製造原価とは、製品をつくるために工場で使った材料・人・設備などの費用を、製品ごとに集めたものです。中身は、材料費、人の働きにかかる労務費、それ以外の経費の3つです。
この3つは、製品に直接ひも付くものと、工場全体で共通にかかるものに分けて積み上げます。共通費をどの製品にどれだけ負担させるかという「配賦」の考え方しだいで、同じ製品の原価が大きく変わることもあります。
この記事では、製造原価の内訳と分け方、1個あたりの原価を出すまでの計算の流れを整理します。そのうえで、標準原価と実際原価の差(原価差異)を現場の改善や価格交渉にどう使うかまでを、順に見ていきます。
製造原価とは(販売価格までの積み上げ)
製造原価とは、製品をつくるために工場で消費した材料・人・設備などの費用を、製品単位に集めたものです。式で表すと「製造原価=材料費+労務費+経費」、あるいは「製造原価=直接費+製造間接費」になります。
製造原価に、営業や物流にかかる販売費と、本社部門にかかる一般管理費を加えたものが総原価です。総原価に利益を乗せたものが販売価格の考え方の土台になります。
日本の原価計算の実務は、1962年に企業会計審議会が公表した「原価計算基準」を拠り所にしています。この基準では、製造原価を製品原価、販売費および一般管理費を期間原価として扱い、製品に集めるのは製造原価までと整理しています。
製品に集めるのは製造原価まで。販管費と利益は、その上に積み重なります。
※販売費・一般管理費は、原価計算基準では期間原価として扱い、製品原価には含めません。
もう一つ押さえておきたいのが、原価に含めないもの(非原価項目)です。原価計算基準では、支払利息などの財務費用、長期休止設備の減価償却費、火災や震災による損失、異常な仕損や減損などを原価に入れないとしています。
裏を返せば、通常の範囲で起きる不良や材料ロスは原価に含まれます。どこまでを「通常」とみなすかは会社ごとの基準しだいで、この線引きが後で説明する標準原価の設定にも関わってきます。
製造原価の内訳:材料費・労務費・経費

製造原価の基本となる分け方は、お金が何に使われたかという「形態別分類」です。財務会計の勘定科目と対応しているため、経理から受け取る数字をそのまま原価計算の出発点にできます。
3つの要素は、それぞれ製品に直接ひも付く直接費と、複数の製品に共通してかかる間接費に分かれます。直接費は製品ごとにそのまま集計でき、間接費は何らかの基準で製品に割り振ります。
同じ材料費や労務費でも、製品との結び付き方で直接費と間接費に分かれます。
※原価計算基準の費目別計算の例示をもとに作成。実務では、製品別に測れるかどうかで直接費にする範囲を会社ごとに決めます。
材料費
材料費は、物品の消費によって生じる原価です。原価計算基準では、素材費(原料費)、買入部品費、燃料費、工場消耗品費、消耗工具器具備品費に細分しています。
製品1個に何kg使ったか、何個組み付けたかが分かる素材や部品は直接材料費です。一方、切削油やウエス、ドリルやエンドミルのような工具は複数の製品に共通して使うため、間接材料費として製造間接費に入るのが一般的です。
材料費は「使った量×単価」で決まるため、単価は購買、使用量は設計と製造が主に動かせる、という役割分担が見えやすい費目です。購買部門の仕事の範囲は購買・調達の仕事内容で詳しく整理しています。
労務費
労務費は、人の労働の消費によって生じる原価です。賃金(基本給と割増賃金)、給料、雑給、従業員賞与手当、退職給与引当金繰入額、健康保険料の会社負担などの福利費が含まれます。
直接労務費になるのは、作業者が特定の製品の加工や組立に従事した時間の分です。
手待ちや運搬、監督者の給料などは間接労務費として扱われます。そのため、作業日報で「何の製品に何分」を記録できているかが、労務費を製品別に正しく集計できるかどうかを左右します。
経費
経費は、材料費と労務費以外のすべての原価です。設備の減価償却費、修繕料、電力料、工場建屋の賃借料、旅費交通費などがあり、装置産業ほど経費の比重が高くなります。
外注先に加工を依頼した費用(外注加工費)は、製品ごとに金額が分かるため直接経費とするのが一般的です。それ以外の経費の多くは製造間接費になり、次に説明する配賦の対象になります。
原価の4つの分け方と使い道
原価計算基準は、製造原価の分け方として4つの切り口を示しています。どの切り口で見るかは、何に使いたいかで変わります。財務諸表をつくるなら形態別、製品の採算を見るなら直接費と間接費、受注判断なら固定費と変動費、というイメージです。
同じ原価を、目的に応じて違う角度から分けて使います。
※電力料のように基本料金と従量料金が混ざる費用は、準変動費として固定部分と変動部分に分けて扱えます。
現場の管理者が特に意識しておきたいのは、変動費と固定費の区別です。材料費や外注加工費は生産量に応じて増減しますが、減価償却費や正社員の給料は生産量が減っても大きくは減りません。
このため、生産量が落ちると1個あたりの固定費が膨らみ、製造原価が上がって見えます。原価が上がった理由が「効率が落ちた」のか「量が減った」のかを分けて考えるには、この切り口が欠かせません。
製造原価の計算の流れ(費目別→部門別→製品別)
原価計算基準では、製造原価を3つの段階で計算するとしています。まず費目ごとに1か月分の原価をつかみ、次に工場内の部門ごとに集め、最後に製品単位に集計する流れです。
費目で集め、部門で集め、最後に製品へ割り振ります。
※部門別計算を省き、工場全体で1つの配賦率を使う会社もあります。多品種の工場ほど部門別に分けたほうが実態に近づきます。
この流れで最も議論になるのが、STEP 02と03の配賦です。配賦とは、製品別に直接測れない間接費を、何らかの基準で各製品に負担させることを指します。
配賦基準には、直接作業時間、機械運転時間、生産数量、直接材料費などが使われます。
人手の多い組立部門なら作業時間、設備が主役の加工部門なら機械時間というように、その部門で費用が発生する原因に近い基準を選ぶのが基本です。
作業時間や機械時間の実績を正しく集める仕組みは、MES・ERPなど生産管理システムが受け持つことが多い領域です。
個別原価計算と総合原価計算
製品別計算のやり方は、生産形態によって大きく2つに分かれます。受注ごとに仕様が違う製品をつくるなら個別原価計算、同じ製品を連続してつくるなら総合原価計算です。
原価を集める単位が「注文ごと」か「期間ごと」かが最大の違いです。
※1つの工場で、量産品は総合原価計算、特注品は個別原価計算と使い分けることもあります。
個別原価計算では、注文ごとの採算がはっきり見えるため、見積と実績の比較がしやすくなります。総合原価計算は計算の手間が少ない一方、製品ごとの違いが平均の中に埋もれやすい点に注意が必要です。

計算例:部品1個あたりの製造原価を積み上げる

ここまでの流れを、機械加工部品を例にした仮の数字で追ってみます。数字は説明用の設定で、実在の製品や相場を示すものではありません。
材料はアルミ丸棒を1個あたり1.2kg使い、単価は1kgあたり500円とします。作業者の加工・検査の時間は1個0.2時間で、賃率(1時間あたりの労務費)は3,000円です。
加工部門の製造間接費は、機械1時間あたり4,000円の配賦率で、1個あたりの機械時間は0.25時間とします。
「量×単価」を3つ積み上げると、1個あたりの製造原価が出ます。
※配賦率4,000円は、加工部門の1か月の製造間接費予算を、同じ月の予定機械時間で割って求めた想定値です。
この例では、製造原価の半分近くを製造間接費が占めています。設備を多く使う工場では珍しくない構成で、配賦の基準を変えるだけで製品の原価が上下することが分かります。
たとえば、機械時間ではなく生産数量で間接費を配ると、段取りが多く機械を長く占有する少量品の原価が実態より安く、量産品が高く見えがちです。その結果、「少量の特注品ほど儲かっている」と誤って判断してしまう例は少なくありません。
もう一つの落とし穴は、配賦率の分母になる操業度です。生産量が減って機械時間が減ると、同じ固定費を少ない時間で割るため配賦率が上がります。
製品の加工内容は何も変わっていないのに、原価が上がって見えます。そのため原価の変化を見るときは、設備総合効率(OEE)など設備の使われ方の指標とあわせて確認すると、原因を取り違えにくくなります。
実際原価と標準原価の違い
ここまでの計算を実際にかかった数量と金額で行えば実際原価、あらかじめ決めた「あるべき数量と単価」で行えば標準原価になります。原価計算基準は、原価計算制度を実際原価計算制度と標準原価計算制度に大別しています。
標準原価は、材料なら「製品1個あたりの標準消費量×標準価格」、労務費なら「標準作業時間×標準賃率」で決めます。基準では、標準消費量や標準時間を科学的・統計的な調査に基づいて定め、通常起こる程度の仕損や手待ちの余裕を含めるとしています。
標準作業時間を決める作業研究や時間研究は、生産技術や現場改善の領域と重なります。タクトタイムや工程ごとの作業時間を測って編成を組む方法は、ラインバランス効率の計算と改善手順で詳しく扱っています。
標準をどの高さに置くかで、差異の意味も使い道も変わります。
※出典:企業会計審議会「原価計算基準」四(一)2の定義をもとに作成。
理想標準原価を日々の管理に使うと、毎月大きな不利差異が出続け、現場が数字を見なくなるおそれがあります。日常の原価管理には、努力すれば届く現実的標準原価を置くのが基準の考え方です。
標準原価を使う利点は、月末の実績集計を待たずに原価の目安が分かること、そして実績とのずれを「差異」として取り出せることです。この差異の読み方が、改善に使えるかどうかの分かれ目になります。
原価差異を改善に使う(価格差異・数量差異・賃率差異・時間差異)

原価差異とは、標準原価と実際原価の差です。原価計算基準では、原価管理を「標準を設定して指示し、実際の発生額と比べて差異の原因を分析し、経営管理者に報告して能率を上げる措置をとること」と定義しています。差異は、そのための入り口です。
差異は合計額のまま見ても手が打てません。材料費なら単価のずれと量のずれ、労務費なら賃率のずれと時間のずれに分けると、どの部署が動けば差異が縮まるのかが見えてきます。
差異を「単価のずれ」と「量・時間のずれ」に分けると、打ち手と担当が決まります。
数量差異:(標準数量−実際数量)×標準価格
時間差異:(標準時間−実際時間)×標準賃率
※式は原価計算基準四六による。値がマイナスのとき、実際が標準より高い「不利差異」です。部署の対応は一般的な例です。
先ほどの部品で、ある月の実績が材料1.3kg・単価520円、作業時間0.25時間・賃率3,100円だったとします。材料費は標準600円に対して実際676円で、76円の不利差異です。
これを分けると、価格差異が−26円、数量差異が−50円になります。
労務費は標準600円に対して実際775円で、175円の不利差異です。内訳は賃率差異が−25円、作業時間差異が−150円で、差異の大半は作業時間の超過から来ていることが分かります。
材料の値上がりよりも、現場の時間の使い方を先に調べるべきだ、という判断につながります。
差異を現場の要因まで落とし込む
差異の金額が分かっても、それだけでは改善は進みません。作業時間差異なら、段取り替えの長さ、材料待ちや指示待ちの手待ち、手直し作業、新人の習熟度など、現場で起きている事象まで掘り下げる必要があります。
数量差異なら、切りしろの取り方、不良による作り直し、材料の置き場での傷や紛失が典型的な要因です。トヨタ生産方式の7つのムダの視点で現場を見直すと、差異の背景にあるロスを分類しやすくなります。
差異の扱いで気をつけたい点
原価計算基準では、原価差異は原則として当年度の売上原価に含めて処理します。ただし、設備の大故障や災害など異常な状態によって生じた数量差異や時間差異は、原価に含めないとされています。
また、材料価格や賃率が大きく変わったのに標準を据え置くと、毎月同じ差異が出続けて意味を失います。現実的標準原価はしばしば改訂するものとされており、年1回や半期ごとなど、見直しのタイミングを決めておくことが大切です。
原価の数字を価格交渉と意思決定に使う

原価計算基準は、原価計算の目的として、財務諸表の作成、価格計算、原価管理、予算管理、経営の基本計画の5つを挙げています。現場の改善だけでなく、価格や事業の判断にも使ってはじめて、原価計算にかけた手間が回収できます。
価格面では、中小企業庁の「2025年版中小企業白書」が、価格交渉促進月間のフォローアップ調査をもとに状況を示しています。コスト全般の価格転嫁率は5割近くまで上がったものの、まだ道半ばです。
そのうえで、原価計算などの準備を整えたうえで発注企業と交渉することが望まれ、適切な価格設定が収益・設備投資・賃上げの好循環につながると整理しています。
労務費については、内閣官房と公正取引委員会が2023年11月に策定した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2026年1月改正)があります。
受注側は、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額といった公表資料を根拠に使えるとされています。一方、発注側が過度に詳細な資料や、受注側が明らかにしたくない内部情報の提出を求めることは、転嫁の断念につながりうるとの指摘もあります。
地域別の改定額は最低賃金2026年度の改定と製造業への影響でまとめています。
公表資料で説明できるとはいえ、自社の製品ごとの材料費・労務費・経費の比率は把握しておきたいところです。比率が分かっていれば、「この製品は労務費の比率が高いので、賃上げの影響がこれだけ出る」と具体的に示せます。
原価の内訳は、値上げの根拠を相手が納得できる形にするための材料です。

自製か外注か、受注するかの判断
部品を自社でつくるか外注するか、安い引き合いを受けるかどうかといった判断では、製造原価の総額ではなく、その判断で実際に増減する費用を比べるのが基本です。
固定費は受けても受けなくても発生するため、空いている設備で追加の注文を受けるなら、変動費を上回る価格かどうかが一つの目安になります。
ただし、変動費ぎりぎりの価格で受け続けると、固定費を回収できず会社全体が赤字になります。短期の穴埋めと、長く続ける取引の価格は分けて考える必要があり、その区別には固定費と変動費を分けた原価の見方が欠かせません。
他社の原価構成を知りたいとき
取引先や同業の原価構成を知る手がかりとして、有価証券報告書の製造原価明細書が使われてきました。ただし2014年の財務諸表等規則の改正で、連結財務諸表でセグメント情報を注記している会社は、単体の製造原価明細書を載せなくてよいことになりました。
そのため、上場企業でも明細書を開示していない例が多く、他社との比較には限界があります。自社の原価は、外の数字に頼らず、自社の記録から組み立てるものだと考えておくのが現実的です。
まとめ
- 製造原価は材料費・労務費・経費の合計で、直接費と製造間接費に分けて製品に集める
- 販売費・一般管理費を加えると総原価、利益を乗せると販売価格の目安になる
- 計算は費目別→部門別→製品別の順。間接費の配賦基準しだいで製品の原価は変わる
- 標準原価は「標準量×標準単価」。日常の管理には努力すれば届く現実的標準原価を使う
- 差異を価格・数量・賃率・時間に分けると、担当部署と改善の打ち手が決まる
製造原価は経理だけの数字ではなく、現場の時間の使い方や材料の使い方がそのまま表れる数字です。原価と関わりの深い職種としては、生産管理、購買・調達、工場長・マネジメントの記事もあわせてご覧ください。
生産計画から実績分析までの業務の全体像は、生産管理の仕事内容と流れで整理しています。
出典
出典・参考資料(4件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 原価の目的・分類・計算手続・標準原価・原価差異:企業会計審議会「原価計算基準」(1962年11月8日)全文
- 価格転嫁率の推移と原価構成把握の位置づけ:中小企業庁「2025年版 中小企業白書」第1部第1章第6節 価格転嫁
- 労務費の転嫁の考え方:内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2023年11月29日、2026年1月1日改正)
- 製造原価明細書の開示免除:e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第75条第2項、金融庁「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果等について(2014年3月26日)
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