オクタン価はガソリンの「自己着火のしにくさ」、セタン価は軽油の「自己着火のしやすさ」を表す数字です。どちらも燃料の質を表す代表的な指標で、それぞれのエンジンにとっては高いほど良い数字ですが、着火のしやすさで見ると向きは逆です。
火花で火をつけるガソリンエンジンと、圧縮の熱で火をつけるディーゼルエンジンでは、燃料に求める性質が反対になるからです。エネルギー管理士試験でもよく問われるので、理由ごと押さえておきましょう。
この記事では、オクタン価とセタン価それぞれの意味と決め方、日本の規格値、2つの違いの順に整理します。
この記事は動画でも解説しています。
オクタン価
オクタン価は、自動車などに使うガソリンの質を表す指標です。オクタン価が高いほどエンジンの中で自己着火しにくく、ノッキングを起こしにくい良質なガソリンとされます。
数字は、性質の分かっている2つの物質を基準に決め、ノッキングしにくいイソオクタンを100、ノッキングしやすいノルマルヘプタンを0とします。
この2つを混ぜた標準燃料と試料のガソリンを、試験用エンジンで比べ、ノックの強さが同じになった標準燃料のイソオクタンの割合が、そのガソリンのオクタン価です。
試料の成分を分析するのではなく、標準燃料とノックの起こりやすさを比べて決めます。
※日本ではリサーチ法(JIS K 2280-1)とモータ法(JIS K 2280-2)があり、エンジンの運転条件が違います。
注意したいのは、オクタン価は「ガソリンに含まれるオクタンの量」ではないことです。標準燃料と比べたときの燃えにくさの目盛りなので、成分がまったく違う燃料でも同じ物差しで比べられます。
石油精製プラントでは、原油を蒸留して取り出したナフサ(ガソリンのもとになる留分)を、そのまま使うわけではなく、分子の形を変える装置を通して、オクタン価を上げた基材をつくります。
たとえば接触改質装置では、触媒を使ってナフサの一部を芳香族炭化水素に変え、異性化では、まっすぐな鎖の分子を枝分かれした形に変えます。
こうしてできた性質の違う基材を混ぜて、製品のオクタン価を合わせます。ガソリンをつくる製油所がいま水素の拠点にもなっている例は、千葉製油所の液化水素の取り組みで紹介しています。
日本では、自動車ガソリンの日本産業規格 JIS K 2202 で、オクタン価の目安が次のように決められています。
- オクタン価89以上:レギュラーガソリン(JIS K 2202 の2号)
- オクタン価96以上:ハイオクガソリン(JIS K 2202 の1号)
この値はリサーチ法で測ったオクタン価です。法律(揮発油等の品質の確保等に関する法律)の上では、オクタン価は「標準規格」に入っており、鉛や硫黄分のように、満たさないと販売できない「強制規格」とは別の扱いです。
海外の数字と比べるときは、測り方の違いに注意が要ります。米国の給油機に出ている「レギュラー87」は、リサーチ法とモータ法の平均で表した値です。
日本の「89」と米国の「87」は、測り方が違うのでそのまま比べられません。
※MONはRONより厳しい条件(高い温度・高い回転)で測るため、同じガソリンでもMONの方が低く出ます。米国の数字は米国エネルギー情報局(EIA)の解説によります。
オクタン価が低いと、エンジンの中でピストンが混合気を圧縮したとき、火炎が届く前に燃え残りの混合気が自然に燃え出します。これがノッキングで、エンジンに大きなダメージを与えることがあります。
ノッキング(ノック)は、英語で扉をたたく意味の knock から来た言葉で、金属をたたくような「カリカリ」「キンキン」という音と、打撃的な振動が出ます。
正常な燃焼は、点火プラグから火炎が順に広がります。ノッキングはその途中で起きます。
※点火プラグが火花を飛ばす前に混合気が燃え出す現象は「過早着火」と呼び、ノッキングとは分けて扱います。
ノッキングは、ガソリンエンジンの熱効率を上げるときの壁になります。圧縮比を上げるほど理論上の効率は上がりますが、末端ガスも高温になりノッキングしやすくなるからです。
日本化学会の触媒化学ディビジョンの資料では、レギュラーのオクタン価を90から95に上げると燃費が3〜4%よくなる、という報告が紹介されています。これは高いオクタン価に合わせてエンジンの圧縮比を上げる前提の話で、今の車にハイオクを入れれば燃費が上がるという意味ではありません。
ガソリンスタンドでレギュラーとハイオクの2種類が売られているのは、このためです。圧縮比を高くとって出力や効率を上げたエンジンは、ハイオクを前提に設計されています。オクタン価が高いほど発火遅れが長く、アンチノック性が高いです。
圧縮比と熱効率の関係は、オットーサイクルとは?P-v線図・T-s線図と理論熱効率の式・導出で式から整理しています。
セタン価
セタン価は、主にディーゼルエンジンの燃料に使う軽油の質を表す指標で、ディーゼルエンジンには、ガソリンエンジンのような火花による点火がありません。
空気だけを強く圧縮して高温にし、そこへ燃料を吹き込んで自然に燃やすので、吹き込んだ燃料がどれだけ速く自己着火できるかが重要になります。
セタン価もオクタン価と同じく、2つの基準物質を混ぜた標準燃料と比べて決めます。着火しやすいノルマルセタン(n-ヘキサデカン)を100、着火しにくいヘプタメチルノナン(HMN)を15とします。
ノルマルセタン(n-ヘキサデカン):セタン価100と定める ヘプタメチルノナン(HMN):セタン価15と定める(0.15は「100%のときに15」になるための係数)
低い側の基準は、もとは1-メチルナフタレン(セタン価0)でした。品質のそろったものをつくりにくかったことなどから、1962年にヘプタメチルノナンへ置き換えられています。
よくある誤解ですが、セタン価は「軽油に含まれるセタンの割合」ではなく、標準燃料の中のノルマルセタンの割合で、着火のしやすさを表した目盛りです。
着火のしやすさは「着火遅れ」で比べます。着火遅れは、燃料を吹き込み始めてから、燃えて圧力が上がり始めるまでの時間です。
着火遅れが長いと、その間に吹き込んだ燃料が空気と混ざってたまり、着火した瞬間にまとめて燃えるので、圧力が急に上がり、大きな音や振動が出ます。これをディーゼルノックと呼びます。
セタン価が低い軽油ほど着火が遅れ、燃料がたまってから一気に燃えます。
※ディーゼルの「ノック」は、ガソリンエンジンの末端ガスの自己着火とは起き方が違います。どちらも急な圧力上昇が音と振動の原因です。
日本の軽油は、法律の強制規格で「セタン指数45以上」と決められています。セタン指数は、試験用エンジンを使わずに軽油の性状から計算で求める、セタン価の推定値です(JIS K 2280-5)。
セタン価が高いほど発火遅れが短く、アンチノック性が高いです。ここでいうノックは、着火遅れから起きるディーゼルノックのことです。
ディーゼルエンジンの熱サイクルは、ディーゼルサイクルとは?P-v線図・T-s線図と熱効率の式・導出で解説しています。
オクタン価とセタン価の違い
2つの違いは、オクタン価は「火がつきにくいほど良い」、セタン価は「火がつきやすいほど良い」という向きにあります。点火の仕方が違うエンジンに合わせた物差しだからです。
どちらも自己着火のしやすさの目盛りですが、良いとされる向きが逆です。
向きが逆になるのは、燃料の分子の形が着火のしやすさに大きく効くからです。まっすぐな鎖の炭化水素は自己着火しやすく、セタン価が高い一方でオクタン価は低い傾向があります。
枝分かれした炭化水素や芳香族炭化水素は、おおむねその逆で、そのためセタン価が高い燃料は、オクタン価が低い傾向になります。
基準の物質もこの関係どおりです。セタン価の基準のノルマルセタンも、オクタン価で0とされるノルマルヘプタンも、まっすぐな鎖の分子です。
オクタン価やセタン価は着火の性質の物差しで、燃料が持つ熱の量は表しません。熱量は、高位発熱量と低位発熱量の違いで整理している発熱量で比べます。
ガソリンエンジンもディーゼルエンジンも、シリンダーの中で燃料を燃やす内燃機関です。蒸気機関などとの違いは、外燃機関と内燃機関の違いにまとめています。
オクタン価とセタン価のよくある質問
オクタン価は100を超えることがある?
あります。イソオクタンより着火しにくい燃料もあるためです。リサーチ法オクタン価の規格(JIS K 2280-1)は、0〜120の範囲を求める方法を決めています。
セタン価とセタン指数の違いは?
セタン価は、試験用エンジンで着火遅れを測って求める値で、セタン指数は、エンジンを使わずに軽油の性状から計算で求める推定値です。
試験用エンジンを用意しにくいことなどから、日本を含む多くの国でセタン指数が使われています。日本の軽油の強制規格も、セタン指数で「45以上」と決めています。
日本のレギュラーガソリンのオクタン価は?
JIS K 2202 の2号(レギュラー)で、リサーチ法オクタン価89以上で、ハイオク(1号)は96以上です。
米国のレギュラー「87」は、リサーチ法とモータ法の平均で表した数字で、日本のレギュラーの方がオクタン価が低いわけではありません。
まとめ
- オクタン価はガソリンの質を表す指標
- セタン価は軽油の質を表す指標
- オクタン価は高いほど発火遅れが長く、アンチノック性が高い
- セタン価は高いほど発火遅れが短く、アンチノック性が高い
- 日本の規格はレギュラー89以上・ハイオク96以上(JIS K 2202)、軽油はセタン指数45以上
ガソリンエンジンとディーゼルエンジンで、どんなときにノッキングが起きるのかを理解すれば、取り違えることは少なくなります。ガソリンエンジンでは火花で点火する前後に勝手に燃え出さない方が良く、ディーゼルエンジンでは圧縮したときに速やかに自然発火した方が良い、という点が重要です。
資格試験と工場での仕事のつながりは、製造業のエネルギー管理士の仕事が参考になります。燃料とエンジンを使う側の産業は、自動車業界とはで全体像をまとめています。
出典
出典・参考資料(13件)を開く出典・参考資料を閉じる
- ガソリン・軽油の品質規格(オクタン価・セタン指数、強制規格と標準規格):中部経済産業局「石油製品の品質規格一覧」
- レギュラーとハイオクのオクタン価:石油連盟「ガソリンの品質」
- リサーチ法オクタン価の適用範囲(0〜120)、JIS K 2280 の部編成:日本規格協会 JIS K 2280-1:2018 プレビュー
- セタン価の求め方の適用範囲:日本規格協会 JIS K 2280-4:2013 プレビュー
- オクタン価の基準物質、RONとMON、米国の(R+M)/2 表示:U.S. Energy Information Administration「Octane in depth」
- セタン価の標準燃料と式、セタン指数(密度と蒸留性状から計算する推定値):ENEOS Technical Review 第56巻第3号「軽油の新着火性指標(新セタン指標)の検討」
- セタン価の基準物質の変更(1962年)、着火遅れ:米国特許 US9068963B2 の背景技術
- 着火遅れとディーゼルのノック、セタン価とオクタン価の関係:米国特許 US6550430B2 の背景技術、コトバンク「ディーゼルノック」(日本大百科全書・化学辞典 第2版)
- ガソリン基材の製造と調合、パラフィン系と芳香族系のセタン価:ENEOS 石油便覧「石油製品の製造工程」、同「軽油」
- JIS K 2202 のオクタン価の試験が JIS K 2280-1(リサーチ法)を引用していること:製品評価技術基盤機構(NITE)JNLA 登録証(全国石油協会 品質試験室)
- ガソリンの成分とオクタン価、接触改質・異性化、オクタン価と燃費:日本化学会 触媒化学ディビジョン「二元機能触媒」
- 過早着火(点火前の自己着火):コトバンク「プレイグニッション」(デジタル大辞泉)
- ノッキング(末端ガスの自己着火)と熱効率:東北大学 プレスリリース(2023年8月29日)
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