコンダイオードの電圧降下が、電流によらずほぼ一定という特性を利用した機器です。
ダイオードは、電流を一方向にだけ流す半導体で、順方向に電流を流すと、端子の間に順電圧と呼ばれる電圧が生じます。
抵抗なら電圧降下は電流に比例しますが、ダイオードの順電圧は電流が増えても大きくは変わりません。そのため、負荷電流が変わってもほぼ決まった量だけ電圧を下げられます。
ただし順電圧は、電流と温度で多少は変わり、シリコンダイオードの順電圧は、一般に温度が上がると下がりますが、大きな電流の領域では、逆に上がることもあります。
一般的にプラントの電気設備では、停電時に設備を止めないよう、蓄電池を持つ制御用の電源を設けます。直流を出すものを直流電源装置と呼び、交流を出すUPS(無停電電源装置)とは別の装置です。
ただ、蓄電池の電圧は充電の状態で変わるため、そのままでは負荷の許容電圧を超える場合があります。そこでシリコンドロッパを設けて、電圧を調整する仕組みです。交流側の非常用電源については、UPS(無停電電源装置)の役割の記事で解説しています。
直流電源装置は、整流器(充電器)と蓄電池で構成されます。国土交通省の48V通信設備用の標準仕様書でも、本体は整流器ユニット、負荷電圧補償回路、操作部などで構成すると定めています。
シリコンドロッパ(SID)は、蓄電池と負荷の間に入ります。
※整流器と蓄電池は同じ直流の母線に並列につながっています。直接出力の有無は盤の構成で違います(GSユアサのDC100V系の構成図には両方の出力があります)。農林水産省の技術指針は、補償の対象を監視・制御・表示・計装の電源とし、遮断器の投入電源や非常用照明は除くとしています。
ふだんは整流器が負荷に給電しながら、蓄電池を満充電に保つ浮動充電を行い、停電すると蓄電池がそのまま給電を引き継ぎます。
GSユアサのDC100V系のカタログには、補償装置を通した「負荷電圧補償出力」と、通さない「直接出力」が分かれた構成図があるので、負荷がどちらにつながっているかは図面で確かめます。
盤の中の機器配置や保護の考え方は、制御盤設計の進め方で全体の流れを解説しています。
シリコンドロッパを設置する目的
シリコンドロッパを設置する目的は、蓄電池などの放電電圧を負荷の許容範囲内に調整するためです。例として、100V用の蓄電池が120Vまで充電されている場合を考えます。
120Vという値は、鉛蓄電池を54個(54セル)直列にした100V系の例です。制御弁式のMSE形を浮動充電する電圧は1セル2.23Vなので、54セルで約120.4Vになります。
ベント式(液式)の鉛蓄電池では、セルのばらつきをそろえる均等充電に1セル2.30Vを使い、54セルなら約124.2Vまで上がります。一方、負荷側の電圧は、三社電機のDC100V系の仕様で100V±10%なので、90〜110Vに収める必要があり、充電中の蓄電池はその上限を超えます。
農林水産省の技術指針も、MSE形の充電器の出力120.4Vは一般負荷の許容範囲(DC100V±10%)を超えるため、負荷電圧補償装置を設けるとしています。
充電中の蓄電池は、負荷の上限110Vより10V以上高くなります。
※鉛蓄電池54セルの例。浮動充電は制御弁式MSE形の2.23V/セル、均等充電はベント式の2.30V/セル、放電終止は1.80V/セルで計算しました。放電終止電圧は放電電流で変わり、MSE形は均等充電が不要です。手元の設備の値は、電源装置と蓄電池の仕様書で確かめます。

この場合、蓄電池の放電電圧は120Vとなり負荷の許容電圧を超えるため、シリコンドロッパを通過させ、許容電圧内に収まるように調整します。
シリコンドロッパの電圧降下は1個あたり約0.6〜1Vなので、蓄電池の電圧を測定しながら、リレー(VR)で通過させるシリコンドロッパの数を調整します。
上の図ではダイオードを2個描いていますが、記号1個は、実際には何個も直列にした「1段」を表します。10V以上下げるには、ダイオードが十数個要るためです。仮にシリコンドロッパを設置せずに過電圧の電気を供給した場合は、負荷側のコイルの焼損などにつながります。

次に時間が経過して蓄電池の放電電圧が低下し、負荷の許容範囲内に収まる場合は、リレー(VR)を随時投入してシリコンドロッパを短絡させ、電源を供給します。
ここでの短絡は故障ではなく、接点でダイオードの両端をつなぎ、電流を迂回させる操作です。迂回した段の電圧降下がなくなるので、負荷の電圧が下がりすぎずに済みます。シリコンドロッパを利用することで、状態によって変化する蓄電池の電圧を調整し、負荷の異常を防止できます。
シリコンドロッパの段数と切り替えの考え方
何個のダイオードを何段に分けるかは、充電中の最高電圧と負荷の上限の差から考え、この差が、少なくとも落とすべき電圧です。通信設備用の48V系では、国土交通省の標準仕様書が具体的な構成を決めています。整流器の出力は55.75V(MSE形25セル)、負荷の電圧は48V±10%です。
負荷電圧補償回路はシリコンドロッパ方式で、構成は「5S〜7S×1段切替え」で、5S〜7Sは、ダイオード5〜7個の直列と読めます。上限52.8Vまで約3V下げるため、その段を1つ入れ外しする構成です。
同じ仕様書は、ドロッパを全部短絡して定格の負荷電流を流したとき、蓄電池の端子から負荷の出力端子までの電圧降下を0.7V以下と定めています。短絡した状態で、余計な電圧が落ちないようにするためです。
段を複数に分けると、電圧の変化に合わせて細かく調整できます。かつての通信用48V電源では、ダイオード2段を入れて給電し、放電に合わせて1段ずつ短絡する方式が使われていました。
100V系の段数や個数を示した公開資料は見当たりませんでした。次の図は、1個0.8Vと仮定し、9個直列の段を2つ持つ場合の説明用の例です。
蓄電池の電圧が下がるのに合わせて、1段ずつ短絡します。
※1個0.8V、9個直列×2段(1段7.2V)と仮定した説明用の計算です。実機のダイオードの個数、段数、切り替える電圧は製品ごとに違います。全短絡時も、配線と接点でわずかに電圧が落ちます。
充電中は2段とも入れ、放電が進んで負荷の電圧が下限に近づいたら、1段ずつ短絡します。
ダイオードで落とした電圧は、そのまま熱になり、例えば14.4Vを落として30A流すと、14.4×30=432Wの発熱です。電気設備学会誌のFAQも、損失が大きくなるためシリコンドロッパは小容量の電源で使われるとしています。
負荷電流が大きい盤ほど、ダイオードの放熱と、短絡用の接触器の電流定格の確認が欠かせません。短絡した後は、負荷電流のすべてが接点を流れるためです。直流回路の過電流保護でよく使う部品の扱いは、ヒューズが飛ぶ原因と交換手順でまとめています。
単線図や展開接続図でSIDを見つけたら、次の点を確かめると全体の動きがつかめます。
- 位置:蓄電池側と負荷側の、どの母線の間に入っているか
- 短絡用の接触器・リレー:何段あるか(国土交通省の回路図ではSIDの中のMC1。SHは電流計用の分流器なので別物)
- 直接出力:補償を通さない負荷がつながっていないか
- 設定値:何Vで段を入れ、何Vで短絡するか
設定値の幅も仕様で決まります。国土交通省の48V系の仕様書では、電圧検出器をH側53〜55V、L側43〜45Vの範囲で設定できることが求められています。
シリコンドロッパのよくある質問
負荷電圧補償装置とシリコンドロッパは同じものですか?
直流電源装置の話では、ほぼ同じものを指します。シリコンドロッパは電圧を下げる方式の名前で、それを使って負荷の電圧を保つ装置を、GSユアサや三社電機は「負荷電圧補償装置」と呼んでいます。
農林水産省の技術指針は「負荷電圧補償装置(シリコンドロッパ)」と並べて書いており、国土交通省の標準仕様書も「負荷電圧補償回路は、シリコンドロッパ方式」です。
ただし電圧を補償する方式はほかにもあり、通信用の電源では、蓄電池を足す端電池方式や、DC-DCコンバータで電圧を足すブースタ方式も使われました。
電気の回路図にあるSIDとは何ですか?
直流電源装置の回路図で、シリコンドロッパ(負荷電圧補償装置)を表す記号です。三社電機のカタログには「負荷電圧補償装置(SID)」とあり、国土交通省の仕様書の回路図にもSIDが描かれています。
水資源機構の仕様書も、負荷電圧補償の方式をシリコンドロッパとし、「SIDの有無」を特記仕様書で指定するとしていますが、略称の元の語は、確認した資料には書かれていません。
ドロッパとは何ですか?
ドロッパは、電圧を落として(drop)調整する回路の呼び名で、電源の分野には、トランジスタで連続的に電圧を落とす「ドロッパ方式」の直流安定化電源もあります。
ヤマビシの資料では、ドロッパ方式は効率で劣る一方、精度・応答性・低ノイズに優れるとされています。シリコンドロッパとの違いは次のとおりです。
どちらも電圧を「落として」調整しますが、使う部品と下げ方が違います。
※ドロッパ方式の用途・特長はヤマビシ「直流安定化電源装置(ドロッパー制御方式)YTRシリーズ」の例です。
ダイオードやトランジスタのような電力用の半導体の動向は、パワー半導体SiCとGaNの違いで整理しています。
シリコンドロッパーと書くのは間違いですか?
どちらも同じもので、国土交通省の仕様書や三社電機のカタログは「シリコンドロッパ」と表記しており、英語ではsilicon dropperです。
抵抗で電圧を下げてはだめですか?
負荷電流が変わる盤には向かず、抵抗の電圧降下は電流に比例するため、負荷が軽いと電圧があまり下がらず、重いと下がりすぎます。ダイオードなら電流が変わっても降下がほぼ一定なので、段の入れ外しだけで電圧を管理しやすくなります。
まとめ
- シリコンドロッパはシリコンダイオードで直流電圧を降下させることができる
- 蓄電池の二次側に設置し、負荷への電圧を調整する
- シリコンドロッパがなければ、負荷側の機器を故障させる要因となる
- 直流電源装置の負荷電圧補償装置として使われ、回路図ではSIDと書く
- 段を入れたり短絡したりして、充電中から放電の終わりまで負荷の電圧を許容範囲に保つ
シリコンドロッパは制御機器の周りなどでよく使われていますが、設置している目的はシンプルです。制御盤などに蓄電池が設置されている場合は、周囲にシリコンドロッパが設置されていないか確認してみてください。盤の設計の仕事は、電気・電子設計とはで紹介しています。
出典
出典・参考資料(12件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 直流電源装置の構成・負荷電圧補償回路(シリコンドロッパ方式、5S〜7S×1段切替え、全短絡時0.7V以下、電圧検出器の設定範囲、回路図の記号SID・MC1・SH):国土交通省「直流電源装置(48V通信設備用)標準仕様書」国電通仕第25号(平成30年9月28日改正)
- 負荷電圧補償装置(シリコンドロッパ)の役割、MSE形の充電器出力120.4VとDC100V±10%、補償の対象負荷:農林水産省「電気設備計画設計技術指針(高低圧編)」第3章 3.5 直流電源装置
- 負荷電圧補償の方式をシリコンドロッパとし、SIDの有無を特記仕様書で指定:水資源機構「直流電源装置(制御・始動用)機能仕様書」(平成29年4月)
- ダイオード1個の電圧降下0.6〜1V程度、挿入する数を変えて負荷電圧を保つ、損失のため小容量の電源で使う:電気設備学会誌 36巻2号(2016年)連載FAQ Q109「シリコンドロッパとはどんな役割をする機器ですか」
- 通信用48V電源のシリコンドロッパ2段の運用、端電池方式・ブースタ方式:NTTファシリティーズ総合研究所 E研コラム「通信用電源の話〜給電系の電圧安定化技術〜」(2020年6月)
- DC100V系の用途・浮動充電/均等充電電圧・54セル・負荷電圧補償出力と直接出力:GSユアサ「一般用直流電源装置 TRUSTARシリーズ DC100V系」カタログ
- MSE形の充電電圧2.23V/セル・均等充電不要・放電終止電圧:GSユアサ「制御弁式据置鉛蓄電池 総合カタログ」
- ベント式(CS・HS)の均等充電2.30V/セル:GSユアサ「ベント式鉛蓄電池 総合カタログ」
- DC100V系の出力120.4V・負荷100V±10%・負荷電圧補償装置(SID)・シリコンドロッパ回路:三社電機製作所「直流電源装置カタログ」
- ダイオードの順電圧の定義・温度係数:東芝デバイス&ストレージ「電気的特性表の用語の定義(ダイオード)」、同「整流ダイオードの順方向特性」
- 整流用シリコンダイオードの順電圧の例(1.0Aで最大1.1V):Vishay「1N4001〜1N4007 General Purpose Plastic Rectifier」データシート
- ドロッパ方式の直流安定化電源:ヤマビシ「直流安定化電源装置(ドロッパー制御方式)YTRシリーズ」
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