工場の保全計画には、時間で区切った作業がよく並びます。たとえば「毎年3月にオーバーホール(設備を分解して点検・整備すること)」「運転5,000時間ごとにフィルター交換」といったものです。
これがTBM(時間計画保全)で、設備を使える状態に保つ設備保全の方式の一つです。
ほかに、設備の状態を測って手を入れる時期を決めるCBM(状態基準保全)と、壊れてから直す事後保全があります。工場ではこの3つを、設備ごと、さらには部位ごとに使い分けています。
すべてを定期交換にすると費用がかさむうえ、交換作業がかえって故障を招くこともあるためです。
この記事では、3つの保全方式の違いを比較表で整理したうえで、定期交換だけでは足りない理由を説明します。続いて、CBMが成り立つ条件、方式を選ぶ判断の順番、重要度と部位による組み合わせ方、見直しの進め方を解説します。
設備保全の3つの方式(事後保全・TBM・CBM)
保全方式の言葉は会社や業界によって呼び方が揺れやすいため、まず規格上の整理を押さえておきます。信頼性の用語を定めたJIS Z 8115:2019では、保全を大きく予防保全と事後保全の2つに分けています。
予防保全は「アイテムの劣化の影響を緩和し,かつ,故障の発生確率を低減するために行う保全」と定義され、その中に時間計画保全と状態基準保全の2種類があります。
現場でTBM(Time Based Maintenance)と呼ぶのが前者、CBM(Condition Based Maintenance)と呼ぶのが後者です。
一方の事後保全は、フォールト(故障や不具合)を検出した後に、設備を要求どおりの状態へ戻すための保全です。
保全の仕事全体や日々の業務内容については設備保全の仕事内容と保全の種類で整理しているので、ここでは3つの方式の違いと使い分けに絞って見ていきます。
保全はまず予防保全と事後保全に分かれ、予防保全の中にTBMとCBMがあります。
※JIS Z 8115:2019の用語と定義をもとに作成。現場では時間基準保全、状態監視保全などの呼び方も使われます。
TBMはさらに2つに分かれます。暦の上で決めた間隔で行う定期保全と、稼働時間などの累積動作時間に達したときに行う経時保全です。「毎年3月にオーバーホール」は前者、「運転5,000時間ごとにフィルター交換」は後者のイメージです。
3つの方式は、どれが優れているという関係ではありません。作業を始めるきっかけが「故障」「時間」「状態」のどれかという違いであり、それぞれに向く設備と弱点があります。
作業のきっかけ、向く対象、弱点を並べると違いがはっきりします。
なお、事後保全にも2つの使われ方があります。故障にその場で対応する使い方と、あらかじめ「この設備は壊れてから直す」と決めておく使い方です。後者は手抜きではなく、費用と影響を比べたうえで選ぶ立派な方式で、後ほど詳しく触れます。
TBMとCBMの違い

同じ予防保全でも、TBMとCBMは「いつ手を入れるか」の決め方がまったく異なります。TBMはカレンダーや稼働時間計で決め、CBMは設備そのものの状態を測って決めます。
判断の基準が「時間」か「状態」かで、準備するものも強み・弱みも変わります。
※どちらも予防保全の一種です。1台の設備の中で両方を使い分けることもよくあります。
TBM:時間や稼働時間で決める
TBMの最大の利点は、保全作業を生産計画に先回りして組み込めることです。長期休暇に合わせたオーバーホールや、月初の定期点検のように、止める日と人と部品を前もって確保できます。
弱点は、周期が「故障しない側」に寄りやすいことです。まだ十分に使える部品まで交換してしまい、部品代と作業工数が膨らみます。しかも一度決めた周期は、設定した根拠が忘れられたまま何年も使われ続けることが少なくありません。
CBM:状態を測って決める
CBMはJIS Z 8115で「物理的状態の評価に基づく予防保全」と定義されています。注記には、状態の判断はスケジュールに沿ったオペレーターの観察でも、センサーによる状態監視でもよいと書かれています。
つまり、日常点検で異音や発熱を確かめ、異常があれば手を入れるのも立派なCBMです。高価なセンサーを付けることが条件ではありません。状態を測る手段と、「この値を超えたら整備する」という判断基準がそろっていることが本質です。
CBMと予知保全の関係
現場では「予知保全」という言葉もよく使われます。JIS Z 8115:2019で定義されている用語は、状態基準保全(状態監視保全)です。予知保全は、状態監視のデータから故障の時期を予測して先回りする使い方を指すことが多い呼び方です。
データを常時集めて傾向を読む点で、予知保全はCBMを発展させた形と考えると整理しやすくなります。センサーからデータ分析、保全作業までのつながりは予知保全の仕組みで詳しく扱っています。
定期交換すれば安心とは限らない理由

TBMは「部品には寿命があり、寿命の手前で替えれば壊れない」という前提に立つ方式です。ところが、この前提が当てはまる故障は想像より少ないことが、航空業界の調査で知られています。
米ユナイテッド航空(UAL)のノーランとヒープは、同社の航空機部品の故障の起き方を、使用年数との関係から6つの型に整理しました。報告書『Reliability-Centered Maintenance』は1978年に刊行されています。
NASAの信頼性中心保全(RCM)ガイドによると、1968年のUALの調査と、1973年のスウェーデン、1982年の米海軍の追跡調査の3つで、使用年数と関係なく起きるランダムな故障が全体の77〜92%を占め、経年で増える型は8〜23%にとどまりました。
故障の多くは使用年数と関係なく起きるため、時間で交換するだけでは防ぎきれません。
※出典:NASA「Reliability-Centered Maintenance Guide for Facilities and Collateral Equipment」(2008年)。航空機・艦船などの調査結果で、工場設備にそのまま当てはまる数字ではありません。
時間で寿命が決まる部品は少数派
NASAのガイドは、はっきりした摩耗域をもつのは単一部品や単純な部品に多く、複雑な機器では明確な寿命の年齢が見られないことが多いと説明しています。
モーター、ポンプ、減速機のような設備全体を1つの周期で考えると、周期を短くしても故障が減らない場面が出てくるわけです。
逆に、Vベルトやフィルター、ブレーキライニングのように、使った分だけ確実に減っていく部品にはTBMがよく効きます。方式を選ぶ前に、「その部品は使った分だけ劣化するのか」を問い直すことが出発点になります。
分解・交換が初期故障を持ち込むこともある
同じガイドは、定期的なオーバーホールが、安定して動いていた設備に初期故障を持ち込み、かえって故障率を上げる場合が多いと指摘しています。組付けの誤差、締め付け不足、異物の混入などは、分解した回数だけ起きる機会が増えるからです。
「点検後に調子が悪くなった」という経験は、保全の現場では珍しくありません。触らなくてよいものは触らない、という判断ができるのもCBMの利点です。
CBMが成り立つ3つの条件
では、すべての設備をCBMにすればよいかというと、そうではありません。CBMが効くのは、次の3つの条件がそろったときだけです。その考え方を表したのが、保全の分野でよく使われるP-F曲線です。
劣化の兆候が見え始めるP点から、機能を失うF点までの時間がCBMの勝負どころです。
※検出手段の並びは、兆候を早く捉えやすい順の一般的な目安(ISA InTech誌の解説をもとに作成)。P-F間隔の長さは故障の種類と検出手段によって大きく変わります。
劣化の兆候を測れる
1つ目の条件は、故障の前に何らかの測れる変化が表れることです。軸受の傷なら振動、電気接点の緩みなら温度、潤滑油の劣化なら油の汚れや成分というように、故障の種類ごとに見るべき指標が変わります。
早い段階で兆候を捉えるほど、対処に使える時間は長くなります。油分析や振動測定が五感点検より先に異常を見つけやすいのはこのためで、どの物理量をどう測るかはセンサー・計測の基本原理が参考になります。
兆候から故障まで時間がある
2つ目は、P点からF点までの時間、つまりP-F間隔が、点検して部品を手配し、止めて直すのに足りることです。P-F間隔が短い故障では、月1回の点検では兆候を見逃したまま故障に至ってしまいます。
点検間隔については、P-F間隔の半分より短くして、兆候を捉える機会を複数回持つのが一般的な目安とされています。P-F間隔が極端に短い故障は、常時監視に切り替えるか、CBM以外の方式を選ぶことになります。
監視のコストが見合う
3つ目は費用の釣り合いです。センサーの設置、データの保管、判断する人の工数を合わせた費用が、防げる故障の損失や減らせる交換費用を上回るなら、CBMにする意味は薄れます。
小さなモーターや予備機のある設備まで常時監視を広げると、監視の仕組みそのものが保全の負担になりかねません。高度な監視は、止まると困る設備から順に当てていくのが基本です。
保全方式の選び方(判断の順番)
ここまでの内容を、設備や部位ごとに方式を決める手順に落とし込むと、次のような順番になります。上から順に問いを当てはめ、最初に「はい」となったところで方式が決まります。
上の問いから順に確認し、「はい」になった段で方式を決めます。
※人身事故や環境への影響につながる故障は、Q2で「影響が小さい」と扱いません。
法令で周期が決まる設備はTBMが土台
最初に確認するのは法令です。たとえばクレーンはクレーン等安全規則により、1年以内ごとに1回と1か月以内ごとに1回の定期自主検査が義務づけられています。
フォークリフトも労働安全衛生規則で、1年を超えない期間ごとの特定自主検査と、1か月を超えない期間ごとの定期自主検査が定められています。
こうした設備は、状態が良くても法定の周期で検査することが前提です。CBMを取り入れる場合も、法定点検を置き換えるのではなく上乗せする形になります。
一方で、状態監視の高度化が周期の見直しにつながる例もあります。
高圧ガス保安協会によると、高圧ガス保安法のスーパー認定事業所は、連続運転期間を8年以下の範囲で事業者が設定できます(通常の認定事業所は4年などの期間)。スーパー認定では、IoTやビッグデータなどの新技術の導入が要件の1つです。
故障の影響が小さければ事後保全を選ぶ
次に見るのは、止まったときの影響です。NASAのRCMガイドは、事後保全(壊れるまで使う方式)を意識的に選ぶ判断であり、設備によっては受け入れられると位置づけています。
例として、重要でない7.5馬力未満のモーター、トイレの換気扇、小型の給湯器など、故障の影響が無視できるものを挙げています。
工場でいえば、事務所の空調や予備機のある小型ポンプ、照明などが候補です。予防のための点検や交換にかける費用が、壊れてから直す費用より大きいなら、事後保全のほうが合理的です。
兆候が測れればCBM、寿命が読めればTBM
影響が大きい設備では、前の章の3条件を当てはめます。兆候が測れてP-F間隔に余裕があればCBM、摩耗のように使った分だけ進む劣化で寿命がおおよそ読めればTBMです。両方に当てはまる場合は、CBMのほうが部品を無駄にしにくくなります。
どれにも当てはまらなければ改良保全
兆候も出ず、寿命も読めない故障は、保全のやり方ではなく設備のつくりを変えるしかありません。材料や構造を見直す改良保全や、次の設備の設計に反映させる保全予防がこれにあたります。
また、安全装置や予備系統のように、ふだん動かないため故障しても気づけない「隠れた故障」もあります。これには定期的に作動を確かめる点検を入れます。故障モードとその影響を洗い出す手法としてはFMEAの進め方が使えます。
設備の重要度と部位で組み合わせる

判断の順番が分かっても、工場の設備を1台ずつ検討するのは大変です。実務では、まず設備を重要度でランク分けし、ランクごとに方式の大枠を決めてから、重要な設備だけ部位まで掘り下げる進め方が一般的です。
重要度で大枠を決め、重要な設備ほど状態を細かく見る配分にします。
※ランクの数や基準は工場ごとに決めます。ISA InTech誌の解説では、重要度の高い設備は全体の10〜20%、中程度が20〜30%、低いものが40〜60%という分布が目安として示されています。
重要度ランクで大枠を決める
ランク分けの基準には、主に次のようなものを使います。
- 止まったときの生産への影響
- 安全や環境への影響
- 品質への影響
- 修理にかかる時間と費用
- 予備機の有無など
これらを点数化して合計する方法がよく使われます。
ポイントは、保全の手間と費用を重要度の高い設備に寄せることです。すべての設備に同じ密度で点検をかけると、重要な設備への手当てが薄くなります。
1台の設備でも部位ごとに方式は変わる
Aランクの設備でも、部位まで分けると方式はばらばらになります。たとえばポンプとモーターの組み合わせなら、次のような具合です。
- 軸受:振動を測るCBM
- Vベルトやグランドパッキン:周期で替えるTBM
- 表示灯:切れてから替える事後保全
「この設備はCBM」とひとくくりにせず、部位ごとの故障の起き方に合わせて方式を割り当てるほうが、費用も手間も無駄が少なくなります。
事後保全を選んだ設備に必要な備え
事後保全を選ぶことは、何もしないことではありません。壊れたときにすぐ直せるよう、次のものを用意しておくことが前提です。
- 予備品の在庫
- 修理手順
- 交換にかかる時間の見積もり
また、故障の履歴は必ず記録します。同じ設備で故障が続くようなら、影響が小さいという前提が崩れているサインであり、ランクや方式を見直すきっかけになります。

保全方式を見直す進め方とよくある失敗

保全方式は一度決めたら終わりではなく、故障の実績を見ながら直していくものです。既存の保全計画を見直すときは、次の5つのステップで進めると整理しやすくなります。
設備の棚卸しから始め、実績を見て方式と周期を直し続けます。
※一度にすべての設備を見直す必要はありません。Aランクの設備から順に進めるのが現実的です。
ステップ5で役立つのが、交換した部品の状態の記録です。TBMで替えた部品にまだ十分な余裕があれば周期を延ばせますし、交換前に傷んでいれば周期を縮めるかCBMへの切り替えを検討します。
保全計画の立て方や日々の運用は、関連記事でも工程ごとに解説しています。
見直しの場面でよく見られる失敗は、次の3つです。
- すべてをCBMにしようとする:兆候が出ない故障や小さな設備にまでセンサーを付け、監視の手間ばかり増える
- TBMの周期を根拠なく据え置く:メーカー推奨や前任者の設定をそのまま使い続け、過剰保全や見逃しが放置される
- 事後保全の設備に備えがない:予備品や手順がなく、軽微なはずの故障で長く止まってしまう
特に1つ目は、IoTの普及とともに起きやすくなっています。人手不足や設備の老朽化を背景に状態監視へ注目が集まっていますが、その流れは予知保全が注目される背景で整理しています。
導入の目的は監視そのものではなく、故障の損失と保全の費用の合計を減らすことです。
NASAのRCMガイドでは、故障の起き方と影響にもとづいて方式を組み合わせる方法を信頼性中心保全と呼んでいます。これを導入すると、年間の保全予算を30〜50%削減できることが多いとしています。
数字は施設や設備によって変わりますが、方式を選び直すこと自体が費用改善の手段になることを示しています。

まとめ
- 保全は予防保全と事後保全に分かれ、予防保全の中にTBM(時間計画保全)とCBM(状態基準保全)がある
- TBMは計画を立てやすいが過剰保全になりやすく、CBMは無駄が少ないが測定と判断の仕組みが要る
- 故障の多くは使用年数と関係なく起きるため、定期交換だけでは防ぎきれない
- 方式は「法令→影響の大きさ→兆候が測れるか→寿命が読めるか」の順に当てはめて決める
- 重要度ランクで大枠を決め、重要な設備は部位ごとに方式を割り当て、実績を見て見直し続ける
保全方式の使い分けは、設備を知り、故障の起き方を知ることから始まります。保全担当に求められる知識や資格は設備保全のスキルとキャリアパス、状態監視のデータを工場全体で生かす考え方はスマートファクトリーの仕組みで紹介しています。
設備を導入する側の視点から保全性を考えたい方は、生産技術の仕事内容もあわせてご覧ください。
出典
出典・参考資料(8件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 保全の用語と定義:JIS Z 8115:2019 ディペンダビリティ(総合信頼性)用語
- 状態基準保全の考え方:電気学会 電力・エネルギー部門「用語解説 第147回 状態基準保全」
- 故障パターンの調査結果・事後保全の適用例・RCMの効果:NASA「Reliability-Centered Maintenance Guide for Facilities and Collateral Equipment」(2008年9月)
- P-F曲線と検出手段・重要度の分布:ISA InTech「Improving maintenance by adopting a P-F curve methodology」(2019年)
- 点検間隔とP-F間隔:Power-MI「The P-F Curve: A Cornerstone in Condition-Based Maintenance」
- クレーンの定期自主検査:中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター「クレーン等安全規則」第34条・第35条
- フォークリフトの特定自主検査・定期自主検査:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」第151条の21・第151条の22・第151条の24
- スーパー認定事業所の連続運転期間:高圧ガス保安協会「スーパー認定・自主保安認定」
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