蒸気の直接加熱は、蒸気を水などへ直接接触させ、凝縮するときの熱で温める方法です。蒸気がそのまま水へ加わるため、必要な熱だけでなく、加熱後に増える水の質量も一緒に計算します。
水10トンを10℃から60℃へ加熱する例で、質量と熱収支を使う方法と、有効熱量で求める方法を説明します。蒸気の圧力と間接加熱の蒸気量を考える場合とは、凝縮後の水が行く先が異なります。
蒸気で直接加熱する場合の計算方法①
タンクへ水をため、その中へ蒸気を投入して温めるバッチ加熱を考えます。タンク内の温度をセンサーで測り、調節計と制御弁で蒸気の供給量を変える構成が代表的です。
温度が目標へ近づくと蒸気量を絞り、過剰な加熱を抑える役割を温度制御が担います。オンオフ制御のように開閉する方式か、弁を連続的に動かす方式かで、供給流量の時間変化は異なります。
図1:温度を測り、蒸気を水の中へ直接供給する
断面と制御信号の概念。橙は蒸気、青は水、破線は温度の測定と弁への指令。
安全遮断・逆流防止・排水・ベントなどは省略した原理図。施工や運転の手順ではなく、計算の対象と信号の役割を示す。
計算条件は、初めの水が10,000kg、初期温度10℃、目標温度60℃、蒸気の供給圧0.3MPaGです。蒸気は乾き飽和状態とし、注入した蒸気が全て凝縮して、タンク内に残る条件を使います。
まず基本の関係を確かめるため、容器を温める熱、外部への放熱、水面からの蒸発を省きます。加熱中は水の取り出しやオーバーフローがなく、十分に混ざって温度が均一になるバッチを考えます。
①質量の関係式を作る
投入する蒸気の質量をx、加熱後の温水の質量をyと置くと、出ていく流体がないため全てを足し合わせます。蒸気が水へ変わっても質量は消えず、初めの水へ蒸気の分が加わります。
図2:初めの10トンへ、凝縮した蒸気の質量が加わる
最終の温水を最初と同じ10トンと置くと、蒸気が凝縮した分をどこかへ捨てた計算になります。最終量を一定にしたい場合には、初期の仕込量を減らすか、排出する量を収支へ加えます。
②熱量の関係式を作る
次は、初めの水が持つ熱と蒸気から入る熱を足し、加熱後の温水が持つ熱と等しくします。水と蒸気は同じ基準でエンタルピーをそろえ、単位をkJとkJ/kgで区別します。
ここでは水の比熱を4.186kJ/(kg·K)とし、0℃を基準に水の比エンタルピーを比熱×温度で近似します。0.3MPaGの乾き飽和蒸気は、IAPWSの物性値を丸めた2738.2kJ/kgを使います。
図3:質量の式を熱収支へ代入して、蒸気量を解く
計算結果では、蒸気が約842kg必要で、最後の温水は約10.84トンへ増えます。蒸気を別系統へ排出する間接加熱と違い、凝縮した水まで最終温度60℃の製品側へ残ります。
圧力のMPaGは大気圧を基準にしたゲージ圧なので、蒸気表の絶対圧とは区別します。本例は大気圧0.101325MPaを足した0.401325MPaで物性を求め、小数を丸めて計算しています。
精度が必要な設計では、一定比熱の近似に代え、水の入口と出口のエンタルピーも同じ蒸気表から取ります。異なる表の値や温度基準を混ぜず、入る熱と残る熱を同じ物性基準で合わせます。
供給圧0.3MPaGは、熱量を決めるために与えた蒸気供給側の状態で、タンクの水圧を指定した値ではありません。直接注入では、蒸気が調節弁へ入る位置の状態と、タンク内の状態を区別します。
制御弁で絞る変化を断熱・仕事なしで近似すると、入口と出口のエンタルピーは概ね同じになります。弁の出口圧だけから乾き飽和蒸気の値を引き直すと、供給された蒸気が持つ熱と合わなくなる場合があります。
蒸気で直接加熱する場合の計算方法②
別の求め方は、初めの水が必要とする熱を、蒸気1kgから有効に渡せる熱で割る方法です。前の熱収支を整理した同じ関係なので、同じ前提なら両方の計算結果は一致します。
初めの10トンを50℃だけ温める熱は、10,000×4.186×50で2,093,000kJです。蒸気側は全エンタルピーから、最後に60℃の水として残す分を引いた値だけを使えます。
図4:全エンタルピーから、60℃の水に残る分を引く
直接加熱でも、蒸気の全エンタルピーを全て「初めの水の昇温」へ使うわけではない。
Qを蒸気の全エンタルピー2738.2kJ/kgで割るだけでは、蒸気が最後に水として持つ熱を差し引けません。有効分を分母にすると、蒸気自体も60℃の水として残ることが式へ反映されます。
有効熱量で割る方法は、流出がないバッチで必要蒸気量を概算するときに使います。複数の流体が出入りする場合や、蒸発して出ていく分がある場合には、質量と熱の収支から組み立てます。
間接加熱で加熱をした場合
間接加熱は、蒸気と水を伝熱面で分離し、壁を通して熱を渡す方法です。蒸気が凝縮したドレンは別に排出されるため、漏れなどがなければ、タンク内の水へ蒸気の質量は加わりません。
図5:コイル加熱では、凝縮した水が別配管へ出る
同じ初期水10トンを加熱する例。伝熱管の内側とタンクの水を混ぜない。
この比較ではコイル内も0.3MPaGと仮定し、間接加熱の蒸気量は直接加熱より約16.6%多くなります。直接加熱では凝縮後の水が60℃まで冷える分も利用し、蒸気1kgから渡せる熱が大きくなります。
一方、直接加熱が間接加熱より少ない割合として表すと、分母が変わるため約14.2%です。さらに最終量は直接が約10.84トン、間接が10トンであり、同じ製品量同士の比較ではない点も押さえます。
間接加熱で高温の復水を回収できる系統では、その熱はボイラー側や他工程で再び役立ちます。フラッシュ蒸気の回収も含めると、蒸気質量の差だけを燃料の削減率に置き換えることはできません。
間接側で復水をさらに冷却して熱を利用する場合も、使える熱は入口と出口のエンタルピー差になります。熱交換器の能力と排水条件を合わせ、潜熱だけで計算した場合と比較境界をそろえます。
バッチ加熱と連続運転では収支の境界が変わる
初期水を10トンにする場合と、完成した温水を10トンにする場合では、求める条件が異なります。完成量を10,000kgに固定するなら、初めに入れる水の質量も未知数として、蒸気の質量と一緒に解きます。
この条件なら初期水約9,224kgと蒸気約776kgから、60℃の温水10トンが得られます。蒸気量が842kgから変わるのは計算法が違うからではなく、最初に温める水の量が違うためです。
完成量で生産計画を立てる設備では、蒸気の凝縮量を差し引いた水量を仕込みます。初期量と最終量のどちらを指定した問題かを先に書くと、必要な蒸気量と投入する水量を区別できます。
ここまでの842kgは、10トンの水を一回加熱するときに必要な蒸気の総質量です。制御弁や配管を選ぶときのkg/hへ直すには、加熱に使える時間と、立上げ時の最大負荷を加えます。
同じ理想条件で30分以内に加熱するなら、平均蒸気量は841.56kgを0.5時間で割った約1683kg/hです。これは平均値であり、温度が低い起動時の流れや制御範囲をそのまま保証する容量ではありません。
図6:一回の仕込量と、連続の流量を混ぜて計算しない
単位はkg、加熱前後の蓄積量を追う。
増えた水量を含めた最終液面・タンク余裕を評価する。
単位はkg/h、入出力と蓄積の関係を追う。
定常ならṁ_o=ṁ_w+ṁ_s、各流れの熱も同時に収支へ入れる。
保温だけでも注入蒸気が凝縮すれば水量は増える。液面を一定にする方法と、排出する水の行き先を決めて評価する。
水を連続供給して温水を取り出す系統では、蓄積のない定常状態なら、流出量は水と蒸気の合計です。熱収支も、流入水の熱と蒸気の熱を足し、流出する温水の熱と損失へ配分する形で作ります。
保温だけのタンクでも、放熱を補うために蒸気を入れると、凝縮した分の水が徐々に増えます。一定液面で使うなら、温水の使用、排出、オーバーフローなど、実際の出ていく量を収支へ含めます。
加熱途中から水があふれる条件では、あふれた水が運ぶ熱も計算の外へ出ていきます。初期と最終のタンクだけを見たバッチ式では不足するので、排出水の量と温度を追う収支へ変更します。
連続運転で流量をkg/h、比エンタルピーをkJ/kgにそろえると、各流れが運ぶ熱はkJ/hになります。kWへ換算する場合は3,600で割り、一回の加熱に必要なkJと混ぜないようにします。
立上げ時にはタンクの蓄積熱が増え、定常時には流れが持ち込む熱が、流出熱と外部への放熱に釣り合います。同じタンクを使っていても、起動時と連続運転中では残すべき蓄積の項が変わります。
実設備へ計算を使うときの確認点
蒸気を直接混ぜる方式は、凝縮水の追加による希釈と、蒸気の品質を許容できる用途に使います。純水や食品などで要求される水質がある場合は、蒸気が製品へ混ざる前提で供給源と処理条件を管理します。
供給蒸気は、ボイラーや蒸気配管の運用条件に応じた品質を持ちます。ボイラー水の持ち出しや処理薬品、配管中の異物などを考え、熱量だけを満たせば使えるとは判断しません。

水以外の溶液を加熱するときは、水で近似した比熱をそのまま使わず、実際の濃度や温度に合う物性を選びます。蒸気の凝縮で濃度も変わるため、加熱後の濃度と品質が必要な範囲へ収まるかを評価します。
熱量の計算が合っていても、蒸気の気泡が水面へ抜けると、その分の熱と質量はタンクへ残りません。注入部の選定、液深、温度、混合の条件をメーカー資料で照合し、全量凝縮という計算前提の成立を調べます。
水温が高いと蒸気との温度差が小さくなり、気泡が十分に凝縮する条件も変わります。異音や強い振動が出る運転は流量計算だけで解決せず、設備を安全な状態にして注入装置の条件を点検します。
タンクの壁や内部の金属も温まるので、実際の起動負荷には容器の熱容量を加えます。さらに配管と水面からの損失を含め、保温と放熱量を評価すると、理想計算からの増分を整理できます。
注入装置へ十分な流量を送るには、供給圧だけでなく、制御弁と配管で失う圧力も必要です。配管の流速と圧力損失を評価し、タンクの圧力や注入点の水頭に対する余裕を確保します。
供給が飽和蒸気か過熱蒸気か、湿りを含むかによって、蒸気1kgが持ち込む熱は変わります。主蒸気とプロセス蒸気の違いを分け、圧力だけから一律に乾き飽和の値を選ばないようにします。
水を蒸気へ噴霧する減温注水でも、混ざる前後の質量と熱をそろえる考え方が使えます。どちらが主な流れかを先に決めると、加熱・冷却という言葉だけで式の符号を取り違えずに済みます。
例えば溶質1,000kgを含む溶液10,000kgへ、水として842kgが加わると、質量濃度は約9.22%になります。これは蒸気の必要量を水の物性で求めた溶液の例ではなく、追加水量による希釈だけを示す質量計算です。
反応液や調合液では、この希釈が反応速度や製品濃度へ影響するため、加熱方法の選択条件になります。蒸気量が少ないという理由だけで直接加熱を選ばず、最終濃度と水質の要求を先に整理します。
質量濃度と体積濃度は定義が違うため、kgで立てた濃度計算を、そのまま体積百分率へ読み替えません。加熱で密度も変わるので、製品仕様がどちらの濃度を指定するかを、熱計算より先に合わせます。
熱源蒸気の湿りや配管中の放熱が大きければ、同じ質量を投入しても、乾き飽和で見積もった熱より小さくなります。計算に採用した状態と、実際に注入装置へ届く蒸気の状態の差も、記録に残す項目です。
実測値と理論値を比べるときは、最初と最後の水量、温度、蒸気積算量を同じ加熱区間で記録します。途中の水補給や取り出しがあれば、その量と温度も残し、計算の境界に含めます。
液面の上昇だけから蒸気量を求めると、水の温度変化による体積の増加まで蒸気の質量へ数えるおそれがあります。体積を質量へ換算するときは、その温度の密度を使い、単純な水位差だけで判断しません。
温度センサーが注入口の近くにあると、局所的に熱い場所だけを測って目標へ達したと判断する場合があります。タンク全体の混合が十分かを調べ、測定位置と採取した水の温度を比べて記録を読み取ります。
蒸気の積算量が理論より大きい場合は、最初に容器の昇温と外部放熱を見積もりへ含めたかを見直します。次に、水面へ抜ける蒸気、未記録の流入出、物性の違いを分けると、増加の原因を追いやすくなります。
蒸気量は理論に近いのに製品温度が足りない場合は、流量計の換算条件や温度分布も調べる対象です。圧力補正の条件が違う表示値と質量計算を比較していないか、計測の単位と基準をそろえます。
| 計算の前に定めるもの | そろえる条件 |
|---|---|
| 水量 | 初期量か完成量か、質量か体積か |
| 蒸気状態 | 圧力基準、飽和/過熱/湿り、同じ表のh |
| 系統の境界 | バッチ/連続、蓄積、途中の補給と排出 |
| 熱負荷 | 水の昇温、容器の昇温、放熱、蒸発損失 |
| 製品条件 | 最終温度、濃度、許容する追加水と蒸気品質 |
| 設備容量 | 一回のkgと時間当たりkg/h、平均と最大負荷 |
よくある質問
直接加熱では、なぜ水量が増えるのですか?
蒸気が凝縮して液体の水となり、そのまま加熱する水へ混ざるためです。注入蒸気が全て凝縮して残るバッチでは、最終の温水は初期水と投入蒸気の質量を足した量になります。
全熱を使うなら、必要熱量を蒸気の全熱で割れますか?
蒸気は最後に目標温度の水として熱を持って残るので、その分を差し引く必要があります。分母には蒸気の入口エンタルピーから最終水のエンタルピーを引いた有効分を使います。
熱収支の方法と、有効熱量の方法はどちらが正しいですか?
同じ条件の質量と熱をそろえれば、二つは同じ式を別の形へ整理したものです。流入や排出が増える条件では、全ての流れを並べる熱収支の方法から考えると、抜けを見つけやすくなります。
直接加熱は、必ず間接加熱より省エネですか?
本例の潜熱だけを使う間接加熱より必要蒸気は少なくなりますが、最終水量と復水回収の条件が違います。設備全体の燃料、補給水、回収熱と製品条件をそろえて、同じ仕事に必要なエネルギーで比較します。
タンクを保温するだけでも、排出する水が必要ですか?
保温用の蒸気が凝縮して残れば、熱の損失を補う運転でも水量は増えます。液面を一定に保つなら、使用先へ送る温水や排出水も含め、増加分に対応する流れを質量収支で定めます。
まとめ
蒸気の直接加熱は、蒸気の熱が水へ渡ると同時に、凝縮した水の質量も加わる加熱方法です。質量保存と熱収支を一緒に立てる方法でも、有効エンタルピーで割る方法でも、同じ前提なら結果は一致します。
水10トンを10℃から60℃へ温める例では、蒸気約842kg、最終温水約10,842kgとなります。間接加熱との比較では、最終量と回収熱の違いをそろえ、実設備では水質・混合・液面と制御の条件も含めて評価します。
出典
- Spirax Sarco:蒸気直接注入の熱収支・質量増加・注入条件。
- Spirax Sarco:コイル・ジャケット加熱とドレン排出。
- Spirax Sarco:蒸気品質、湿りと配管内の異物。
- TLV:蒸気による加熱(直接加熱と間接加熱)。
- IAPWS:水と蒸気の産業用物性式IF97。本例の蒸気圧を絶対圧へ換算して比エンタルピーを算出。
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