吸収式冷凍機に蒸気を使うのは、水蒸気を吸収した溶液を加熱し、再び使える濃度へ戻すためです。冷やす場所へ熱い蒸気を吹き込むのではなく、再生器という別の場所へ熱を供給します。
代表的な水・臭化リチウム系では、冷媒は水、吸収液は臭化リチウム水溶液です。工場から送る熱源蒸気、機内を循環する水冷媒、外部で使う冷水を分けると、仕組みを理解しやすくなります。
吸収式冷凍機の原理
冷凍機は冷たさという物質を作る機械ではなく、冷やす対象から熱を取り出して外へ移す機械です。吸収式でも圧縮式でも、冷媒が蒸発するときに周囲の熱を奪う性質を利用します。
電動の圧縮式では、蒸発した冷媒を圧縮機へ送り、圧力を上げて再び凝縮できる状態にします。吸収式は、この冷媒の循環を吸収液と再生用の熱で成立させ、冷媒蒸気を圧縮する機械を使いません。
熱を低温側から高温側へ運ぶ点は、ヒートポンプと共通する考え方です。駆動源が電力中心か熱中心かを分けると、両方式の役割と違いを整理できます。
図1:水冷媒の循環と、濃くした吸収液の循環
単効用の基本作用を展開した概念図。青は冷媒、緑は吸収液、橙は外から加える熱。
溶液熱交換器や各流量調整部は省略。冷媒蒸気を冷やす凝縮器と、溶液を冷却する吸収器には、外へ熱を逃がす冷却水が必要になる。
蒸発器では、低い圧力に保った空間へ冷媒の水を散布し、低温で蒸発させます。その中を通る伝熱管には冷水が流れ、管を介して冷媒へ熱を渡すため、冷水の温度が下がります。
水の沸点は圧力で変わり、標準大気圧で約100℃でも、低圧では低温で沸騰します。IAPWSの物性式で求める5℃の飽和圧は約0.873kPaの絶対圧で、工場蒸気のゲージ圧とは基準が異なります。
蒸発した水蒸気をそのままにすると、蒸発器の圧力が上がって低温での蒸発が続かなくなります。そこで吸収器の臭化リチウム水溶液が水蒸気を取り込み、低い水蒸気圧を維持します。
吸収液は水を取り込むほど薄くなり、その状態のままでは十分な吸収作用を続けられません。また吸収時には熱が発生するため、吸収器を冷却水で冷やして、必要な吸収能力を保ちます。
薄くなった溶液は、溶液ポンプで再生器へ送られ、加熱されて水分の一部を放出します。水が冷媒蒸気として分離すると、残った溶液の臭化リチウム濃度が高くなり、吸収器へ戻せます。
再生器から出た冷媒蒸気は、凝縮器で冷却水へ熱を渡し、液体の水に戻ります。その冷媒液を低圧側へ戻せば、再び蒸発器で蒸発し、冷水を連続して冷やせる循環になります。
図1の単効用では、蒸発器・吸収器は低圧側、再生器・凝縮器はそれより高い圧力側です。両側が大気圧より低い条件でも圧力差があり、機内の全ての場所が同じ真空圧ではありません。
冷媒の水に塩分濃度の濃淡があるのではなく、濃度が変わるのは臭化リチウム水溶液です。蒸発・凝縮する水と、水を吸収して濃度が変わる溶液を分けることが、流れを読む要点になります。
吸収式冷凍機に蒸気を使う理由
蒸気が担当するのは、再生器の溶液から冷媒の水を分離するための加熱です。冷水から奪った熱を外へ出し続けるには、吸収液を再生して冷媒を循環させるエネルギーが必要になります。
蒸気加熱式では、工場から供給した蒸気が伝熱面の一方で凝縮し、もう一方の溶液を加熱します。通常の間接加熱では工場蒸気が吸収液へ混ざらず、凝縮したドレンは別の配管から排出されます。
図2:工場蒸気は伝熱管の中、冷媒と吸収液は外側
再生器の加熱部を切り出した概念断面。工場蒸気と機内の水冷媒は、熱を渡し合う別の流体。
管内で熱源蒸気が凝縮し、管外で溶液から冷媒蒸気が分離する。熱交換面の配置を簡略化した図で、実機では熱回収や複数の再生器も組み合わせる。
蒸気を作る設備はボイラーであり、冷凍機はその蒸気が運ぶ熱を受け取ります。再生器の加熱が不足すれば、吸収液を十分に濃く戻せず、必要な冷凍能力を出せなくなります。
必要な蒸気圧力、消費量、許容するドレン側圧力は、冷凍機の型式や加熱方式で異なります。蒸気の圧力を下げる検討では、加熱能力とドレン排出への影響を併せて評価します。
熱を供給する方法には、蒸気のほか、温水、排熱、バーナーの直接燃焼などがあります。利用できる熱の温度と量に合わせて機種を選び、同じ吸収式という名前だけで熱源を交換しないようにします。
一重効用では外からの熱で再生を行い、二重効用では高温再生器の冷媒蒸気で低温再生器も加熱します。二重効用では再生器の圧力段階も増え、図1の単効用と同じ圧力配置にはなりません。
排熱ボイラーなどで余る蒸気があり、冷水を使う時間と重なれば、熱を冷房や工程冷却に回せます。余剰蒸気の有効利用は、新たに燃料を燃やして蒸気を作る場合と分けて採算と省エネを評価します。
電力の契約容量や受変電設備の余裕が小さい現場では、主な駆動源を熱へ移すことにも意味があります。ただし電力を使うのは溶液ポンプだけではなく、機内の補機や外部の冷水・冷却水ポンプも含まれます。
冷却塔のファン、制御機器、機種によって備える冷媒ポンプや抽気装置にも電力が必要です。冷媒圧縮機を使わない利点を評価するときも、設備全体で必要な補機電力を見積もります。
図3:冷水、冷却水、熱源蒸気は別の接続先を持つ
吸収式の外側に接続する系統。矢印は流体の流向を示す。
冷却塔の水配管は吸収器・凝縮器側へ、冷水は蒸発器側へ接続する。配管の直列/並列順序は機種により異なる。
冷水は建物や製造工程から熱を受け取り、蒸発器へ戻って再び冷やされる循環水です。チラーとブラインの違いも含め、冷やす側の熱媒と機内の冷媒を区別します。
冷却水は吸収器と凝縮器から熱を受け取り、通常は冷却塔などへ運んで外部へ放出します。冷やす対象から取り込んだ熱だけでなく、再生器に加えた熱も外へ逃がす必要があります。
一般的な開放式冷却塔では、一部の水が蒸発するときの潜熱を使い、残りの循環水を冷やします。吸収式と水冷ターボ式の両方で使われる設備ですが、必要な放熱量や冷却水量は方式と条件で変わります。
配管を延ばせば熱源を離れた場所から運べるため、燃料設備との配置条件を調整しやすくなります。一方で、蒸気配管の圧力損失と放熱、ドレンの戻り経路が新たな検討項目になります。
長い蒸気配管は保温と放熱量を評価し、各水配管は必要流量とポンプの能力をそろえます。流速や圧力損失が大き過ぎると、機器単体が適切でも系統として能力を発揮できません。
入れた蒸気の熱と、外へ捨てる熱を計算する
蒸気が持つ熱を冷凍機へ全て投入できると考えるのではなく、入口とドレン出口の状態差で求めます。蒸気と復水のエンタルピーを使うと、圧力や出口温度の違いも熱収支へ反映できます。
図4:加熱入力を含めた熱収支の計算例
値は仕組みを説明する仮定。定常状態で外面の熱損失と補機動力の影響を省いた例。
放熱側には冷凍能力より大きな熱が流れるため、冷却塔と冷却水系統にも十分な容量が必要です。冷水側の能力だけを見て既存の冷却塔へつなぐと、夏季の高負荷で放熱が追い付かない原因になります。
吸収式の熱COPと、ターボ式の電力を分母にしたCOPは、数字の大小だけでは優劣を決められません。吸収式冷凍機のCOP計算のように分母をそろえ、燃料や電力の換算条件を明らかにして比べます。
熱源を選ぶときに確認する条件
蒸気式が向くのは、必要な温度と流量の熱源が安定して使え、冷水の需要と時間帯が合う設備です。余剰蒸気が冬だけ発生するのか、夏も連続して得られるのかで、利用できる冷熱の量が変わります。
図5:圧縮式と吸収式を、設備全体の入力で比較する
確認点:電源容量、部分負荷、冷却側の条件、補機電力。
冷媒を圧縮して循環させ、蒸発と凝縮を続ける。
確認点:蒸気の量/圧力/時間、復水回収、冷却塔、補機電力。
吸収液を加熱再生して、水冷媒の循環を続ける。
電気料金と蒸気単価、一次エネルギー、CO₂排出量は別々に算定する。片方が必ず安い/省エネという比較にはしない。
蒸気を他工程へ使う予定がある場合は、冷凍機へ回したことで不足する熱の補給も評価に入れます。余剰という呼び名だけで無料の熱と扱わず、回収設備の運転費や蒸気輸送の損失も含めます。
冷水の必要温度、入口出口温度、流量を定めることは、熱交換器の能力を評価するときと共通です。蒸気条件だけを満たしても、冷水や冷却水の流量が不足すれば、所要の冷却能力は得られません。

運転面では、機内の真空と吸収液の状態、伝熱管の汚れ、冷却水条件の管理が欠かせません。不凝縮ガスがたまると熱や物質の移動を妨げ、必要な冷媒の蒸発と吸収を維持しにくくなります。
臭化リチウム溶液は濃度と温度の条件によって結晶化し、流れや伝熱に支障を生むことがあります。通常停止時の希釈運転と異常時の停止は区別し、それぞれメーカーの手順に従います。
日常記録には冷水と冷却水の入口出口温度、流量、蒸気の圧力と使用量を同じ時刻で残します。条件がそろった記録を比較すれば、負荷の変化と、熱源不足や伝熱性能の変化を分けて調べられます。
冷水の入口と出口の温度差だけで能力を判断せず、そのときの流量も一緒に読み取ります。同じ温度差でも循環する水量が少なければ、実際に取り出している熱量は小さくなるためです。
反対に、冷水流量が多い条件では、必要な熱量を取っていても温度差は小さくなります。入口温度、出口温度、流量の三つをそろえると、製品側の負荷と冷凍機の働きを数量で把握できます。
冷却水側の温度が高くなると、吸収器と凝縮器から熱を逃がす条件が厳しくなります。蒸気をさらに増やす前に、冷却水の入口温度と流量、冷却塔の運転状態を見て、放熱側の制約を調べます。
冷却塔の能力は機械の大きさだけでなく、外気条件や散水・送風の状態にも左右されます。暑い時期だけ冷水温度が上がる場合は、冷凍機の熱源不足と決め付けず、冷却水条件の変化を追います。
工場の蒸気圧力は、冷凍機を停止しているときの値より、必要量を流しているときの値が重要です。上流では圧力が保たれていても、長い配管や同時使用の影響で、機器の入口圧力が低下することがあります。
加熱側のドレンが滞留すれば、凝縮に使える面積が減り、十分な蒸気を送っても熱が渡りにくくなります。蒸気入口だけでなく、ドレン出口と回収先の圧力、排出機器の作動を同じ系統で調べます。
水側の伝熱管に汚れが付着すると、熱が通る際の抵抗が増え、設計時より能力が低下します。水質管理では冷却水、冷水、蒸気凝縮水を区分し、メーカーの指定と対象の水系に合わせて管理します。
真空状態が変わった場合は、蒸気条件と分けて、空気の侵入や不凝縮ガスの蓄積を調べます。密閉部や抽気系統はメーカーの保守対象とし、運転記録から異常が始まった条件を整理します。
| 記録に現れた状態 | 系統を分けて見る場所 |
|---|---|
| 冷凍機入口で蒸気圧が不足 | 供給量、配管圧損、他工程との同時使用 |
| 蒸気条件は同じだが能力低下 | ドレン排出、冷却水条件、伝熱管汚れ、真空状態 |
| 夏季だけ冷水温度が高い | 外気、冷却塔、冷却水温度と流量、負荷増加 |
| 冷水温度差は大きいが供給能力が小さい | 冷水流量と負荷側の流れ、ポンプの運転条件 |
導入費の比較には本体だけでなく、蒸気配管、復水回収、ポンプ、冷却塔と設置空間を含めます。既存設備を使える場合も、配管口径と定格だけで決めず、同時運転時の容量と保守動線を照合します。
年間の評価では、定格能力だけでなく、冷水需要が少ない時間帯の運転や熱源の停止時間も扱います。冷凍機を使える期間と余剰蒸気の発生期間が重なるほど、排熱を有効に使う計画を立てやすくなります。
よくある質問
熱い蒸気が、冷たい水を作るのはなぜですか?
蒸気の熱は冷水へ直接加えず、水蒸気を吸収した溶液を再生するために使います。冷水から熱を奪う蒸発器と、熱を受け取る再生器が別の場所で働くことで、連続した冷却が成立します。
熱源の蒸気が、そのまま冷媒になるのですか?
一般的な間接加熱では、熱源蒸気と機内の水冷媒は伝熱面で分離され、混ざりません。熱源蒸気は凝縮後にドレンとして排出され、冷媒の水は機内で蒸発と凝縮を繰り返します。
臭化リチウムが冷媒なのですか?
ここで扱う方式では水が冷媒で、臭化リチウム水溶液は水蒸気を吸収する役割を持ちます。水を取り込んで薄くなった溶液を加熱し、水分を分離して濃く戻すのが再生の作用です。
吸収式なら電力は不要ですか?
冷媒蒸気を圧縮する大型の圧縮機は使いませんが、溶液ポンプや制御機器などには電力が必要です。外部の冷水・冷却水ポンプや冷却塔ファンも含め、冷水を供給する設備全体の消費電力を求めます。
蒸気式ならターボ式より必ず省エネですか?
使える余剰熱、蒸気を作る燃料、補機電力と冷却水条件によって結果は変わります。購入費や料金の安さだけで省エネと決めず、一次エネルギーと運転時間をそろえて両方式を比較します。
まとめ
吸収式冷凍機の蒸気は、吸収液を濃く戻す再生器の熱源として使われます。水冷媒の蒸発で冷水から熱を奪い、吸収・再生・凝縮を組み合わせて、その動作を繰り返す仕組みです。
主な電力負荷を抑えながら余剰熱を利用できる一方、熱源と十分な放熱設備が必要になります。蒸気、冷水、冷却水と補機をひとまとめに評価すると、導入条件と運転管理の要点が見えてきます。
出典
- 川重冷熱工業:吸収冷温水機/冷凍機の仕組み。
- 荏原冷熱システム:冷暖房サイクル。
- 荏原冷熱システム:冷凍機と冷水・冷却水の役割。
- 荏原冷熱システム:排熱利用(蒸気・温水)。
- 日本冷凍空調工業会:吸収式冷凍機の原理・種類・保守。
- 日本冷凍空調工業会:吸収式冷凍機・ターボ冷凍機の水処理ガイドブック。
- IAPWS:水と蒸気の産業用物性式IF97。
- 日本建築学会:リン酸型燃料電池排熱利用吸収式冷凍機の能力制御に関する研究(再生器の管内蒸気・管外吸収液、図5)。
- 日本冷凍空調学会:低温水吸収冷凍機のサイクルシミュレーション・第1報(図1・図2の圧力区分)。
- 川重冷熱工業:計画停電時の吸収冷温水機・冷凍機の取扱い(通常停止後の希釈運転。具体的な操作は使用機の手順を優先)。
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