グリセリン入り圧力計とは、ケースの中をグリセリンで満たし、振動や脈動による針の揺れと内部の摩耗を抑える圧力計で、グリセリン封入型・液入り圧力計とも呼ばれます。
ポンプやコンプレッサーの近くに付けた圧力計は針が震え続けて早く壊れがちなので、設備の仕様で「グリセリン封入型にしてください」と指定されることがあります。この記事では、グリセリンを入れる理由と注意点、構造と封入液の種類を整理し、補充・漏れ・上のキャップの扱いにも答えます。
圧力計にグリセリンを入れる理由
圧力計にグリセリンを入れる理由は、振動によって圧力計が故障するのを防ぐためで、ポンプやコンプレッサーに付けた普通の圧力計では、針が細かく震え続けることがあります。圧力計の針が振動していると、次の2つの懸念が出てきます。
- 圧力の値が読みにくい
- 圧力計が正しい値を示さなくなる(故障する)
針を揺らす力には2つの入り口があり、1つは機械の振動で、設置した配管や架台ごとケースと針が揺さぶられます。もう1つは流体の脈動で、ポンプの吐出側のように圧力そのものが細かく上下すると、圧力の入り口からブルドン管(圧力で伸びる管)に伝わり、針が振れ続けます。
揺れが続くと、針を動かす歯車やリンク(内機)が少しずつすり減っていき、指示がずれていくのは、この摩耗が原因です。
揺れは2つの経路で圧力計に届き、ケースの中の液がその動きを鈍らせます。
※脈動はケースの外からではなく、圧力の入り口(ブルドン管の側)から入ってきます。
そこで、これらの懸念をなくすためにグリセリンを封入し、内機やブルドン管ごと、ケースの中をグリセリンに浸すのがグリセリン入り圧力計です。
グリセリンは保湿用の化粧品にも使われるアルコールの一種で、とろみ(粘性)があります。分子の中にアルコールの部分を3つ持つ「3価アルコール」で、20℃の粘度は約1.5Pa·sです。
この粘りが針と内機の動きにブレーキをかけて振動を吸収し故障を防ぐうえ、針の動きが緩やかになるので指示値も読みやすくなります。メーカーの資料では、グリセリンが軸受や歯車の潤滑の役目もすると説明されており、揺れを抑える効果と潤滑の効果の両方で、内部機構が長持ちします。
揺れを止めるだけでなく、内機を守り、扱いやすい液であることが効いています。
※粘度・融点は Royal Society of Chemistry の書籍『Glycerol』第1章の値です。
低温側は少し注意が要ります。純粋なグリセリンの融点は約18℃ですが、冷えても結晶になりにくく、とろみを増しながら液のまま残りやすい性質(過冷却)があります。
とはいえ、どこまで寒い場所で使えるかは機種で決まり、長野計器の標準的なグリセリン入圧力計と不二越の油圧用は、使用温度範囲の下限を−5℃としています。不二越には、寒冷地向けにシリコーンオイル入りの仕様もあります。
針の揺れの原因が、ポンプのサージングのような運転の異常であることもあります。圧力計をグリセリン入りに替える前に、配管や装置の側に原因がないかも確かめます。振動に強い圧力計は、メーカーの長野計器も公式動画で紹介しています。
グリセリン封入型圧力計の懸念点
- 酸素には使用できない
- 出来るだけ振動の少ない個所に設置する
グリセリン封入型も基本的な使い方は普通の圧力計と同じですが、特有の注意点が2つあります。まず、酸素の圧力を測る箇所には使えず、グリセリンはアルコールの一種で燃える性質があり(引火点160℃)、酸素と触れると危険です。
長野計器は、酸素・塩素・硝酸・過酸化水素などの酸化剤に使わないよう注意しています。ブルドン管が破れたとき、充填液のグリセリンと反応して爆発するおそれがあるためです。
酸化剤を測るときは、フッ素系オイルを充填した酸化剤用の圧力計を選び、あわせて接液部に油分を残さない禁油処理も指定します。次に、グリセリン封入型は振動に強い設計ですが、振動の幅が大きすぎると故障しやすくなるため、設置するときはできるだけ振動が伝わりにくい箇所を選びます。
耐えられる振動には上限があり、たとえば不二越の油圧用グリセリン圧力計は、許容振動範囲を0〜7Gとしています。揺れの大きさは設備の振動診断の考え方で測れます。
脈動が強い場合は、圧力の入り口に細い穴の部品(スロットル)を入れて圧力の変動を和らげ、長野計器のグリセリン入圧力計では、φ100・φ150に標準で付いています。このほか、メーカーの資料では取付姿勢と低い圧力レンジの扱いにも注意を促しています。
使う前に、測る流体・揺れの大きさ・取付姿勢・圧力レンジを確かめます。
※数値や操作は長野計器・不二越のカタログの例です。実際の扱いは使う型式の取扱説明書で確かめます。
最大目盛が1MPa以下の圧力計は、ブルドン管の力が弱く、ケースの中の空気の膨張・収縮でも指示がずれるため、上部のベントプラグ(キャップ)を開けて、ケース内を大気につなげて使います。
グリセリン入り圧力計の構造
グリセリン入り圧力計の中身は、普通のブルドン管圧力計と同じで、違いは、密封したケースに液を満たしたことと、液に合わせた安全の部品です。
ブルドン管が圧力で伸び、その動きを内機が針の回転に変える仕組みは連成計の原理で解説しています。ここでは、液まわりの部品の配置を見ます。
ブルドン管・内機・針がまるごと液に浸かり、上部に安全窓とベントプラグがあります。
※形や位置は機種によって違います。安全窓を「安全キャップ」、ベントプラグを含む上部の部品をまとめて「キャップ」と呼ぶこともあります。
上部の安全窓は、ブルドン管が万一破れたときに内圧を逃がし、前面のガラスが割れるのを防ぐ部品です。安全窓に手を加えたり塞いだりしてはいけないと、長野計器は注意しています。
ベントプラグは、ケースの空気の通り道を開け閉めする小さな栓で、長野計器の1MPa以下の機種では、輸送中は押し下げておき、使うときに引き上げます。圧力の入り口には脈動を和らげるスロットルを付けられ、ケースの液が揺れを受け止め、スロットルが入ってくる圧力の変動を絞る、という分担です。
封入液の種類と圧力計の選び方
「普通の圧力計」は、ケースに液を入れないドライタイプで、振動や脈動の少ない場所ならドライタイプで十分です。封入液はグリセリンだけではなく、寒い場所や酸化剤など、条件によって液を替えます。「オイル入り圧力計」と呼ばれるのは、シリコーンオイルなどを入れた機種です。
液の種類で、使える流体と温度が変わります。
※温度や圧力の値は各社カタログの製品例です。選ぶときは型式ごとの仕様書で確かめます。
圧力レンジ(最大目盛)は、常用の圧力より余裕を持たせて選びます。目安はメーカーや用途で違い、長野計器は変動する圧力なら常用の上限を最大目盛の2/3以下としています。
たとえば常用0.6MPaで圧力が変動するなら、0.6÷2/3=0.9MPaなので、1MPaのレンジを選びます。不二越の油圧用は「使う圧力の2倍以上の最大目盛」を基準にしています。
選定や発注のときは、次の項目をそろえて伝えると行き違いが減ります。
- 測る流体(酸素などの酸化剤ではないか、禁油・禁水処理が要るか)
- 常用の圧力と、圧力の変動・脈動の有無
- 周囲の温度(屋外・寒冷地か)と振動の大きさ
- 取付の向き(垂直に付けられるか)
高温の蒸気を測るときは、封入液とは別にサイフォン管で熱を圧力計に伝えない工夫が要ります。ごく小さな差圧は、ブルドン管よりマノメーターのほうが適します。
油圧装置も、グリセリン入り圧力計が使われる場所の一つで、不二越は油圧機器のカタログでグリセリン圧力計を扱っています。油圧と他の駆動方式との違いは油圧・空圧・電動アクチュエータの違いで整理しています。
グリセリン入り圧力計のよくある質問
グリセリンは補充できますか?
確かめたメーカーの資料(長野計器・不二越)には、現場でグリセリンを補充する手順の案内はなく、ケースは密封し、ゴムパッキンで液を封じた構造です。
液が減ったり漏れが続いたりするときは、補充より先にメーカーへ修理・交換を相談するのが基本です。型式、測る流体、周囲の温度、漏れた位置と量を控えておくと話が早く進みます。
グリセリンが漏れる原因は?
メーカーの資料が挙げているのは、垂直以外の取付姿勢と、ベントプラグを開けたときのにじみです。長野計器は、開けたときにプラグの内側の液がわずかに外へ出ることがあると説明しています。
外に出た液で周りの機器を傷めることもあり、それ以外の場所からの漏れは、パッキンや本体の不具合も考えられるので、メーカーに確かめます。
上のキャップ(ベントプラグ)はいつ開ける?
開けるのは、主に最大目盛が1MPa以下の機種を使い始めるときで、温度によるケース内圧の変化で指示がずれるのを防ぐためです。
開け方は機種で違い、長野計器は黄色のベントプラグを引き上げる方式で、不二越は安全キャップの突起を切り取る方式です。開けた後は、開いた穴が上を向く垂直の姿勢で使います。
屋外や湿気の多い場所、漏れが気になる場所では、長野計器はプラグを押し下げて使うよう案内していますが、指示に少し誤差が出ます。どちらにするかは、使う型式の取扱説明書で確かめます。
グリセリンが黄色く変色したら交換?
色だけでは交換の決め手になりません。長野計器の資料では、長く使うとパッキンの添加剤が溶け出して液がわずかに色づくことがあるものの、機能は損なわないとしています。
見るべきは、液の量が減っていないか、指示が正しいかです。定期的な計測器の校正で指示のずれを確かめ、液の減りや針の異常があればメーカーに相談します。
寒い場所でも使えますか?
機種の使用温度範囲の中なら使え、長野計器・不二越の標準品は下限が−5℃です。それより寒い場所では、シリコーンオイル入りなどの寒冷地仕様を選び、不二越の寒冷地仕様は、使用温度範囲を−15〜60℃としています。
まとめ
- グリセリンは振動による故障を防止するために入れる。針の揺れを抑え、内機の摩耗も防ぐ
- 粘性と、冷えても固まりにくい性質からグリセリンが利用される。寒冷地はシリコーンオイル入り
- 酸素など酸化剤の圧力測定は危険なので行えない。フッ素系オイル入り+禁油処理を選ぶ
- 構造は普通のブルドン管圧力計と同じで、液を満たしたケースに安全窓とベントプラグが付く
- 1MPa以下はベントプラグを開け、垂直に付ける。扱いは型式の取扱説明書で確かめる
以上がグリセリンを圧力計に封入する理由で、選ぶときは、測る流体・圧力の変動・温度・取付姿勢を仕様書と照らし合わせます。圧力計の点検を保全計画に組み込むときは、設備保全のTBMとCBMの違いも参考になります。
出典
出典・参考資料(4件)を開く出典・参考資料を閉じる
- グリセリン入圧力計の構造・充填液・酸化剤の注意・ベントプラグ・スロットル・使用温度:長野計器「グリセリン入圧力計 GV□□ 高耐振・高耐久タイプ」カタログ(Cat.No. A01-10-S)
- パッキンによる充填液の変色:長野計器「グリセリン入圧力計 GV42・GV47 高圧水素用」
- 振動・脈動の緩衝、潤滑、許容振動、取付姿勢、安全キャップの切断、寒冷地仕様:不二越(NACHI)油圧機器カタログ「グリセリン圧力計 OPG」
- グリセリンの融点・過冷却・粘度・引火点:Royal Society of Chemistry『Glycerol』Chapter 1「Glycerol: Properties and Production」
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