東京応化工業(TOK)の売上高2,370億円のうち、84.5%は海外の顧客向けです(2025年12月期)。最大の売り先は台湾で、日本向けは15.5%にとどまります。
同社は、半導体の回路を焼き付ける感光材料「フォトレジスト」と、その前後で使う高純度の薬液をつくる材料メーカーです。強みは、露光の世代をまたいでレジストのシェアを持ち、薬液まで自社で手がけ、顧客の工場の近くに拠点を置いている点にあります。
この記事の内容は、動画でも解説しています。
東京応化工業はどんな会社か
東京応化工業は、川崎市に本社を置く化学メーカーです。事業内容は、半導体やディスプレイのフォトリソグラフィ(光で回路パターンを写し取る工程)で使う材料に絞られています。
売り先は、半導体メーカーやパッケージ(チップを包んで基板につなぐ工程)を担う企業です。消費者向けの製品はなく、スマートフォンやAIサーバーの中のチップづくりを材料で支える立場にあります。
売上の8割超を海外で稼ぎ、売上の6%強を研究開発に充てる材料メーカーです。
※出典:同社 会社概要、2025年12月期 決算短信。海外売上比率と構成比は決算短信の地域別売上から算出。
事業構成|売上の柱は2部門
TOKの事業は単一セグメントですが、決算短信では2つの部門に分けて売上を開示しており、2025年12月期は、どちらも前期から大きく伸びました。
レジストなどの機能材料と高純度化学薬品が、ほぼ半分ずつを占めます。
※バーの長さは連結売上高2,370億円に占める比率(52.6%/46.2%/1.2%)。前期比はエレクトロニクス機能材料16.0%増、高純度化学薬品19.6%増。出典:同社 2025年12月期 決算短信。
エレクトロニクス機能材料
中心は半導体の前工程で使うフォトレジストで、露光に使う光の種類ごとに、EUV用、ArF用、KrF用、g/i線用をそろえています。
後工程向けには、チップの接続端子(バンプ)や再配線層(RDL)をつくるためのレジスト、保護膜、接着剤があります。ほかに、MEMS(微小な機械構造をもつ素子)用やディスプレイ用の材料も手がけます。
高純度化学薬品
レジストを塗る前後で使う薬液の部門です。主な製品は次のとおりです。
- 現像液・リンス液(露光後に不要なレジストを溶かして洗い流す)
- シンナー(レジストの塗布前後にウエハや装置を洗う溶剤)
- 剥離液(役目を終えたレジストを取り除く)
- 表面改質剤(ウエハ表面の性質を整える)
薬液は使う量が多く、売上が顧客の工場の稼働率に連動しやすいのが特徴です。同社は決算説明会で、一部の顧客と原油価格に連動する価格契約を結んでいると説明しています。
回路を写す工程の一連の作業に、レジストと薬液の両方が関わります。
※同社の製品紹介ページ(半導体製造前工程・後工程)をもとに作成。工程は代表的な流れを簡略化しています。
後工程の流れと、先端パッケージが注目される理由は半導体の後工程で詳しく扱っています。
TOKの強み|シェア・品質・薬液・パッケージ
公開資料から読み取れる強みは4つです。
いずれも「顧客の歩留まりと安定稼働に効くかどうか」でつながっています。
※出典:同社 製品紹介ページ、2025年12月期 決算説明会Q&A要旨(2026年2月9日)。
① 露光の4世代すべてでシェアを持つ
半導体の露光には波長の異なる光が使われ、光源ごとに専用のレジストが必要で、TOKは4世代すべてに製品を持っています。
KrF用では約3分の1、EUV用では約3割を占めます。
※2025年の見込み出荷数量ベース。出典:富士キメラ総研「2026 先端/注目半導体関連市場の現状と将来展望」(同社 製品紹介ページに掲載)。バーの長さは各市場に占める比率。
1つのチップは数十の層を積み重ねてつくられ、細かい層には先端の光源、粗い層には成熟した光源が使われるのが一般的です。
そのため、1つの工場の中で複数世代のレジストが同時に使われます。世代をまたいで製品を持つメーカーは、顧客の工場の多くの層に関わることになります。
一方、ArF用のシェアは14.4%と、ほかの世代より低い水準で、世代ごとに立ち位置が違う点は押さえておきたいところです。中期経営計画では「先端レジストのグローバルシェアNo.1」を目標に掲げていますが、現時点の首位を示す表現ではないため、目標として読むのが正確です。
② 「歩留まりが命」の品質管理
2026年2月の決算説明会で、同社は「フォトレジストは歩留まりが命」と述べており、歩留まりは、つくったチップのうち良品になる割合のことです。
レジストに微量の異物や成分のばらつきがあると、顧客のウエハ上で回路の欠陥になります。1枚のウエハから多数のチップをとるため、材料の小さな不具合が大きな損失につながります。
同社は、中国のメーカーがi線用で技術力をつけていると説明しており、そのうえで、品質管理と技術の深化を前面に出して競争する方針です。品質の考え方は日本の製造業の強みと弱みとも重なります。
品質管理の具体的な手法や管理項目は、公開資料では詳しく示されていません。
③ レジストと薬液を両方持つ
TOKは、回路を写す材料(レジスト)と、その前後で大量に使う薬液の両方に事業を持っています。2025年12月期の売上は、両部門がほぼ半分ずつでした。
両部門は売上の動き方が違い、レジストは技術の世代交代で伸び、薬液は顧客の工場の稼働量で伸びます。性格の違う2つの柱を持つことで、事業の波を均しやすい構造になっています。
ただし、顧客が両方をTOKからまとめて調達しているかどうかは、公開資料では分かりません。
④ 先端パッケージ材料
同社は決算説明会で、パッケージ材料について「先端パッケージ用では過半のシェアを持っている」と説明しています。HBM(AI向けの積層メモリ)のチップの積み重ねや、2.5D/3D構造の形成に使われる材料です。
後工程材料の売上に占めるAI用途の比率は、2025年が55%で、2026年は60%になる見込みとされています。薄いウエハを支えて加工するためのWHS材料も、2025年に前年比40%増と伸びました。
「過半のシェア」は同社の説明で、第三者調査の数字ではありません。先端パッケージ基板をつくる側の動きは、新光電気工業の企業研究が参考になります。

業績・計画・最近の投資

TOKの連結売上高は、2019年12月期の1,028億円から2025年12月期の2,370億円へ、6年で約2.3倍になりましたが、2023年は半導体の生産調整で一度減っています。
2026年の会社予想は、2027年の中計目標に近い水準まで上がっています。
※単位は億円、12月期。高さは2027年目標の2,950億円を基準に約88%の位置へ縮尺。出典:同社「tok中期計画2027」(2026年2月9日更新版)、2025年12月期 決算短信、業績予想の修正に関するお知らせ(2026年7月30日)。
2025年12月期は売上・利益とも過去最高
2025年12月期の実績は、売上高2,370億円(前期比17.9%増)、営業利益473億円(同43.2%増)でした。営業利益率は20.0%、ROE(自己資本利益率)は15.6%です。
同社は伸びた理由として、生成AI関連の需要が好調だったことを挙げています。決算説明会では、HBM向けなどメモリ需要を背景に、EUV用レジストの売上が前年比50%増になったと説明しました。
2025年12月期の営業利益には、開発関連材料等の在庫認識に伴う一過性の利益も含まれています。2026年12月期の会社予想は、7月30日に売上高2,910億円、営業利益606億円へ上方修正されました。上期の売上高は1,396億円で、前年同期比25.1%増です。
中期計画と2030年の目標
「tok中期計画2027」の2027年12月期の目標は、2026年2月に次のとおり見直されました。
- 売上高:2,700億円 → 2,950億円
- 営業利益:480億円 → 580億円
- EBITDA:610億円 → 720億円
- ROE:13.0% → 14.0%
見直しの理由は、生成AI関連で製品の販売が想定を上回っていることと、想定より円安が続いていることの2点です。その先の長期ビジョン「tok Vision 2030」では、2030年に売上高3,500億円を掲げています。
計画の3年間(2025〜2027年)で、設備投資760億円、研究開発費520億円を予定しています。前の3年間の実績(設備投資543億円、研究開発費382億円)を大きく上回る規模です。
2026年の主な投資・提携
2026年は、生産拠点の新設と研究開発の提携が続きました(同社ニュースリリースより)。
- 2月:英Irresistible Materials社と、EUVリソグラフィ向けの戦略的投資・共同開発を発表
- 4月:日米企業による次世代半導体パッケージ開発コンソーシアム「US-JOINT」(米カリフォルニア州)が本格稼働。TOKも参加
- 6月:熊本県菊池市の阿蘇くまもとサイトが稼働開始
- 9月:韓国子会社の平澤工場(約120億円、高純度化学薬品)が竣工。2027年上期稼働予定
- 10月:郡山工場の新製造棟(約230億円、EUV用・ArF用を含むフォトレジスト)が竣工。11月稼働予定
郡山の新製造棟の規模や、発表で分かっていない点、EUV用レジストの方式の違いは東京応化の郡山フォトレジスト新製造棟のニュース解説で詳しく整理しています。
国内外の拠点と地域別売上

TOKの売上を地域別に見ると、台湾が全体の約36%で最も大きく、中国、日本、韓国、米国と続きます。世界の主要な半導体の生産地に、ほぼそのまま売上が分布している形です。
売上の大きい地域には、製造か販売の拠点が置かれています。
※バーの長さは連結売上高に占める比率(決算短信の地域別売上から算出)。拠点は同社「海外拠点」ページによる。
国内の研究開発・製造拠点と役割は次のとおりです。
- TOK技術革新センター(神奈川県寒川町):研究開発の拠点。相模工場を含む
- 郡山工場(福島県):KrF用・ArF用レジストと関連する高純度化学薬品
- 宇都宮工場(栃木県):半導体・ディスプレイ用レジストの量産
- 御殿場工場(静岡県):半導体用レジスト、被膜形成用塗布液
- 阿蘇工場・阿蘇くまもとサイト(熊本県):高純度化学薬品
レジストは集めて、薬液は顧客の近くで
中期計画では生産体制を2つの型に分けており、レジストなどの機能材料は「拠点集約型」、高純度化学薬品は「地産地消型」です。
レジストは高度な品質管理が必要で、量も比較的少ないため、大型拠点に集めてつくります。薬液は使う量が多いため、顧客の工場の近くでつくって運ぶ距離を短くする考え方です。
韓国の平澤工場や熊本の阿蘇くまもとサイトは、後者の考え方で建てられた拠点です。購買の立場では、供給元の工場がどこにあるかで、輸送日数や災害時の代替手段が変わる点を押さえておくとよいでしょう。
沿革|水酸化カリウムからフォトレジストへ
TOKの出発点は1936年に東京で発足した東京応化研究所で、最初の製品は、精製した水酸化カリウムでした。
高純度の薬品をつくる技術が、のちのフォトレジストと高純度化学薬品の両事業の土台になっています。中期計画でも、同社のコア技術として「高純度化技術」と「微細加工技術」を挙げています。
薬品の精製から始まり、半導体材料の専業メーカーへと形を変えてきました。
- 1936年東京応化研究所として発足。精製水酸化カリウムの製造を開始
- 1940年東京応化工業株式会社に改組
- 1968年半導体用ネガ型フォトレジスト「OMR-81」の製造を開始
- 1972年国産初の半導体用ポジ型フォトレジストを開発
- 1986年東京証券取引所 市場第二部に上場(1990年に第一部へ)
- 1987年米国にTOKアメリカ社を設立し、海外展開を本格化
- 1997年米オレゴン工場が竣工。海外初の半導体用フォトレジスト工場
- 2023年装置事業をAIメカテックに譲渡し、材料事業に集中
- 2025年独micro resist technologyを完全子会社化
※出典:同社「沿革」ページ、2025年12月期 決算短信。
1960年代にプリント基板用、続いて半導体用のレジストへ進み、1970年代に国産初のポジ型レジストを開発しました。1987年には米国と英国に会社を設け、その後は韓国や台湾にも拠点を広げています。
2023年には、半導体の製造装置を手がけていた装置事業を譲渡しており、装置を手放し、材料に経営資源を集める判断です。
就職・転職、取引先として見たTOK

就職・転職で見る場合
TOKは、研究開発に厚く投資する会社で、2025年12月期の研究開発費は156億円と、売上高の約6.6%にあたります。
材料メーカーの研究開発職は、顧客の工程で評価を重ね、量産に採用されるまで伴走する仕事です。海外売上比率が8割を超えるため、海外の顧客や拠点と関わる場面も多くなります。
国内の勤務地は、川崎の本社、寒川の研究拠点、郡山・宇都宮・御殿場・阿蘇の工場に分かれます。職種ごとの配属先や海外勤務の実態は、採用サイトや説明会で確認するのが確実です。
取引先として見る場合
仕入先として見るなら、品目ごとに供給元の工場と体制を確認することが大切です。公開資料からは、次の点を読み取れます。
- 財務:自己資本比率67.9%(2025年12月期末)
- 生産:レジストは郡山などの集約拠点、薬液は顧客の近くの拠点
- 投資:3年で760億円の設備投資を計画
一方、品目ごとの生産能力や供給の優先順位、品質保証の具体的な手順は公開されていません。個別の取引条件は、商談の場での確認が必要です。
業績は半導体市況や顧客の工場の稼働、為替の影響を受けやすく、2023年は生産調整で減収しました。国内の化学メーカーの中での位置づけは、化学メーカーの売上高ランキングと勢力図で確認できます。
まとめ
- 東京応化工業は、フォトレジストと高純度化学薬品を柱とする半導体材料メーカー
- 2025年12月期は売上高2,370億円・営業利益473億円で過去最高、海外売上比率は84.5%
- 露光の4世代でレジストのシェアを持ち、KrF用は33.3%、EUV用は29.3%(2025年見込み出荷数量ベース、富士キメラ総研調べ)
- レジストは拠点集約型、薬液は地産地消型で、台湾・韓国・米国に製造拠点を持つ
- 2027年に売上高2,950億円を目標とし、3年で760億円の設備投資を計画
TOKのような材料メーカーは、研究開発や購買・調達の仕事と深く関わります。技術テーマとしては半導体製造の記事もあわせてご覧ください。
業界全体の動きは、電子部品・半導体の業種ページにまとめています。
出典
出典・参考資料(13件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 東京応化工業「会社概要」
- 東京応化工業「沿革」
- 東京応化工業「国内拠点」、「海外拠点」
- 東京応化工業「半導体製造前工程」製品紹介(世代別シェア:富士キメラ総研調べ)、「半導体製造後工程」
- 東京応化工業 決算短信・決算説明資料(2025年12月期 決算短信、2026年2月9日)
- 東京応化工業「2025年12月期決算説明会 Q&A要旨」(2026年2月9日)
- 東京応化工業「tok中期計画2027」(2026年2月9日更新版)
- 東京応化工業「業績予想の修正に関するお知らせ」(2026年7月30日)
- 東京応化工業・Irresistible Materials「EUVリソグラフィの進展に向けた戦略的投資および共同開発パートナーシップ」(2026年2月24日)
- 東京応化工業「阿蘇工場 阿蘇くまもとサイトの稼働開始」(2026年6月8日)
- 東京応化工業「US-JOINT本格稼働」(2026年4月21日)
- 東京応化工業「韓国子会社における平澤工場の竣工」(2026年9月15日)
- 東京応化工業「郡山工場における新製造棟の竣工」(2026年10月8日)
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