全固体電池は、液系のリチウムイオン電池で使う電解液の代わりに、固体の電解質をリチウムイオンの通り道にする電池です。電池が動く原理は同じでも、つくり方は大きく変わります。
液を注ぐ工程がなくなる代わりに、粉を強く押し固める工程や、空気中の水分を極限まで抜いた部屋が必要になります。工程・設備・材料のそれぞれで、残るもの、なくなるもの、新しく要るものがはっきり分かれます。
この記事では、全固体電池と液系のリチウムイオン電池の違いを、基本の仕組み、製造工程、設備、材料の順に見ていきます。続いて、各社の量産計画、残る課題、取引先メーカーが準備しておきたいことを整理します。
全固体電池とリチウムイオン電池の違い
いま広く使われているリチウムイオン電池(以下、液系LIB)は、正極と負極のあいだを電解液で満たしています。そのなかをリチウムイオンが行き来することで、充電と放電をします。
正極と負極が触れてショートしないよう、間には薄い樹脂膜のセパレータを挟みます。
全固体電池は、この電解液とセパレータの役割を、固体の電解質がまとめて担う電池です。正式には「全固体リチウムイオン二次電池」と呼ばれ、リチウムイオンが正負極を行き来するという基本の原理は液系LIBと変わりません。
原理は同じで、イオンの通り道を液体にするか固体にするかが違います。
※全固体電池の長所は、出光興産・トヨタ自動車の発表資料で示されている内容をもとにしています。
イオンの通り道が液体か固体か
液系LIBでは、電極の粒子のすき間に電解液が染み込むので、イオンの通り道は自然にできあがります。全固体電池ではそうはいきません。固体の粒子どうしがしっかり接していないと、イオンはそこで止まってしまいます。
トヨタ自動車は出光興産との協業発表のなかで、全固体電池の長年の課題を「充放電を繰り返すと正負極と固体電解質の間に亀裂が生じ、性能が落ちること」と説明しています。
液なら隙間を勝手に埋めてくれますが、固体ではそれが起きません。この一点が、のちに見る工程・設備・材料の違いのほとんどにつながっています。
固体電解質は3つの系統に分かれる
固体電解質は、主に硫化物系、酸化物系、高分子(樹脂)系の3つに分かれます。どの系統を選ぶかで、つくり方も向いている用途も大きく変わります。
車載で先行しているのは硫化物系、小型電子部品では酸化物系の製品化が進んでいます。
※特徴はダイキン化成品販売の技術コラムの整理をもとにしています。各社の採用系統は公式発表・製品情報によります。
硫化物系は柔らかく密着しやすいことから、トヨタは「量産しやすい」材料として位置づけています。一方の酸化物系は、粉をシート状にして重ね、焼き固めるという点で、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の製造工程とよく似た考え方でつくられます。
酸化物系の固体電解質は、アルミナやジルコニアと同じくファインセラミックスの仲間といえる材料です。そのためセラミック部品メーカーの焼成・積層技術が活きやすい分野でもあります。
製造工程の違い|残る工程・なくなる工程・加わる工程
液系LIBの製造は、大きく電極工程、組立工程、化成・検査工程の3つに分かれます。
リチウムイオン電池材料の評価機関であるLIBTECは、液系LIBの製造の流れを次のように説明しています。スラリー調製から塗工・乾燥・プレス・スリットまでが電極作製、捲回して容器に収め、注液するまでが組立です。
全固体電池でも、この骨格は大きくは変わりません。ホンダが栃木県さくら市に建てたパイロットラインも、液系LIBの製造プロセスをベースにしながら、全固体特有の工程を加える考え方をとっています。
違いが出るのは、どの工程がなくなり、どこに何が加わるかです。
骨格は共通。注液とガス抜きが消え、固体電解質層の形成と高い加圧が加わります。
※一般的な流れを示したもので、固体電解質層を電極に塗るか、別のシートを転写するかなど、具体的な手順は各社で異なり公開されていない部分も多くあります。
電極工程:混練・塗工・乾燥は残るが、中身が変わる
電極は、活物質(電気をためる主役の粒子)や導電助剤、バインダ(接着剤)を混ぜてペースト状にし、金属箔に塗って乾かす、という流れで作ります。この基本は全固体電池でも同じで、ホンダのラインも秤量・混練から塗工、ロールプレスまでを備えています。
変わるのは中身です。全固体電池の電極には、活物質のまわりにイオンの通り道を確保するため固体電解質の粉そのものを混ぜ込みます。
硫化物系の固体電解質は水分に弱いという性質があります。そのため、液系LIBの正極で一般的なNMP(N-メチル-2-ピロリドン)などの溶媒やバインダの組み合わせも、そのままでは使えない場合があります。
固体電解質層の形成とプレス:最大の違い
液系LIBでは、正極と負極の間はセパレータを挟んで電解液を入れるだけでした。全固体電池では、その場所に固体電解質の層を、隙間なく緻密につくる必要があります。ここが液系LIBにはない、もっとも大きな追加工程です。
粉を塗っただけの層は、粒子どうしの間に空隙が残ります。そのため電極と電解質層を重ねたうえで、強い圧力をかけて押し固め、粒子と粒子、層と層を密着させます。
ホンダは、この緻密化を連続で加工できるロールプレス方式を採用し、電極界面の密着性と生産性の両立を狙うと説明しています。
液系LIBのロールプレスは、塗った電極の厚みと密度をそろえる「圧延」が目的でした。全固体電池では、それに加えてイオンの通り道そのものをプレスでつくる役割を担います。
同じプレスでも、求められる圧力や均一さの水準が一段上がると考えてよいでしょう。
組立工程:注液がなくなり、積層が中心に
液系LIBでは、帯状の電極をセパレータと一緒に巻き取る捲回方式が広く使われてきました。全固体電池では、固体電解質の層が割れたり剥がれたりしないよう、平らなシートを重ねる積層方式が中心になると見られています。
そしてもう一つ、電解液を注いで封止する注液工程がまるごとなくなります。注液装置や、液が電極に染み込むのを待つ時間、注液口の封止といった液系LIB特有の工程は不要になります。
化成・検査:拘束した状態で仕上げる
液系LIBの化成工程では、組み立てた電池に初めて電流を流して活性化させ、一定期間置いてから内部に発生したガスを抜きます。LIBTECの説明でも、注液した電池を一定時間エージングしてから充放電し、容量や抵抗、厚みなどを検査するとしています。
全固体電池でも化成と検査は残ります。ホンダのパイロットラインも化成工程を備えています。
ただし、全固体電池は使用中も外から圧力をかけ続ける「拘束」が必要になることが多く、化成や検査も拘束した状態を前提に組み立てることになります。
電解液の分解によるガスを抜く工程が軽くなる可能性がある一方、圧力を保つ治具や構造が新しく加わります。
必要な設備はどう変わるか

工程の違いは、そのまま設備投資の違いになります。装置メーカーや工場エンジニアリング会社にとっては、どの設備が不要になり、どこの仕様が上がり、何が新しく要るのかが最大の関心事でしょう。
設備の多くは液系LIBの延長線上にあり、変わるのは「環境」と「圧力」です。
※露点の値はヴァイサラ(液系LIB)とダイキン化成品販売のコラム(硫化物系)の記載によります。実際の管理値は工程や企業によって異なります。
ドライルームは露点-40℃級から-60℃級へ
液系LIBの工場でも、水分は大敵です。計測機器メーカーのヴァイサラによると、電池製造用ドライルームの一般的な露点は約-40℃で、-70℃まで下げる場合もあります。水分は電極材料や電解液を劣化させ、安全性や歩留まりを下げるからです。
硫化物系の全固体電池では、これがさらに厳しくなります。硫化物系の固体電解質は空気中の水分と反応して有毒な硫化水素を出し、性能も落ちます。
そのため材料の製造から電池の加工まで、露点-60℃程度の高レベルなドライルームが必要とされ、初期投資とランニングコストの大きな負担になっています。
ホンダが量産コストを下げる工夫の一つとして「低露点環境を最小化する」ことを挙げているのは、このためです。部屋全体を乾かすのではなく、乾燥が必要な範囲を装置まわりに絞り込めるかどうかが、工場の建設費と電気代を左右するポイントになります。
プレス機は「圧延」から「緻密化」へ
プレスは、全固体電池の性能と量産性をもっとも左右する設備です。研究段階では、粉を型に入れて上下から押し固めるバッチ式のプレスがよく使われますが、これでは大量生産に向きません。
ホンダがロールプレス方式を選んだのは、連続加工できる点を重視したためです。広い面積に均一な圧力をかけ、割れやむらを出さずに流し続けられるかは、生産技術の腕の見せどころになります。
注液機がなくなり、拘束の仕組みが要る
注液装置が不要になるのは、設備面での分かりやすいメリットです。その代わり、全固体電池は使っている間も固体どうしの接触を保つため、セルを外から押さえる「拘束」が必要になることが多くあります。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトでも、全固体電池の本質的な課題として耐久性と並んで拘束圧が挙げられています。
同プロジェクトの標準電池モデルは20MPaの拘束圧で評価されており、さらに低い拘束圧で動く電池が研究の目標になっています。拘束が軽くなるほど、パックの重量やコストは下がります。
材料はどこが変わるか

材料メーカーにとっては、自社の製品が全固体電池でも使われるのかどうかが一番の関心事です。部材ごとに見ると、なくなるもの、形を変えて残るもの、新しく生まれるものに分かれます。
電解液とセパレータが固体電解質に置き換わり、正極材は表面の作り込みが重要になります。
※全固体電池の材料構成は各社で異なり、開発途上のものを含みます。
電解液とセパレータは固体電解質に置き換わる
全固体電池が広がるほど影響を受けるのは、電解液とセパレータのメーカーです。代わりに新しく生まれるのが、固体電解質と、その原料の市場です。
出光興産は、石油製品の製造過程で出る硫黄成分を原料に、硫化物系固体電解質の開発を進めてきました。
2026年1月29日には、千葉事業所(千葉県市原市)に年間数百トン規模を見込む固体電解質の大型パイロット装置の建設を始めたと発表しています。
中間原料である硫化リチウムの大型製造装置も、2027年6月の完工に向けて進んでいます。石油会社が電池材料の供給元になるという点で、化学業界のサプライチェーンにも新しい流れが生まれています。
正極材は「表面の作り込み」が勝負に
正極の活物質そのものは、液系LIBと同じ系統の材料が使われることが多いとされます。ただし固体電解質と直接触れるため、界面で反応が起きたり、充放電による膨張・収縮で接触が切れたりしやすくなります。
住友金属鉱山とトヨタは2025年10月、全固体電池向け正極材の量産に向けた共同開発を発表しました。粉体の合成技術や表面コートで、耐久性の課題に正極材の側から手を打つという取り組みです。
材料の組成や粒子構造をどう設計するかという材料技術の基本が、そのまま競争力になります。

量産はいつ?各社の計画(公式発表ベース)
全固体電池は「いつか来る技術」と言われ続けてきましたが、小型品ではすでに量産が始まっており、車載向けも具体的な時期と設備が見えてきました。
日経クロステックは2025年8月、2026年の量産を計画するメーカーも複数社出てきていると報じています。ここでは、各社が公式に発表している内容を時系列で並べます。
小型品は量産済み。車載向けは2027〜28年に集中しています。
※各社の発表時点の計画であり、時期は変わる可能性があります。ホンダは2020年代後半に投入する電動モデルへの搭載を目指すとしています。
車載向け:2027〜28年に集中
車載向けで最も具体的なのは、トヨタと出光興産の組み合わせです。両社は2023年10月に協業を発表し、2027〜28年の全固体電池搭載BEVの実用化を目指すとしています。
トヨタの全固体電池の開発・生産計画は、2024年9月に経済産業省の「蓄電池に係る供給確保計画」として認定されました。
日産は2022年4月の時点で、2028年度に自社開発の全固体電池を搭載したEVを投入する計画と、横浜工場でのパイロットライン構想を公表しています。
電池パックのコストを2028年度に1kWhあたり75ドル、将来的には65ドルまで下げる目標も掲げました。
ホンダは約430億円を投じたパイロットラインで、量産時と同じ流れで工程を検証できる体制を整えています。
小型向け:すでに製品として出荷
車載より先に、小型の全固体電池はすでに製品として出回る段階にあります。
マクセルは2023年6月に硫化物系の小型全固体電池の量産品出荷を始め、高温になる工場設備やロボット、PLCのバックアップ電源などへ用途を広げてきました。
2030年度には全固体電池で売上高300億円を目指すとしています。
TDKは酸化物系の「CeraCharge」を手がけています。2024年には、従来品の約100倍となる1000Wh/Lのエネルギー密度を実現する材料を開発したと発表しました。
小型品は容量こそ小さいものの、高温に強く液漏れがないという全固体の長所が、そのまま価値になる分野です。
量産に向けて残る課題
計画が具体的になってきた一方で、液系LIBの量産規模やコストに追いつくには、まだ越えるべき壁があります。主なものは次の4つです。
いずれも「固体どうしをどう密着させ続けるか」と「その環境をいくらで用意するか」に行き着きます。
※課題の整理は、トヨタ・出光の協業発表、NEDOのプロジェクト資料、ダイキン化成品販売のコラムなどをもとにしています。
NEDOのプロジェクトは、EVで30万km走ったのに相当する充放電のあとでも容量の70%以上を保つことを目標に掲げています。言い換えると、実験室で性能が出ることと、クルマの寿命まで性能を保つことの間には、まだ距離があります。
コストの面でも、液系LIBは長年の量産で装置も材料も価格が下がってきました。液系LIB自体も改良が続いているため、全固体電池がすぐに置き換えるというより、しばらくは両方が併存すると考えておくのが現実的です。
部品・装置・材料メーカーは何を準備すべきか

ここまでの違いを、取引先として電池産業に関わる立場から整理します。自社の製品が「なくなる側」なのか「仕様が上がる側」なのか「新しく要る側」なのかで、打つべき手は変わります。
全固体電池の影響は、立場によって「機会」にも「代替リスク」にもなります。
※一般的な観点の整理です。実際の要求仕様は電池メーカーごとに異なります。
装置メーカーにとって追い風になりやすいのは、プレス、ドライルーム、積層、検査の領域です。
液系LIBで使ってきた技術の延長で参入できる部分も多くあります。ホンダのように液系LIBのプロセスをベースに工程を組むメーカーがあることは、既存の装置メーカーにとって入り口になります。
一方で、電解液やセパレータのように全固体では使われない部材を扱う企業は、液系LIBの需要がどこまで続くかを冷静に見ておく必要があります。
液系LIBは当面も主力として改良が続くと考えられ、急に需要が消えるわけではありません。製造業全体の設備投資計画の動きとあわせて、電池関連の投資がどこに向かっているかを追っておくと判断材料になります。
まとめ
- 全固体電池は、液系LIBの電解液とセパレータの役割を固体電解質が担う電池で、動作原理は同じ
- 製造工程の骨格は共通だが、注液がなくなり、固体電解質層の形成と高い加圧による緻密化が加わる
- 設備では、硫化物系で露点-60℃程度のドライ環境、緻密化のためのプレス、拘束の仕組みが重くなる
- 材料では、電解液・セパレータが固体電解質に置き換わり、正極材の表面コートなど界面技術が鍵になる
- 小型品は量産済みで、車載向けはトヨタ・出光が2027〜28年、日産が2028年度の実用化を目指している
全固体電池は、電池メーカーだけでなく、装置・材料・設備の幅広い企業に影響が及ぶ技術です。完成車とサプライヤーの関係から全体像をつかみたい方は自動車業界の構造もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(15件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 液系LIBの製造工程:LIBTEC「電池製造プロセス」
- 液系LIBの製造工程と化成:日機装 BRIGHT「EV向けリチウムイオン電池の製造工程」
- ドライルームの露点(液系LIB):ヴァイサラ「バッテリ製造」
- 固体電解質の系統と製造環境:ダイキン化成品販売 連載コラム「電池材料:固体電池」
- 全固体電池の課題と拘束圧:NEDO「次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発」プロジェクトの概要(2025年6月6日)
- トヨタ・出光の協業:トヨタ自動車「出光とトヨタ、バッテリーEV用全固体電池の量産実現に向けた協業を開始」(2023年10月12日)
- 固体電解質の大型パイロット装置:出光興産 ニュースリリース(2026年1月29日)
- トヨタの供給確保計画認定:Car Watch(2024年9月6日)
- 正極材の共同開発:MONOist「トヨタのEVに載る全固体電池用正極材、強みとは」
- ホンダのパイロットライン:本田技研工業「栃木県さくら市にある全固体電池のパイロットラインを初公開」(2024年11月21日)
- 日産の全固体電池計画:日産自動車「全固体電池の試作生産設備を公開」(2022年4月8日)
- Samsung SDIの量産目標:Korea JoongAng Daily
- マクセルの全固体電池:マクセル「全固体電池」製品情報、マクセル「MEX26の成長戦略の取り組みポイント|新事業」、ニュースイッチ(2026年3月)
- TDKの酸化物系全固体電池:EE Times Japan(2024年9月4日)
- 2026年の量産計画に関する報道:日経クロステック「EV向け全固体電池、2026年登場か」(2025年8月25日)
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