安全弁の揚程式と全量式の違いは、弁が上がる量(リフト)と、流量を決める場所です。揚程式は弁体と弁座のすき間で、全量式は入口のノズルの細い部分(のど部)で流量が決まります。
安全弁とは、内部の圧力が設定した値を超えるとばねに打ち勝って開き、圧力を逃がす弁です。機器や配管の圧力が上がりすぎるのを防ぐ役割はどちらの方式も同じですが、同じ呼び径なら、全量式は揚程式の4〜5倍の量を吹き出せます。
この記事では、揚程式と全量式の定義と違い、安全弁の仕組みと構造、使い分けとボイラーでの決まり、よくある質問の順に整理します。
揚程式と全量式の違い
安全弁の揚程式と全量式の定義は、JIS B 8210(安全弁)で定められており、現行版は2025年2月25日に改正されたもので、2017年版を置き換えました。2025年版の対象は、設定圧力0.1MPa以上で、のど部の径が7mm以上の全量式と、弁座口の径が15mm以上の揚程式です。
次の定義は、メーカーの技術資料が引用している2017年版のもので、2025年版の定義の文言は、公開されているプレビューの範囲では確認できません。
揚程式:安全弁のリフトが弁座口の径の1/40以上1/4未満で、弁体が開いた時の流路面積の中で弁座流路面積(カーテン面積)が最小となる安全弁。
全量式:弁座流路面積が、のど部の面積より十分大きなものとなるようなリフトが得られる安全弁。
図にすると次のとおりです。左が揚程式、右が全量式です。
揚程式は弁体と弁座のすき間、全量式はノズルののど部が、いちばん狭い流路になります。
※構造を単純化した模式図です。実際の製品は、加減輪や弁体の形がメーカー・型式で異なります。
揚程式は、圧力が設定値を超えてもリフトが小さく、弁座と弁体のすき間が最小の面積であるため、流量は、このすき間の大きさに左右されます。対して全量式は、リフトが大きく一気に上まで持ち上がるので、すき間は流れの妨げになりません。流量を決めるのは、下にあるノズルののど部の面積です。
このすき間の面積(カーテン面積)は、弁座口をぐるりと囲む円筒の側面と考えると計算できます。ボイラー構造規格の解釈を示した厚生労働省の通達でも、揚程式の有効な吹出し面積を次の式で示しています。
この比に、JIS の境界の数字を入れると次の図になり、リフトが弁座口の径の1/4に達すると、すき間の面積が弁座口の面積と等しくなります。
弁座口の面積を100%としたとき、すき間(カーテン面積)が何%になるかを比べました。
※比=4ℓ/D で計算。D/40 は揚程式の下限、D/4 は揚程式の上限(JIS B 8210:2017 の定義)、D/15 はボイラー構造規格 第64条が JIS 適合を求める揚程式の条件です。
リフトが1/4より小さいうちは、すき間が弁座口より狭いので、すき間が流量を決め、これが揚程式の範囲です。海外メーカーの解説でも、リフトが弁座口の径の1/4以上になると、すき間は流量に影響しなくなるとしています(full lift)。
全量式は、すき間が「のど部の面積より十分大きく」なるまで上がり、すき間が流れを絞らなくなるので、のど部が流量を決めます。メーカーの資料では、同じ呼び径なら全量式の公称吹出し量は揚程式の4〜5倍とされています。公称吹出し量とは、その安全弁が保証する吹出し量のことです。
安全弁の仕組みと構造
揚程式も全量式も、開く仕組みは同じで、入口の圧力が弁体を押し上げる力と、ばねが弁体を押さえる力の釣り合いで動きます。押し上げる力は「入口の圧力×弁座の面積」で、この力がばねの力を上回ると、弁体が浮いて流体が逃げます。ばねを強く締めるほど、開く圧力(設定圧力)は高くなる関係です。
ばねで弁体を弁座に押し付け、設定圧力を超えると弁体が持ち上がる構造です。
※構造を単純化した模式図です。全量式には加減輪が2か所あるものもあり、部品の名前や形はメーカーで異なります。
各部品は、開く・一気に開く・閉じるのどこかの動きに関わっています。
- ばね・調整ねじ:弁体を押さえる力をつくる。調整ねじで締め具合を変え、設定圧力を決める
- 弁体・弁座:閉じているときに流体を止める面。ここにごみやキズがあると漏れの原因になる
- 弁棒:ばねの力を弁体に伝え、弁体がまっすぐ上下するよう案内する
- 加減輪:弁座のまわりの調整用の輪。一気に開く動きや、閉じる圧力(吹下り)を調整する
- 試験レバー・キャップ:レバーで弁体を持ち上げ、固着していないかを確かめる。キャップは調整部を覆う
蒸気やガス用の安全弁は、少し開いたところで「ポン」と一気に全開する(ポップ作動)のが特徴です。弁座からもれ出た流体が、弁体のつばと加減輪で囲まれた部分にたまり、押し上げる面積が広がるためです。
開いたあとは、流体の向きが変わる力も加わって弁体はさらに上がり、圧力が下がると、ばねの力で弁体が戻って閉じ、この一連の流れと圧力の名前は、次のとおりです。
圧力が上がって開き、下がって閉じるまでの4段階です。
※用語はメーカー(ベン)の技術資料によります。液体・気体用では、微量に流れ出た時の圧力(吹始め圧力)を設定圧力とします。
設定圧力の決め方は、安全弁の正しい設定圧力で詳しく解説しています。
揚程式と全量式の使い分けは?
揚程式と全量式の違いを表にまとめました。
同じ呼び径でも、吹き出せる量と、それに伴う大きさ・価格が違います。
※公称吹出し量の比はメーカー(ベン)の技術資料によります。呼ばれ方は業界での通称の例で、価格差は口径・材質・メーカーで変わります。
使い分けとして明確に決められているものはなく、JIS B 8210 も「製品規格であり,安全弁の使い方に適用するものではない」としています。一般的に、瞬間的に大容量の蒸気を放出しなければならないボイラーなどでは、全量式を用います。同じ口径で多く吹き出せるので、安全弁を小さく、少なくできるからです。
一方で、使う場所ごとの決まりは法令にあり、ボイラーなら、次のボイラー構造規格(厚生労働省告示)が安全弁の数や付け方を定めています。
対象となるボイラーや部分ごとに、求められることが違います。
※平成15年厚生労働省告示第197号(令和7年厚生労働省告示第291号で一部改正、令和8年4月1日適用)の第62〜65条を要約したものです。適用の細部は条文と通達で確認してください。
第64条は、全量式だけでなく、リフトが弁座口の径の1/15以上の揚程式も並べて JIS への適合を求めているため、ボイラーでも揚程式が使えないわけではありません。
厚生労働省の通達(令和7年11月7日 基発1107第5号)では、蒸気ボイラーの安全弁の吹出し量を、そのボイラーの最大蒸発量以上とすることとしています。吹出し量が足りなければ、安全弁を大きくするか数を増やし、蒸発量の考え方は換算蒸発量とボイラーの能力で整理しています。
揚程式は、ポンプの二次側など液体に使う場面でよく使われ、逃がし弁と呼ばれるものは、揚程式であることが多いです。液体用の逃がし弁(レリーフ弁)は、開き方そのものが違い、一気に開くのではなく、圧力の上昇に応じて少しずつ開きます。液体はほとんど縮まないので、少し逃がすだけで圧力が下がるためです。
揚程式は気体にも使えますが、気体は比体積が大きく、液体に比べて圧力を下げるのに時間がかかるので、全量式を使うのが無難です。どちらを使うかは、用途を明確にして安全弁メーカーに問い合わせ、その際、次の条件をそろえておくと話が早く進みます。
- 流体の種類と状態(飽和蒸気・過熱蒸気・空気・ガス・液体)と温度
- 設定圧力と、通常の運転圧力
- 逃がす必要がある量(ボイラーなら最大蒸発量)
- 出口側の条件(大気に放出するか、配管で回収するか、背圧)
- 適用される法令(ボイラー構造規格、圧力容器構造規格、高圧ガス保安法など)
必要な口径の決め方は安全弁の呼び径は何で決まるかで解説していて、安全弁の位置や系統は、P&ID(配管計装図)の読み方を押さえておくと図面で追えます。
安全弁のよくある質問
ボイラーの安全弁と逃がし弁の違いは?
ボイラー構造規格では、ボイラーの種類と水の温度で使い分けが決まっています。蒸気ボイラーには安全弁、水の温度が120℃以下の温水ボイラーには逃がし弁を付けます。
120℃以下でも、検査しやすい位置に逃がし管を備えた温水ボイラーは、逃がし弁がなくてもかまいませんが、120℃を超える温水ボイラーには安全弁を付けます。温水ボイラーの特徴は温水ボイラーと給湯器の違いで紹介しています。
安全弁はなぜ縦向きに付ける?
ばねと弁体がまっすぐ上下に動く前提でつくられているからで、ボイラー構造規格も、安全弁は本体に直接取り付け、弁軸を鉛直にするよう定めています。メーカーの資料でも、安全弁は原則として垂直取付のみとされており、横倒しや斜めの取付は、作動不良の原因になります。
設定圧力より低いのに漏れるのはなぜ?
よくある原因は、弁体と弁座の当たり面のキズで、ごみやスケールをかみ込んでキズが付くと、設定圧力より低くても漏れが出ます。
運転圧力が設定圧力に近すぎることも原因になり、海外メーカーの技術解説では、気密を保つには運転圧力を一般に設定圧力の95%以下にするとしています。漏れが続くときは、定期修理で分解整備や設定の確認をします。
プラントの定修(定期修理)では、安全弁の整備や作動の確認も工程に入り、点検周期の考え方は設備保全のTBMとCBMが参考になります。
安全弁のレバーは何のため?
弁体を手で持ち上げ、安全弁が作動できるか、固着していないかを確かめるためのものです。国内メーカー(ベン)の資料では、一次側の圧力が設定圧力の75%以上あるときに操作するとしています。操作してよい圧力や頻度は製品によって違うので、使っている安全弁の取扱説明書で確かめてください。
まとめ
- 揚程式はリフト量・吹出し量が小さい。弁体と弁座のすき間が流量を決める
- 全量式はリフト量・吹出し量が大きい。同じ呼び径で揚程式の4〜5倍を吹き出せる
- リフトが弁座口の径の1/4でカーテン面積が弁座口の面積と等しくなり、ここが揚程式の上限
- 安全弁は、圧力が弁体を押す力がばねの力を上回ると開く。蒸気用は一気に開く(ポップ作動)
- 用途によって使い分ける。ボイラーは構造規格で、安全弁の数・付け方・JIS 適合が決まっている
どちらの方式が合うかは、流体・設定圧力・必要な吹出し量で決まるので、条件をそろえて、安全弁メーカーに相談するのが確実です。選定の手順は安全弁の選定方法で解説していて、ボイラー全体のしくみはボイラーとは何かにまとめています。
出典
出典・参考資料(6件)を開く出典・参考資料を閉じる
- JIS B 8210:2025 の改正日・適用範囲・製品規格であること:日本規格協会「JIS B 8210:2025 安全弁」プレビュー
- 揚程式・全量式の定義(JIS B 8210:2017)、公称吹出し量の比、用語、レバー・取付方向:株式会社ベン「自動弁へのアプローチ 安全弁編」
- 安全弁・逃がし弁の設置、取付位置、JIS 適合と銘板:厚生労働省「ボイラー構造規格」(平成15年厚生労働省告示第197号)
- 吹出し量は最大蒸発量以上、揚程式の有効吹出し面積 πDℓ(第62条関係):厚生労働省「ボイラー構造規格等の一部改正について」(令和7年11月7日 基発1107第5号)
- リフトの区分(full lift は弁座口の径の1/4以上):Spirax Sarco「Types of safety valve」
- 開く力の釣り合い、ポップ作動の仕組み、運転圧力と設定圧力の目安:Baker Hughes「Operational Basics of Safety Valves」(Valve Magazine 2024年5月)
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