半導体用高純度リン酸とは|ラサ工業が台湾に188億円の新工場を建てる理由

化学工場に並ぶステンレス製の薬液タンクと配管

半導体の工場には、熱したリン酸の槽にウェーハ(回路をつくる土台になる薄い円板)を浸し、役目を終えた膜を溶かして取り除く工程があります。そこで使う高純度リン酸をつくるラサ工業が、台湾に約188億円を投じて第二工場を建てます。

高純度リン酸は、ウェーハ上の窒化シリコン膜を、酸化膜をほとんど削らずに溶かして取り除くエッチング液です。どちらも回路づくりの途中で使う薄い膜です。

ラサ工業はこの分野で世界トップシェアだとしており、2026年9月30日に新工場の計画を発表しました。

この記事では、まず高純度リン酸が半導体製造のどこで何をしているのか、なぜ「高純度」でなければならないのかを整理します。

そのうえでラサ工業の発表の中身、薬液メーカーが顧客の近くで作る理由と条件、国内の化学・材料メーカーにとっての意味を順に見ていきます。

この記事の内容は、動画でも解説しています。

目次

高純度リン酸は半導体のどの工程で、何を除去するのか

半導体の前工程では、ウェーハの上に薄い膜をつけ、回路の形に削り、汚れを洗い落とす作業を何十回も繰り返します。高純度リン酸が使われるのは、このうち薬液で膜を溶かして取り除くウェットエッチングです。

SCREENの解説では、エッチングは「フッ酸、リン酸などの薬液」で露出した薄膜を腐食させて除去する工程と説明されています。前工程全体の流れは半導体製造の仕組みと基本工程で詳しく整理しているので、ここではリン酸が受け持つ場所に絞って見ます。

図1:熱リン酸による窒化膜の選択エッチング(模式図)

除去したいのは窒化シリコン膜だけ。下の酸化膜はほとんど削らずに残すのが熱リン酸の役割です。

エッチング前熱リン酸で処理した後熱リン酸(160℃前後)窒化膜だけが溶けてなくなるシリコン基板シリコン基板
窒化シリコン膜(除去したい)酸化シリコン膜(残したい)シリコン基板

※実際の構造を大きく簡略化した模式図です。膜の厚さや形状は工程によって異なり、酸化膜もわずかには削られます。

前工程のウェットエッチングで使われる

窒化シリコン膜は、硬くて薬品に強いため、加工の途中で下の層を守るマスクや、絶縁・保護のための膜として使われます。役目を終えた窒化膜を取り除く場面で、熱したリン酸の槽にウェーハを浸して溶かすのが代表的な使い方です。

ラサ工業も決算説明資料で、同社の半導体向け高純度リン酸を「半導体製造(前工程)で、エッチング(ウェットエッチング)に使用される薬液」と位置づけています。ガスやプラズマで削るドライエッチングとは別の、液体で溶かす工程の材料です。

図2:前工程の繰り返しの中での位置づけ

膜をつける、形をつくる、削る、洗う。この流れを何十回も繰り返す中で、リン酸は「削る」の一部を担います。

形をつくる
01成膜酸化膜・窒化膜・金属膜などをウェーハ上につける
02リソグラフィレジストに回路パターンを焼きつける
03ドライエッチングガスやプラズマで、パターンどおりに膜を削る
取り除く・きれいにする
04ウェットエッチング薬液で膜を溶かす。窒化膜の除去に熱リン酸を使う
05洗浄パーティクル・金属汚染・有機物などを薬液で落とす
06次の層へ不純物導入や平坦化を挟み、再び成膜から繰り返す

※工程の順番や回数はデバイスによって異なります。SCREENの工程解説をもとに編集部が簡略化しました。

熱リン酸と「選択比」

ウェットエッチングで大事になるのが選択比です。選択比とは、除去したい膜と残したい膜が、それぞれどれだけの速さで溶けるかの比を指します。窒化膜は速く溶け、酸化膜はほとんど溶けない状態が理想です。

芝浦メカトロニクスの高温リン酸エッチング装置は、リン酸を160℃以上に保ち、液中のシリコン濃度を制御することで高い選択性を得ると説明しています。つまり、使う側では温度・濃度・液の状態を細かく管理して初めて狙いどおりに削れます。

言い換えると、薬液メーカーの品質は「出荷時に純度が高い」だけでは完結しません。顧客の装置の中で、温度を上げ、繰り返し使われる条件で安定して働くことまでが求められます。

ロジックとメモリでの使われ方

ラサ工業は、高純度リン酸を「ロジック半導体やメモリ半導体(NAND・DRAM)などの製造に必要な材料」と説明しています。芝浦メカトロニクスの装置も、先端ロジック向けの窒化膜エッチング装置として紹介されたものです。

メモリでは、3D NANDの存在が大きくなっています。酸化膜と窒化膜を何十層も交互に積み、あとから窒化膜だけを横方向に抜き取る工程があるためです。

Entegrisのホワイトペーパーによると、96層未満までは160℃前後の熱リン酸で処理してきました。一方で96層以上では、工程の余裕を確保するために組成を工夫した専用のエッチング液が必要になるとされています。

AI向けのサーバーやデータセンターで先端ロジックとメモリの需要が伸びれば、こうした工程も増えます。ラサ工業が新工場の理由として生成AIやデータセンターの拡大を挙げているのは、この流れを指しています。

なぜ半導体には「高純度」のリン酸が必要なのか

品質管理ラボの台に並ぶ透明な薬液入りの樹脂ボトル

ウェーハ上の回路は非常に細かいため、薬液にごく微量の金属や微粒子が混じっているだけで、電気特性の不良や欠陥の原因になります。半導体用のリン酸に求められるのは、リン酸そのものの濃さではなく、余計なものがどれだけ入っていないかです。

ここで混同しやすいのが「含量」と「純度」です。含量はリン酸が液中に何%含まれるかで、工業用でも85%前後の製品が一般的です。一方、半導体用で厳しく問われるのは、鉄やナトリウムなどの金属不純物と、パーティクル(微粒子)の数です。

工業用と電子工業用で何が違うのか

ラサ工業が公開している工業用リン酸の規格では、鉄は5ppm以下、ヒ素は0.5ppm以下と、不純物を100万分の1(ppm)の単位で管理しています。食品添加物や金属表面処理、リン酸塩の原料としては、これで十分な品質です。

電子工業用では管理の単位も項目も変わります。燐化学工業は、乾式法でつくった電子工業用の「ELリン酸」と、微粒子を減らした最高グレード「EL-Sリン酸」を電子材料エッチング用として示しています。

EL-Sでは0.2µm以上の粒子が1mlあたり200個以下といった、粒子の数そのものが規格になっているのが特徴です。

図3:工業用リン酸と半導体用高純度リン酸の違い

同じH₃PO₄でも、見られている項目と管理の細かさが大きく異なります。

工業用・食品用
半導体用(電子工業用)
主な用途
リン酸塩の原料、金属表面処理、アルミの化学研磨、食品添加物など
前工程のウェットエッチング(窒化膜の除去)
含量
75%・85%・89%などの品種
含量の管理に加え、ばらつきの小ささが重視される
金属不純物
ppm(100万分の1)単位。例:鉄5ppm以下
さらに低い水準で、元素ごとに管理
パーティクル
規格項目にないことが多い
粒径ごとの個数を規格化(例:0.2µm以上200個/ml以下)
品質の確認先
規格書と出荷検査
出荷検査に加え、顧客の工程での評価・認定

※数値はラサ工業(工業用)と燐化学工業(EL-S)が公開している個別製品の規格例で、業界共通の基準ではありません。

参考までに、三菱ガス化学は半導体業界のロードマップ(IRDS)を紹介しています。そこでは、別の薬液である過酸化水素について、金属不純物を元素ごとに1兆分の1(ppt)の単位で求める例が示されています。

リン酸の規格そのものではありませんが、半導体用薬液に求められる管理の細かさを知る手がかりになります。

なぜ製法が問われるのか

リン酸の製法には、黄リンを燃やして五酸化リンをつくり、それを水と反応させる乾式法と、リン鉱石を硫酸などで分解する湿式法があります。ラサ工業は黄リンを経由する乾式法で製造していると説明しています。

燐化学工業も、電子工業用の高純度品を「不純物が少ない乾式法」でつくると説明しています。原料の段階から不純物を持ち込みにくい製法を選び、そのうえで精製・ろ過・充填・分析を重ねて品質をつくり込むのが、高純度品のメーカーに共通する考え方です。

ラサ工業の台湾新工場、発表の要点

ラサ工業は1913年創業の化学メーカーで、リン酸などの化成品、化合物半導体向けの高純度無機素材、破砕機などの機械を手がけています。

一般には知名度が高くないものの、半導体向け高純度リン酸ではグローバルトップシェアを持つと説明しています。同社は、世界シェアを握る日本のニッチトップ企業の典型的な例といえます。

2026年3月期の連結売上高は477億円で、そのうち高純度リン酸が168億円と約35%を占めます。会社全体の3分の1を支える主力製品の増産投資が、今回の発表です。

図4:台湾第二工場の発表を数字で見る

2026年4月に既存工場の増強が稼働したばかりで、続けて新しい工場の建設に進みます。

総投資額約188億円約38億台湾ドル
敷地面積約17,200㎡土地は賃借
竣工予定2028年度現工場と同じ工業団地内
子会社の売上5年で約2.1倍2020年→2025年の12月期
台湾子会社(理盛精密科技)での投資の段階
STEP 1既存工場の増強約30億円。台湾の生産能力を4割増やし、2026年4月に稼働
STEP 2第二工場の建設約188億円。製造・出荷の自動化にも取り組み、2028年度に竣工予定
未公表能力・稼働時期新工場の生産能力や、顧客の認定を経た供給開始の時期は示されていない

※ラサ工業の適時開示(2026年9月30日)と2026年3月期決算説明資料をもとに作成。円換算は1台湾ドル=4.94円。

台中港の工業団地に第二工場

新工場を建てるのは、ラサ工業が100%出資する台湾子会社の理盛精密科技です。2003年に設立され、台中市の臺中港科技産業園区で半導体用高純度リン酸を製造販売しています。

第二工場は第一工場と同じ工業団地内に建て、資金は自己資金と借入金でまかないます。

子会社の売上高は、2020年12月期の12億3,200万台湾ドルから、2025年12月期には25億9,200万台湾ドルに伸びました。会社は、台湾国内の高純度リン酸市場で確固たる地位を築いたとしています。

会社が挙げた理由

発表文で確認できる理由は3つです。台湾が先端ロジックを中心とする世界有数の半導体生産拠点であること、生成AIやデータセンターの拡大で半導体の需要拡大が見込まれること、そして台湾でも高純度リン酸の増産ニーズが一段と強まっていることです。

なお、売上の伸びは価格や製品構成の影響も含むため、そのまま需要量の伸びとは読めません。また、2027年3月期の業績への影響は軽微とされており、新工場が業績に効いてくるのは竣工後の話です。

なぜ薬液メーカーは顧客の近くで作るのか

港のコンテナヤードに並ぶ液体輸送用のタンクコンテナ

日本で作って台湾へ輸出するのではなく、台湾で作って台湾で売る。ラサ工業は決算説明資料で、品質面の強みに加えて日本・台湾・韓国で現地生産・現地販売していることを自社の強みに挙げています。

同社の高純度リン酸は、日本の大阪工場、台湾の連結子会社、韓国の合弁会社(持分法適用)の3拠点で作られています。さらに韓国合弁会社が米国に新工場を建てており、2027年には米国を加えた4か国の生産体制になる計画です。

図5:ラサ工業グループの高純度リン酸の生産拠点と主な供給先

半導体メーカーが集まる地域ごとに工場を置き、その地域の顧客に届ける形です。

生産拠点
主な供給先
日本
大阪工場
日本の半導体メーカー、日本で生産する台湾系・米国系メーカー
台湾
台湾子会社(2026年4月に能力4割増、2028年度に第二工場)
台湾メーカー、台湾で生産する米国系メーカー
韓国
韓国合弁会社(持分法適用会社)
韓国メーカー
米国
韓国合弁会社の米国新工場(2027年前半完工予定)
北米で生産する台湾系・韓国系・米国メーカー

※ラサ工業 2026年3月期決算説明資料の「半導体向け高純度リン酸の供給体制」をもとに作成。資料では中国で生産する中国・韓国系・台湾系メーカーも供給先として示されています。

では、なぜ顧客の近くで作るのか。ラサ工業の発表文は需要拡大への対応を理由に挙げていますが、立地そのものの理由までは詳しく書いていません。そこで、同じ半導体用薬液を手がける三菱ガス化学の説明を見てみます。

三菱ガス化学は、超純過酸化水素で世界シェア約5割としています。同社が事業説明会資料で強みに挙げるのは、「顧客の要求に素早く対応でき、かつ物流コストを抑えられる消費立地体制」です。

顧客の増強計画に合わせて増産投資を進めてきたこと、顧客の近くにいることで早くフィードバックを受け、新製品の開発につなげていることも説明しています。

半導体工場の集積地に材料・装置メーカーが拠点を構える動きは、日本国内でもTSMC熊本工場の周辺で見られます。顧客の工場が増えれば、その近くで供給力を持つことが受注の条件に近づいていきます。

現地生産を選ぶ条件と限界

ここからは一般論として、現地生産の利点と、判断の前に確かめるべき条件を整理します。利点だけを並べると、どの製品でも海外に出るべきという結論になりがちだからです。

液体の薬液は量が多く重いうえ、リン酸は一般的な85%品で比重が約1.7あります。顧客の工場の近くで作れば、輸送距離と在庫を持つ日数を短くでき、急な増産や仕様変更にも動きやすくなります。

一方で、海外に工場を持てば、設備投資と現地での品質保証体制、顧客ごとの認定のやり直しが必要です。

図6:薬液の現地生産を判断するときの論点

期待できる効果と、事前に確かめるべき条件を対で見ると、自社に当てはめやすくなります。

期待できる効果
  • 輸送距離が短くなり、物流コストと輸送中のリスクを抑えやすい
  • 顧客の増産・新ラインの立ち上げに合わせて供給量を増やしやすい
  • 在庫の持ち方や納期の調整を、顧客と近い距離で決められる
  • 顧客の工程での評価結果を早く受け取り、改良や新製品に生かせる
  • 拠点が複数あれば、災害や物流の混乱に対する備えになる
確かめるべき条件
  • 工場を回すだけの需要量が、その地域で中長期に見込めるか
  • 新しい工場の製品を、顧客が改めて評価・認定してくれるか
  • 原料の調達と、高純度品を分析できる体制を現地で持てるか
  • 国内と同じ品質を出せる人材と、立ち上げ期間を確保できるか
  • 市況が落ちたときに、設備と借入の負担に耐えられるか

※一般的な論点を編集部が整理したものです。ラサ工業が今回の判断で挙げた項目ではありません。

特に半導体材料では、顧客の認定に時間がかかります。工場を建てたあとも、試作品を出し、顧客の工程で評価され、正式に採用されるまでに段階があるため、竣工と売上計上の間には時間差があると見ておく必要があります。

また、ラサ工業の場合は「同じ台湾での増設」と「米国という新しい地域への進出」が別々に進んでいます。前者は伸びている顧客への供給力の拡大で、後者は米国の関税やサプライチェーン再編で半導体生産が分散する流れへの対応と読むのが自然です。

他の薬液メーカーにも見られる消費地生産

台湾で供給力を強める日本の化学メーカーはラサ工業だけではありません。増設、既存工場の保有、買収と形はさまざまですが、いずれも半導体工場の集まる台湾に生産や供給の拠点を置いています。

図7:台湾で供給力を持つ日本の半導体用薬液メーカーの例

扱う薬液も、投資の形も異なります。共通するのは、顧客の近くに拠点を置くことです。

薬液
台湾での動き
時期
ラサ工業
高純度リン酸(窒化膜のエッチング)
台中の子会社で第二工場を建設
2026年9月発表、2028年度竣工予定
トクヤマ
高純度IPA(洗浄・乾燥)
高雄の子会社FTACで第2プラント、年3万トン
2026年5月発表、2028年9月営業運転開始予定
三菱ガス化学
超純過酸化水素(洗浄)
台湾に超純過酸化水素工場を保有
2024年10月の説明資料時点
住友化学
半導体用プロセスケミカル(洗浄薬品など)
台湾のAUECC社(台北市)の全株式取得で合意
2025年11月発表

※薬液の種類も用途も異なるため、生産量や投資額を単純に比べることはできません。各社の発表・資料・報道をもとに作成。

トクヤマは高純度IPAの第2プラント建設の理由として、微細化・積層化で品質と安定供給への顧客の要求が一層高まっていることを挙げました。

求められる品質が上がるほど、顧客と近い距離で供給と改良を回す価値も上がるという構図は、薬液の種類を問わず共通しています。

国内メーカーは、海外生産と国内拠点の役割をどう考えるか

分析ラボのドラフト内で液体を扱う技術者の後ろ姿

台湾や米国で生産が増えると、国内の化学・材料メーカーにとっては「国内工場の役割は何か」という問いが避けられなくなります。ラサ工業の数字を見ると、半導体向けの比重がこの数年で大きく変わってきたことが分かります。

図8:ラサ工業の半導体関連向け売上高と比率の推移

半導体関連向けの売上は6年で約2倍になり、連結売上の半分を超えました。23年3月期から24年3月期にかけての落ち込みは、市況の波の大きさも示しています。

117億
131億
159億
243億
196億
226億
244億
20/3期39.5%21/3期45.3%22/3期45.0%23/3期49.1%24/3期45.8%25/3期49.8%26/3期51.1%

※棒は半導体関連向け売上高(億円、四捨五入)、下段の%は連結売上高に占める比率。半導体関連には高純度リン酸のほか、コンデンサー向け原料、エッチング用途向け凝集剤、化合物半導体向け高純度無機素材を含む。出所:ラサ工業 2026年3月期決算説明資料。

リン酸のような基礎化学品は、かつては国内の幅広い産業に向けて作るものでした。それが今では、特定の産業の、特定の工程に向けた高付加価値品が会社の稼ぎ頭になっています。化学業界の構造で見ると、汎用品から機能性材料へ軸足を移す動きの一つの形です。

国内に何を残すかという問い

ラサ工業の大阪工場は、今も日本の半導体メーカーや、日本で生産する海外系メーカーへの供給を担っています。一方で、生産量の伸びは台湾や米国が受け持つ形です。国内メーカーが自社に当てはめるなら、次のような問いに分けて考えると整理しやすくなります。

  • 高純度化の技術や分析のノウハウを、どの拠点で磨き続けるのか
  • 海外の新工場の立ち上げと品質保証を、誰がどう支えるのか
  • 国内の顧客向けの供給を、どの規模で維持するのか
  • 新しい製品や次の世代の薬液を、どの拠点で顧客と一緒に評価するのか

答えは会社や製品によって異なりますが、生産量だけで国内と海外の役割を決めないことが共通の出発点になります。

リサイクルという国内の打ち手

国内での取り組みとして注目したいのが、使用済みの高純度リン酸のリサイクルです。

ラサ工業の計画は、経済安全保障推進法に基づく半導体の供給確保計画として2023年7月に経済産業省の認定を受けています。リサイクル技術を確立して供給を安定させることが目標です。

使い終わった液を回収して再び高純度品に戻せれば、原料の調達に左右されにくい供給源を国内に持てるうえ、顧客にとっても廃液処理の負担を減らせる提案になり得ます。

ラサ工業も中期経営計画で、高純度リン酸のリサイクル実用化を新規事業の創出に向けた施策として挙げています。

市況の波と集中のリスク

一方で、図8のとおり半導体関連の売上は市況に連動して上下します。半導体向けの比率が高まるほど、半導体の調整局面で業績が振れやすくなる点には注意が必要です。特定の地域や特定の顧客に供給が偏れば、その影響はさらに大きくなります。

台湾での増設と米国での新工場を並行して進めるのは、伸びる需要を取りにいくと同時に、供給先と生産地を分散させる意味も持ちます。国内の材料メーカーが海外展開を考えるときも、どこで伸ばすかと、どこに偏らないかを同時に考えることが求められます。

働く人の視点では、海外工場の立ち上げ、品質保証、顧客の工程に入り込む技術営業など、国内と海外をつなぐ仕事の重みが増していく可能性があります。

化学系の職種を考えている方は、志望先の海外拠点の数と役割を決算資料で確かめておくと、入社後の働き方を具体的に想像しやすくなります。

まとめ

この記事のまとめ
  • 半導体用高純度リン酸は、前工程のウェットエッチングで窒化シリコン膜を選択的に除去する薬液
  • 160℃前後の熱リン酸で、温度や液中のシリコン濃度を管理しながら使われる
  • 半導体用では含量よりも、金属不純物とパーティクルの少なさが厳しく問われる
  • ラサ工業は台湾子会社に約188億円で第二工場を建設し、2028年度の竣工を予定
  • 薬液メーカーの現地生産は、顧客への即応と物流の効率化が狙い。需要量や認定、品質保証体制が判断の条件になる

高純度リン酸は目立たない材料ですが、AI向け半導体の増産が進むほど、その供給体制は半導体工場の立ち上げと一体で動くようになります。

国内の動きとしては、ラピダスの2nm量産と国内サプライヤーへの影響もあわせて読むと、材料メーカーに求められる役割が見えてきます。

化学メーカー各社の得意分野や再編の動きについては、化学業界の主要企業と勢力図で整理しています。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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