ディーゼルサイクルとは、ディーゼルエンジンの動きを、理想気体の4つの過程で表した理論サイクルです。空気だけを強く圧縮して高温にし、そこへ燃料を吹き込んで燃やす流れを、式で扱えるようにしたモデルです。
オットーサイクルの「体積一定で熱を受け取る過程」を、圧力一定で熱を受け取る等圧受熱に置き換えた形で、理論熱効率は、圧縮比と締切比(燃料を吹き込み終えるまでの体積の比)で決まります。
この記事では、基本サイクル、P-v線図とT-s線図、熱効率の式と導出、平均有効圧力、サバテサイクルやオットーサイクルとの違いの順に整理します。
ディーゼルサイクルとは?
ディーゼルサイクルは、断熱圧縮・等圧受熱・断熱膨張・等容放熱の4過程でできた理論サイクルで、低速ディーゼル機関の動きを表すモデルとして使われます。
等圧受熱とは、圧力を一定に保ったまま熱を受け取る過程で、熱を受け取る間、気体は膨らみながらピストンを押すので、体積は増えていきます。
熱を圧力一定で受け取ることから「定圧サイクル」とも呼ばれ、体積一定で熱を受け取るオットーサイクル(定容サイクル)と対になる呼び方です。
名前は、ドイツの技術者ルドルフ・クリスチアン・カール・ディーゼルに由来します。ディーゼルは1890年代にこの圧縮着火の方式で特許を取り、1893〜1897年には、アウクスブルクの機械工場(のちのMAN)で世界初のディーゼルエンジンを開発しています。
オットーサイクルでは、圧縮した混合気を火花で点火しますが、ディーゼルサイクルは火花点火装置を使わず、断熱圧縮で約600℃の高温になった空気に燃料を吹き込んで燃やします。
約600℃は、理論の断熱圧縮で計算すると確かめられ、吸い込み温度27℃(300 K)、比熱比1.4の空気を圧縮比15〜20で圧縮すると、圧縮の終わりは約610〜720℃です。
燃料は、ピストンが下がり始めてもしばらく吹き込み続けます。ゆっくり燃えるので圧力がほぼ一定のまま熱が加わる、と考えて定圧加熱とみなします。火花によって一瞬で燃焼させれば体積一定の定容加熱、ゆっくり燃焼させれば圧力一定の定圧加熱です。
ディーゼルサイクルの基本サイクル
ディーゼルサイクルの基本は、次の6つの工程で表せます。
- 吸気:空気を吸入する
- 断熱圧縮:空気を圧縮する
- 等圧受熱:徐々に燃焼する
- 断熱膨張:膨張する
- 等容放熱:放熱する
- 排気:高温ガスを外に出す
このうち理論サイクルの4過程にあたるのは、真ん中の4つです。吸気と排気は、理論では「4→1の等容放熱」にまとめて扱います。
4ストローク機関では、ピストン2往復で1サイクル。理論では状態1〜4を結ぶ4つの過程として扱います。
※理論サイクルでは、作動流体を理想気体(空気)とし、吸気・排気による入れ替えを「体積一定で熱を捨てる過程」に置き換えます。
吸気
ピストンがシリンダーの下部へ動くときに外気が吸い込まれ、ここで入るのは空気だけで、燃料はまだ入れません。
空気はエアフィルターを通って不純物を取り除かれ、シリンダーに流れ込み、後の圧縮と燃焼に必要な酸素は、この工程で入ります。
断熱圧縮
吸い込んだ空気は、ピストンが上がるにつれて圧縮され、圧縮の終わりには圧力が大きく上がり、同時に温度も上がります。
この温度上昇で、空気を燃料の自己着火に必要な温度まで上げるのがディーゼルサイクルの要です。断熱圧縮とは、外へ熱を逃がさず、加えた仕事を空気の内部エネルギーとしてため込む変化です。
等圧受熱
ピストンが圧縮上死点に近づくと、燃料がノズルから細かい霧状に噴射され、燃料は高温の空気に触れて、点火装置なしで自己着火します。
燃料を吹き込み続ける間、燃焼の熱が加わる一方でピストンは下がっていきます。熱で上がろうとする圧力と、体積が増えて下がろうとする圧力が釣り合い、圧力がほぼ一定のまま熱を受け取ると考えます。
断熱膨張
燃料の噴射が終わると、高温・高圧のガスはピストンを押し下げながら膨張します。この過程も断熱で、外へ熱を出さずに、ガスの内部エネルギーがピストンを動かす仕事に変わります。これがエンジンの動力になります。
等容放熱
ピストンが下死点付近に来ると、排気バルブが開き、シリンダー内のガスが一気に外へ出始め、圧力と温度が下がります。この間、ピストンはほとんど動かず体積は変わらないので、理論では、体積一定のまま熱を捨てる「等容放熱」とみなします。
排気
最後に、ピストンが再び上がり、シリンダー内に残った燃焼ガスを排気バルブから押し出し、これで、次の吸気の準備が整います。
ディーゼルサイクルとオットーサイクルの違いは、等圧受熱の箇所だけです。燃料の着火のしやすさの指標は、オクタン価とセタン価の違いで整理しています。
ディーゼルサイクルのP-v線図、T-s線図
ディーゼルサイクルの状態変化は、P-v線図(圧力と体積)とT-s線図(温度とエントロピー)で見ると理解しやすくなります。
どちらの線図も、同じ状態点1〜4を同じ順番で回ります。1は圧縮を始める点、2は圧縮の終わり(燃料噴射の始まり)、3は噴射の終わり(最高温度)、4は膨張の終わりです。
P-v線図
P-v線図は、縦軸に圧力P、横軸にシリンダー内の作動気体の体積vをとったグラフです。オットーサイクルとの比較で問われることがあるので、意味をしっかり押さえておきましょう。

1で吸気した空気は、1→2の圧縮で圧力が上がり、2→3では等圧のまま徐々に燃焼し、3→4の膨張で圧力が下がり、最後に4→1の排気で元の状態に戻ります。
線図の上では、2→3が水平な線(圧力一定)になるのがディーゼルサイクルの見分け方です。オットーサイクルでは、ここが縦の線(体積一定)になります。
2→3の燃焼で受け取った熱量Q1から、排気で捨てる熱量Q2を引いた分が動力に変わったと考えます。4本の線で囲まれた面積が、1サイクルの正味の仕事 W=Q1−Q2です。
実際には機械的な損失もありますが、熱サイクルではあくまで理想的な状態を考えます。
オットーサイクルと違い、2→3の等圧受熱では熱を受け取りながら、同時にピストンへ仕事もします。
※仕事は「気体が外(ピストン)にする向き」を正としています。P3=P2、V4=V1です。
T-s線図
T-s線図は、縦軸に温度T、横軸にエントロピーsをとったグラフで、熱の出入りを読むのに向いています。

- 1→2 断熱圧縮:熱の出入りがないため、エントロピー一定のまま温度が上がる(縦の直線)
- 2→3 等圧受熱:熱量Q1を受け取り、温度とエントロピーがともに増える(右上がりの曲線)
- 3→4 断熱膨張:エントロピー一定のまま温度が下がる(縦の直線)
- 4→1 等容放熱:熱量Q2を捨て、温度とエントロピーがともに減って1に戻る
T-s線図でもオットーサイクルと同じく、断熱圧縮と断熱膨張ではエントロピーが変化しないことがポイントです。外との熱のやり取りがないので、線図上はまっすぐ縦の線になります。
圧縮で温度が上がるのは、ピストンが加えた仕事がそのまま気体の内部エネルギーになるためで、圧縮と膨張という2種類の等エントロピー変化がある、と覚えておきましょう。
同じ温度で比べると、等圧の線は等容の線より傾きがゆるやかになるため、2→3の曲線は4→1の曲線より寝た形で描かれます。
理想サイクルは可逆変化を仮定するので、面積を熱量として読めます。2→3の下の面積がQ1、4→1の下の面積がQ2で、囲まれた面積が正味の仕事Wです。線図の各工程を動きで追えるアニメーションも作ったので、あわせてご覧ください。
ディーゼルサイクルの熱効率
ディーゼルサイクルの熱効率を考えてみますが、導出の仕方は、オットーサイクルと同じです。前提として、作動流体はm[kg]の理想気体(空気)とし、比熱は一定とします。使う記号は次のとおりです。
cp:定圧比熱 cv:定容比熱 κ:比熱比(cp/cv)
ε:圧縮比(V1/V2) ρ:締切比(V3/V2)
効率は、入熱と出熱から次のように表せ、入熱は圧力一定、出熱は体積一定の変化なので、使う比熱が違う点に注意します。
定圧比熱と定容比熱の関係は、定圧比熱と定積比熱の違いを参考にしてください。次に、T2・T3・T4をT1と圧縮比ε、締切比ρで表します。
締切比ρは、燃料の噴射が終わる点3の体積V3と、噴射が始まる点2の体積V2の比で、圧縮比εは、V1/V2です。これらを代入すると、最終的な式は次のようになります。
吸い込み温度T1は約分で消え、理論熱効率は圧縮比ε・締切比ρ・比熱比κだけで決まります。
熱量を温度に、温度を圧縮比と締切比に置き換えていくと、T1が消えて3つの比だけが残ります。
この式から、ディーゼルサイクルは圧縮比を大きくすれば熱効率が上がることと、締切比を小さくすれば熱効率が上がることが分かります。
締切比が大きいのは、燃料を長く吹き込み、ピストンが大きく下がるまで燃え続ける状態です。後から燃えた分は膨張に使える距離が短いので、仕事に変わる割合が小さいのです。
圧縮比18・κ=1.4に固定し、締切比だけを変えた理論値です。締切比が大きいほど効率が下がります。
※ρ=1はオットーサイクル(圧縮比18)と同じ値です。実際のエンジンの熱効率は、損失があるためこれより低くなります。
締切比を1にすると、式の右側の分数は1になり、オットーサイクルの熱効率の式と同じになります。ρは1より大きいので、圧縮比が同じならディーゼルサイクルの方が熱効率は低くなります。
ただし、実際のエンジンでは事情が変わり、ディーゼルエンジンは空気だけを圧縮するのでノッキングの心配がなく、ガソリンエンジンより高い圧縮比を取れるからです。
ディーゼルエンジンの圧縮比は15〜20程度が一般的で、ガソリンエンジンは、高圧縮比で知られるマツダのSKYACTIV-Gでも14.0です。
理論値で比べると、ディーゼル(ε=18、ρ=2)は約63%、オットー(ε=10)は約60%です。実際に使われる圧縮比で比べると、オットーサイクルよりディーゼルサイクルのほうが熱効率は高くなります。
ディーゼルサイクルの平均有効圧力
レシプロエンジンの能力を表す指標の一つに、平均有効圧力があります。1サイクルの正味の仕事を、ピストンが動く体積(行程体積)で割った値です。
1サイクル中に変わり続けるシリンダー内の圧力を、一定だと仮定した値ともいえ、排気量に関係なくエンジンを評価できるのが利点です。オットーサイクルの平均有効圧力と同様に、こちらも計算してみましょう。
これに、熱効率の計算で出てきた値を代入していきます。
途中の変形では、次の3つの関係を使っています。
最終式から、平均有効圧力は吸込圧力P1に比例することが分かります。過給機で吸い込む空気の圧力を上げると、同じ排気量でも仕事が大きくなるのはこのためです。
吸い込み時の0.1 MPaに対し、1サイクルを平均すると約7.4倍の圧力でピストンを押している、と読め、排気量の違うエンジンどうしの出力の比較に使う指標です。
ディーゼルサイクルとサバテサイクルの違いは?
ディーゼルサイクルとよく比較されるサイクルに、オットーサイクルやサバテサイクルがあります。サバテサイクルは、オットーサイクルとディーゼルサイクルを組み合わせたサイクルで、複合サイクルとも呼ばれます。乗用車のディーゼルエンジンは、サバテサイクルに分類されます。
サバテサイクルは、オットーサイクルの等容受熱を「等容受熱+等圧受熱」に置き換えたサイクルです。3つのサイクルのP-v線図を並べると、次のようになります。
違うのは熱を受け取る過程だけ。青い太線が受熱の部分です。
※形を比べるための略図で、縮尺はそろえていません。どのサイクルも1→2は断熱圧縮、3→4は断熱膨張、4→1は等容放熱です。
それぞれの燃焼のしかたを比べると、次のようになります。
- オットーサイクル:燃焼は瞬間的に行われるので容積変化はなく、一瞬で圧力が上がる(定容変化)
- ディーゼルサイクル:燃焼室内で自然発火が起き、圧力変化がないまま燃焼し膨張する(定圧変化)
- サバテサイクル:燃焼が本来のディーゼルエンジンより高速に行われるため、「定容変化」と「定圧変化」の2つの過程をたどる
実際のディーゼルエンジンでは、燃料を噴射してから着火するまでに着火遅れがあり、その間に、燃料と空気の混合気ができます。
この混合気に一気に火がつくと、まず定容に近い燃焼が起きます。その後、噴射される燃料が空気と混ざりながら順に燃え続け、定圧に近い燃焼になります。低速機関でなければこの過程を無視できないので、定容変化と定圧変化を組み合わせたサバテサイクルで表します。
オットー・ディーゼル・ブレイトンサイクルの違い
エネルギー管理士試験でよく出る3つの熱サイクルを比べます。いずれも圧縮と膨張は断熱変化で、熱を加える・捨てるときの変化の種類が違います。
用途と、熱を加える・捨てるときの条件、効率を決める比を並べました。
※いずれも比熱比κも効率に効きます。表は理論サイクルどうしの比較です。
ガスタービンの理論サイクルの導出は、ブレイトンサイクルの記事で解説しています。
ディーゼルサイクルのよくある質問
締切比とは?
締切比(しめきりひ)は、等圧受熱が終わる点3の体積と、始まる点2の体積の比 ρ=V3/V2 です。英語ではカットオフ比(cut-off ratio)と呼ばれます。
燃料の噴射を「締め切る」タイミングを表す値で、燃料を多く吹き込むほど締切比は大きくなり、仕事は増えますが、理論熱効率は下がります。
同じ圧縮比なら、オットーサイクルとディーゼルサイクルのどちらが効率が高い?
理論上は、オットーサイクルの方が高くなり、ディーゼルの式には (ρκ−1)/κ(ρ−1) という1より大きい係数が掛かるためです。
実際のエンジンでディーゼルの方が効率がよいのは、圧縮比を高く取れるからです。比べるときは、同じ圧縮比か、実際に使われる圧縮比かを分けて考えます。
実際のディーゼルエンジンの熱効率はどのくらい?
理論値よりは低くなりますが、熱機関の中では高い部類です。大型の2ストロークディーゼル機関では、1982年に効率50%を超える機関が登場しています。Everllence(旧MAN Energy Solutions)の沿革にある記録です。
大型の2ストローク機関は、主にコンテナ船・ばら積み船・タンカーなど大型商船の推進用に使われます。造船業の動きは日本の造船業再生の計画で紹介しています。理論値との差は、理想サイクルの仮定と実機の違いから生まれます。
- 断熱(熱が逃げない)→ 実機ではシリンダー壁から冷却水へ熱が逃げる
- 等圧で燃える → 実機では着火遅れがあり、定容と定圧が混ざった燃え方になる
- 作動流体は理想気体の空気 → 実機では燃焼ガスで、高温ほど比熱比が小さくなる
- 吸気・排気は等容放熱にまとめる → 実機ではガスを出し入れする仕事や摩擦の損失がある
トラックや建設機械、発電機など、大きな力を長時間出す用途でディーゼルが選ばれるのも、この効率の高さが理由の一つで、業界の動きは建設機械業界の動向にまとめています。
まとめ
- ディーゼルサイクルは、ディーゼルエンジンの理想的な熱サイクル(定圧サイクル)
- 2つの断熱変化と1つの等圧変化、1つの等容変化からできている
- P-v線図・T-s線図で囲まれた面積が、1サイクルの正味の仕事 W=Q1−Q2
- 圧縮比を大きく、締切比(ρ=V3/V2)を小さくすれば熱効率が上がる
- サバテサイクルとは燃焼(受熱)の過程が違う
ディーゼルサイクルとオットーサイクルはよく似ているので、間違えないように注意しましょう。資格試験と仕事の関係は製造業のエネルギー管理士の仕事が参考になります。
熱サイクル全体の位置づけは熱機関とはで、同じ温度範囲で最も効率の高い理論サイクルはカルノーサイクルで整理しています。工場で熱を効率よく使う考え方は工場の省エネとエネルギー管理の基本にまとめています。
出典
出典・参考資料(5件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 締切比と熱効率の式、同じ圧縮比での比較:TU Delft OpenCourseWare「Thermodynamica 1, lecture 12」(2011年3月)
- ディーゼルエンジンの圧縮比・理想サイクル・1890年代の特許:Georgia State University, HyperPhysics「The Diesel Engine」
- ディーゼルとMANの最初のエンジン、大型2ストローク機関の効率:Everllence(旧MAN Energy Solutions)「Company history」
- 大型2ストローク機関の用途:Everllence「Two-stroke engines」
- SKYACTIV-Gの圧縮比:マツダ ニュースリリース(2011年11月16日)
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