レーヨン(再生繊維)とは?ビスコースレーヨンとキュプラの製法・反応式

白い再生セルロース繊維の束がローラーを通って缶に落ちる化学繊維工場のライン

レーヨンは、木材パルプや綿のセルロースを薬品で一度溶かし、細い穴から押し出して繊維の形に戻した再生繊維です。溶かし方によって二硫化炭素を使うビスコースレーヨンと、銅とアンモニアの溶液を使う銅アンモニアレーヨンに分かれ、後者は衣料品のタグでは「キュプラ」と表示されます。

天然の高分子を成分を変えずに繊維へ戻す点で、石油から合成するポリエステルとも、酢酸と反応させて別の物質に変えるアセテート(半合成繊維)とも違います。同じセルロースでも「どう溶かすか」で設備・環境負荷・製品の性格が変わることが、この素材を理解する鍵です。

この記事では、再生繊維の区分とセルロースが溶けにくい理由を押さえたうえで、ビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンの反応式を順に整理します。そのあと実際のビスコースレーヨン工場の工程、二硫化炭素の課題と溶剤法のリヨセル、用途と世界の生産まで見ていきます。

目次

再生繊維とは?セルロースを溶かして繊維の形に戻す

再生繊維は、植物がつくる天然の高分子であるセルロースを原料に、一度溶液にしてから繊維の形に再生した化学繊維です。日本化学繊維協会は化学繊維を再生繊維・半合成繊維・合成繊維・無機繊維の4つに分けており、レーヨンとキュプラは再生繊維の代表にあたります。

セルロースはブドウ糖(グルコース)がβ-1,4結合で一直線につながった高分子で、単位ごとに3つのヒドロキシ基(–OH)を持ちます。この基どうしが分子の内側と分子の間で水素結合を結び、鎖がきれいに並んだ結晶をつくるため、セルロースは水にも一般的な有機溶媒にも溶けません。

木材の細胞壁や綿の繊維が丈夫なのは、この水素結合のおかげです。その反面、短い繊維や木材パルプを細く長い糸にそろえたいときは、結晶をいったん壊して溶かし、口金(くちがね)と呼ばれる細い穴から押し出して固め直す必要があります。

図1:再生繊維ができる流れ

セルロースの結晶をほどいて溶液にし、細い穴から押し出して液の中で固め直すと、同じセルロースの繊維に戻ります。

溶かす固め直す原料薬品で溶解口金浴で再生繊維パルプ・綿結晶をほどく細い穴へ酸・水の中セルロース

※溶かす前と後で、繊維の成分はどちらもセルロースです。溶かす薬品にはビスコース法(水酸化ナトリウム+二硫化炭素)、銅アンモニア法(銅アンモニア溶液)、溶剤法(NMMO)があります。

溶かす前と後で分子はどちらもセルロースなので、「再生」繊維と呼ばれます。ただし溶かして固め直す間に鎖が短くなり、結晶の並び方も天然の綿とは変わるため、吸湿性が高く光沢が出る一方で、水に濡れると強度が下がるというレーヨン特有の性質が生まれます。

再生繊維・半合成繊維・合成繊維の違い

4つの区分の違いは、原料の高分子をどこまで化学的に変えるかにあります。再生繊維は溶かして戻すだけで成分はセルロースのまま、半合成繊維は酢酸を反応させたアセチルセルロースのように別の物質に変えたもので、合成繊維は石油などから高分子そのものを合成します。

区分原料繊維の成分主な繊維品質表示の例
再生繊維木材パルプ、コットンリンター(綿の種のうぶ毛)セルロースビスコースレーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセルレーヨン、ポリノジック、キュプラ、再生繊維(リヨセル)
半合成繊維パルプと酢酸アセチルセルロースアセテート、トリアセテートアセテート、トリアセテート
合成繊維石油など合成した高分子ポリエステル、ナイロン、アクリルポリエステル、ナイロン、アクリル
無機繊維ガラス、炭素など無機物ガラス繊維、炭素繊維(衣料品にはほとんど使わない)
表1:化学繊維の4つの区分(日本化学繊維協会の分類と、消費者庁「繊維の名称を示す用語」をもとに作成)

衣料品のタグの繊維名は家庭用品品質表示法の「繊維の名称を示す用語」で決まり、ビスコース繊維は「レーヨン」、銅アンモニア繊維は「キュプラ」と書きます。平均重合度450以上のビスコース繊維は「ポリノジック」とも書け、表にない再生繊維は「再生繊維」に名称をかっこで添えます。

ここでいう「再生」は、使用済みの製品を原料に戻すリサイクルとは別の意味です。プラスチックを分子に分解して原料に戻すケミカルリサイクルとも違い、再生繊維は新しいパルプから毎回つくる素材の区分を指しています。

ビスコースレーヨン:二硫化炭素でキサントゲン酸にして溶かす

ビスコースレーヨンは、セルロースを水酸化ナトリウムと二硫化炭素(CS2)で化学的に変えて溶かし、酸の中で元に戻してつくるレーヨンです。1891年に英国のクロス、ベヴァン、ビードルが発明し、EUの参照文書(BREF)も世界で最も重要な製法としています。

溶かしたときにできる粘りけの強い橙褐色の液を「ビスコース」と呼び、製法の名前もここから来ています。溶けないセルロースを一時的に水に溶ける別の化合物に変え、糸の形にしてから元に戻すのが、ビスコース法の考え方です。

反応式:アルカリセルロース→キサントゲン酸ナトリウム→再生

セルロースのヒドロキシ基はアルコールと同じく、水よりもさらに電離しにくいごく弱い酸です。セルロースを Cell–OH と書くと、Cell–OH ⇄ Cell–O− + H+ という平衡はあるものの、ふつうの水の中では右へほとんど進みません。

そこで濃い水酸化ナトリウム水溶液に浸すと、OH− が H+ を中和して平衡が右へずれ、アルカリセルロース(Cell–ONa)ができます。この Cell–O− に二硫化炭素が付加するとイオン性の基がつき、水素結合がほどけて薄いアルカリ水溶液に溶けます。

① アルカリ化(アルカリセルロースをつくる)
Cell–OH + NaOH → Cell–ONa + H2O
② キサントゲン化(二硫化炭素を反応させる)
Cell–ONa + CS2 → Cell–O–CS2Na
③ 再生(硫酸を含む紡糸浴で元に戻す)
2Cell–O–CS2Na + H2SO4 → 2Cell–OH + 2CS2 + Na2SO4
Cell–OH:セルロースのヒドロキシ基1つを代表した書き方。Cell–O–CS2Na:セルロースキサントゲン酸ナトリウム。①のアルカリセルロースは実際には水酸化ナトリウムと水を含む付加物で、式は模式です。③は両辺で Na 2、S 5、C 2、H 2 と、Cell 以外の O 4 がそろいます。

キサントゲン化されるのは、すべてのヒドロキシ基ではありません。工場ではブドウ糖単位100個あたりに反応した二硫化炭素のモル数(γ値)で置換の度合いを管理し、この値と液のアルカリ濃度、鎖の長さを変えて品質の違うビスコースをつくり分けています(BREF)。

繊維に戻すときは、ビスコースを硫酸を含む浴に押し出します。酸がキサントゲン酸の塩を分解して二硫化炭素が外れ、ヒドロキシ基が戻ったセルロースが糸の形で沈殿するので、反応だけを見れば弱い酸の塩に強い酸を加える「弱酸遊離」と同じ考え方で説明できます。

レーヨンという名前の由来

「レーヨン(rayon)」は1924年に米国の小売業界団体が採用した名前で、絹のような光沢を、フランス語で光線を意味する rayon になぞらえたものとされています。語尾の「on」を cotton(綿)から取ったという説明も見かけますが、それを裏付ける確かな記録は見当たりません。

それまでは「人造絹糸(artificial silk)」と呼ばれ、日本でも長く「人絹(じんけん)」と呼ばれました。国内では1915年に三重県松阪で銅アンモニア法の生産が、1918年に帝国人造絹糸(現在の帝人)米沢工場でビスコース法の本格生産が始まっています(日本化学繊維協会)。

銅アンモニアレーヨン(キュプラ):シュバイツァー試薬で溶かす

銅アンモニアレーヨンは、セルロースを銅(II)とアンモニアの溶液に溶かし、水の中で糸にしてから酸で銅を外す再生繊維で、表示名は「キュプラ」です。二硫化炭素でセルロースを別の化合物に変えるビスコース法と違い、銅の錯イオンがセルロースに直接結びついて溶かすのが特徴です。

原料にも違いがあり、レーヨンが木材パルプを主に使うのに対し、キュプラは綿の種のまわりに付いた短いうぶ毛(コットンリンター)を使います。細い糸にでき、絹のような光沢と染まりやすさを持つため、裏地や肌着に向いています(日本化学繊維協会)。

図2:セルロースの3つの溶かし方

ビスコース法は化学変化させて溶かし、銅アンモニア法は錯イオンで、溶剤法は有機溶剤でそのまま溶かします。

比べる点
ビスコース法
銅アンモニア法
溶剤法(リヨセル)
主な原料
木材パルプ
コットンリンター
木材パルプ(ユーカリなど)
溶かす薬品
水酸化ナトリウムと二硫化炭素
銅アンモニア溶液(シュバイツァー試薬)
NMMO(有機溶剤)の水溶液
溶かし方
キサントゲン酸ナトリウムに変えて溶かす
銅の錯イオンが結合して溶かす
化学変化させずに直接溶かす
紡糸と再生
硫酸を含む浴へ押し出し、酸で元に戻す
水の中で引き伸ばして固め、酸で銅を外す
NMMOの薄い水溶液中で固め、溶剤を回収
品質表示
レーヨン(ポリノジック)
キュプラ
再生繊維(リヨセル)

※日本化学繊維協会、EU BREF(2007年)、消費者庁「繊維の名称を示す用語」をもとに作成。リヨセルは「二硫化炭素の課題とリヨセル」の章で扱います。

シュバイツァー試薬のつくり方と働き

キュプラの溶剤は、1857年にスイスの化学者シュバイツァーが見つけた「シュバイツァー試薬」です。水酸化銅(II)を濃いアンモニア水に溶かした濃い青色の液で、テトラアンミン銅(II)イオン[Cu(NH3)4]2+と水酸化物イオンを含んでいます。

硫酸銅(II)水溶液とアンモニア水から出発するときも、まず青白い水酸化銅(II)を沈殿させ、さらにアンモニアを加えて錯イオンにして溶かします。セルロースを溶かすには錯イオンだけでなく、一緒にある水酸化物イオンの塩基性も欠かせません。

このため工業的には、原料を硫酸銅とアンモニアの液で処理した後に水酸化ナトリウムを加えて溶かす方法も使われてきました(世界大百科事典)。下の式は、試薬ができる2段階と、セルロースに銅が結びつく様子を模式的に書いたものです。

試薬をつくる(硫酸銅(II)から出発する場合)
CuSO4 + 2NH3 + 2H2O → Cu(OH)2 + (NH4)2SO4
Cu(OH)2 + 4NH3 → [Cu(NH3)4]2+ + 2OH−
セルロースに結びつく(模式)
Cell(OH)2 + [Cu(NH3)4]2+ + 2OH− → Cell(O)2Cu(NH3)2 + 2NH3 + 2H2O
Cell(OH)2:ブドウ糖単位の隣り合う2つのヒドロキシ基(2位と3位)。H+が外れた2つの酸素が銅(II)に配位し、アンモニア2分子と入れ替わります(Burchard ほか、1994年)。どの式も両辺で電荷と原子の数がそろいます。

銅は鎖の中で隣り合う酸素2つをはさむように結合し、鎖は錯体として溶けた状態でも硬く伸びた形を保ちます。銅イオン1個がヒドロキシ基1個に付くのではなく、ブドウ糖単位ごとに銅が「キレート」として結びつくことが、溶けにくいセルロースを溶かす仕組みです。

水の中で紡糸して酸で銅を外す:延岡のベンベルグ工場

紡糸のしかたもビスコース法と違います。世界大百科事典によると、銅約4%・アンモニア約29%・セルロース9〜10%を含む紡糸液を脱気・ろ過し、口金から水の中に押し出して引き伸ばしながら固め、酸で中和してから巻き取ります。

酸で処理すると銅とアンモニアは塩になって外れ、セルロースのヒドロキシ基が戻ります。外した銅とアンモニアは捨てずに回収して使い直しており、旭化成はこの仕組みを創業当初から続けるクローズドループと説明しています。

酸で銅を外す(模式)
Cell(O)2Cu(NH3)2 + 2H2SO4 → Cell(OH)2 + CuSO4 + (NH4)2SO4
実際の工程では、水の中で固める段階でアンモニアの多くと銅の一部が抜け、残りを酸で除きます(世界大百科事典)。式は両辺で H 10、S 2、N 2、Cell 以外の O 10 がそろいます。

旭化成は2021年12月の発表で、ベンベルグを「当社が世界で唯一、宮崎県延岡市で生産するキュプラ繊維」と説明しています。同社の発表どおりなら、キュプラは延岡の1か所だけでつくられている繊維で、生産は前身の日本ベンベルグ絹絲が1931年に始めました。

同社の2014年5月の発表によると、増設前の既存設備の能力は長繊維で年約1万5,000トン、短繊維で年約2,000トンで、約30億円の増設で約10%増えます。

ただし2022年4月に延岡工場で火災事故が起き、紡糸設備が被災しました。2023年5月の報道では能力は従来の7〜8割まで戻る見通しとされ、最新の生産能力は公表資料で確認できていません。

延岡には同社の水力発電所が9か所(最古は1925年)あり、2012年にはバイオマス発電も始めました。2022年3月には石炭火力の1基をLNGに切り替えるなど、繊維工場を支える自家発電の脱炭素も進めています。

実際のビスコースレーヨン工場では:パルプから繊維までの工程

ビスコースレーヨンの工場は、パルプを薬品で溶かす化学工場と、糸を引いて仕上げる繊維工場が一続きになった設備です。EUの参照文書BREF(2007年)は、欧州の工場を例に、パルプから梱包までの工程と1トンあたりの薬品・エネルギーの使用量を整理しています。

図3:ビスコースレーヨン工場の7つの工程

前半(1〜5)の化学の工程でパルプを溶かし、後半(6・7)の繊維の工程で糸にします。紡糸で出るガスは回収設備へ送ります。

化学の工程:溶かす
STEP 1パルプの受け入れ木材からつくる溶解用のパルプ。乾いたシートか湿ったパルプで受け入れる
STEP 2アルカリ化・圧搾水酸化ナトリウム液と混ぜてアルカリセルロースにし、固形分約50%に絞る
STEP 3前熟成寝かせて鎖の長さ(平均重合度)と粘度をそろえる
STEP 4キサントゲン化真空にした機械で二硫化炭素と反応させ、発熱を冷却で抑える
STEP 5溶解・熟成・脱泡薄い水酸化ナトリウム液に溶かし、ろ過・熟成・真空脱泡で紡糸に向く液にする
繊維の工程:糸にする
STEP 6紡糸・延伸口金から硫酸を含む浴へ押し出し、熱水の浴で引き伸ばす。出るガスは回収設備へ
STEP 7後処理・乾燥脱硫・漂白・仕上げ油剤のあと乾燥し、水分約11%に戻して梱包する

※短繊維(ステープル)の工場の例。EU BREF「Production of Polymers」(2007年)第11章をもとに作成。

アルカリ化では、パルプを温度管理した水酸化ナトリウム液とかき混ぜてアルカリセルロースにし、プレスで固形分約50%まで絞ります。このとき繊維にならないヘミセルロースなどの不純物が液側に溶け出し、絞った液の一部は透析で水酸化ナトリウムを回収して使い直します。

前熟成と熟成は、品質をそろえるための「待ち時間」の工程です。前熟成で鎖の長さとビスコースの粘度をそろえ、熟成では温度・時間・組成で紡糸に向く状態に調整し、口金の細い穴を通す液なのでろ過を熟成の前後2回行い、真空で泡を抜きます。

キサントゲン化は、有害で燃えやすい二硫化炭素を扱うため、工場の中でも特に安全対策が厚い工程です。機械の中を真空にしてから二硫化炭素を入れ、発熱する反応を冷却で抑えるとともに、濃度によっては爆発の危険があることを前提に設計します(BREF)。

紡糸浴と後処理

紡糸浴は硫酸に硫酸ナトリウムと硫酸亜鉛を加えた液で、ビスコースは口金から出たところで固まりながらセルロースに戻ります。固まった糸は熱水の浴で結晶化させながら引き伸ばし、分子の向きをそろえて強さを出したうえで、短繊維ならここで所定の長さに切ります。

その後は酸性の水で残ったガスを抜き、硫化ナトリウムのアルカリ液で硫黄分を除く脱硫、次亜塩素酸ナトリウムによる漂白、滑りをよくする仕上げ油剤の順に処理します。乾燥機で熱風を当てて乾かしたあと、水分を約11%に戻してから圧縮・梱包して出荷します。

短繊維と長繊維:1トンあたりの原単位

ビスコースレーヨンには、紡糸後に約4cmに切る短繊維(ステープル)と、切らずに巻き取る長繊維(フィラメント)があります。2005年時点で生産の約85%が短繊維で(BREF)、長繊維は口金の孔の数を30から2,000超まで変えて糸の太さをつくり分けます。

製品1トンあたり短繊維長繊維
パルプ1.035〜1.065 t1.0〜1.2 t
二硫化炭素80〜100 kg90〜300 kg
硫酸0.6〜1.03 t0.9〜1.6 t
水酸化ナトリウム0.5〜0.7 t0.7〜1.0 t
エネルギー26.1〜33.2 GJ70〜125 GJ
大気へ出る硫黄12.5〜30 kg40〜210 kg
表2:ビスコースレーヨンの原単位(欧州の工場の例。EU BREF「Production of Polymers」2007年、表11.1・11.2)

表のとおり、長繊維は短繊維に比べてエネルギーも二硫化炭素も多く使い、洗浄を一体で行う設備ほど多くなる傾向があります。どちらも製品1トンに対して硫酸と水酸化ナトリウムを0.5トン以上使うので、レーヨンは接触法でつくる硫酸と食塩電解でつくる水酸化ナトリウムを大量に使う繊維です。

熱水の浴や真空をつくる蒸気エジェクター、乾燥機などで熱をたくさん使うため、工場はボイラーの蒸気網と排水処理を抱えた化学プラントの姿をしています。BREFが例に挙げる欧州の工場も、パルプ工場や硫酸設備、排水処理場と同じ敷地で蒸気と水を融通し合っています。

二硫化炭素の課題とリヨセル(溶剤法)

ビスコース法の最大の課題は、二硫化炭素の扱いです。二硫化炭素は引火点が−30℃、発火点が90℃ととても燃えやすい液体で、厚生労働省のモデルSDSでは、くり返し吸い込むと中枢と末梢の神経系に障害を起こす物質に分類されています。

ビスコース工場の作業者では、二硫化炭素による神経障害や心血管系への影響が数多く報告されています(Gelbke ほか、2009年)。リスクアセスメントの考え方どおり、紡糸機を窓付きの囲いで覆って空気を吸い出し、作業場にガスをためないことが対策の出発点です。

二硫化炭素の回収と排ガスの硫酸化

図4:二硫化炭素を回収して硫黄を硫酸に戻す流れ

囲った紡糸機から吸い出したガスを、凝縮・活性炭吸着の順に回収し、残った硫黄を含むガスは酸化して硫酸にします。

CS₂を工程へ戻す紡糸機の囲い凝縮で回収活性炭で吸着接触酸化ガスを吸い出す最大98%薄いCS₂を回収硫酸にする

※EU BREF「Production of Polymers」(2007年)12.7節・13.10節をもとに作成。活性炭の前に、アルカリの洗浄塔で硫化水素を除きます。回収率は凝縮器に入る蒸気中の二硫化炭素に対する値です。

吸い出したガスは、まず水と混ぜて冷やす凝縮器に通して二硫化炭素を液に戻します。BREFによるとこの方法で蒸気中の二硫化炭素の最大98%を回収でき、純度が高いので精製せずにそのままビスコースの工程に戻せます。

凝縮しきれない薄いガスは、アルカリで硫化水素を除いたうえで活性炭に吸着させ、蒸気で追い出して回収します。最後に残る硫黄を含むガスは触媒で酸化して硫酸にするのが、BREFが示す利用可能な最善の技術(BAT)で、紡糸機の囲いから排ガスの硫酸化までを一続きの対策としています。

それでも大気への硫黄の排出は短繊維1トンあたり12〜20kgがBATの水準で、ゼロにはなりません。紡糸浴の硫酸ナトリウムの回収や排水中の亜鉛の除去もBATに含まれ、ビスコース法は回収設備の出来で環境負荷が大きく変わる製法です。

リヨセル:有機溶剤NMMOで直接溶かす

二硫化炭素を使わない再生セルロース繊維がリヨセルです。N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)という有機溶剤の水溶液にパルプを混ぜて水分を飛ばすと、セルロースが化学変化なしに溶けます。これを口金からNMMOの薄い水溶液の中に押し出して繊維にします。

BREFによると、欧州では1998年からオーストリアで工業生産され、多段の精製で溶剤の99.6%超を回収して繰り返し使います。硫黄を含む臭いガスが出ない一方で、BREFは製品の性質が通常のビスコース繊維と異なるため、ビスコース法をそのまま置き換える代替法とは見なしていません。

日本化学繊維協会によると、リヨセルはレーヨンより強く、濡れたときの縮みや強度の低下が小さいのが特長で、主にファッション衣料に使われます。

品質表示の指定用語の表(消費者庁)に「リヨセル」の行はないため、「上記以外の再生繊維」として「再生繊維(リヨセル)」と書く形になるとみられます。実際の表示は製品ごとに確かめてください。

用途と世界の生産:裏地・肌着から不織布まで

レーヨンは吸湿性が高く、鮮やかに染まり、しなやかに垂れる(ドレープ性が高い)ため、婦人服や和装、裏地、肌着、寝具に使われます。日本化学繊維協会はカーペットやカーテン、使い捨てのワイパーも用途に挙げており、短繊維は不織布の原料としても重要です。

裏返したスーツの上着の内側で光沢のある裏地を手縫いする仕立ての手元

用途:キュプラの裏地と長繊維不織布

キュプラの代表的な用途はスーツやコートの裏地で、旭化成は夏は蒸れを抑え、冬は静電気を抑える点を特長に挙げています。2014年の同社の発表では、機能性の肌着やインドの民族衣装向けに販売が伸びており、寝具やスポーツ衣料にも使われています。

同じ技術を応用したキュプラの長繊維不織布「ベンリーゼ」は、同社が「世界で唯一のキュプラ長繊維不織布」とする素材です。接着剤(バインダー)を使わず、長繊維なので繊維くずが出にくいため、クリーンルーム用のワイパーやスキンケア、医療の分野で使われています。

図5:レーヨンとキュプラの主な用途

吸湿性・光沢・肌ざわりが生きる衣料と、繊維くずの少なさが生きる不織布に使われます。

裏地スーツ・コート。蒸れと静電気を抑える(キュプラ)
肌着・婦人服吸湿性と発色、しなやかな垂れ感
寝具・インテリア寝装品、カーペット、カーテン
不織布使い捨てワイパー、クリーンルーム用、スキンケア

※日本化学繊維協会「化学繊維の種類」、旭化成の製品情報をもとに作成。

世界の生産

非営利団体 Textile Exchange の報告書(2025年9月)によると、2024年の世界の繊維生産は1億3,200万トンでした。そのうちレーヨンなど化学的につくるセルロース繊維は約840万トン(約6%)で、原料の65〜70%は森林認証(FSC・PEFC)を受けています。

合成繊維と比べると量は小さいものの、セルロース繊維は肌や粘膜に触れて吸湿性が生きる衣料と不織布で根強い需要があります。BREFも、欧州では長繊維がポリエステルやナイロンの糸に押される一方で、短繊維とタイヤコードは強い地位を保っていると書いています。

生分解性:セルロースなので分解されるが条件しだい

レーヨンやキュプラは成分がセルロースなので、微生物の酵素で分解される素材です。旭化成もベンベルグを「生分解・堆肥化する」素材と説明しており、海や土に残りやすい石油由来の合成繊維との違いとして注目されています。

ただし生分解性ポリマーと同じく、分解の速さは温度・水分・微生物の量で大きく変わります。染料や仕上げ剤、混紡したポリエステルは別の性質を持つため、製品として「分解する」と言えるかは、どの環境で試験・認証されたかで判断します。

レーヨンのよくある質問

再生繊維とリサイクル繊維は同じですか?

違います。再生繊維はセルロースを溶かして繊維に戻した素材の区分で、使用済みの製品を原料にするリサイクル繊維とは別の考え方です。ペットボトルなどからつくる再生ポリエステルは、成分がポリエステルなので合成繊維として扱われます。

レーヨンは濡れると弱くなるのはなぜですか?

溶かして固め直す間にセルロースの鎖が短くなり、結晶の割合も綿より低くなるため、水が入り込むと分子どうしの結びつきが弱まるからです。重合度を高く保って結晶性を上げたポリノジックや、溶剤法のリヨセルは、濡れたときの強度低下や縮みを小さくしています(日本化学繊維協会)。

キュプラとレーヨンはタグでどう見分けますか?

品質表示の繊維名で見分けられます。家庭用品品質表示法では、銅アンモニア法の繊維は「キュプラ」、ビスコース法の繊維は「レーヨン」と書くと決められており、重合度が高いビスコース繊維は「ポリノジック」とも書けます。

レーヨンは天然繊維ですか?

原料は木材や綿の天然のセルロースですが、薬品で溶かして糸にするので化学繊維に分類されます。日本化学繊維協会の区分では化学繊維のうちの再生繊維で、綿や麻のような天然繊維とは区別されます。

人絹やスフとは何ですか?

どちらもレーヨンの古い呼び名で、人絹は絹に似せた長繊維の「人造絹糸」、スフは短く切って綿のように紡ぐ「ステープルファイバー」の略です。日本では1910年代に人造絹糸の生産が始まり、1930年代にはスフの企業化も進みました(日本化学繊維協会)。

まとめ

この記事のまとめ
  • レーヨン(再生繊維)は、溶けないセルロースを薬品で一度溶かし、口金から押し出して繊維の形に戻した化学繊維
  • ビスコースレーヨンは水酸化ナトリウムと二硫化炭素でキサントゲン酸ナトリウムに変えて溶かし、硫酸を含む浴で元に戻す
  • 銅アンモニアレーヨン(キュプラ)はシュバイツァー試薬の銅がセルロースにキレートとして結びついて溶かし、水中で紡糸して酸で銅を外す
  • ビスコース法の課題は二硫化炭素で、工場は囲い・凝縮・活性炭・硫酸化で回収し、二硫化炭素を使わない溶剤法のリヨセルも生まれた
  • キュプラは同社の発表では旭化成が延岡で世界で唯一生産し、裏地や長繊維不織布に使われる。セルロース繊維は世界の繊維の約6%

レーヨンは、溶けないセルロースを化学の力で一度溶かすという発想から生まれ、溶かし方の違いが素材の個性と工場の姿を決めています。素材を生み出す仕事の全体像は材料技術の解説で、二硫化炭素のような危険物を扱う現場の考え方は製造業の安全衛生の記事で確かめられます。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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