公益通報者保護法の改正は2026年12月施行|製造業の内部通報Q&A

書類フォルダとペンが置かれた社内の相談室のテーブル

会社の不正などを通報した人を守る、改正公益通報者保護法が2026年12月1日に施行されます。通報を理由にした解雇や懲戒処分に刑事罰が付き、通報した人を探す行為そのものが禁じられます。

消費者庁の調査では、内部通報の制度を導入している事業者の3割が、窓口への年間受付件数を0件と答えています。施行に向けては、窓口を置くだけでなく、品質不正などの情報が実際に届く仕組みになっているかも問われます。

この記事では、施行日と変更点、検査データの改ざんは公益通報になるのか、会社の規模ごとの義務、罰則と禁止行為をQ&Aの形で整理します。

後半では、派遣社員や協力会社からの通報、品質不正を見逃さない窓口の設計、施行までの準備を取り上げます。

目次

改正公益通報者保護法はいつ施行され、何が変わるのですか?

施行日は2026年12月1日です。改正法の正式な名前は「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和7年法律第62号)で、2025年6月4日に成立し、同月11日に公布されました。

改正法の附則第1条は、施行日を「公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日」としています。2025年12月に施行期日を定める政令(令和7年政令第408号)が公布され、施行日は2026年12月1日と定められました。

図1:公布から施行までの流れ

法律だけでなく、指針と解説も改正版が出そろっています。

2025年6月11日改正法の公布令和7年法律第62号。同月4日に参議院で可決・成立
2025年12月施行期日の政令令和7年政令第408号。施行日が2026年12月1日に決まる
2026年3月31日指針・解説の改正事業者がとるべき措置を定めた指針と、その解説の改正版を公表
2026年5〜6月Q&A・ハンドブック消費者庁がQ&Aと、改正法に準拠したハンドブックを公表
2026年12月1日改正法の施行改正後の指針・解説も同じ日から適用

※消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」および各資料の日付による。

事業者がとるべき措置を具体化した指針(令和3年内閣府告示第118号)と「指針の解説」は、2026年3月31日に改正版が公表されています。指針の改正は、令和8年内閣府告示第15号です。

どちらも案ではなく確定した内容で、適用は改正法と同じ2026年12月1日からです。

変更点は、消費者庁の概要資料で4つの柱に整理されています。

図2:2026年12月施行の改正、4つの柱

罰則の新設と、通報をためらわせる行為の禁止が中心です。

体制整備の徹底従事者を指定しない事業者(300人超)に、勧告に加えて命令と罰則。立入検査の権限も新設。体制を働く人に周知する義務を条文に明記
通報者の範囲拡大業務委託を受けて働くフリーランスと、契約終了後1年以内の人を保護の対象に追加。契約解除や報酬減額などの不利益な取扱いを禁止
通報を妨げる行為への対処「通報しない」と約束させるなどの通報妨害を禁止し、その合意は無効。通報者を特定する目的の行為(探索)も禁止
不利益な取扱いの抑止・救済通報を理由に解雇・懲戒をした個人に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人に3,000万円以下の罰金。通報後1年以内の解雇・懲戒は通報が理由と推定

※消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)の概要」をもとに作成。公務員に関する改正は省略。

工場やメーカーにとって影響が大きいのは、次の3点です。通報を理由とする解雇・懲戒が会社と個人の両方の刑事責任になること、いわゆる犯人探しが法律で禁じられること、構内で働く個人事業主も通報者として保護されることです。

検査データの改ざんは「公益通報」の対象になりますか?

硬さ試験機に載せられた鋼の試験片と検査記録用紙

答えは「その行為がどの法律の罰則につながるかによる」です。公益通報とは、労働者などが不正の目的でなく、勤務先や取引先で起きている「通報対象事実」を通報することをいいます。

通報対象事実は、対象となる法律に定められた犯罪行為や過料の対象となる行為、あるいは最終的に刑罰や過料につながる行為です。対象となる法律は約500本あり、消費者庁が一覧を公表しています。

一覧には、製造業に関係の深い法律が数多く含まれます。

  • 製品の品質・表示:不正競争防止法、産業標準化法(JIS法)、計量法
  • 製品の安全:道路運送車両法、電気用品安全法、食品衛生法、医薬品医療機器等法
  • 働く人の安全と労働条件:労働安全衛生法、労働基準法
  • 環境:大気汚染防止法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法
  • 取引:独占禁止法、取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)

消費者庁のハンドブックは、犯罪行為の例として「自動車のリコールに関連する情報を隠ぺいすること」を挙げています。過料の対象となる行為の例には、「自動車会社が無資格者による完成検査を行うこと」を挙げています。どちらも道路運送車両法の違反です。

検査データの書き換えについては、商品の品質を誤認させる表示が不正競争防止法で刑事罰の対象とされており、内容によっては通報対象事実に当たり得ます。JISマークを付けた製品であれば、産業標準化法が関係する場合もあります。

一方で、顧客との契約仕様は満たしていないが法令の罰則には当たらない行為や、社内規程への違反にとどまる行為は、法律上の「公益通報」に当たらない場合があります。

検査や出荷判定を担う品質保証・品質管理の担当者であっても、その場で法律の当てはめまで判断するのは簡単ではありません。

そのため指針の解説は、窓口で受け付ける事項を法令違反だけでなく内部規程違反などにも広げ、公益通報に当たらない通報にも同じように対応することを推奨しています。通報する側に線引きをさせない設計が、品質不正を拾ううえでの前提になります。

通報先は3つあり、順番は問われない

通報先は、事業者の内部、権限のある行政機関、報道機関などの3つです。外に向かうほど、保護されるための条件が厳しくなります。

図3:3つの通報先と、保護されるための条件

内部への通報は「不正があると考えた」段階で保護の対象になります。

1号通報事業者の内部窓口、上司、役員、会社があらかじめ定めた社外の窓口など。不正があると思料すること
2号通報権限のある行政機関不正があると信じるに足りる相当の理由があること。または、不正があると思料し、氏名などを記載した書面を提出すること
3号通報報道機関など相当の理由に加え、内部や行政機関に通報すれば不利益な取扱いを受ける、内部に通報すれば証拠が隠滅されるおそれがある、などの事由があること
通報の順番は問われない。会社が「外部への通報は禁止」「必ず内部通報を先に」と強制することは、改正後は通報妨害に当たり得る。

※消費者庁の概要資料とQ&Aをもとに作成。条件の詳細は公益通報者保護法第3条第1項を参照。

窓口だけでなく、上司への報告も内部への公益通報に当たり得ます。班長や課長が部下から「この記録はおかしい」と打ち明けられた時点で、すでに通報を受けた立場になっている可能性があります。

書面で内部に通報してから20日たっても調査を行う旨の通知がない場合などは、報道機関などへの通報が保護される条件の一つになります。内部の窓口が信頼されなければ、情報は外へ出ていきます。

内部通報体制の整備は、どの規模の会社に何を求めていますか?

常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は、体制の整備が義務です。300人以下の事業者は努力義務とされています。この区分は現行法からあり、改正では違反したときの行政措置と罰則が強められました。

図4:会社の規模で変わること、変わらないこと

体制整備は規模で分かれますが、禁止行為は規模を問わず適用されます。

300人超
300人以下
従事者の指定
義務。違反には勧告、従わなければ命令と公表。命令違反は30万円以下の罰金(法人にも罰金)
努力義務。助言・指導・勧告の対象にはなる
窓口・規程・周知などの体制整備
義務。助言・指導・勧告、従わなければ公表
努力義務。助言・指導・勧告の対象にはなる
報告・検査
従事者の指定について報告徴収と立入検査(報告をしない、虚偽の報告、検査の拒否などは30万円以下の罰金)。その他の体制整備は報告徴収(報告をしない、虚偽の報告は20万円以下の過料)
報告を求められることがある。報告をしない、虚偽の報告は20万円以下の過料
不利益な取扱いの禁止
適用される
適用される
通報妨害・通報者探索の禁止
適用される
適用される

※改正後の公益通報者保護法第3条、第11条〜第11条の3、第15条〜第16条、第21条〜第24条と、消費者庁のQ&Aをもとに編集部が整理。細部は条文を確認してください。

人数の数え方には注意が要ります。消費者庁のQ&Aによると、パートやアルバイトも臨時の雇い入れでなければ「常時使用する労働者」に含まれます。派遣社員は、派遣先と派遣元の両方で人数に含まれます。

条文上、判定の単位は工場ではなく事業者です。正社員だけで数えると300人以下でも、パートや受け入れている派遣社員を加えると300人を超える場合があります。自社がどちらに当たるかは、早めに確かめておきたい点です。

従事者の指定と守秘義務

従事者(公益通報対応業務従事者)とは、窓口で受け付けた通報について受付・調査・是正を担い、通報者が誰かを特定させる情報を伝えられる人のことです。指針は、書面で指定するなど、本人に従事者であることが明らかになる方法で定めるよう求めています。

従事者には、通報者を特定させる情報を正当な理由なく漏らしてはならないという守秘義務があります。違反すると30万円以下の罰金の対象です。

消費者庁は2024年3月に、300人超の非上場事業者へ調査を行いました(有効回答2,373)。従事者指定の義務を「知っているが、担当者を指名していない」という回答が10.7%ありました。

理由で最も多かったのは「上司などに情報が共有されており、特段、不都合もないため」です。改正後は、この状態に対して、勧告に加えて命令や罰則が及び得ます。

指針が求める措置

指針は、体制整備の中身として次のような措置を挙げています。安全・品質・法令遵守を預かる工場長の責任範囲とも重なる内容です。

  • 部門横断の窓口を設け、調査・是正を担う部署と責任者を決める
  • 組織の長や幹部が関係する事案で、幹部からの独立性を確保する
  • 通報を受けたら必要な調査を行い、法令違反があれば速やかに是正する
  • 事案に関係する人を、通報対応の業務に関与させない
  • 不利益な取扱い、範囲外共有、通報妨害、通報者探索を防ぐ措置をとる
  • 是正した結果を通報者に通知する
  • 記録を保管し、体制を定期的に点検し、運用実績を働く人に開示する
  • 窓口や仕組みを周知し、従事者を教育し、内部規程に定めて運用する

範囲外共有とは、通報者を特定させる情報を、必要最小限の範囲を超えて共有することです。通報妨害と通報者探索を防ぐ措置は、今回の指針改正で加わりました。

通報した人への解雇・懲戒や「犯人探し」には、何が科されますか?

通報を理由とする解雇・懲戒には刑事罰が新設されました。通報妨害と通報者探索は、刑事罰はないものの法律で禁止されます。順に見ていきます。

解雇・懲戒は無効になり、個人と法人に刑事罰

事業者は、公益通報をしたことを理由として、労働者に解雇その他の不利益な取扱いをしてはなりません(第3条第1項)。このうち解雇と懲戒は無効とされます(同条第2項)。

さらに改正法は、この規定に違反して解雇・懲戒をした個人に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めました(第21条第1項)。法人には3,000万円以下の罰金が科され得ます(第23条第1項)。

行政の指導を経ずに罰則が適用され得る、いわゆる直罰です。

刑事罰の対象は、労働者に対する解雇と懲戒です。降格、不利益な配置転換、減給、嫌がらせなども不利益な取扱いとして禁止されていますが、刑事罰の対象にはなっていません。

改正後の指針は、不利益な取扱いを「地位の得喪」「人事上の取扱い」「経済待遇上の取扱い」「精神上・生活上の取扱い」の4つに分けて例示しています。

通報から1年以内の解雇・懲戒は「通報が理由」と推定される

公益通報をした日から1年以内に行われた解雇・懲戒は、公益通報を理由としてされたものと推定されます(第3条第3項)。行政機関や報道機関などへの通報の場合は、事業者がその通報を知った日から1年以内です。

図5:通報後に解雇・懲戒をした場合の扱い

裁判では、会社の側が「通報が理由ではない」と示す必要があります。

労働者が公益通報をする内部の窓口や上司、行政機関、報道機関などへ
1年以内
会社がその労働者を解雇・懲戒する外部への通報の場合は、会社が通報を知った日から1年以内
推定
公益通報を理由とした解雇・懲戒と推定会社が「通報が理由ではない」ことを主張・立証できなければ、通報が理由と認定される
通報が理由と認められると
無効解雇・懲戒の効力が否定される
個人に刑事罰6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
法人に罰金3,000万円以下

※推定の規定(第3条第3項)は民事訴訟上のもので、対象は労働者への解雇・懲戒に限られます。刑事罰の成立は別に判断されます。

消費者庁のQ&Aは、この規定の理由を、人事関係の資料を会社が持っている以上、労働者の側から「通報が理由だった」と立証するのは難しいためと説明しています。

通報後の人事上の判断は、根拠と経過を記録に残すことが、これまで以上に重要になります。

「通報しない」誓約と通報者探しの禁止

改正法は、正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意を求めることや、通報したら不利益に扱うと告げることなどで通報を妨げる行為を禁じました(第11条の2)。これに違反してされた合意は無効です。

あわせて、正当な理由なく、公益通報者である旨を明らかにするよう求めることなど、通報者を特定することを目的とする行為も禁止されます(第11条の3)。どちらの禁止も、会社の規模にかかわらず適用されます。

指針の解説は、「正当な理由」が認められるのは限定的な場合にとどまるとしています。

探索については、匿名の通報で次のような場合が例に挙がっています。通報者がどの場面で不正を認識したかを特定しなければ調査や是正ができないときに、守秘義務を負う従事者が尋ねる場合です。

ここからは架空の想定例です。ある部品メーカーの外部窓口に、「検査課で硬さ試験の不合格値が合格値に書き換えられている」という匿名の通報が入ったとします。

このとき製造部長が朝礼で「誰が言ったのか名乗り出てほしい」と求めたり、勤務表と通報の時刻を突き合わせて人を絞り込もうとしたりすれば、通報者探索に当たり得ます。

従事者が行うべきなのは、誰が言ったかの確認ではなく、試験機の記録と検査成績書を照合するといった事実の確認です。

通報妨害と通報者探索には、条文上、刑事罰は定められていません。ただし改正後の指針は、これらを防ぐ措置をとることと、行った人に懲戒処分その他の適切な措置をとることを事業者に求めています。

周知の文面にも注意が必要です。消費者庁のQ&Aは、「まずは上司に通報」「窓口に通報する前に上司への通報が必須」といった案内は制度の趣旨にそぐわず、避けるべきとしています。

派遣社員・協力会社・フリーランスからの通報はどう扱いますか?

いずれも公益通報者になり得ます。工場には雇用形態の異なる人が同じ構内で働いているため、「自社の正社員だけの制度」と捉えていると、対象を取りこぼします。

図6:工場で公益通報者になり得る人

フリーランスが、2026年12月から新たに加わります。

自社の労働者
従来から正社員、契約社員、パート、アルバイト。勤務先の不正を通報できる
派遣社員
従来から派遣先での不正を派遣先に通報できる。派遣契約の解除や交代の要求は禁止
退職者
従来から退職後1年以内の人。勤めていた会社の不正を通報できる
役員
従来から取締役、監査役など。報酬の減額などの不利益な取扱いは禁止
協力会社・取引先の労働者
従来から請負契約や継続的な納入契約などに基づく事業に従事する人。発注側での不正を通報できる
フリーランス
今回追加業務委託を受けて働く特定受託業務従事者と、契約終了後1年以内の人

※改正後の公益通報者保護法第2条第1項、第4条〜第6条をもとに作成。

新たに加わる「特定受託業務従事者」は、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の定義を引用したものです。

消費者庁のQ&Aは、一人親方や、車両を持ち込む運転手のように、従業員を使わず一人で事業を行う人が該当し得ると説明しています。

事業者は、フリーランスが公益通報をしたことを理由に、業務委託契約の解除、取引数量の削減、取引の停止、報酬の減額などをしてはなりません(第5条)。設備の据付や修理、設計の一部などを個人に委託している工場では、そうした人も対象になり得ます。

協力会社の社員については、Q&Aに次のような整理があります。請負契約に基づいて発注側の工場で働く協力会社の社員が、発注側の法令違反を発注側に通報した場合、公益通報として保護されます。

発注側はその社員に損害賠償を請求できず、雇用元の協力会社も不利益な取扱いをしてはなりません。

協力会社との取引条件を定める取適法も、通報の対象となる法律に含まれています。発注する側の購買部門にとっても、通報は無関係な話ではありません。

窓口を知らせる相手を広げる

改正後の指針は、窓口の連絡先などを周知する相手に、フリーランスと、契約が終わったフリーランスを加えました。解説は周知の方法として、業務委託契約の書面やメールに窓口の連絡先を記載する方法を挙げています。

取引先からの通報の受付は、まだ広がっていません。消費者庁の実態調査(2023年12月実施)では、制度を導入している2,448事業者のうち、取引先の従業員・役員からの通報を受け付けているのは41.1%でした。

子会社を持つメーカーでは、親会社にグループ共通の窓口を置く方法もあります。解説によると、その場合は子会社自身の内部規程で共通窓口を自社の窓口と定めておくことと、通報対応の責任者を子会社自身で決めておくことが必要です。

品質不正を見逃さない窓口は、どう設計すればよいですか?

机に積まれた検査記録のバインダーとノギスの俯瞰

手がかりになるのが、消費者庁が2024年3月に公表した「企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析」です。2019年1月以降に公表された不祥事の調査報告書265本を集め、通報が機能しなかった要因を5つに整理しています。

報告書には、検査不正や品質不正の事案からの引用が多く含まれています。企業名は伏せられていますが、指摘の内容はどの工場にも当てはまり得るものです。

図7:通報が機能しなかった5つの要因と、工場での打ち手

調査報告書で繰り返し指摘された点を、打ち手と並べました。

調査報告書で指摘されたこと
工場での打ち手
規範意識の鈍麻
「そういうもの」として前任者から引き継ぎ、問題だと考えなくなる
自社の工程で起こり得る具体例を使って研修する。新任者や異動者に聞き取りやアンケートを行う
窓口の問題
子会社から親会社へ通報する手段がない。「まずは上司に相談」と周知している
グループ会社や協力会社にも窓口を開く。上司への報告を前提にしない。匿名のままやり取りできる手段を用意する
制度の認識不足
窓口の存在を知らない。ハラスメントの窓口だと思われている
品質・検査・環境の法令違反も対象だと明記する。ポスターや携行カード、理解度の確認を続ける
心理的な要因
通報者が特定される不安。「言えば話が大きくなる」という出荷停止などへの恐れ
早く見つけるほど影響が小さいことを経営トップが発信する。守秘義務と探索の禁止を知らせ、社外の窓口を置く
通報後の対応
受けた側の思い込みで取り合わない。調査する人に権限がない
調査部署に権限と独立性を持たせる。関係者を調査から外す。窓口以外に届いた情報の扱いも決めておく

※消費者庁「企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析」(2024年3月)の指摘と提言をもとに作成。

窓口の使われ方を示す数字もあります。先の実態調査では、制度を導入している事業者のうち、年間の受付件数が「0件」は30.0%、「1〜5件」は29.3%でした。「把握していない」を合わせると約65%になります。

一方で、不正を見つけたきっかけを複数回答で尋ねると、制度を導入している事業者の76.8%が「内部通報」を挙げ、「内部監査」の52.0%を上回りました。不正発見のきっかけとして、内部通報は内部監査よりも多く挙げられていることになります。

同じ調査は、トップメッセージの発信と研修の両方を行っている事業者(制度を導入している事業者の21%)で、受付件数が多い傾向があるとしています。

なお、この調査は回答が任意で、取り組みの進んだ事業者ほど回答しやすい偏りを排除できない、と資料自身に注記があります。

窓口をハラスメントの相談窓口と兼ねることは認められています。カスタマーハラスメント対策や求職者へのセクハラ防止措置でも相談体制の整備が求められており、一本化する会社もあるでしょう。

その場合は、ハラスメント専用の窓口だと誤解されないように周知することが、解説で求められています。

通報を受けた後の調査で気をつけること

品質不正の調査では、再検査や記録の照合を現場の人に頼む場面が出てきます。解説は、社内調査で品質の再検査を行う人のように、通報の内容を伝えられたにとどまる人は、従事者として指定する対象には当たらないとしています。

ただし、そうした人も範囲外共有をしてはならない義務を負います。誰に、どこまで伝えるかを先に決めてから動くことが欠かせません。

解説は、調査のきっかけが通報だと分からないようにする工夫として、次のような方法を挙げています。

  • 定期的な監査や職場環境の調査と合わせて調べる
  • 抜き打ちの監査の形をとる
  • 該当する部署以外にも調査を行う
  • 核心の部分ではなく、周辺から調査を始める

通報者への通知も仕組みに入れておきます。指針は、書面による通報を受けて是正措置をとったときや、通報対象事実がなかったときに、支障のない範囲で速やかに通知することを求めています。

消費者庁の就労者1万人アンケート(2023年11月)では、通報を後悔した理由の最多が「調査や是正が行われなかった」でした。

通報だけに頼らない

通報は、不正が起きた後の検知の手段です。経済産業省は2017年10月以降に製品検査データの書き換えなどの事案が相次いだことを受け、同年12月に「製造業の品質保証体制の強化に向けて」を公表しました。

2018年版ものづくり白書によると、その後、複数の業界団体が品質に関するガイドラインを策定しました。

品質担当役員の設置、品質保証部門の独立性の担保、現場と経営層で課題を共有する体制、人の手を介さない検査・記録システムの推進などが盛り込まれています。

書き換えができない記録の仕組みと、おかしいと感じた人が声を上げられる窓口は、片方だけでは足りません。両方をそろえて、はじめて品質不正への備えになります。

施行までに何を準備すればよいですか?

2026年12月1日までに、現状の確認、規程と契約書の見直し、運用の点検の順で進めるのが現実的です。消費者庁は、改正法に準拠したハンドブックのほか、内部規程のサンプルや研修動画を公表しています。

図8:施行までの準備ステップ

現状の確認から始め、規程、運用の順に整えます。

現状を確かめる
01義務の対象かを確認常時使用する労働者の数を、パートと派遣社員を含めて数える
02窓口と規程の棚卸し改正後の指針と照らし、足りない項目を洗い出す
03従事者の指定を確認書面で指定しているか、守秘義務を本人が理解しているか
規程と契約を直す
04内部規程の改定通報妨害・通報者探索の禁止と、行った人への処分を定める
05誓約書・契約書の点検通報を禁じる、または順序を強制する条項がないかを見る
06周知先の拡大フリーランスや協力会社にも窓口の連絡先を知らせる
運用を回す
07管理職の研修部下から打ち明けられたときの動き方と、してはならない言動
08人事手続の点検解雇・懲戒の根拠と経過を記録に残す運用にする
09実績の開示と見直し受付件数や是正の有無を開示し、体制を定期的に点検する

※改正後の指針・指針の解説の項目をもとに整理した一例です。自社に必要な対応は、規模や体制によって変わります。

05の点検では、入社時の誓約書、退職時の合意書、秘密保持契約などが対象になります。解説は、あらかじめ誓約書などで公益通報が禁じられていると、自発的な通報は望めなくなると指摘しています。

07の研修は、班長や課長といった現場の管理職まで含めるのが要点です。上司への報告が公益通報に当たり得る以上、最初に通報を受けるのは窓口ではなく現場の管理職かもしれないからです。

300人以下の会社はどう進めるか

300人以下の事業者にとって、体制の整備は努力義務です。ただし、不利益な取扱いの禁止と刑事罰、通報妨害と通報者探索の禁止は、規模にかかわらず適用されます。

消費者庁の実態調査では、300人以下の事業者の導入率は46.9%でした。導入していない理由は「努力義務にとどまるから」が約半数で最多です。

指針の解説は、中小企業向けの方法として、数社が共同で社外に窓口を委託することや、事業者団体や同業者組合で共通の窓口を設けることを挙げています。経営者と従業員の距離が近い会社ほど、経営者から独立した受け皿を外に置く意味は大きくなります。

迷ったときの相談先

制度についての質問は、消費者庁の「公益通報者保護制度相談ダイヤル」で受け付けています。電話番号は03-3507-9262で、受付は平日9時30分〜12時30分・13時30分〜17時30分です。個別の通報の受付は行っていません。

この記事は、2026年10月1日時点で公表されている資料をもとにした一般的な解説です。個別の事案が公益通報に当たるか、自社の規程や運用が法律と指針に適合しているかは、弁護士などの専門家に確認してください。

まとめ

この記事のまとめ
  • 改正公益通報者保護法は2026年12月1日に施行され、指針と解説も改正版が確定している
  • 通報を理由とする解雇・懲戒は無効で、個人に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人に3,000万円以下の罰金
  • 通報しない旨の誓約を求めることや、通報者を探す行為は、会社の規模を問わず禁止される
  • 派遣社員、協力会社の社員に加え、フリーランスも通報者として保護される
  • 品質不正を拾うには、対象を広く取った窓口、現場の管理職への研修、書き換えられない検査記録をそろえる

内部通報の窓口は、置いただけでは機能しません。検査や記録の現場にいる人が「言っても大丈夫だ」と思えるかどうかで、不正が小さいうちに見つかるかが決まります。職場づくりの面では製造業の働き方改革の取り組みともつながる話です。

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