住友ベークライトとは?半導体封止材から医療まで、強みと事業の全体像

リードフレーム上に並ぶ黒い樹脂で封止された半導体パッケージ

プラスチックの名前を社名に持つ住友ベークライトですが、いま利益の柱は半導体の封止材で、2026年3月期は3つの事業の利益の5割強を半導体関連材料が稼ぎました。

2026年10月9日には中国・蘇州とシンガポールで先端半導体向け封止材の増産を発表し、10月末には京セラのケミカル事業も譲り受ける予定です。

事業構成、封止材の強み、業績と中期計画を公開資料で整理し、最後に就職・転職と取引先の目線で見る点をまとめます。

目次

住友ベークライトはどんな会社か

住友ベークライトは、樹脂(プラスチック)を設計し、材料や部品にして売る化学メーカーです。顧客は半導体メーカー、自動車・電機メーカー、病院、食品・医薬品メーカーなどにまたがります。

社名の「ベークライト」は、1907年に米国で開発されたフェノール樹脂の名前です。1911年に三共合資会社(現 第一三共)がこの樹脂の試作を始め、日本のプラスチック工業の草分けとなりました。

1932年にベークライト部門が独立して日本ベークライトが設立され、1955年に住友化工材工業と合併して今の社名になりました。本社は東京都品川区で、東証プライム市場に上場しています。

図1:住友ベークライトの基本データ

100年を超える樹脂の会社で、従業員の過半が海外の関係会社にいます。

1932年設立源流は1911年のベークライト試作。1955年に現社名
連結7,524名うち海外関係会社4,329名(2026年3月末)
売上収益3,199億円連結・2026年3月期。事業利益は345億円
海外売上 約65%顧客の所在地ベース。中国だけで約2割

※出典:住友ベークライト「会社概要」、2026年3月期決算短信。海外比率は決算短信の地域別売上から計算。

国内の研究所は神戸、尼崎、鹿沼、藤枝、宇都宮、直方の6か所、工場は尼崎、鹿沼、藤枝、宇都宮の4か所で、海外にも封止材や樹脂の生産拠点を持ちます。

事業構成と売上の柱

トレーに分けられたフェノール樹脂やエポキシ樹脂の成形材料

事業は半導体関連材料、高機能プラスチック、クオリティオブライフ(QOL)関連製品の3つのセグメントに分かれます。

2026年3月期の売上収益は、3事業とも約1,050億〜1,070億円でほぼ3等分でした。ところが事業利益(売上から原価と販管費を引いた利益)で見ると、形がまったく違います。

図2:売上は3等分、利益は半導体に偏る

2026年3月期のセグメント別構成比です。売上と事業利益を同じ100%の帯で比べています。

売上収益
33%
33%
34%
事業利益
52%
16%
32%
半導体関連材料(売上1,064億円/利益207億円)高機能プラスチック(1,055億円/62億円)QOL関連製品(1,072億円/129億円)

※出典:住友ベークライト 2026年3月期決算短信のセグメント情報。構成比は3事業の合計に対する割合で、その他・全社費用は含めていません。

半導体関連材料は、売上の3分の1で利益の半分強を稼ぎ、事業利益率は19.5%と、高機能プラスチック(5.9%)、QOL関連製品(12.0%)を大きく上回ります。

地域別の売上(顧客の所在地ベース)は、日本1,129億円、中国695億円、その他アジア689億円、北米355億円、欧州その他330億円で、中国とその他アジアを合わせると、日本を上回ります。

強み1:半導体封止材で世界約4割のシェア

一番の強みは半導体封止材です。同社は世界市場で約40%のシェアを持つトップ企業とされます(同社推定、2024年10月のEE Times Japan報道)。

封止材とは何か

半導体のチップは、そのままでは湿気や衝撃、熱に弱い部品のため、封止材でチップを樹脂で包んで外の環境から守ります。住友ベークライトの主力は、エポキシ樹脂にフィラー(シリカなどの充填材)を混ぜた「半導体封止用エポキシ樹脂成形材料」で、製品名は「スミコン EME」です。

図3:封止材が使われる場面

ウエハから切り出したチップを樹脂で包み、基板に載せられる部品にする工程で使われます。

ウエハチップ樹脂で封止基板に実装封止材の出番

※後工程(チップを部品に仕上げる工程)の簡略図。実際には封止の前後に配線、検査などの工程が入ります。

封止は、チップを部品に仕上げる「後工程」の一部で、工程全体の流れは半導体の後工程の流れで詳しく整理しています。同社は封止材のほかにも、チップを固定する接着剤(ボンディングペースト)、感光性材料、基板材料「LαZ」を持っており、後工程の材料を複数そろえている点も特徴です。

顧客が封止材を選ぶときの視点

封止材は、チップや基板との相性で性能が決まり、熱で反らないか、狭い隙間まで樹脂が入るか、高温で劣化しないかが問われます。半導体メーカーは、材料を量産に使う前に自社のパッケージで評価して認定するため、同社のIR資料にも「顧客認定」や「新工場の認定完了」という言葉が出てきます。

一度認定された材料は簡単には他社品に切り替えにくい傾向があり、そのため性能に加えて、顧客の工場の近くで安定して供給できるかも重視されます。

住友ベークライトは封止材を日本、中国、シンガポール、台湾、ベルギーで生産しており、中国では1997年から現地生産を続けて、主要な半導体の生産地域に拠点を構えています。

なぜ今、封止材を増産するのか

樹脂材料を練り混ぜる押出ラインと作業者

2026年10月9日、住友ベークライトは中国・蘇州とシンガポールで先端半導体パッケージ向け封止材の生産能力を増やすと発表しました。

AIサーバー・通信衛星・中国の需要

同社の発表では、生成AIや通信衛星向けの先端半導体の需要が中国と東南アジアを中心に急拡大しており、パッケージには高密度化、薄型化、大型化が求められる状況です。

AIサーバーではGPU(画像処理半導体)のほか、電源を担うパワーデバイスも大量に使い、同社の資料では1GW級のデータセンター1か所で約5,000万個のパワーデバイスを使うと試算しています。

AIで需要が伸びる部品の全体像は、AI需要で恩恵を受ける電子部品の記事で受注動向とあわせて整理しています。中国では半導体の内製化政策を背景に、封止材の需要は拡大傾向にあります(2027年3月期第1四半期決算短信)。

MUFと顆粒封止材とは

今回の増産の対象は2種類です。モールドアンダーフィル(MUF)用の「スミコン EME」と、圧縮成形用の顆粒封止材「スミコン EME Version GR」です。

  • MUF用封止材:チップと基板をつなぐはんだの隙間の充填と、パッケージ全体の封止を一度に行う。工程が減り、信頼性も保ちやすい
  • 顆粒封止材:粒状の封止材を型に入れて圧縮して成形する。大きなパネルでも均一に成形でき、反りを抑えられる

どちらも、チップを何枚も並べる先端パッケージで必要になる材料です。同社は微細な隙間への充填性と反りの少なさを強みに挙げています。

図4:2026年に発表された封止材の増産計画

6月の蘇州増強と、10月の蘇州・シンガポール増強は別の投資です。

6月発表・蘇州
10月発表・蘇州
10月発表・シンガポール
対象
半導体封止材(エポキシ樹脂成形材料)
MUF用封止材と顆粒封止材
MUF用封止材と顆粒封止材
中身
生産ラインを追加
2024年竣工の新工場の敷地に建屋を増築し、新ラインを導入
既存の工場建屋の中に新ラインを導入
生産開始
2028年12月頃
2030年度
2028年度末
規模
中国の生産能力を約30%増
2拠点の投資を合わせて、MUF用は現行の約2倍、顆粒は約3倍に
同左(2拠点の合計)

※出典:住友ベークライト ニュースリリース(2026年6月25日、10月9日)。このほか、10月末予定の京セラからの事業譲受で、同社のMUF用・顆粒封止材の生産能力が加わります。

蘇州の工場は1997年設立で2024年に新工場が竣工し、シンガポールの工場は1982年設立です。

京セラのケミカル事業の譲受

2026年1月22日、住友ベークライトは京セラのケミカル事業の一部を譲り受けると発表し、対象は半導体封止用エポキシ樹脂成形材料、ボンディングペースト、工業用樹脂などです。

対象事業の売上高は232億円(2025年3月期)、取得価額は300億円(価格調整あり)で、株式の譲渡は2026年10月末の予定です(10月9日発表時点)。

狙いはAIデータセンター用途での存在感を高めることで、IR事業説明会では京セラの高熱伝導(熱を逃がしやすい)技術とのシナジーを挙げています。

強み2:フェノール樹脂から広がった技術の幅

包装機のコンベヤーを流れる錠剤入りのPTP包装シート

住友ベークライトの出発点は、熱で固まる樹脂(熱硬化性樹脂)のフェノール樹脂です。樹脂を合成し、配合を調整し、形にする技術が、3つの事業すべての土台になっています。

図5:3つの事業の技術・製品・用途

樹脂を設計して形にする技術が、半導体から医療まで広がっています。

半導体関連材料エポキシ樹脂の配合と充填の制御製品:封止材、ボンディングペースト、感光性材料、基板材料LαZ用途:AIサーバー、パワーデバイス、スマートフォン、車載半導体
高機能プラスチックフェノール樹脂の合成と成形製品:工業用樹脂、成形材料、積層板、航空機部品用途:自動車、電機部品、建材、航空機の内装
QOL関連製品フィルム化と精密な成形製品:医療機器、フィルム・シート、光学シート、防水シート用途:病院、医薬品・食品の包装、車載ディスプレイ、住宅

※出典:住友ベークライト 2026年3月期決算短信、決算説明会資料。技術の分け方は記事向けに整理したものです。

高機能プラスチック

高機能プラスチックは、フェノール樹脂などの工業用樹脂と、それを使った成形材料や積層板を扱い、自動車部品、電機部品、建材、航空機の内装材まで用途は幅広いです。

2026年3月期は北米で不採算製品から撤退して売上は横ばいでしたが、構造改革の効果などで、事業利益は18.4%増えています。

新しい製品の芽もあり、放熱絶縁シートは2025年に車載駆動用インバータで世界初の採用実績になったと同社は説明しています(同社調べ)。シクロオレフィンポリマー「COPLUS」は、AI用半導体の需要に対応して2026年度中に生産能力を倍増する計画です。

クオリティオブライフ関連製品

QOL関連製品は、医療機器、バイオ関連製品、フィルム・シート、産業機能性材料、防水シートの集まりで、暮らしに近い製品が多いのが特徴です。

医療機器では、血液バッグ、血管内治療用のマイクロカテーテル、胸部ステントグラフトが伸び、先端を動かせる「ステアリングマイクロカテーテル」は、生産能力を増やす計画です。

フィルム・シートでは、錠剤を包むPTP包装などの医薬品包装用がジェネリック医薬品の増産で伸び、鮮度保持フィルム「P-プラス」も同社の製品で、食品包装で採用が広がっています。

業績の現在地と中期経営計画

2026年3月期の売上収益は3,199億円(前期比5.0%増)、事業利益は345億円(同11.8%増)で、親会社の所有者に帰属する当期利益は280億円(同45.3%増)です。

当期利益の伸びが大きいのは、前期に計上した北米拠点の減損損失などがなくなった反動で、会社は2027年3月期に売上収益3,370億円、事業利益380億円を予想しています。

図6:連結事業利益の実績・予想・目標

実績、会社予想、2030年の目標を色で分けています。

2025年3月期 実績
308億円
2026年3月期 実績
345億円
2027年3月期 予想
380億円
2030年 目標
550億円

※出典:住友ベークライト 2026年3月期決算短信、決算説明会資料(2026年5月11日)。2030年の目標は「2030年ありたい姿」の事業利益。

足元は好調で、2027年3月期の第1四半期(4〜6月)は、売上収益が952億円で前年同期比22.6%増でした。半導体関連材料は、この四半期の売上が前年同期比40.0%増と大きく伸びています。

同社は「2030年ありたい姿」として、事業利益550億円、事業利益率13%、ROE(自己資本利益率)10%を掲げ、方針は得意分野で世界トップクラスを狙う「ニッチ&トップシェア」です。

M&Aで事業を入れ替える

中期経営計画(2024〜26年度)では、M&Aなどの戦略的投資に500億円の枠を設けており、成長が見込める分野を買い足し、採算の悪い事業は立て直すか整理する方針です。

図7:近年のM&Aと狙い

既存事業とのシナジーが見込める会社・事業を順に取り込んでいます。

2021年度:川澄化学工業現SBカワスミ。医療機器のラインアップを補い、QOL関連製品を強化
2024年度:旭化成パックス現SBパックス。包装用のフィルム・シート事業を拡充
2025年度:AGCのポリカーボネート事業中空ポリカなど産業機能性材料を拡充。車載光学シートでも協業効果を狙う
2026年度:京セラのケミカル事業封止材・ボンディングペーストなど。高熱伝導技術でAI向けを強化(10月末予定)

※出典:住友ベークライト IR事業説明会資料(2026年9月8日)、2026年3月期決算説明会資料、2026年1月22日適時開示。

整理の例が北米で、2026年9月には米国子会社Durezのケントン工場(オハイオ州)を閉鎖すると発表し、生産は2027年9月から製品ごとに順次終える予定です。

化学業界の中での立ち位置は、化学メーカーの売上高ランキングで主要各社と比べられます。

就職・転職、取引先として見たときの特徴

実験台で樹脂の粉末をビーカーに移す研究者の後ろ姿

働く場として見るか、取引先として見るかで、確認したい点は変わります。

図8:読者別に確認したいポイント

共通の会社理解を土台に、目的ごとに見る資料と項目が変わります。

就職・転職を考える人
取引を考える購買・技術者
事業
希望する仕事がどのセグメントにあるか。事業利益率は5.9〜19.5%と事業ごとに差がある
調達したい製品がどのセグメントか。京セラ譲受後の窓口も確認
拠点
国内の研究所6か所・工場4か所。従業員の過半が海外関係会社
封止材は日本・中国・シンガポール・台湾・ベルギーで生産
これから
半導体・医療への投資とM&Aが続く。事業の入れ替えもある
増産ラインの稼働は2028年12月頃〜2030年度。認定のスケジュールと合わせて見る
見る資料
決算説明会資料、統合報告書、採用サイト
製品情報、ニュースリリース(価格改定・拠点の変更)

※利益率は2026年3月期のセグメント別事業利益率。

就職・転職で見る点

住友ベークライトは、半導体、自動車、航空機、医療、包装と、関わる業界の幅が広い会社です。同じ会社の中で、まったく違う顧客と向き合う仕事があると考えておくとよいでしょう。

研究所は国内6か所にあり、材料の開発が事業の中心にあります。材料開発の仕事に興味があれば、研究開発職の仕事内容もあわせて見ておくと、配属後の姿をつかみやすくなります。

連結従業員7,524名のうち4,329名が海外関係会社の従業員で、海外の顧客や拠点と関わる機会が多い会社と言えます。人事面では、日本健康会議が認定する「健康経営優良法人2026(大規模法人部門)」に、前年に続いて認定されています。

取引先として見る点

半導体メーカーや後工程の受託会社から見ると、封止材を複数の地域から調達できる点が利点です。基板メーカーなど周辺の動きは、新光電気工業の企業研究もあわせて読むと、後工程のサプライチェーンがつかめます。

一方で、2026年は封止材、フィルム・シート、積層板などで価格改定の通知が出ており、北米では工場閉鎖に伴う生産移管も予定されています。

取引中の製品があれば、ニュースリリースで価格や生産拠点の変更を定期的に確認するのが確実です。SiCパワーモジュール向けには、耐熱性を高めた封止材「EME-G785」の量産も2026年6月に始まっています。SiCパワー半導体そのものの特徴は、SiCとGaNの違いで整理しています。

まとめ

この記事のまとめ
  • 住友ベークライトは、日本のプラスチック工業の草分けから始まった樹脂の化学メーカー
  • 売上は3事業でほぼ3等分だが、2026年3月期の事業利益の5割強は半導体関連材料
  • 半導体封止材の世界シェアは約40%(同社推定)で、日本・中国・東南アジア・欧州に生産拠点を持つ
  • 2026年10月にMUF用・顆粒封止材の増産を発表し、10月末には京セラのケミカル事業を譲り受ける予定
  • 高機能プラスチックと医療・包装のQOL関連製品も持ち、M&Aで事業の入れ替えを進めている

住友ベークライトは、封止材で半導体の成長を取り込みながら、医療や包装でも暮らしに近い製品を持つ会社です。関連する業種は化学・樹脂・ゴムと電子部品・半導体、職種では購買・調達がこの会社と深く関わります。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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