低位発熱量(低発熱量)とは、燃料が燃えたときの発熱量から、できた水蒸気の蒸発潜熱を差し引いた値です。潜熱まで含めた値が高位発熱量(高発熱量)で、2つの違いは潜熱を含むかどうかだけです。
環境省の算定ツールでは、A重油の高位発熱量が38.90MJ/L、低位発熱量が36.73MJ/Lです。都市ガスでは45.00と40.63MJ/m³Nで、ボイラー効率や燃料の量の計算には低位発熱量を使います。
この記事では、2つの発熱量の違いと呼び方、低位発熱量を使ったボイラー効率の例題、高位発熱量から低位発熱量を出す計算式の順に整理します。動画でも解説しています。
高位発熱量と低位発熱量の違い
高位発熱量と低位発熱量の違いは、燃料から出る水分の蒸発潜熱を含むか含まないかで、蒸発潜熱を含めたものを高位発熱量、蒸発潜熱を差し引いたものを低位発熱量といいます。呼び方は資料によって違いますが、中身は同じです。
- 高位発熱量=高発熱量=総発熱量
- 低位発熱量=低発熱量=真発熱量
JIS B 8222(陸用ボイラの熱勘定方式)は「低(高)発熱量基準」と書きます。環境省の算定ツールは「真発熱量(低位発熱量)」「総発熱量(高位発熱量)」と併記しています。
ちなみに水の蒸発潜熱とは、水が水蒸気に変化するのに必要な熱量のことで、圧力によって変化しますが、大気圧下で100℃で沸騰する場合は、蒸発潜熱は2256kJ/kgです。
燃焼でできた水を「水」として数えるか、「水蒸気」として数えるかの違いです。
※差の割合は環境省「設備更新等によるCO2削減効果の算定ツール」の表の値から計算しています。
高位発熱量は、燃焼後の生成物を燃焼前の温度まで冷やし、できた水蒸気がすべて凝縮したとする発熱量で、水蒸気が水に戻るときに出す熱(凝縮潜熱)まで数えます。
燃料の発熱量を熱量計で測ると高位発熱量が出て、大阪産業技術研究所の解説でも、ボンベ熱量計は原理上、高位発熱量を測る装置とされています。燃料の発熱量の測り方は発熱量の測定方法で紹介しています。
低位発熱量は、燃料中の水素からできる水と、もとから含まれる水分の蒸発潜熱を高位発熱量から差し引いた値です。燃焼でできた水は、すべて水蒸気のままと考え、燃焼ガスの温度の計算にも、通常は低位発熱量を使います。
水蒸気の潜熱を回収するかどうかで、使える熱が変わります。
※一般的なボイラーは排ガスを凝縮させずに出すため、右側の考え方で効率を表します。
基本的に燃焼計算では、燃料のもつエネルギーは低位発熱量で考えます。その理由は、燃焼させたときに発生する水蒸気は排ガス中に含まれるため、大気に放出されてしまうからです。大阪産業技術研究所の解説も、通常の燃焼装置では凝縮潜熱を取り出して使わないので低位発熱量がよく使われる、としています。
ボイラー効率なども、燃料の低位発熱量をベースに考えるため、排ガスを100℃以下まで冷やして水蒸気を凝縮させる潜熱回収型のボイラーでは、ボイラー効率が100%を超えたりします。
低位発熱量に含まれない水の凝縮潜熱まで回収できるからで、給水を温める通常のエコノマイザ(節炭器)は、低温腐食を避けるため排ガスを凝縮させない範囲で使います。燃料ごとの差を、環境省の算定ツールの値で比べると次のとおりです。
水素の多いガス燃料ほど、高位と低位の差が大きくなります。
※(高位−低位)÷高位で計算。単位が燃料ごとに違うため、発熱量そのものではなく差の割合で比べています。値は環境省「設備更新等によるCO2削減効果の算定ツール」表1-1・1-2。
ガスで差が大きいのは、燃料1kgに含まれる水素が多いからです。メタン(CH4)は質量の約25%が水素で、1kgを燃やすと水が約2.25kgできます。
灯油や重油は炭素の鎖が長い炭化水素で、水素は質量の15%に届きません(CH2が連なる形でも約14%)。できる水が少ないぶん、差し引く潜熱も小さくなり、燃料ごとの性質はボイラーの燃料の種類と特徴で整理しています。
高位発熱量だけだと、毎回低位発熱量を計算しなければならず面倒で、低位発熱量は学者がエンジニアのためにまとめてくれたやさしさだとも言えます。
低位発熱量を用いてボイラー効率を計算
計算に入る前に、どちらの発熱量を使うかを整理しておきます。目安は、効率と組み合わせて燃料の量を出すなら低位、燃料の持つエネルギーの総量を数えるなら高位です。
環境省の算定ツールでも、同じ燃料に2つの発熱量を使い分けています。
※HL:低位発熱量、HH:高位発熱量、η:ボイラー効率。ここでいう使い分けは同ツールの計算方法の範囲です。報告制度ごとの決まりは、各制度の手引きで確かめてください。
例題として次の問題を解いてみます。
まず、重油10kgの熱量を計算します。
0.5MPaGの飽和蒸気を1kg発生させるのに必要な熱量は、給水温度20℃なので次のとおりで、20℃の水の比エンタルピーを、比熱4.2kJ/(kg・℃)×20℃で出しています。
150kg発生させたので、蒸気が受け取った熱量は次のとおりです。
よってボイラー効率は次のようになります。
低位発熱量はこのように使用し、蒸気表(NISTの水の物性値)で確かめても、0.5MPaGの飽和蒸気は約2,756kJ/kg、20℃の水は約84kJ/kgで、例題の値と一致します。
同じボイラーでも、分母を高位発熱量にすると効率の数字は下がります。A重油の比(38.90÷36.73≒1.059)で高位発熱量に直すと、次のとおりです。
同じ運転なのに、基準が違うだけで効率に5ポイント以上の差が出ます。カタログや報告書の効率を比べるときは、どちらの基準かを先に確かめます。
低位発熱量を使って計算すると、ガス燃料の場合はボイラー効率が100%を超えることがあります。都市ガスでは、高位発熱量基準の100%が低位発熱量基準の約111%(45.00÷40.63)にあたるためです。
詳しい話はボイラー効率の計算方法(入出熱法・熱損失法と100%を超える理由)で解説しています。ボイラーの能力の表し方は相当蒸発量(換算蒸発量)とはで、ほぼ同じ発熱量(日本ボイラ協会の標準値。A重油36.7MJ/L、都市ガス13A 40.6MJ/m³N)を使って計算しています。
高位発熱量から低位発熱量を計算する方法
高位発熱量と低位発熱量の関係は次の式で表すことができます。
ただ、計算する際に厄介なのが、燃料中の成分に水分とは別に水素が入っていた場合で、燃料中の水素は燃焼すると水になるので、もとから入っている水に燃焼で発生する水を足さなければいけません。この時、例えば水素1kgから水は何kg発生するでしょうか?水素の燃焼式を参考にします。
水素の原子量が1、酸素の原子量が16なので、水素4kg(左辺)からは水が36kg(右辺)できるため、水素1kgから水が9kg発生するとわかります。原子量をH=1.008、O=16.00と細かくとると8.94kgですが、実務の式では、丸めた9がそのまま使われています。
この関係を入れると、燃料1kgあたりの式は次の形になり、大阪産業技術研究所のテクニカルシートでも、熱量計で測った高位発熱量からこの式で低位発熱量を出しています。
まとめると、燃料の高位発熱量から低位発熱量を計算するときに必要な条件は次の4つです。
- 燃料の高位発熱量(kJ/kg)
- 燃料中の水分量(%)
- 燃料中の水素(%)
- 水蒸気の潜熱(kJ/kg)
燃料1kgから出る水の量を出し、その水の潜熱を差し引きます。
※例は下の例題(高位発熱量30000kJ/kg、水分3%、水素4%、潜熱2200kJ/kg)の数字です。
例えば燃料の高位発熱量30000kJ/kg、水分量3%、水素4%、凝縮潜熱2200kJ/kgだとすると、低位発熱量は上の式を使って次のようになります。
低位発熱量は29142kJ/kgです。この例題の2200kJ/kgは、問題で与えられた条件で、実際に計算するときは、どの温度を基準にした潜熱かで r の値が変わります。
- 0℃基準:約2,500kJ/kg
- 25℃基準:約2,442kJ/kg
- 100℃基準:約2,256kJ/kg(大気圧で沸騰するとき。相当蒸発量の計算では慣例の2,257を使う)
値はNISTの水の物性値(蒸気表)から計算しました。同じ燃料でも、0℃基準の約2,500kJ/kgで計算し直すと、低位発熱量は約29,025kJ/kgになります。
差は小さいものの、資料ごとに r の前提が違うことは押さえておき、他の資料の低位発熱量と比べるときは、使っている r をそろえてから比べます。
高位発熱量・低位発熱量のよくある質問
低発熱量・真発熱量とは何ですか?
どちらも低位発熱量と同じ意味です。燃料の発熱量から、燃焼でできた水と燃料の水分の蒸発潜熱を除いた値を指します。
同じように、高発熱量・総発熱量は高位発熱量と同じです。英語では低位をLHV(Lower Heating Value)、高位をHHV(Higher Heating Value)と書くこともあります。
ボイラーのカタログの効率はどちらの基準ですか?
低位発熱量基準が一般的です。J-Net21の解説では、JIS B 8222の熱勘定は入熱を燃料の低位発熱量基準で表すと規定している、としています。
ただし、JIS B 8222には高発熱量基準の熱勘定表もあるので、カタログや仕様書の効率の注記で、どちらの基準かを確かめてから比べます。省エネの検討の進め方は工場の省エネとエネルギー管理の基本でも整理しています。
CO2排出量の計算ではどちらを使いますか?
環境省の算定ツールでは、燃料の量×高位発熱量(総発熱量)×排出係数でCO2排出量を出しています。燃料の量を出す段階では低位発熱量とボイラー効率を使うので、1つの計算の中で2つを使い分けます。
燃料を燃やして出るCO2は、算定の枠組みではScope1にあたります。区分の考え方はScope1・2・3の違いで確かめられます。
潜熱回収型ボイラーの効率が100%を超えるのはなぜですか?
効率の分母が低位発熱量で、潜熱を含んでいないからです。潜熱回収型は排ガスを100℃以下まで冷やし、水蒸気が凝縮するときの熱も回収します。
分子に潜熱の回収分が入るので、見かけ上100%を超えることがあります。例えば低位発熱量基準で104%の都市ガスボイラーなら、高位発熱量基準では104÷1.108≒約94%です(104%は説明のための仮の値)。
凝縮した水には燃料の硫黄分から硫酸が混じるため、腐食への対策が要り、環境省の資料も、硫黄分を含む燃料では腐食に注意するよう書いています。低温腐食の仕組みは低温腐食と高温腐食の違いで解説しています。
まとめ
- 高位発熱量と低位発熱量の違いは、水分の潜熱を含むかどうか
- 高発熱量・総発熱量は高位、低発熱量・真発熱量は低位と同じ意味
- 水蒸気は排ガスとして放出されるため、潜熱は実際には使用できない
- ボイラー効率などの計算で使用する際は低位発熱量を使う
- 高位発熱量から低位発熱量は Hl=Hh−r(9h+w)で計算できる
高位発熱量と低位発熱量の違いは水分を含むかどうかですが、普段熱量を計算する場合は低位発熱量だけでよさそうですね。ただし、効率やCO2を計算するときは、発熱量の基準と潜熱 r の条件をそろえてから使いましょう。少しでも参考にしていただければと思います。
燃料と熱の管理は、製造業のエネルギー管理士の仕事の中心です。ボイラーの給水を排ガスで温める仕組みは、エコノマイザの記事であわせて確かめられます。
出典
出典・参考資料(6件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 燃料の真発熱量(低位)・総発熱量(高位)の値と、燃料使用量・CO2排出量の計算式:環境省「設備更新等によるCO2削減効果の算定ツール(ボイラーの燃料転換、高効率化)」
- 潜熱回収型ボイラーの仕組みと腐食の注意:環境省「温室効果ガス排出削減等指針 対策メニュー:潜熱回収型ボイラー・高効率温水ボイラー・廃熱利用ボイラー等の導入」
- ボイラー効率は低位発熱量基準・潜熱回収で100%を超える理由:中小企業基盤整備機構 J-Net21「熱損失側からボイラー熱効率を求める方法を教えてください。」
- 低(高)発熱量基準の熱勘定・潜熱回収エコノマイザ:JIS B 8222:2023 陸用ボイラの熱勘定方式(日本規格協会 プレビュー)
- 高位・低位発熱量の定義、熱量計で測るのは高位、Hl=Hh−r(9H+w):大阪産業技術研究所 テクニカルシート No.13012「ボンベ熱量計」
- 水の蒸発潜熱・飽和蒸気の比エンタルピー:NIST Chemistry WebBook「Thermophysical Properties of Fluid Systems」(Water)
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