ゼーベック効果とは?熱電対の原理と起電力の計算・冷接点補償

工業炉の外壁に取り付けられた温度センサー

ゼーベック効果とは、導体や半導体に温度差を与えると電圧が生じる現象です。異なる二つの材料を組み合わせると、その電圧の差を取り出せます。

工場の温度測定で使う熱電対も、この効果を利用しています。原理を理解すると、測定端子の温度を補償する理由や、配線を交換するときの注意点もつながります。

動画の「温度差に比例」は、係数を一定とする近似です。長さ・太さ・途中の温度分布に依存しないのは、均質な材料で両端温度を固定した開放起電力です。電流は抵抗にも依存します(NIST、2.1節)。

目次

ゼーベック効果とは?

二種類の金属の両端を接続し、二つの接点を異なる温度にすると、回路に熱起電力が生じます。回路が閉じていれば、その起電力によって電流が流れます。

一方、回路を途中で開いて電圧計をつなぐと、ほとんど電流を流さずに電圧を測れます。熱電対の計測では、主にこの開放電圧に近い値を読み取っています。

したがって、ゼーベック効果を「温度差で電流が流れる現象」と覚えるだけでは不十分です。まず温度差による起電力があり、電流の大きさは回路の抵抗などで決まります。

熱電対は電池のように化学反応で電圧を得るセンサーではありません。測温に必要な起電力を自ら生じますが、表示器や伝送器を動かす電源は別に必要です。

温度センサーには、抵抗の変化を読む測温抵抗体もあります。測定範囲や精度、配線方式を比較するときは、熱電対と測温抵抗体の違いを併せて整理すると選びやすくなります。

ゼーベック効果の原理

原理を考える出発点は、「温度差がある材料には電位差が生じる」「その大きさは材料で異なる」の二つです。異種金属の接合部だけを小さな発電機として考えると、配線全体の働きが見えなくなります。

温度勾配で電荷の分布が変わる

金属の一端を熱くすると、電気を運ぶ電子の移動に偏りが生まれます。電子の拡散に伴う電荷の偏りが電界をつくり、開放状態では電位差を保った状態に落ち着きます。

これは電子が一度だけ移動して終わるという意味ではありません。高温側と低温側の状態を維持することで、熱の移動と結び付いた電位差が保たれます。

図1 温度差のある材料で電位差が生じる

電子が主な電荷担体となる材料の定性的な模式図。材料によって電圧の符号や大きさは異なる。

高温側低温側 熱による電子の拡散電荷の偏り → 電位差+−

電位差は温度勾配のある材料に生じる。図の電子数や分布は実際の密度を表さない。

温度差に対してどれだけの電位差を生むかを表す量が、ゼーベック係数です。単位にはV/KやµV/Kを使い、温度差1Kあたりの電圧として捉えます。

温度の差については、1Kと1℃は同じ大きさです。たとえば25℃から125℃への変化は100Kであり、絶対温度へ換算しても差は変わりません。

二つの材料の電圧の差を取り出す

金属Aと金属Bの端をつなぎ、接点αを低温のT1、接点βを高温のT2に保ちます。二本が同じ温度範囲を通っていても、材料が違えば生じる電位差は異なります。

ここではβからαへ向かう起電力が、Aで15µV、Bで10µVだったと仮定します。回路を一周すると二つは逆向きに作用するため、差の5µVが回路全体の起電力になります。

図2 15µVと10µVが一周では差し引きされる

二種類の材料を同じ二接点でつないだ閉回路。数値は原理を説明する仮想例。

β:T₂α:T₁高温低温 金属A:β→αに15µV金属B:β→αに10µV 一周:15 − 10 = 5µVαで開くと A側+、B側−(5µV)

電流の値は5µVだけでは決まらず、二本の材料や接点、負荷の抵抗にも依存する。

AもBも同じ材質で、同じ温度範囲なら、それぞれの起電力は打ち消し合います。異種材料を使う理由は、単に金属を二本用意するためでなく、熱電特性の差を得るためです。

この考え方では、電圧の符号を決める向きも大切です。測定器のプラス端子とマイナス端子を逆にすると読み値の符号が反転するため、図と式では同じ向きで比較します。

長さや太さが効く場面を分ける

材料が均質で、係数が温度だけで決まるなら、開放時の熱起電力は両端の温度で決まります。途中の温度分布や線の長さ、太さを直接掛けて求める量ではありません。

ただし、線を長く細くすると電気抵抗は増えます。閉回路を流れる電流や負荷に取り出せる電力まで同じになるわけではなく、電圧の話と分けて考えます。

たとえば起電力5µV、回路全体の抵抗10Ωと仮定すると、電流は0.5µAです。同じ起電力で抵抗が20Ωになれば0.25µAとなり、起電力が変わらなくても電流は半分になります。

この単純な例では、温度差を保ち、電流による熱的な影響を無視しています。温度計の電圧入力に高い入力抵抗を持たせるのは、センサーから電流を取り過ぎずに電圧を読むためです。

熱で線材が変質して場所ごとの特性が変わると、温度勾配がどこに掛かるかも誤差に影響します。熱電対を挿し直した後の読み値の変化には、この不均質の影響も含まれます。

ゼーベック効果の使用例

熱電温度計は基準側の温度も使う

代表的な用途は、二種類の金属線の先端を接合した熱電対による温度測定です。先端の測温接点を対象へ入れ、反対側を計器に接続して微小な電圧を読み取ります。

ここで得られる電圧は、測温接点だけの温度に対応する量ではありません。先端と基準側の両方の温度に依存するため、端子側の温度が分からないままでは先端温度を一つに決められません。

基準側を0℃に保つ方法には、氷と水が共存する状態を使う氷点基準があります。普通の冷水に浸すだけでは0℃にならず、水の温度や周囲との熱交換の影響が残ります。

工場で基準部を氷水に入れ続ける代わりに使うのが、冷接点補償です。計器の端子付近の温度を別の温度センサーで測り、0℃基準に換算する電圧を演算で補います。

図3 冷接点補償で見るのは端子の温度

炉内の測温接点から計器まで、異種線をそれぞれの端子へ接続する。端子付近に補償用センサーを置く。

炉内:測温接点 Tₕ 熱電対線A熱電対線B 計器・伝送器 微小電圧入力端子温度 T꜀ + 電圧 → 演算 補償用温度センサー A・Bから計器側導体へ変わる端子部を同じ温度に保つ

端子間の温度差や、端子と補償センサーの温度差は誤差の要因になる。実際の端子配置は機器ごとに異なる。

補償は、測った温度差へ端子温度をいつも単純加算する処理ではありません。温度と起電力の関係を用い、端子温度に相当する起電力を足してから、測温接点の温度へ戻します。

横河電機の温度伝送器の説明書でも、通常は内部温度センサーが測る端子台温度をCJCに使います。冷接点という名前でも、端子が必ず冷たい場所や0℃にあるという意味ではありません。

設置と信号の扱いで測定を安定させる

熱電対にはB、R、Kなどがあり、材料の組合せによって起電力特性と使用できる温度範囲が異なります。対象温度に合う種類を選び、計器の入力設定も同じ種類に合わせます。

たとえばK熱電対をR入力へ接続すると、導通があって電圧を読めても、別の特性で温度に換算されます。表示の有無だけで判断せず、センサーの記号と入力設定の一致を見ることが最初の切分けです。

計器の点検でmV信号を模擬入力するときも、冷接点補償の扱いを決めておきます。単なるmV出力と熱電対温度を模擬する校正器の機能では、端子温度をどこで補うかが異なります。

高温に耐える素線を選んでも、測定対象との熱のやり取りが不十分なら対象温度を正しく捉えられません。サーモウェルの挿入長や応答も含め、取付け側の条件を考えます。

二つの素子を持つダブルエレメントの温度センサーでは、それぞれの出力を別々に扱えます。同じ保護管の中にあっても、二組の信号を短絡して一つの出力として使う構成にはしません。

熱電対の出力は小さいため、周囲の電力配線から入る雑音にも気を配ります。シールド線の役割と接地を整理し、信号線の敷設や端末処理を計器の指定に合わせます。

長距離では、現場の温度伝送器で測温値を4–20mA信号へ変換して送る方法もあります。熱電対線を流れる微小信号と、伝送器が送り出す電流信号は別の段階です。

電位差のある機器間では、信号の絶縁も検討対象になります。アイソレータの働きを理解したうえで、熱電対対応の入力機能と冷接点補償の有無を組み合わせて選びます。

作業台に置いた温度プローブと二端子の接続頭部
温度プローブと端子部のイメージ。熱起電力と端子温度を扱う配線は図3で示す。

熱電発電では冷却側も必要になる

ゼーベック効果は温度を測るだけでなく、排熱から電力を取り出す熱電発電にも使います。小さな電圧を加算するため、複数の熱電素子を電気的に直列接続してモジュールにします。

発電では高温側を加熱するだけでなく、低温側から熱を逃がすことも必要です。両面が同じ温度になると温度差がなくなり、ゼーベック効果による電圧を取り出せなくなります。

図4 排熱から電力を得るには熱の出口もつくる

p型・n型の熱電材料を電気的に直列につないだ一対の模式断面。モジュールではこの対を多数並べる。

高温側:排熱を受けるpn 負荷 低温側:空気や冷却水へ放熱 熱 ↓電気は一周熱は上→下

p・n脚は電気的に直列、熱的に並列。両脚に同じ高温側・低温側の温度差が掛かる。得られる電力は材料特性や熱抵抗・電気抵抗にも依存する。

産総研は工業炉や焼却炉などの排熱を使い、低温側に空冷機構を設けた熱電発電装置を研究しています。熱源の温度だけで出力を判断せず、冷却方法を含む装置全体として考える例です。

一方、電流を流して接合部で吸熱・放熱させるのがペルチェ効果です。温度差から電気を得るゼーベック効果と関係しますが、抵抗で発生するジュール熱とは区別します。

ゼーベック効果による起電力の計算

実際のゼーベック係数は温度で変わるため、基本式では温度範囲に沿って積分します。まずAとBを同じ向きで表し、その差から回路全体の起電力を求めます。

係数が温度で変わる場合の基本式

ここではT2が高温側、T1が低温側です。VAとVBは、それぞれ高温βから低温αへ向かう起電力と定義します。図2ではAをβ→α、Bをα→βへたどる時計回りを正にします。

各材料に対応する起電力
VA = ∫T₁T₂ SA(T) dT
VB = ∫T₁T₂ SB(T) dT
VA・VB:同じ向きで表した各材料の起電力[V] SA(T)・SB(T):各材料のゼーベック係数[V/K] T:温度[K] T1・T2:積分範囲の低温側・高温側温度[K]
二つの材料を組み合わせた回路の起電力
V = VA − VB
V = ∫T₁T₂ {SA(T) − SB(T)} dT
V:図2の一周方向に対応する起電力[V]。計器の極性を反転すれば、表示される電圧の符号も反転する。

二材料の係数の差は、組合せに対する相対ゼーベック係数です。熱電対の特性はこの組合せで決まり、片側の材質名だけで出力電圧を決めることはできません。

均質な線では途中の温度変化を足し合わせると両端温度に対応する積分になります。線が曲がっていることや、経路の途中に温度の高低があること自体を、別の加算電源として数えません。

係数を一定とする近似と数値例

対象の温度範囲で係数の変化を無視できる場合は、積分を次の形に近似できます。温度差に比例するという説明は、この一定係数の近似として読むと正確です。

ゼーベック係数を一定とする近似
V = (SA − SB)(T2 − T1)
SA−SB:二材料の相対ゼーベック係数[V/K]。温度差だけを使うため、T2−T1は℃で引き算しても同じ数値[K]になる。

計算練習として、相対係数を40µV/K、低温側を25℃、高温側を125℃と仮定します。実在する特定の熱電対の標準特性ではなく、単位と手順を確かめるための設定です。

温度差を求めて起電力へ換算する
ΔT = 125 − 25 = 100 K
V = 40 µV/K × 100 K = 4,000 µV
V = 4.0 mV
ΔT:高温側と低温側の温度差。1 mV=1,000 µVとして単位をそろえる。

この電圧を温度へ戻すときは、まず係数で割って100Kの温度差を得ます。さらに低温側25℃を使って高温側125℃を求めるので、電圧だけから125℃を直接読んだわけではありません。

実際の熱電対では係数が一定でないため、同じ100K差でも温度範囲によって起電力が変わります。計器は種類ごとの基準関数や表を用い、リニアライザによる非直線性の補正を行って温度へ換算します。

冷接点補償は電圧で加算してから温度へ戻す

0℃基準の温度と起電力の関係をE(t)と表すと、計器が測る電圧はE(th)−E(tc)です。端子温度に対応するE(tc)を足せば、測温接点の0℃基準電圧が求まります。

冷接点補償の演算
E(th) = Vmeas + E(tc)
th:測温接点温度[℃] tc:端子側の温度[℃] E(t):0℃基準の熱起電力[mV] Vmeas:計器が測る端子間電圧[mV]。同じ熱電対種類の関数を両方に使う。
図5 4mVの読みから125℃へ戻す計算

相対係数40µV/Kを一定とした計算例。端子25℃の1mVを、測定した4mVへ加える。

025℃125℃1mV5mVE(t):0℃基準電圧温度 t 差4mV測定電圧 4mV端子補償 +1mV0℃基準 5mV5mV → 125℃

この図は一定係数の仮想特性。実際の基準関数が曲線の場合も、温度を足す代わりに電圧を補償して逆変換する。

先ほどの仮定では、端子25℃に対応する0℃基準電圧は40×25=1000µVです。4mVへ1mVを足した5mVを同じ特性で換算すると、測温接点125℃が得られます。

端子が温まるたびに表示が変わる場合は、測温接点の変化と冷接点側の問題を分けます。補償の設定、端子付近の温度むら、補償用センサーの状態を順に調べると原因を絞れます。

一方、表示が一定の割合でずれる場合は、選択した熱電対の種類や入力レンジを調べます。値が周期的に振れる場合は、実際の温度変化と電気的な雑音を、別の測定値や運転状態と照らし合わせます。

熱起電力を測る診断と、センサーを含む温度の校正も別の作業です。電気入力だけの試験で計器が正常でも、素線の変質や保護管の熱伝達までは評価できません。

よくある質問

ゼーベック効果は金属をつなぐ場所で起きるのですか?

接合部だけでなく、温度勾配のある材料に注目して考えます。二種類の材料を使うと、それぞれに生じる電位差の差を回路として取り出せるため、温度の違う接点を描いて説明します。

温度差が同じなら起電力も同じですか?

係数を一定とみなせる範囲では、同じ組合せの材料で同じ温度差なら同じ起電力になります。広い範囲では係数が温度で変わるため、高温側と低温側の温度をそれぞれ使って計算します。

冷接点補償があれば端子をどこに置いてもよいですか?

補償用センサーの温度が、実際の接続部の温度を代表する配置が必要です。端子の片側だけが熱源に近い場合などは温度差が誤差になるため、端子付近の熱的な条件も整えます。

熱電対の配線を普通の銅線で延長できますか?

異種材料への切替え部分に新しい基準位置ができるため、任意の場所で銅線へ置き換えると測定条件が変わります。延長には熱電対種類と使用温度に合う補償導線などを用い、極性も合わせます。

熱電対は断線していなければ使い続けられますか?

高温での使用による材質変化などで、導通があっても熱電特性が変わることがあります。時間基準保全と状態基準保全を組み合わせ、校正結果や使用履歴で交換を判断します。

まとめ

ゼーベック効果は温度差によって起電力が生じる現象で、異なる材料の熱電特性の差を利用します。熱電対ではこの電圧と基準側の温度を使い、測温接点の温度を求めます。

  • 閉回路なら電流が流れ、開放に近い計測では熱起電力を読む。
  • 起電力は係数の差の積分で求め、係数一定なら温度差との積で近似できる。
  • 冷接点補償では端子側の起電力を加算し、同じ熱電対の特性で温度へ戻す。

温度測定の誤差を追うときは、先端だけでなく材料、配線、基準側にも目を向けます。温度差と電圧の関係を一続きで見ることが、熱電対を正しく扱う基本になります。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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